紅 -kurenai- 武神の住む地   作:ヨツバ

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こんにちわ。
今回は日常イベントみたいな物語です。
まったりとした雰囲気になればと思って書きました。
そして、後半は少しだけ紅の世界観を大和が知ります。

では、始まります。


宿泊

031

 

 

真九郎たちは梅屋での食事を終えて島津寮に帰宅する。紫が真九郎たちが宿泊している島津寮を見てみたいということで一緒にいる。

そして切彦もいる。彼女に関してはこのままだとまた何処かで蹲ってそうなので島津寮に宿泊することを考えている。

 

「ここが真九郎の住んでいる島津寮か」

「そうだよ紫。ここに俺と夕乃さん、銀子が住んでいる。そして学友である大和くんたちも住んでいるよ」

「おお」

 

島津寮に一番に入る。出迎えてくれたのは銀子と京であった。

 

「おかえり紫ちゃん。来ると思ってたわ」

「ども。村上さんから聞いているよ。そしておかえり大和」

 

2人の美少女から出迎えられる。それに「ただいま」と答える真九郎と大和たち。

「おかえり」と「ただいま」は2つ1組の言葉だ。そして優しい言葉だと思う。

 

「こんにちは。わたしは紫だ。今日はこの寮に泊まる者だ」

「ええ!?」

「む、紫様!?」

 

まさかの宿泊宣言に驚く真九郎とリン。よくよく考えれば紫なら言うようなことだ。それに今日は金曜日。明日は土曜日で休みだから紫のスケジュールさえ空いてれば大丈夫だ。

そしてちょうど紫は明日はスケジュールが開いている。問題無しだ。

 

「泊まれるぞ。部屋なら真九郎の部屋で寝るから大丈夫だ」

「な、駄目ですよ紫ちゃん。女性が男性の部屋で一緒に寝るなんて・・・まだ早すぎます!!」

「もう真九郎と一緒に寝ているから大丈夫だぞ」

「私もお兄さんの部屋で寝てます」

「・・・真九郎さん?」

「ちょっと待って。夕乃さんも知ってるよね。誤解だって!!」

 

紫は護衛の時に五月雨荘に住み込んでいたし、切彦は看病していた時に部屋で寝かせていただけだ。

もちろん、それは知っていることだから誤解なんて起きない。夕乃たちだけは。

 

「紅くんって一体・・・こいつは驚いた」

「まさか2人目のロリコンとは」

「違うからね直江くん、椎名さん!!」

 

訳を知らない大和たちは誤解するのは仕方ない。何度も説明する気苦労は絶えないようだ。

まさか島津寮の玄関でいきなり冷や汗を垂らすことになるとは思わなかった真九郎であった。補足だが銀子が真九郎に対して「ロリコン」と言ったのはいつも通りであった。

 

「大丈夫なんですかリンさん?」

「まさかの宿泊だが、明日の紫様の予定は空いているから問題は無い」

「リンよ。騎場に連絡していてくれ」

「分かりました紫様」

 

紫が宿泊することが決定。そして切彦は泊まるところが無いので彼女もそのまま宿泊決定。

 

「よろしくです」

「どこで寝ようか?」

 

取りあえず紫たちの寝る部屋を考えながら居間へと移動。お茶と煎餅を飲み食いしながらホッと落ち着く。

 

「お兄さんの部屋で」

「紫も真九郎の部屋が良いぞ!!」

「駄目ですよ紫ちゃん」

「私も反対です」

「むう・・・」

 

紫とリンは銀子の部屋で、切彦は夕乃部屋で泊まることが決定。無難な決定だろう。

それでも明日は休みで、遅くまで楽しく会話することができる。最近は忙しくて電話だけの会話しかなかった。だから直接話すことができるのは嬉しいのだ。

話せなかった分を今日でたくさん話すつもりである。楽しい夜になりそうである。

 

「今日は夜更かしするぞ!!」

 

夜遅くまで遊ぶ気マンマンだ。それでも甘えさせてあげるのが真九郎の役目だろう。それに今は夕乃や銀子がいるし、新たな学友である大和たちもいる。

つまらないことなんてないだろう。

 

「何して遊ぼうかな!!」

「何にしよっか。直江くん。何か遊ぶ物ってあるかな?」

「トランプがあるよ。やっぱみんなで夜更かしと言ったらトランプだ!!」

「おお、感謝するぞ」

「お褒めいただき光栄です紫様」

「様付けはいらん。紫で良い」

「そっか。じゃあ紫ちゃん」

「うむ。それで良いぞ」

 

大和がマジシャンの如くトランプをシャッフルする。これでも得意な方である。

 

「トランプと言ってもゲームの種類はけっこうあるけど、どうする?」

「定番だとババ抜きや大富豪とかだけど・・・」

「紫は定番のでは無くて違うトランプのゲームがやりたいぞ」

 

ババ抜きや大富豪以外となると思いついたのはポーカーやダウトとなった。内容を説明するとダウトをやってみたいとのことでダウトをすることに決定した。

対戦人数は4人。紫、真九郎、大和、クリスである。早速トランプをもう一度シャッフルして皆に配る。ゲーム開始だ。

 

「では紫からだ。9!!」

 

誰もダウトとは言わない。いきなり最初から言うのもつまらないからだ。

次はクリスの番で堂々と10と言ってカードを置く。ここでも誰も言わない。大和は彼女の性格上、嘘のカードで無いと判断したのだ。

ゲームとは言え、正々堂々が好きなクリスは多少なりとも変化があるのだ。大和にとってはカモである。

 

「じゃあ11」

 

大和は堂々と嘘のカードを置く。手元に11のカードが無くて12のカードを出したのだ。

ゲームとは言え、負けるつもりは無い。でも相手が子供である紫に関しては接待勝利を与えても良いかもしれないと思っている。

 

(紫ちゃんと紅くんは・・・どうかな?)

 

真九郎に関しては強さを百代からまあまあ認められてるのは知っているが知力に関しては分からない。そして紫は九鳳院と言う世界財閥の繋がりから紋白のような天才かと予想している。

取りあえず初戦は様子見で2人を観察しながらダウトを進めた。

 

「12」

「13だ」

「1!!」

「2」

 

順調にカードを置きながら回る。そろそろ誰かがダウト宣言してもよい頃合いだ。

クリスが9と言ってカードを置く。大和がダウト宣言しようとしたが彼女の雰囲気から嘘のカードでないことが予想できる。

せっかくダウト宣言しようとしたがストップしてしまった。運だから仕方ないがタイミングが悪い。

 

(うーむ。そろそろ俺もダウト宣言されるな。しかも次の10のカードが無い・・・何事も無く普通に置くか)

10といつも通りカードを山札に置いた。しかし、ついにここでダウト宣言が出たのだ。

 

「ダウトだ」

「お」

 

ダウト宣言したのは紫であった。

 

「ダウトだぞ直江とやら」

「うーん。正解だよ紫ちゃん」

「やーいやーい。大和が嘘ついたー!!」

「クリスめ・・・」

 

初戦だし、ダウト宣言されるのは当たり前だ。このまま続行する。しかし勝負はまさかの紫が勝ち越している。

紫がダウト宣言すると必ず嘘のカードなのだ。しかも外れが絶対に無い。まるで嘘が分かるのかと思う大和。

しかし、それは正解なのだ。紫は直感で相手の嘘を見破る。だからダウトと言うゲームでは直感で相手が嘘か本当かのカードが分かるのだ。

それを知らない大和とクリスは負けてばかりだ。補足だが、真九郎は何となく予想はできていた。

 

(こういうゲームは紫の1人勝ちだよなあ)

 

嘘を見抜く紫は相手を見るだけで分かる。直感という能力であり、九鳳院として多くの人間を見てきたのだから磨き抜かれているのだ。

説明するのは難しいが紫は直感で分かるとしか言いようがないだろう。

 

(大和ってば手加減したんだね。優しいところもまた好き。付き合って)

(フレンドで)

 

京がいつも通り大和に告白しながらダウトの感想を聞く。彼女はダウトの勝敗を紫に花を持たせたと思っているのだ。しかし、実際は違う。

 

(いや・・・最初はそうしようと思っけど、後半からはこれでも本気でゲームをしたんだ)

(え・・・そうなの?)

(ああ。紫ちゃんはハッキリ言って強い。なぜか確実に嘘を見抜くんだ。おそらくこういうゲームは分が悪い)

 

紫は1人勝ちでホクホクと笑顔だ。そしてクリスは本気で悔しがっている。もしかしたら案外クリスの方が子供っぽい。

パソコンをカタカタと打ち込む銀子は何となく勝敗を分かっていたのは言うまでも無い。もし賭けをしているなら紫に勝利を賭けるだろう。

 

「紫は次、違うゲームがしたいぞ!!」

「じゃあ今度は定番のババ抜きをしよっか」

「うむ!!」

 

今度定番のババ抜きを開始するのであった。

 

「ねえ村上さん」

「何かしら椎名さん?」

 

意外にも京が銀子に話しかける。口数の少ない彼女からしてみれば珍しい光景だ。

同じ寮に住んでいるという点と同じような性格だから話しかけやすいというのもあるかもしれないが。

 

「紫ちゃんはトランプ強いの?」

「・・・たぶんね。私も紫ちゃんがトランプで1人勝ちしたのは初めて見たからね」

「ふーん。大物は何かしら持っているみたいだけど・・・それなのかな」

「かもね」

 

カタカタとパソコンを打ち込む。それを見て会話のネタにしようと聞いてみる。

 

「ねえ村上さん。今度は何を調べてるの?」

「またバイト関係の調べものよ」

 

情報屋の仕事とは言わない。

 

「椎名さんも何か調べてほしいことがあれば調べてあげるわよ」

「そう。何かあれば知らべてもらおうかな」

 

今はあるとしたら大和の撃墜方法か激辛料理店でも調べてもらおうかなって思っている。

 

「また紫の勝ちだー!!」

「さすがです紫様!!」

 

夜は楽しく更けていく。

 

 

032

 

 

大和は楽しく夜更かしした後で電話に父親から連絡がかかってくる。夜に電話をかけてくるなんて珍しいと思うのであった。

 

「もしもし?」

「大和か。夜遅くにすまんな」

「大丈夫だけど・・・どうしたの?」

「何、急に母さんがお前の声が聞きたいって言いだしてな。だから電話した」

「なるほど」

 

なかなか嬉しいことを言ってくれる。自然と口元が吊り上がってしまうのであった。

厳しい父親だが優しさは人一倍ある。だからこそ恵まれているのかもしれない。家族との会話を楽しむ中で大和はあること聞いてみた。

それは気になっていた3つのこと。『揉め事処理屋』、『崩月流』、剣士の敵である『斬島切彦』だ。自分の情報網でも実態が掴めない単語であるため、頼りになる父親に聞いてみた。

 

『・・・大和。お前危ない橋を渡ってるんじゃないよな?』

「え、渡ってないけど」

『なら良いんだが・・・物騒な単語が出てきてしまえば心配する』

「物騒な単語?」

 

まさかの言葉に疑問符を浮かべる。実態を知らないから仕方ないかもしれないが、その3つの単語は本当は物騒な意味を持つのだ。

 

『順を追って説明しようか。まずは揉め事処理屋についてからだ』

 

揉め事処理屋に関しては真九郎から聞いた内容で概ね同じであった。その中でも最上級の揉め事処理屋は如何なる要人から依頼をもらえると言う。

仕事内容は表世界から裏世界まで通じ、何でも力仕事で揉め事を処理するのだ。

 

『私も一度仕事で揉め事処理屋を雇ったことがある。私の日頃の行いが良いのか業界最高峰の揉め事処理屋を雇えたのだ』

「最高峰?」

『ああ。柔沢紅香と言う。彼女はとても強い・・・母さんもできれば戦いたくないって言うほどにな。それに彼女だからこそ何でも出来るなんて噂されるほどだ』

「へー、そうなんだ」

『それに良い女だ。まあ、母さん程では無いがな』

 

やはり自分の父親は母親にとても惚れてる。言葉は冷たい感じだが、中身はとても温かく思いやりを持っている愛妻家なのだ。

 

『大和よ。どこで揉め事処理屋なんて言葉を聞いたのだ?』

「実は交換留学生が川神学園に来ていて、その1人が揉め事処理屋なんだ」

『成程。川神は本当に何でも歓迎するものだな。その者の名前は何と言うんだ?』

「紅真九郎くんって人」

『・・・紅真九郎だと?』

 

まるで何かを知っている含みのある言い方だ。

 

『これはまたちょっとした有名人が川神に来たものだな』

「紅くんが有名人?』

『ああ。裏の世界では案外有名だぞ』

 

裏世界で案外有名とは聞き捨てならないのだが、このまま話しを聞く。どういった意味での有名なのかを聞きたいのだ。

川神には本当に様々な人が集まるようだ。まさか裏世界に通じる者が来るなんて予想できなかった。

大和の父である景清は何でも紅香から次に依頼する時は後輩である紅真九郎と言う男にも声をかけてみると良いなんて言っていたことがあるから多少なりとも知っているのだ。

そして調べてみると驚く情報が入り込んできたのだ。

 

『紅真九郎はある巨大裏組織の最高顧問と死闘して引き分けたという戦歴を残した男だ』

「巨大な裏組織の最高顧問と引き分け?」

『引き分けだからって甘く考えるなよ。裏組織である最高顧問の実力は化け物だ。恐らく武神並みだぞ』

「姉さんと同じ!?」

『ああ。武神と引き分けたと例えるなら分かりやすいだろう』

 

寧ろその裏組織の最高顧問は最凶、外道、絶対悪と言う分で武神よりある意味有名で上の存在だ。

そのような存在と引き分けたとなると確かに有名人になるものだ。それにしてもまさか交換留学生がそんな有名人とは思わない。

 

(・・・これは一応みんなに伝えた方が良いかな。まさか紅くんがそれほどの実力者だとは・・・だからこそ九鬼にも気に入られているのだろうか)

 

優しそうな真九郎がそれほどの実力者とは本当に思えなかった。それに大和は裏世界のことを知らないからピンと来ないのだろう。

 

『そして次に崩月流と斬島切彦という2つの言葉だが・・・大和はどこで裏十三家を知ったのだ?』

「裏十三家って何?」

『・・・お前は裏十三家を知らないで崩月と斬島の言葉を知ったのか?』

 

その理由は交換留学生に『崩月』が来たのと、『斬島』が侵入という名の見学で来たからだ。そこで知り合ったという理由を聞いて納得の景清。

 

『本当に川神は誰彼構わず大物が来るのだな』

「裏十三家って大物なの?」

『大物も何も超大物だ。何せ裏世界を牛耳っていた家系だからな。今でこそ半数が断絶しているがその名は今でも裏世界で恐られている』

 

『崩月』は今でこそ裏世界の仕事を廃業しているがその名は轟いており、未だに影響力がある。『斬島』は今も健在で直系の者は殺し屋として継いでいる。

このことを聞いて大和は戦慄してしまう。まだ短期間の出会いだが信じられないことばかりなのだ。

 

『私も崩月の者とは会っていないが・・・比較的に温厚な者ばかりで話が通じると聞いた。しかし逆鱗に触れれば一転してその恐ろしさを味わうことになるらしいぞ』

「その恐ろしさって・・・どれくらい?」

『さあな。しかし、生きていれば本当に運が良いって思うくらいだろうな。まあ廃業しているから川神学園に来ている崩月の者は大丈夫だろう』

 

真九郎は『揉め事処理屋』であって『崩月』の武術を会得している。大和は更に真九郎の評価を上げて、追加に警戒度も上げてしまう。

本当に見た目と雰囲気からでは信じられない。だがそれは彼の本性を知らないからであって、実はただ者では無いのだ。真九郎と同じように修羅場を潜った者は川神学園にはいないだろう。

そもそも本当の死闘をしたものはいない。

 

『次に斬島切彦についてだが忠告だ。今すぐ関わるの止めろ』

「それは?」

『斬島切彦とは直系の者が襲名する名前だ。その名前の者は必ず殺し屋を営む。その腕は確実でターゲットの首を必ず斬り落とす』

 

切彦が『あいむ、ひっとまん』と言っていた意味をこの瞬間で理解する。まさか彼女が本当に自分の職業を言っていたのだ。

 

『私は絶対に関わりたく無い。命がいくつあっても足りないからな。剣士たちもそうだろうな。剣士の敵と言われているのも斬島切彦は斬れる物なら全て業物の剣のような物に昇華させる。それなら剣の腕を磨く剣士にとっては歯がゆい気持ちだろう』

「なるほど・・・まゆっちが言っていたのと同じだ」

 

それでもあのダウナー系な切彦が凄腕の殺し屋とは思えなかった。確かに梅屋の件で凄みを感じたが、まだ信じられない。

 

「なんつーか・・・刺激的すぎる日常になっている」

 

これは色々と聞きださないといけないかもしれない。川神という地域はただの日常では納まりきらない。




読んでくれてありがとうございます。
感想があればガンガン下さい。

さて、今回の話はまったりとした感じで書いたつもりです。
そして紫の超直感を少しでも活躍させました(たぶんね)。紫の出番もまだまだ考えているつもりです!!

そして後半は大和がついに真九郎たちの世界観を知りました。物語もそろそろ次の展開に移したいですね!!

ではまた!!

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