紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちは。
今回はタイトルで分かるような展開です。

簡単に言うと大和たちと競りで勝ち取った事件を解決します


ストーカー

062

 

 

川神周辺でデートをするなら何処が良いか。そんな質問を川神の学生に聞くと色々と答えが返ってくる。

例えば七浜が良いらしい。港があって、海も見える。更に近くには中華街あるので食事にも誘える。確かにデートのコースとしては最適かもしれない。

 

「でも今回は買い物が目的なんですよね。映画とかお洒落な食事は関係ないんですよね」

「どうしたの夕乃ちゃん?」

「あ、清楚さん。実は今日の帰りに真九郎さんと買い物に行くんですよ」

「買い物?」

「はい。今度の休みに家族が訪れるんです。その為にもてなす御菓子でも買おうかと考えてるんですよ」

 

娘が心配だから家族が様子を見にくるのは何らおかしいことではない。ほかにも川神を観光したい思いもまた不思議ではないだろう。

家族が様子を見に来たら終わりではない。その後、夕乃は家族を観光させるつもりなのだ。もっとも彼女はまだ川神の隅々を知っているわけでは無いのでデートスポットとは別に観光スポットも聞いている。

 

「家族が来るんですね。観光ならやっぱ川神院とか仲見世通りとか良いと思うよ」

「やっぱりそうですか。他の方たちに聞いたんですが、仲見世通りからの川神院と言うのが定番のルートらしいですね」

 

教えてもらった定番の観光ルートを回るのが一番だろう。無理にあっち行ったりこっち行ったりするのは疲れるだけだ。観光はゆったりと余裕を持ってするものである。

 

「放課後はやっぱり何処かで軽めに食事なんて良いですかね」

「それ憧れちゃうな。紅くんと一緒に行くの?」

「はい。真九郎さんにはちゃんとエスコートしてもらいませんと。それが殿方としての役割です」

 

夕乃は真九郎を理想の男性へと成長させている。しかも本人はその事実に気付かない。

 

「・・・紅くんと一緒にかあ。良いな」

 

ボソリと呟いた言葉だが誰にも聞こえない。そもそも何で、そんなことを呟いたか分からないので急に顔を赤くしてしまう。

ふるふると顔を振ってクールダウンさせるが何処か羨ましがっている自分に驚いていた。

 

「・・・・・・ん?」

 

その少しの雰囲気を感じ取った夕乃は何か不穏を感じた。例えるなら恋する乙女の敵が現れたような感覚だ。

 

(まさか真九郎さん・・・いえ、そんなことありませんよね?)

 

自分の予想が的中するなんて、そんなことはない。

念を押しながら思うしかなかった。だけどそろそろ真九郎の周りの女性関係について確認しなくてはならないだろう。川神学園にきてから女性と関わることは無かったなんてことは有り得ない。ただでさえ島津寮には3人の女性が居るのだから接点はある。

 

(近いうちに真九郎さんと面談しないといけませんね。ただでさえ今は恋敵が多いのに・・・更に増えるのは困ります)

 

紅真九郎。近いうちに面談することが勝手に決定する。欠席は不可。もし欠席したら稽古を開始する。補足だが面談結果によっては稽古をする。

どのみち逃げ場が無い。

 

 

063

 

 

今度の休みに崩月冥理たちが川神に訪れる。ならば歓迎の準備をしなくてはならないだろう。本人たちはただ様子を見に行くだけだから、そこまで準備なんてしなくても構わないと言うが夕乃の性格と真九郎の性格では許さない。

真九郎にとって冥理たちは愛を教えてくれた大切な家族だ。何もしないわけにはいかない。

 

「何が良いかな夕乃さん?」

「そうですね。散鶴も来ますから甘い御菓子とか良いかもしれません」

「なら小笠原さんの店が良いかも」

「小笠原さんの店?」

「クラスメイトです。仲見世通りで和菓子屋を経営してるんですよ」

「ならそこに行きましょう。エスコートをお願いしますね」

 

仲見世通りまで買い物に行く。途中でガヤガヤと騒いでいる場所があり、聞いたことのある声が聞こえてきたが気にせずに通りこす。

川神では路上決闘が当たり前なので気にしないことにしている。そもそも決闘場所にいると百代にまた決闘を吹っ掛けられそうなので退散である。

 

「真九郎さんも百代さんに決闘を迫られてるんですね」

「そうなんですよ。夕乃さんの気持ちが分かります」

 

百代の決闘したいアプローチは大変だ。いきなり空から降ってきたり、子供のようによく分からない屁理屈で決闘を迫ったりとあるのだ。

流石に問答無用で仕掛けてこないが毎回会うたびに決闘を吹っ掛けられては疲れる。

 

「それは真九郎さんが角を解放したからです。川神さんは戦いが大好きなお方ですから角を見れば興味を沸きますよ」

「・・・ですよね」

「崩月の角は隠しているわけではありませんが、堂々と出すものでもありませんよ」

 

彼女の言う通りで『崩月の角』は隠しているものではない。崩月を知っている者なら角も知っている。だがあっけらかんと話すものでもない。言うならば隠してないけど公に言うものでもない。

 

「もしかしたら交換留学中に決闘することになるかもしれませんね」

「勝てないですよ」

「男性たるもの最初から諦めるものではありません。出席番号17番の真九郎くん」

「・・・またソレですか」

 

夕乃はたまにお茶目なことを言う。

 

「それはそうと真九郎さん」

「はい?」

「私たちって周りの人から見るとどんな風に思われてるんでしょうか?」

「え、それは普通に買い物してるだけ」

「違います!!」

 

ビシリと否定される。

 

「違います。これはお買い物デートです」

「は、はあ」

「夕乃さんと買い物できて嬉しい。夕乃さんが居れば安心だ。夕乃さんが居ないと何も出来ない・・・」

「あの、そこまでは」

「はい?」

「そう思ってます」

 

笑顔の圧で答えさせられる。こういった時は反論しないで頷くのが得策である。

 

「だから・・・」

 

夕乃は控えめに手を出して、目で訴えるが真九郎は何もしないわけには理解出来ない。

 

「真九郎さん?」

「はい」

「・・・分からないんですか?」

「・・・・・・すいません」

 

笑顔であるが空気がピシリと聞こえたような気がした。

 

「手を出しているんですから、繋いでほしいってことです!!」

 

そんなことも分からない真九郎は本当に鈍感である。夕乃がどんなに言っても注意しても真九郎はきっと分からないだろう。

だが鈍感な真九郎でも天然でもあり、無意識にするべき答えが分かるのか行動できる。ぷんぷんと言う擬音を出している夕乃の手を真九郎は優しく握る。

 

「あ・・・」

「あの、夕乃さん?」

「・・・取りあえずまだこのままで」

 

夕乃は不意な行動に弱い。顔が真っ赤だが理由が分からないのはやはり真九郎の鈍感ゆえだろう。

そんな出来事は先日の話である。真九郎は夕乃に冗談で言われた宿題を考え込む。その宿題とはなぜ手を握って欲しいと分からなかったのかだ。

今も考えているが鈍感な彼にはいつまでたっても分からないだろう。

 

プルルルルルルルルル。

電話のコール音が鳴る。携帯電話の通話ボタンを押すと聞きなれた声が聞こえてくる。

 

『私だ。紫だ。真九郎よ今大丈夫か?』

「大丈夫だよ紫。どうしたんだ?」

『急に電話したくなったんだ。良いだろうか?』

「ああ。良いよ」

 

たまにだが紫から電話がかかってくる時がある。理由は特に無く、真九郎と会話をしたいから電話をかけてるのだ。

真九郎も紫からの電話を迷惑なんて1度も思った事が無いし、寧ろ気が落ち着く。中には会話の中で答えにくいこともあるが、それはお約束のようなものだ。

 

『なあ真九郎。前にも話したが私と結婚しないか?』

 

このような会話が真九郎にとって答えにくいものである。紫のことは嫌いではないが結婚とか恋人とかなどの話になると上手く答えが出ない。

この話は深く踏み込まないように大体いつもはぐらかしているのだ。だがそれでもいつかは答えなければならない。

いつになるかは未定だが今はこの関係を崩したくない。今はこの関係が心地よいのだ。

 

『結婚というのは女性が16歳から。男性が18歳からと聞いたぞ』

「まあ、そうだね」

『だから私が16歳になるまで待っていてくれ!!』

「・・・考えとくよ」

 

ここもいつも通りはぐらかす。

 

『しかし約10年は長いな。ならば婚約だけでも結んでおくか!!』

「それは・・・」

『何か不満か?』

「不満じゃないけどダメ」

『何故ダメなのだ。結婚は約10年待たないのとダメと分かった。それに前の話では仕事で大変だからまだ結婚する気になれないと理解した。しかし婚約ならキープと言うやつだろう?』

「婚約をキープなんて言葉使っちゃダメ」

『そうなのか。環に教えてもらった言葉なのだが・・・他にも光源計画とか禁断の愛とかな』

「それは忘れるんだ紫」

 

本当に環は紫に余計なことを教えないなっと頭を抱えてしまう。心の中で「あのエロオヤジ」と悪態を吐く。

いつものことなのだが環はああいう性格だから仕方ない。いつも注意してるがどうせ直るなんてことは無いので諦めている。

 

『そうだ。今度の休みにまた遊び行くぞ。良いだろうか?』

「良いよ。それに今度の休みは環さんたちや冥理さんたちも来るんだ」

『おお、そうなのか!!』

「ああ。また皆が集まるね」

『絶対に遊びに行くぞ!!』

 

紫の声は元気一杯である。また会えるのがとても嬉しいのだろう。真九郎もつい顔が優しく綻んでしまう。

 

『ではまたな真九郎』

「ああ、またな」

 

紫が先に電話を切るのを待ってから切る。そして携帯電話をしまったら肩をポンと叩かれる。

誰かと思って後ろを振り向くと優しい顔をした準であった。

 

「い、井上くん?」

「紫様と電話してたんだな」

「そ、そうだけど」

「また遊びに来るんだってな」

「う、うん」

「その日に俺も遊びに行ってもいいかな?」

「ストップだハゲー!!」

 

小雪が準を蹴飛ばして、冬馬が回収する。

 

「準がすみませんね。どうやら紫ちゃんが大層気に入ったみたいで」

「気にしないよ。それに紫も井上くんのことが気に入ったみたいで良い人だって言っていたよ」

「本当か!!」

「うわーん。準がパワーアップした~」

 

準曰くロリが絡めばパワーアップするらしい。更に同じ空間内に居れば数倍パワーアップする。

人が強くなるキカッケは人それぞれだ。準とは違うが真九郎だって紫の鼓舞で今まで強くなってきたことがある。

人は誰しも守りたい人がいるはずだから、その人のことを思うと力が湧いてくるのだろう。人によるかもしれないが真九郎はそうである。

 

「今度遊びに行くぜー!!」

「行きますよ準」

 

小雪にズルズルと引きずられながら準は連れてかれる。

 

「・・・ここ屋上でさっきまで誰も居なかったはずなんだけど」

 

ここはいつも通り川神学園の屋上。そして先ほどまで真九郎しか居なかったのにいつの間にか準たちが来たのに微妙に驚く。

油断していたのか、ロリの力で準の力が上昇したかは分からない。

 

「俺もそろそろ戻るか」

 

屋上から階段へと戻り、カツカツと降りて廊下を歩く。廊下を歩けば誰かに会うのは当たり前である。

 

「あ、紅くんだ!!」

「やあ川神さん。足は大丈夫?」

「うん大丈夫よ。川神院特製の傷薬を使えば平気よ!!」

 

一子が路上決闘で負傷したのは聞いている。その決闘によって足を負傷したみたいだが本人は平気とのことだ。しかし完治するまで決闘はできないだろう。

毎日かかしている修業も満足にできないので少々不満らしい。代わりに勉強をしてみればと言うが頬掻きながら口ごもんでしまった。

 

「勉強は苦手なのよう」

「なるほど。まあ、俺も苦手だよ」

 

勉強が好きだと言う人間が少ないだろう。勉強するのは自分のためであり、将来のために勉強するのだ。

たまに「コレ勉強して意味がある?」なんて疑問を誰でも1回は思うかもしれないが何だかんだで意味があったりしている。それはやはりステータスとしてだろう。

真九郎の勝手な理論だが、受験や就職で武器になるのはステータスだ。履歴書を出すときに勉強した結果が書き込めれば武器になる。だから勉強するのだ。

 

「でも何かしら専門知識があってもマイナスにはならないよ」

「そんなものかしら?」

「そんなものだよ」

 

揉め事処理屋でも専門の知識があった方が良い時がたまにある。そもそも揉め事処理屋は何でも屋でもあるので知識はいくらあっても良いくらいである。

最も真九郎は勉強を頑張っているが、身体を酷使する仕事の方が多いので一子に「勉強した方が良い」なんて言うのは微妙な気もする。

 

「それにしても強かったわ。次こそはリベンジするわ!!」

「頑張ってね川神さん」

「そうだ。紅くんもいつか勝負してね!!」

「・・・考えとくよ」

 

姉が姉なら妹も妹なのかもしれないと思った瞬間であった。留学の時に決闘をしようと言われたのだから、いつか言われるとは分かっていたが笑顔で言われると断りにくいものである。

一子は本当に元気で天真爛漫な人であり、風間ファミリーが可愛がっている気持ちが何となく分かる。彼女には良い人生を歩んでほしいものだ。

 

(俺みたいに不幸にあってはいけない子だな)

 

彼女は元々、孤児院出身であり、真九郎と親が居ないという意味では一緒。そして引き取り先の新たな家族が良い人たちであったのも同じだ。

彼らはそれだけでも幸せであろう。何せ良い人たちに出会えたのだから。

 

「でもリベンジしたいけど・・・最近『鉤爪の女』が川神から居なくなったみたいんだよね」

「そうなの?」

「うん。最近噂も消えてきたかな」

「まあ、噂も一時だからね」

 

噂なんて急に流れたと思えば、気が付けば消えるものである。たいして興味が無い者にとっては「そんな噂があったんだ」と言うくらいだろう。

彼女は「足が完治すればまた会いに行こうとしてたのに~」なんて言って残念そうである。

 

「彼女も武術家ならまた川神に来るよ。だってここは武術の町だからね」

「そうよね!!」

 

本当に元気一杯で笑顔が似合う女の子だ。

 

「取りあえず、足に負担を掛けないように修業するわ」

「そこは勉強じゃないんだ」

「勉強より修業!!」

「いや、勉強しろ犬」

 

ここでクリスがヒョッコリと現れる。どうやら真九郎を探していたらしい。

何故探していたかと言うと今日の放課後にある依頼を達成させるためだ。ある依頼とは川神学園の競りで行われた依頼である。

 

「あ、もしかしてキャップが前に競った依頼ね」

「そうだ。だが犬が負傷してしまったからな。流石に負傷している犬を依頼に参加させるわけにはいかないからな」

「えー」

「えー、じゃない。負傷者は療養しろ」

 

負傷者は大人しくしている。ケガ人にはそれが一番だろう。

 

「それでだ。空いたメンバーをどうしようかと考えたんだが真九郎に手伝ってもらおうかと」

「なるほどね。どんな依頼?」

「簡単だ。悪質なストーカーを捕まえる」

「・・・簡単?」

 

ストーカー逮捕は簡単では無いと思うのだが彼女にとっては簡単らしい。

 

「悪を捕まえる崇高な依頼だ」

「風間ファミリーだっけ。全員で行くの?」

「いや、全員じゃない。自分にキャップ、大和、ガクトに由紀恵だ」

「川神先輩たちは?」

「普段なら全員参加だが、用事と言うものがあるらしい」

 

百代ならこういう依頼なら参加しそうだが今回は本当に用事があるらしい。その用事が終わればすぐに駆け付けるとのこと。他のメンバーも似たような状況らしい。

 

「なるほど。良いよ」

「助かるぞ真九郎」

「じゃあ説明するからついてきてくれ」

「分かった」

「またね紅くん、クリ」

 

一子と別れてクリスについていく。

場所は川神学園の食堂である。そこにはクリスが話していたメンバーが机に座っていた。そして知らない女学生。

 

「お、紅を誘えたのか」

「待ってたぜ真九郎!!」

 

中々の歓迎ムード。手伝うことは物騒であるが。

 

「俺が早速説明しよう」

 

大和が丁寧に説明してくれる。

ストーカーの被害者は川神学園のCクラス2年女学生の上岡梓。陸上部に所属しており、まさにスポーツ少女といった子である。

被害にあったのは1週間前で帰宅時に尾行されたり、迷惑な手紙が何十枚も送られたり、最悪だと盗聴器も仕掛けられているのではないかと不安になる始末だ。

最近だと家まで来て夜中ずっと見られているくらいになっている。これは酷い状況で女性でも男性でも怖いと感じるだろう。

 

「なんて悪質な・・・」

「ああ許せないぜ」

「だから捕まえる」

 

翔一たちはストーカーの所業を許せない気持ちで一杯である。しかもストーカーは自分の行いを悪いと思っていないのだから困る。

どんな理由かは分からないが梓を好きになったから起こしてしまった行動だ。その行動が悪質だと気付いていなければ性質が悪い。

 

「・・・わたし、もう怖くて家から出るのも辛いの」

「大丈夫だ上岡さん。俺らが絶対にストーカーを捕まえてみせるよ」

 

大和が慰めるように安心させる言葉を言う。あまり意味は無いかもしれないが声をかけるだけでも多少は違う。

 

「ストーカーか」

 

ポツリと呟く。去年に真九郎はストーカー被害にあった女性を助けたことがある。そのストーカーも悪質な奴であった。

今回は流石にそれほどでは無いと思いたいが悪質な奴ならそんな希望は思わないことだ。

 

(・・・確かあのダム建設は人員をまだ欲しがっていたな)

 

捕まえた後の事を考えるとどのように処置するかを勝手に決める。実際は警察とかに任せるだろうが二度とストーカーなんてさせないように釘をさすように準備する。

ストーカーを捕まえて更生の余地無しなら同情せずに罰を与える準備である。真九郎が去年捕まえたストーカーは更生の余地が無かったから過酷なダム建設現場へ送り出したのだ。

 

「じゃあ早速捕まえる計画を立てよう」

 

ストーカー捕獲作戦開始。

 

 

064

 

 

ストーカー捕獲作戦決行。

作戦は至ってシンプルだ。上岡梓には申し訳ないがストーカーを釣るための餌になってもらう。と言っても普段通り帰宅してもらうだけ。後は大和たちがストーカーにバレないように一般人を装い、周囲を探るだけだ。

 

「今のところ近くに怪しい奴は居ないな」

「そうだね島津くん」

 

組分けをしており、真九郎に岳人、クリスに由紀恵、大和に翔一である。

携帯電話を駆使しながら連絡も取り合う。

 

「俺らの事がバレたか?」

「疑り深い奴なら俺らのことを警戒している場合はあるね。でも最近の出来事なら近くにいる可能性はあるよ」

「大和に一旦連絡してみるわ。高いところから周辺を探索するって言ってたしな」

 

携帯電話を取り出して連絡を取り合う。何か変化が無いかどうか。このまま何もなければストーカーは警戒して今回は出てこないかもしれない。

 

「大和。周辺はどうだ?」

『今のところ目ぼしい野郎は居ないな・・・あ、そっちバイクが向かってるくらいだ』

「バイクだけか?」

『ああ。怪しい奴は居ない』

 

バイクだけが向かってると聞いて何か嫌な予感がする。まるで去年と少しデジャブなような感じだ。

そう感じた瞬間に身体は勝手に動いていた。

 

「島津くん。バイクの奴がストーカーかもしれない!!」

「何だって!?」

 

バイクに乗った男はスピードを緩めずに上岡梓に近付く。徐行しようともしない。

 

「危ない上岡さん!!」

「きゃあ!?」

 

一直線に走ってくるバイクが梓に衝突する前に急いで走り跳び、間一髪で助け出した。

 

「大丈夫か上岡さん、紅!?」

「ああ。無事だよ。それにトラックよりマシだ」

「トラック?」

「ごめん。こっちの話」

 

今回は轢かれはしなかった。身体が頑丈とはいえ、轢かれるのが平気なはずがない。

 

「すまん。遅くなった!!」

「悪は成敗する!!」

 

大和やクリスたちも集まる。これで完全にストーカーを包囲した。

 

「もう逃げられないぜストーカーさんよ」

「・・・・・・ふん」

 

大和の言葉に何も焦りもしないストーカー。バイクを蒸かして、逆に挑発している。

 

「これは・・・皆さん周りに注意してください!!」

 

由紀恵が叫んだ途端に周りから凶器などを持った輩がゾロゾロと出てくる。

実はこのストーカーは不良集団のリーダーでもある。ストーカーに不良集団のリーダーとは質が悪い。

 

「ったくリーダーがストーカーしてるなら周りの奴等は止めろよな」

 

翔一が尤もな事を呟き構える。どうせ話し合いは通じない。ならやっぱり力付くでどうにかするしかないだろう。

 

「数は・・・20人くらいか」

「20くらい平気だぜ大和」

「ああ。自分は大丈夫だ。売春組織の時よりも楽だな」

 

全員が拳や武器を構える。

 

「一応言っておく。大人しく投降すれば痛い目には合わないぞ」

「痛い目に合うのはそっちだ。人の恋路を邪魔すんな!!」

「その恋路が悪質だから止めろって言ってんだよ!!」

 

大和たちと不良集団が戦い始める。この勝負だが不良と武術家が戦ったらどっちが勝つかなんて聞かれたら誰もが大体予想できる。

その予想とは武術家の勝ちであることだ。大和たちは武術家では無いが不良などに負けないくらいには鍛えている。

梓を守りながら大和たちは不良を倒していく。

不良に周囲を囲まれている状況なので真九郎たちが梓を円の中心のように守るように壁となる。

 

「成敗!!」

「はああああ!!」

「風になるぜ!!」

「おらおらおら!!」

 

クリスと由紀恵の斬撃で不良を吹き飛ばし、翔一と岳人は拳でぶっ飛ばす。大和は梓を守りながら立ち回り、真九郎は確実に蹴り倒す。

たかが20人だと言わんばかりの勢いで不良を倒していく。

 

「ストーカー大将は任せろ!!」

 

岳人が不良の大将であるストーカーに立ち向かう。掴みかかるが相手も中々強い。やはり力だけで大将になっただけはある。だが岳人の方が鍛えているし、腕力だって負けない。

どんどんと力で押し返すとストーカーはあり得ないと言った顔をしている。

 

「どうしたストーカー。こんなものか!!」

 

相手は身体がデカいが岳人は簡単に持ち上げて「おらああああ!!」と投げ飛ばした。

投げられた先はバイクでガドンッとぶつかった。だが相手は怒ってバイクに乗って走って来た。

 

「あいつまたバイクに乗りやがったな!?」

「任せて」

 

真九郎がバイクに向かって走り出す。そして闘牛を飛び越えるようにバイクを飛び越えてストーカーを飛んだ勢いで掴み取ってバイクから引き離した。

 

「うおおおおお!?」

「バイクから降りろ」

「すげーな真九郎!!」

 

これくらいは出来る身体能力を持っている。そもそもビルから飛び降りる勇気と身体能力があるので走るバイクを乗り越えるのは簡単だ。

 

「やるな紅。俺様に合わせな!!」

 

片腕を大きく上げて合図を送ると真九郎はすぐに理解できた。内容が理解できたので同じように片腕を上げる。そして同時に走り出す2人。

 

「行くぜ紅!!」

「合わせるよ」

 

岳人と真九郎はタイミング良くストーカーにラリアットを食らわした。

 

「コンビネーションラリアットだぜ!!」

 

2人のラリアットが直撃して倒れるストーカー。これでストーカーに他の不良共を全て潰した。

 

 

065

 

 

不良とストーカーと取っちめてからは、もう二度と馬鹿な事をさせないように大和たちは言い聞かせる。しかし、こういう奴は言葉で言っても聞きはしない。

だからボコボコにした今でも無駄に強気でいるのだ。やはり癖の強い奴は言葉では足らないのかもしれない。

 

「覚えていろ。必ず報復してやる・・・絶対に手に入れて見せる」

「まだ言うかこの野郎」

 

まったく反省の色が見られないストーカーを見て大和たちはどうしようかと考える。

さっさと警察か九鬼財閥にでも差し出すか、もう少し痛い目にあってもらうかのどちらかだろう。もし今百代がいれば二度と馬鹿な事をしないように痛めつけていただろう。

やることは酷いものかもしれないが先に酷いことをしたのは目の前のストーカーであり、同情するつもりは無い。

 

「姉さんを呼ぶか」

「それが一番かもな」

「あ、待って」

「どうした紅?」

「俺が何とかしてみるよ」

 

真九郎がストーカーの前に出て携帯電話を取り出す。

 

「お前って頑丈そうだな」

「何を言ってやがる。お前も報復してやるぞ」

「元気そうだな。実は良い斡旋所があるんだ。海外でな・・・ダム建設をしている場所だ」

 

前に解決したストーカー事件で捕まえた田渕薫を送り込んだ場所である。詳しくは教えられないがストーカーには特別厳しく、逃げ出すことも不可能と言う。

そして日本に帰るのが何十年かかるかも分からない。冷淡に言うとストーカーは青ざめていく。それでも信じられないのか、まだ強気である。

 

「信じられないなら信じなくて良いよ。でも俺が責任持って連れていくよ」

 

真九郎はにっこりと怖い笑顔で無言の圧を押しかける。これにはストーカーも『本気』を感じ取り、急に許しを請うようになった。

一応、彼にも家族がいるだろうから実際にはすぐに海外に送り飛ばすことは出来ないのだが気付かない。

 

「これで良し」

「良い笑顔で言うなあ紅」

「こういう奴にはここまで言わないとね」

「それに関しては俺も同感だ。・・・一応聞くけどハッタリ?」

「本当だよ」

「おおう・・・」

 

真九郎はこれでも大和と違う情報網と伝手がある。だからこそ海外にストーカーを送らせるなんてことができるのだ。

 

「これで大丈夫だよ上岡さん」

「あ、ありがとうございます!!」

 

これにてストーカー事件は解決したのであった。

その語は梓をクリスと由紀恵が家まで送りに行くことになる。補足だが岳人は今回の活躍で梓にホレさせるつもりが少しあったが、特に何も起こるはずも無かった。

なので解決祝いに何か美味しい物で食べに行くことが決定した。

 

「俺様の活躍でホレてねえかな~」

「さあなー。何食べるか。もちろん真九郎も参加な!!」

「良いの翔一くん?」

「もちろんだぜ!!」

 

後程合流するクリスと由紀恵に店の情報をメールで送り、商店街の近くで待機するのであった。

 

「ん?」

 

ここで大和はある人物を見かける。

 

「あ、義経さんたちだ」

「真九郎くんに直江くんじゃないか!!」

 

クローン組の全員が帰宅中であった。




読んでくれてありがとうございました。
今回の話は次の大きな事件への閑話休題的なノリで書きました。
息抜きみたいな話ですね。

そして次回からついに悪宇商会が本格的に動き出します。

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