290
直江大和はいくつかの策や機転をきかして京と共にレイニィ・ヴァレンタインの仲間をなんとか倒した。
正直とても厳しかったが倒すことに成功。だがもう2人とも満身創痍で動けそうにない。それほどまでに強敵であったのだ。
彼らができる事は川神百代とレイニィ・ヴァレンタインと戦いを見る事だけである。
「姉さん…」
大和の目に映るのは空中戦を織り成す百代とレイニィ。
「フハハハハハ。やるなモモヨ!!」
「お前もな!!」
「裏闘技場の時よりもキレが良いぞ。やっと私と戦う気になったということだな!!」
「あん時とは違うんだよ!!」
拳と拳がぶつかり合う。
「川神流、無双正拳突き!!」
「リボルバーナックル!!」
「致死蛍!!」
「似たような技ならあるぞ。ショットブロウ!!
技と技がぶつかり合いながら地上へと落ちる。その余波によって地面に隕石が堕ちたようにクレーターが出来てしまう。
「オラオラオラオラオラオラ!!」
「ガトリングショット。ダダダダダダダダダダダダダッダダ!!」
殴り合いが始まる。もう常人には拳がいくつも見える程である。大和だけと言わず、京すらもう見えない。
百代はもう迷わないし、裏闘技場の時みたいに不安もない。今は大切な仲間を守るためだけ戦う。それだけだ。
「フハハハハハハハ。やるなモモヨ。そうだ、その強さを倒すことが私の目的なのだ!!」
レイニィは多くの技を百代に叩きだす。
「デッドアイズピストル」
銃弾のスピードの如く目潰し。
「デザートイーグルブレイブ!!」
螺旋の回転を加えた手刀の突き。
「ハアアアアアア、プリズムバレット!!」
気を発光させながら拳を振るう。
多くの技が繰り出される。その技全てを流していく百代。
「本当に技が豊富だな」
「まだまだあるぞ。三種複合技…スナイパーアタック。コルトラリアット。グレネードドライブ!!」
「ぐ!?」
「どうだ。これがトリプルバレット!!」
「ぐ……こんなの効かないぜ子猫ちゃん」
「まだまだ戯言が言えるか。だがそれでこそモモヨ!!」
またも拳がぶつかり合う。そのぶつかり合った拳の衝撃波が周囲におよぶ。
そのまま殴り合いに発展する。やはりレイニィは強い。彼女は間違いなく壁越えクラスであると何度も噛みしめる。
才能も間違いなくとびきりだ。もはや身体全体が才能の塊と言ってもいいくらいである。
「おおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
だが百代だって負けていない。負けられないのだ。もう二度と裏闘技場のような醜態を晒すわけにはいかないのだ。
そして自分が仲間を守らなければならない。何のための強さなのか。その強さを無駄遣いはしないのだ。
「ランダムバレット!!」
「炙り肉!!」
「ライフルアロー!!」
「雪達磨!!」
技と技のぶつかり合い。お互いの多種多様な技が繰り出されるが全て打ち消される。
実力は拮抗しており、決め手がなかなか決まらないのだ。それは百代もレイニィも分かっているからこそ互いに先読みの勝負なのだ。
あの手この手で攻撃の先を読み合い、打ち合い、読み合いの繰り返しだ。
「やるな。それでこそ武神だ。それでこそ倒しがいがあるのだ!!」
「私に凄く執着しているな。理由は何だ!!」
「そんなものは証明だ!!」
「証明だと?」
「ああ。私はお前を倒すためだけにここまで至ったのだ。我々の計画の最高傑作が私だ。私は最強の戦士となるべく生まれた。その証明のためにモモヨ、お前を倒す!!」
彼女が拳を振るう度に空気が震える。
レイニィの目的は百代を倒して自分あ最強の戦士であることを証明することだ。ただそれだけ。
生まれてから自分が最高傑作だと教えられてきた。自分が最強で最高だと疑いようが無かった。だが、そんな時に川神百代という存在がいると知った。
そのおかげで自分の目的が百代を倒すことになったのだ。彼女を倒せば自分が今までしてきたことが報われる。
「お前を倒すことで私の人生が証明されるのだ!!」
拳が百代に打ち込まれる。そして百代が殴り飛ばされた。
「どうだ!!」
「……あんたにはあんたの目的があるのは分かった」
殴られた百代はゆっくりと起き上がる。相手の並々ならぬ執着は分かった。だが百代にとってそんなのは関係ない。
今の百代は仲間を守るために向かってくる敵を全力で出すだけなのだから。
「悪いが私はあんたの目的のためだけに倒されるわけにはいかないのさ。特に今回のような時は絶対にな!!」
百代は気を一気に練り上げて爆発させる。爆発させた気は右腕にへと纏わせる。
「もう決着をつけよう。あんたもつけたいだろ?」
決着と言われてレイニィはニヤリと笑う。そんなものは彼女だっていつでもつけたいものだ。
「いくぞモモヨ。私の最高の技をくらわせてやろう!!」
レイニィも気を練り上げる。
「はああああああああああ!!」
百代にとってレイニィの目的なんてどうでもいい。もし、自分のせいで大和たちが巻き込まれるのはもうたくさんだ。
だから自分に降りかかる火の粉は仲間たちに浴びさせない。ここで全て決着をつけてみせる。
「いくぞレイニィ!!」
「こいモモヨ!!」
お互いに走り出して拳を突き出した。
「川神流…無双正拳突き!!」
「マグナムブレイヴァー!!」
お互いに最強の突き。どちらも気を込めた正拳なのだが単純なだけで威力は破壊的。
何も変化球もなく、これを打てば勝てるという切り札だ。
「はああああああああああああ!!」
「らああああああああああああ!!」
川神流無双正拳突きはよく百代が打ち出す技だ。もともとこれはこの正拳だけで相手を必ず倒す必殺の技なのだ。
何のために技名に『無双』がついているのだ。だから決着をつけるには打って付けの技だろう。
それに百代は仲間を守るという誓いを立てた。こういう時こそ絶対に負けられないのだ。
「はあああああああああああああ!!」
どちらの拳を重い。だからどちらが勝つかは分からない。
「はああああああああああ!!」
だけど今回は思いが百代の拳にも乗った。それが勝率を上げたのかどうかは分からない。
それでも勝ったのは百代だった。
「だああああああああああああ!!」
「そ、そんなっ…!?」
「あんたは強いよ。だか今回だけは負けられないんだよ!!」
百代の拳がレイニィを撃ち抜いた瞬間である。
「今度は事件関係無く決闘に来てくれ。私はいつでも決闘を受けるぞ」
291
周囲は燃えていた。何故燃えているかと言われれば、それは梁山泊が1人の武松によって燃やされたのだ。
彼女の異能は火炎。身体のいたるところから炎を放出させることができるのだ。曰く人体発火現象というやつである。
その力は単純であるが威力は暴力的である。なんせ炎とは世界を発展させてきたが壊してきたモノでもある。
武松はその力を壊すという方向で伸ばしているのだ。ならば弁慶であっても苦戦するのは必須。
いくら弁慶が強くても相手は実戦経験のある傭兵。その差は埋められない。
「ったく、とんでもない奴がいたもんだよ…まあ、世界は広いから私よりも強い奴なんていくらでもいることくらい知ってたけどさ」
「お前も強いけどな」
武松の拳からは炎がまだ放出している。まさに炎の拳だ。
この戦いで2人の戦いは互角だ。お互いに最初から本気で向かって戦った。
なんせ弁慶は最初から切り札の『金剛纏身』を使っている。逆に武松は最初から炎を最大放出している。それほど最初からクライマックスであるのだ。
「それにこちらを早く片付けて公孫勝を手伝わないといけない」
チラリと横を見ると与一が数多くのマガツクッキーたちと戦っている。それは梁山泊の公孫勝の異能よって数多くのマガツクッキーを操っているからだ。
「最初は間に合わなかったけど…すぐに追いかけるさ」
視線を弁慶に戻す。
「与一…はやくそっちを片づけてよ」
「無茶言うな姉御。こっちは1人でこれだけの数を相手してんだぞ!?」
「あんたならできるでしょーが。つーかやれ」
「ったく、人使いが荒いんだからよ」
弁慶の言う通りもうやるしかないのだ。まだ援護が来ない以上自分で戦うしかないのだ。
『ほらほらーさっさと諦めちゃえよー。こっちはただの足止めが目的なんだから、そっちが諦めてくれればこっちは楽できるんだよ。もうこの技相当疲れるんだからなー』
「悪いが諦めるつもりはねえな」
『もうそういう熱いのは面倒だからさー』
「やるしかねえんだよ」
与一は与一で戦い、弁慶は弁慶で戦う。
「…金剛纏身もずっとは継続できない。でもそれは向こうも同じはずだ」
武松の異能は火炎の放出。だけど永遠に火炎を放出できるかと言われれば無理だ。
いくら人体発火現象を持つ肉体が火に耐性があっても限界はあるのだ。限界を過ぎれば自分の肉体すら燃えてしまう。
今までずっと戦っており、時間は経過しているから武松も限界が近いはずだ。涼しい顔をしているが実際は疲労が溜まっている。
だが疲労が溜まっているのは弁慶も同じだ。だから決着をもうつけねばならない。
自分の獲物を強く握る。どうやって自分の獲物を使って武松を倒そうかと考えていたが、やはり特攻しかない。
もうあれこれ考えるのは止めたのだ。この考えに至るまでいくつも作戦を考えて戦ったが結局はシンプルに行き着く。
「行くぞ梁山泊!!」
「…こい!!」
最大火力で火炎を放出させる。まさに烈火の如く。弁慶に迫る烈火の炎。迫る炎を見て覚悟を決める。
腕で顔を囲み、できる限り炎から顔を守りながら火炎の中に走り出した。
熱い熱い熱い。身体が爛れてしまいそうだ。これは完全に大火傷確定で痕が残ってしまうかもしれない。
だが気にしない。もう火炎の中に突っ込んだ身なのだからここで退き返せば身体の火傷が喰らい損だ。
「どっせえええええええええええ!!」
「炎の中を無理矢理っ!?」
「これくらいでもしないと勝てそうにないしね!!」
「……見事だ」
武松は静かに目を閉じた。
「でやあああああああああ!!」
弁慶が武松を殴り飛ばして決着をつけたのであった。
「与一、そっちは!!」
弁慶は与一の方向を見るとマガツクッキーの残骸が至るところに無残に散らかっていた。その中心で荒い息を吐いているのが与一だ。
「やっぱ何とかしたじゃないか与一」
「だあ、はあ…今年一番疲れたぜ。もうこんな無茶な命令は止めてほしいもんだぜ」
どっしりと地面に尻をつけて座り込んだ。
『う、嘘だろ…私は天才なのに…』
「お前の力は恐らく憑依かなんかだろ。まさか無機物で複数にも憑依できるとは驚きだが失敗だったな」
『失敗だと!?』
「ああ。ロボット程読めやすいモノは無いぜ。あれだよ…正確すぎて逆に読めちまうってやつ。まだ人間の動きの方が読めないさ」
『ぐぬぬ天才の私があ。武松に手を出したら許さないか…』
「はいはい、手を出さない。そしてきっとお前は俺より天才だよ」
横に転がっていたマガツクッキーの頭を矢の先端の鏃で貫いて会話を終わらす。
全ての足止め戦が終了。
292
「おい、何故あいつを殺した星噛」
「殺したなんて人聞きの悪い。ただ窓から突き落としただけじゃない」
「それを殺したと言うんだ」
ヒュームと鉄心は絶奈を睨みつけた。
事の顛末はたった数分前に戻る。この部屋に星噛絶奈と柔沢紅香が入ってきたあと、絶奈が草加聖司を捕まえて窓から投げ捨てたのだ。
それはもう一瞬の出来事であり、鉄心とヒュームは動けなかったのだ。
「もし出会わなかったら殺すつもりは無かったけど…もし見つけたならうちの技術を利用した落とし前をつけるつもりだった。それだけよ」
売り物にならない旧式の人工臓器を売って星噛の技術に妙な批判があったとしたらいい迷惑だ。
「奴には法で裁かせるつもりだった」
「あら、世の中には法で裁けない人間がいるのよ。軽々しく人を法で裁くなんて言わない方がいいわよ」
「この減らず口め」
「で、どうするの。私は仕事が終わったし帰るつもりよ。お金にならない仕事はしたくないしね」
「やめとけ鉄心にヒューム。ここで余計な事をするな」
「紅香ちゃん…」
ここで絶奈と事を構えれば最悪戦争になる。それは鉄心もヒュームだってその未来は実現させたくない。
2人はこのウヤムヤを溜飲するしかないのだ。
「ま、どうしてもあいつを法で裁かせたいんなら海を探してみなさいよ。もしかしたらこの高さならギリ生きてるかもよ」
「よく言う」
「じゃあね」
そう言って絶奈はビルから消えていった。
「じゃあ、私も帰るよ。どうやら本当に事を構えずに済んだしな」
もしものために紅香は一緒にいたが、特に何も無かったので帰る。
「もう仕事は終わったのかの?」
「ああ。今頃もう一網打尽だ」
「流石は紅香ちゃんじゃのう!!」
「あとは真九郎だけだよ」
一方、海に落とされた草加聖司はというと生きていた。
彼は悪運が強いということだろう。彼はこれから身を潜めることになる。そして数年後にてまた彼は動き出す。
また最悪な事件を起こして。
ビルから海に落とされるという死ぬような思いをしたが、彼の末路はまだ終わっていない。
残念だが彼との決着をつけるのは絶奈でもヒュームでも真九郎でもない。違う物語の人物なのだ。
だから彼には彼のお似合いの末路についてはまた別の物語で。
読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。
さてさて、足止め戦は全て終了しました。
そして臓器売買組織も気が付いたら壊滅です。少し物足りないかもしれませんが、草加聖司については『彼』が決着をつけるので仕方ありません。
草加聖司のその後は『電波的な彼女』でお確かめくださいね
そろそろこの物語も終わりに近づきます。
良ければ最後までお付き合いください。
次回はついに真九郎が幽斎に追いつきます。