今回は真九朗VS竜平です!!
さあ、勝負はどうなる!?
結果が知りたいなら、物語をどうぞ!!
037
竜平との追いかけっこだが結果的に言えば逃げられなかった。普通に出口に向かっては先回りされると予想して入り組んだ工場内を走り回って攪乱しようとしたが意味は無かった。
なぜなら竜平の方は此方より地の利を知っていたからだ。流石はここらの元締めと言うべきだろう。このゴチャゴチャした工場地帯をよく知り尽くしている。
「やっと追い詰めたぜ。源、お前もここらの地を知っているみたいだがよ。俺様の方は詳しいんだぜ」
やはり地の利を知っている方が追いかけっこに負けてしまう。目の前には猛る野獣。もう力づくでねじ伏せるしか道が無くなった。
「女は興味ねえから帰っていいぜ。用があるのはそこの2人だからな。へへっ!!」
背筋がゾッとした。これには絶対に無事で帰らないといけないと決心。
「俺が戦うよ。これでも揉め事処理屋だから悪漢くらい相手にできる」
「おい紅」
「大丈夫だから」
2人を守るように前に出る。相手はここらの不良の大将だが勝負してもそう簡単に負けない。状況を整理する真九郎は拳を構える。
板垣竜平は不良。実力は青空闘技場で見た限り我流で喧嘩殺法のような戦いをする者。力だけならそこらの武術家より上だろう。
特別な武器を持っているような気配は無く、己の暴力だけで相手を叩き潰す男と判断。負ければ自分の貞操が終わり。負けたくない相手。
「すう・・・ふぅ」
息を軽く吸って吐く。戦う準備は完了。
「来いよ不良の大将」
「生きが良いじゃねえか!!」
板垣竜平も拳を構える。
「板垣家長男。板垣竜平」
「俺は揉め事処理屋の紅真九郎だ」
お互いに走り出し、お互いの拳を突き出した。
鈍い音が響くが、結果は拳同士が合わさっていた。どちらも引かずに拳の押し合いである。
(やっぱり強い・・・不良だけど力だけはあるな)
(何だこいつ。華奢なくせに力があるじゃねえか)
お互いに力があると思い至る。
次の一手は竜平の腕を掴み、足を掃って投げ飛ばす。背中からドシャアと叩きつけたが相手も頑丈だ。この程度でくたばるはずも無い。
だから追撃を行なった。手刀を作って喉を狙い、足を鞭のように蹴り上げて金的を狙った。その二撃は容赦の無い攻撃。
「うおおっと!?」
決まれば終わったはずだが相手も簡単には倒されてくれないようだ。相手は川神の不良どもを力だけで倒してまとめ上げた存在。
きっとルール無用の戦いに慣れているのかもしれない。ならば竜平も急所対策はある程度してあるのだろう。
「ほう・・・容赦無く人間の急所を潰しにきたか。いいぜ。その容赦の無さが気に入った!!」
「気に入られてもな」
「おらあ!!」
「ぐ!!」
いきなり殴りかかってきても両腕で受け止める。ビリビリと痛みが伝わるが戦闘屋に比べれば軽いものだ。
思い出せ。絶奈の『要塞砲』を、夕乃のキツイ稽古を、昔味わった血反吐を吐く崩月の稽古を思い出せ。それらに比べれば痛くも痒くも無いはずだ。
「はあっ!!」
「何っ!?」
殴られても踏み止まり、固く握りしめた拳を竜平の顔面に容赦無く突き出した。
「ぐおお・・・!?」
「寝てろ」
両手で顔を抑えている竜平に回し蹴りを繰り出し工場のゴチャゴチャした方向へと追いやった。
ガジャアン!!っとパイプやらの機材に埋まり、這い出てくる様子が無い。どうやら気絶したようだ。むろん、相手の意識を刈り取るつもりで回し蹴りをした。
「・・・どうやら勝ったみたいだな」
「源くん」
「お兄さんのうぃん」
勝ったがウカウカもしていられない。もしかしたらすぐに起き上がってくるかもしれないからだ。
急いでその場から立ち去る真九郎たちであった。
その数十分後。天使が真九郎と竜平が戦った場所を訪れる。
「おーい生きてるかリュウ~?」
ガラガラとパイプやら機材やらから這い出てくる。
「生きてるに決まってんだろ」
「何だよリュウだって負けたじゃん。キャハハハハ!!」
「うるせえ。・・・ったく痛ってえぜ」
顔をガシガシと擦り、首をゴキゴキと鳴らす。
本当に容赦の無い攻撃だった。確実に叩き潰すといった拳に蹴り。今まで戦ったものよりもゾクゾクと感じた感覚。
そのゾクゾクは今まで戦ってきたどの男よりも一番クるものだ。リベンジしてやると強く思うのであった。
「ヤベえな・・・今までのどの男よりも最高だぜ。必ず壊してやる。必ず食らってやるぜ」
「うわー。あの男もご愁傷さま」
「ククッ・・・ハッハッハッハッハッハッハ!!」
リベンジに燃える大きな笑いが工場に響くのであった。
「もったいないなあ。あの男けっこうカッコイイのに。リュウに狙われたら壊されちまうなー」
038
息を切らしながら工場地帯から何とかにげてきた真九郎たち。切彦はそこまで恐くなかったが、男2人にとっては恐怖以外の何物でもなかったのだ。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
「そ、そうだね」
荒くなった息を整えるために深呼吸。これで大分落ち着くことができる。
できればもう会いたくないが、川神にいる限り再度会う可能性はあるだろう。ゾッとしてしまう予感しかない。
「嫌な野郎に目を付けられたな。でも、お前の強さなら大丈夫だろ。流石は揉め事処理屋ってとこだな」
「荒事には慣れてるからね」
軽く笑いながら先程の恐怖を吹き飛ばす。恐怖と言ってもある意味怖いものだが。
「喉乾いただろ。ほれ」
「ありがとう源くん」
「ありがとです」
忠勝から缶コーヒーを貰い一口飲む。
疲れた体に透き通るように甘味と苦味が充満する。
ふと、真九郎は切彦が猫舌だと思い出す。この缶コーヒーがホットなら「あひゅい」と言い出しそうだ。実際はコールドなので小動物のようにコクコクと飲んでいる。
「つめたいです」
「そりゃあコールドだからな」
喉が相当乾いていたのか忠勝は一気に飲み干した。同じく真九郎も一気に飲み干す。
「それにしても紅は本当に強いな。流石は揉め事処理屋の最高峰の弟子」
「紅香さんを知ってるの?」
「まあな。それにオヤジがファンなんだよ」
「流石は紅香さんだ」
あるBarのバーテンダーを思い出す。彼もまた紅香のファンだった。彼女の活躍を知る者は全員ファンかもしれない。
そのことを言えば彼女は「当然だな」と余裕で言いそうだ。
真九郎も紅香を尊敬しているのでファンではある。
(やっば紅香さんは凄いな。俺もまだまだ未熟ってことだよな)
「俺はあんまり柔沢紅香のことを知らねえがオヤジが言うにはとんでもないヤツらしいな」
「うん。とんでもない人だよ」
本当にとんでもない人である。だからこそ業界内で最高峰なんて呼ばれるのだろう。しかし真九郎だって負けていない。彼は自覚していないかもしれないが、去年の事件の数々は目を見張るものばかりだ。
「紅には強さの秘訣ってのがあるのか?」
「強さの秘訣か・・・血反吐を吐くくらいの修行かな」
キツイ過去を思い出す。崩月の修業は本当に常軌を逸していた。それを耐え抜いたからこそ得られた力だ。
「でも俺にとって力は二の次なんだよ」
「どういうことだ?」
「揉め事処理屋は強さや勝ち負けの先を見ているからさ」
真九郎も最初は生きるために強さばかり求めていた。しかし紅香のアドバイスで力だけが全てではないと気づいたのだ。
「先を見る。勝ち負けだけじゃ無い。俺ら揉め事処理屋は相手をどう救うかが大事なんだよ」
「・・・そうか」
強さや勝ち負けだけじゃ駄目なのだ。確かに必要な要素だが、それだけじゃ全て解決できるとは限らない。
揉め事処理屋の仕事で真九郎は様々な人を救ってきた。しかし、その過程で人に恨まれることもあっただろう。
その一例が『歪空』の事件だ。確かに罪を被されそうになった少女を救うことはできた。しかし、魅空の友人たちには恨みを買われたのだ。彼女たちには真実を教えることはできない。だから真九郎は進んで恨みを買った。
真実でいつも人を救えるとは限らない。嘘でも人を救える時もあるのだ。
世界はいつも残酷である。銀子が言っていた。「神様がいるから、この世界はまだこの程度なの」と。まさにそうかもしれない。
「紅はどこか大人びてるな。いや、悟ってる感じだぜ」
「そうかな?」
「ああ。俺らよりも見ている世界が違うような気がする」
川神が力で解決できる地域ってのもあるかもしれないが、忠勝は真九郎の強さや精神に何かを感じる。
「俺は強く無いよ」
「謙虚過ぎると嫌味になるぞ」
「本当だよ。俺は臆病で皆がいないと駄目なんだ」
真九郎は1人でも揉め事を解決してきた。だから弱いなんてことは無い。しかし、いざと言うときは仲間にいつも助けてもらったからこそ解決できた事もある。
周りに紫や夕乃、銀子たちがいるから真九郎は強くなれるのだ。
「俺が強いのは皆のおかげさ」
特に紫の前では強者でいることは絶対に守っている。彼女の前だけはヒーローでいるのだ。どんな悪や困難が襲ってきようと最後は全て解決するヒーローのように。
「やっぱ紅は強いよ」
「源くんだって。何だかんだで直江くんや川神さんたちのことを心配して助けてる。それも強さだよ」
「・・・けっ、なんの事だかな」
一緒に飲み干した缶をゴミ箱に投げ捨てる。そして、お互いに微笑していた。
「さて、帰るか」
「そうだね」
「眠いです」
切彦はもう眠そうだ。真九郎は背中を向けて背負う。
彼女は頬を赤くしながら真九郎におぶさる。
「斬島も信じられないな。これがああなるとは」
「斬彦ちゃんは強いけど、本当は可愛い女の子だよ」
「・・・うみゅう」
3人は島津寮へと帰る。少し濃い夜だったが、あとはゆっくり帰るだけだ。
月の光が暗い夜を照らす。
読んでくれてありがとうございました。
感想など待っています。
真九朗VS竜平の戦いは真九朗の勝利でした。
お互いに本気の本気の戦いじゃありませんでしたが、経験の差で真九朗の勝利ですね。
そして真九朗は源さんと夜の道で語り合いました。友情ですね。
でも最後は切彦ちゃんの可愛さで全て持っていかれました。
では、次回もお楽しみに!!