今回は梅屋の続きです。前回ではまだ終わってませんでした!!
では、始まります。
029
強者の集まっている梅屋にて食事をする。メニューは定番の牛飯だ。最初は夕乃から紫たちがいる経緯について説明されるように威圧されたが何とか宥める。
まさかの威圧感に百代たちは驚き、更に興味を植え付けたのは言うまでも無い。真九郎はまた夕乃に「年上が一番ですからね」と念押し言われる。
「それにしても紫ちゃんや切彦さんまでいるなんて驚きましたよ。前回と同じですか」
「うむ。真九郎に会いに来たのだ!!」
「駄目ですよ紫ちゃん。勝手に訪問してはいけません」
「真九郎に会いたくなったのだから仕方ないだろう」
紫の行動意欲には驚かされてばかりである。嬉しい時もあればヤレヤレって思う時もある。でも紫の笑顔を見れば許してしまう。
「まったく紫ちゃんは・・・」
「恋人に会うのに理由はいらんだろう」
「・・・・・・紫ちゃん」
「何だ?」
「貴女が真九郎さんと恋人とは・・・」
「恋人だぞ」
「「・・・・・・」」
お互いに無言の威圧を放っている。夕乃も幼い紫に容赦無いと思うかもしれないが、恋の勝負に容赦していることはできない。
一方、大和は由紀江に切彦のことを聞いていた。真九郎の横にいる彼女が「剣士の敵」だから説明を詳しく聞きたいのだ。
「彼女が剣士の敵ですか」
「ああ。そうみたいなんだよ」
「そうそう。ソレは私も聞いてみたかったんだよ。剣士の敵って何だ?」
由紀江が「剣士の敵」について説明する。そして出てくる『斬島』の名前。これを聞けば百代がワクワクするのは当然であった。
そして更にヒュームまで気にし始める。まさか裏十三家の「斬島』となれば警戒してしまう。
(おいクラウディオ。彼女があの『斬島』なのか?)
(おそらく。それにヒュームも感じていますでしょう。彼女から感じる斬り裂くイメージを)
(ああ確かに感じる。おい鉄心、百代には裏十三家について話しているか?)
(話しておらんわい。話したら絶対面倒じゃし。それに戦わせたくない)
裏十三家の『斬島』と戦おうとは考えてはいけない。そもそも戦おうと思って戦う相手ではないのだ。
百代は興味を持ってしまったができれば関わらさせたく無いと思うのが祖父としての気持ちである。
「そっか斬島切彦ちゃんが剣士の敵か~」
百代が切彦に絡むように抱き付く。切彦もなすがままである。環の絡みでなれているので特に気しないまま黙々と牛飯を食べている。
そして百代は触診まがいのことをして品定めをする。百代も切彦からは何か斬り裂くイメージを感じているのだ。
(妙な鍛え方をしてるな・・・でも武術家としての身体じゃない。スポーツでも無いな。何だろう?)
彼女が殺し屋なんて分かるはずもないだろう。さすがの百代も殺し屋については分からない。
そして由紀江も切彦をよく観察していた。剣聖である父が勝負するのを躊躇う相手だからだ。しかし正直ダウナー系な彼女からは信じられない。
(彼女が本当に剣士の敵である斬島切彦なのでしょうか。それに男性かと思ってましたが女性なんて・・・今度父上に聞いてみましょうか)
斬島切彦。剣の腕は素人でありながら熟練の剣士をいともたやすく超える強さを持つ者。
(斬るのが異様に上手いって父上は言っていましたが・・・どれほど上手いのでしょうか)
それぞれが考え事をしていると新たな来店者が入店してくる。
「おお、この闘気の正体は皆さんが揃っていたからか」
「あーびっくりした。ついでだから入ろうか」
「知っている顔だな。おお紋まで、更に真九郎に紫ではないか!!」
「おお揚羽!!」
「お久しぶりです揚羽さん」
さらに強者である義経、弁慶、揚羽まで梅屋に店入。どんどんと強者が集まる。もしかしたら強者の集まる場所には勝手に新たな強者が集まるのかもしれない。
「紋と英雄から真九郎が川神学園に来ていると聞いていたが、まさかここで会えるとはな!!」
「姉上!!」
「どうだ紋。真九郎をスカウトしたか?」
「はい。でもまだ良い返事はもらえてないです」
「何故だ真九郎よ?」
「一応、将来はこのまま揉め事処理屋を営むつもりなので」
「そうか」
「だから我はいつでも真九郎を待っているのです!!」
「そうかそうか。ではいつでも待っているぞ真九郎よ!!」
九鬼の三姉弟からスカウトされるとは中々無いだろう。真九郎はそれほどの人材だと言うのが分かる。
「あれ? モモちゃんに夕乃ちゃんたちまで?」
「あ、マイハニー清楚ちゃんだ」
「こんにちわ清楚さん」
更に綺麗どころが増え、これには百代も笑顔だ。しかし次の来店者には笑顔を向けられない。
「くふぅ~おらあ!!」
「え? え? え?」
後ろから入って来た男が清楚を捕まえてナイフを突き立てる。彼はどうやら強盗のようだ。「金を出せ」と大きく震えるように言い放っている。
自分はツイていない、今まで人生が失敗だったと不満を言いながら視線をギョロギョロ動かす。その状態を見て盗人である彼は今回が初実行と予想できる。
「まぁお前さんがついていないのは、今のこの状態の店に押し入った1点だけ見ても分かる」
「あ、何言っているの? お、この小僧震えていやがる」
「いえ貴方の身を案じてるから震えているんですよ?」
「何を言ってやがる俺にはナイフ。それにじゅ・・・うおあ!?」
盗人が大和に視線を移している隙に真九郎が一瞬で間合いを詰めてナイフを握りしめた。しかも清楚を傷つけないように刃の部分を握っている。
相手が強盗実行初心犯で震えていて周囲を把握していないからこそ出来る真九郎の荒業である。いきなりナイフを掴まれ、何が何だか分からない盗人は驚いて身体を固める。
新たに出来た隙を見てナイフを取り上げて、蹴りを食らわせる。
「ぐほお!?」
「大丈夫ですか葉桜先輩?」
「う、うん。ありがとう真九郎くん。それよりも手は大丈夫なの!?」
ナイフを掴んだ手は切れていたが大きな傷ではない。それに崩月流で鍛えているのでナイフを掴むことは平気だ。それにナイフは安物であったし、掴むこと自体初めてではない。
素人ならともかく、さすがに戦闘屋や切彦の持つナイフは触りたくないがと思うところもある。
「無事で良かったです葉桜先輩」
「う、うん」
ドキドキしてしまう清楚。このドキドキは嬉しいのか怖いのか分からないが今はそれどころではない。
すぐに倒れた盗人に視線を戻す。すると盗人の男は懐から拳銃を取り出した。一応、彼も二段構えとして用意していた物だろう。拳銃なんてどこで手に入れたか知らないが最近では一般人が簡単に手に入れることができるのだろうか。
(・・・案外あるな。メジャーなところだと悪宇商会か)
「貸してください」
一瞬考えてしまったがそれどころでは無い。次の一手を思いつき、行動しようと思ったが切彦が先に動く。
ナイフを奪って、そのまま盗人へと近づいて拳銃を真っ二つに切断した。一瞬のことであった為、盗人は何が起きたか分からない。
「な、何が?」
「うぜえよ、オッサン」
「ひいいい!?」
盗人は恐怖して逃げ出そうとするがクラウディオの糸で逃げられるはずもなく、そのまま御用となる。
そして盗人の男は従者部隊によって回収されてしまった。
「フハハさすが真九郎だな!!」
「いやいや。逃がさなかったのはクラウディオさんですよ」
「いえ、私は弱っていた盗人を捕まえただけです。安物のナイフとはいえ刃の部分を掴むという荒業をした真九郎様ほどではありませんよ」
普通はナイフの刃部分を掴むという考えはでない。掴めば切れるのは自分の手なのだから普通は考えないだろう。だが真九郎はどこか危険な行為に関して簡単に飛び越える異常性を持っている。
だからナイフを掴むなんて荒業ができるのだ。自分自身は臆病なんて思っているが、周りから見れば勇気がありすぎる評価だろう。
大和や義経たちは驚いている。
「凄いぞ真九郎くん。身を挺して葉桜先輩を助けたのに義経は感動した!!」
キラキラと言う擬音を背中に乗せて義経は真九郎の身を挺した行動に感動していた。彼女は真九郎を頼りになるお兄さん的な存在と感じたのだ。
どこか頼りになるお兄さん的存在に憧れていた義経が興味を強く抱いたのは当然である。弁慶もまた同じく興味を抱く。彼女たちではなくて梅屋にいる全員が興味を持ったのだ。
元々知る者は頷きながら微笑し、知らない者は少なからず興味を持ったのだ。
「さすが真九郎だな!!」
「ありがとう紫」
「それに切彦もすごかったぞ!!」
「どもです」
切彦の活躍もそうだ。ほとんどの者は気付かないが彼女は安物のナイフで拳銃を真っ二つにした。そのことに関して理解したのはたったの数人である。
なぜなら安物のナイフなんかでは拳銃は一太刀で切断できない。剣の熟練者でも難しいだろう。梅屋にいる由紀江だって無理だ。
その不可能を可能した切彦の腕は異能と言う他無いないだろう。この異常なる斬る腕を見てヒュームたちは彼女を確実に裏十三家の『斬島』だと確信した。
(間違いなく斬島だ。安物のナイフで拳銃を切断するなんて芸当は斬島の家系しかできないだろう)
(ナイフで拳銃を切断するなんて・・・私でもナイフを使って一太刀で拳銃を真っ二つにできない)
もし切彦が業物を使った時はきっと更なる切れ味を持って相手を簡単に切断する。斬島切彦だからこそできる芸当であり、異能である。
真九郎は未決着だが、一度だけ戦ったことがあるから分かる。彼女はきっと何でも切断する。崩月の戦鬼だって殺せる。なぜなら彼女は天才だから。
(もし決闘する時はどうやって勝つか・・・一太刀でもくらったら負けだからな)
切彦との決着。約束した決闘は必ず守る。でも、情けないがまだ戦うつもりは無い。
決着を先延ばしにしている自分を恥じているがどうしようもない。早く答えを出さないとまた切彦が不機嫌になりそうである。
「しかし無謀ではあったぞ」
「ヒュームさんの言う通りですよ真九郎さん。相手が素人だったから良かったものの、相手が戦闘屋であったら指を切断されてました。でもカッコ良かったですよ」
「気を付けます。そしてありがとう夕乃さん」
やはり、まだまだ自分は半人前だと思い知らせてしまう。これからも修練が必要だ。
梅屋にてちょっとした一悶着であった。
030
梅屋の後、紋白は真九郎たちと別れて帰宅していた。
車の中には紋白の他にヒューム、クラウディオ、燕が同席していた。揚羽たちはまだ用事があるので別行動である、
「姉上たちは買い物か。我も一緒に行きたかったな。でも稽古があるからな」
「少しくらいスケジュールを変更しても良いのですよ紋様?」
「いいや大丈夫だ。我も姉上のようになるために日々修練しないとな!!」
「紋ちゃんはもう少し甘えても良いんじゃないかな?」
「燕様の言う通りですよ。真九郎様が訪れていた時みたいに甘えていても大丈夫ですよ。フフフ」
「むむう」
頬を少し赤くしながら考える。去年に真九郎たちと出会ったことを思い出しているのだ。九鬼の家族関係を修復できた。
それに関しては感謝してもしきれない出来事だ。そして家族以外に心を許せる相手でもある。だからこそ真九郎に甘えられるのだろう。
「そ、それはそうと燕よ。あの依頼の方はどうだ?」
話を逸らすように燕に質問する。
「それならまだ。情報収集にもう少しかかるかな」
「そうか。まあ時間はあるしな。よろしく頼む」
「まっかせて!!」
ニコやかに笑顔で返事をする。
「しかし、そう簡単に弱点や隙を見せるわけ無いか」
「ターゲットがターゲットだからね。私としては誰か強者が戦ってくれたら良い情報として得られると思うんだけどな」
「なるほど。本番前にある程度の強者と戦わせて闘いの流れを見極めるのだな」
「その通りだよ紋ちゃん」
決闘する時にて勝利を少しでも確実に近づくには相手の情報は大いに越したことは無い。
相手が強ければ強いほど、勝つには前情報は必要なものだろう。
「でも戦わせる相手がなぁ」
「そうそう居ないもんね。でも居るとしたら義経ちゃんたちかな」
「義経たちは他の挑戦者で忙しいからな」
武士道プランの影響で彼女たちは忙しいという他無い。だから戦わせることはできないのだ。
川神学園には強い者は幾人かいるが、その中でも飛び出た強者は数人しかいない。それで好き好んで戦ってくれる者もいないだろう。
「私としては夕乃ちゃんが戦ってくれると良いかなー」
「崩月夕乃か・・・でも戦ってはくれぬだろうな」
「そうなんだよね。夕乃ちゃんは決闘をやんわり断っているし」
夕乃は自分から戦おうとしない。彼女から戦うのは真九郎のためか家族のためくらいだ。
「じゃあダークホースの真九郎くんとかはダメかな。ちょっと気になるんだよね。あの子の戦闘スタイルは見たことないし」
クリスとの歓迎決闘を見ていた燕は真九郎の戦い方。崩月流が気になっていた。武術とはまた違った動き。それは喧嘩殺法だからだろう。
同じく紋白は考えていた。真九郎が強いことは知っているが戦ってもらうと考えたことは無かったのだ。燕の言葉に目からウロコと言うのがピッタリである。
(ふむ・・・でも戦ってくれるだろうか?)
女性の頼みなら基本的に頼みを受ける真九郎でも決闘となると悩むだろう。
「ダメかな~?」
「それは真九郎様次第ですよ燕様」
「クラウ爺の言う通りかもな」
もし、真九郎が戦ってくれるなら勝ってくれるのではないだろうかと一瞬思う紋白であった。
(・・・崩月の戦鬼なら武神を打ち倒す可能性はあるだろう。そこらの武人よりかはな)
ヒュームは静かにそう思った。
まだまだ可能性のある若者は日本に、世界にいるのだ。これからも退屈しない日常は続く。
読んでくれてありがとうございました。
梅屋でのちょっとした強盗でした。そして盗人は運が無かった・・・原作でも。
そして真九郎はナイフを手づかみとか流石ですね。切彦も安物のナイフでも拳銃を切断とはやはり『斬島』だ。
紋白が考えている武神の討伐。
もしかしたら真九郎ならなんとかしてくれそうかもって思い始めました。でも戦ってくれるかは超未定。