妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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お久しぶりです、御堂です!
夏期休業の課題の量が殺人的過ぎませんかね。
課題が多いなら現実逃避すればいいじゃない!という訳で夏祭り編後編です。ラブコメの「ラブ」の割合が今回多いイメージです。
つまり僕のちょっと苦手な分野なので出来が悪い可能性があるということ(予防線)。

と、とりあえず。どうぞ!



兄と実妹とクラスメイトの夏祭り2

 

 

 

俺こと楠祐介は、最近すっかりお馴染みとなったあらすじ用の謎の白い空間内に置かれたテーブルを、クラスメイトであるメロン(比喩表現)ゲーマー八雲千秋と共に囲み、優雅に紅茶を飲んでいた。······いや、どういう状況だコレ。ここに至るまでの記憶がさっぱり抜け落ちてるんですけど?

と、俺が困惑していると。

 

 

「······はふっ。紅茶、おいしいね。楠くん」

「え?······あ、おぅ。そだな」

 

 

俺の対面に座る八雲はえらく落ち着いた様子で、これまたえらく可愛らしい仕草でこくこくと紅茶を飲んでいた。え、何?この状況に困惑してる俺がおかしいの?あらすじ説明しないの?

 

 

「······さて、楠くんは前話で私たちの夏祭りに行こ?という誘いをのらりくらりと躱し続け、本当に行かないのかな······と私が陰でちょっと寂しがっているところで伊織ちゃんが突如発した謎の言葉で急に折れて夏祭りに行くことが決定したわけだけれど」

「あからさまに説明口調になったな」

 

 

というか、ちょっと寂しがってたのか。それに関しては地味に罪悪感を覚えた。

 

 

「······わるいと思ってるなら、おねーちゃんとけっこんすることをおすすめする。······おにーちゃん」

千春(ちはる)ちゃん⁉︎ 何でここに⁉︎」

 

 

八雲のことをボーッと眺めていたら、突如死角から彼女の妹である千春ちゃんが現れた。ちょっと待って、何でしれっと現れてんの?何で当然のように俺の紅茶飲んでんの?さっきまで影も形もなかったよね?

 

 

「······おにーちゃんとおねーちゃんの仲の、しんちょくぐあいを見にきた」

「千春ちゃん、ここはあらすじのためのスペースなんだ。そんなご近所の友達の家を訪問するような気軽さで来るところじゃないんだよ」

「······チハルは、おにーちゃんたちがいるところには、だいたいいるから」

「前にも聞いたけど本当怖いよね」

 

 

きっとこの子は将来有望なスパイか忍者になることだろう。そうでなければストーカーだ。

 

 

「······ハル。あんまり楠くんを困らせちゃ駄目」

「······そうしそうあい?なら、もんだいないはず。······おねーちゃんはおにーちゃんのこと、きらい?」

「······友達として、好きだよ」

「············ともだちとして?」

「············友達として」

「「············(無表情のまま互いを睥睨(へいげい)する二人)」」

 

 

何だ。何か知らんが二人の間で高度な心理戦が行われてるような気がするぞ。どうにかして言質を取らんとするミニマムハンターと、それを阻止するゲーマーの戦いだ。字面に戦力差がありすぎじゃないすかね。と、八雲と睨み合っていた千春ちゃんが溜め息を吐き。

 

 

「······しかたない。こうなったら、おにーちゃんをぶりょくでくっぷくさせて、おねーちゃんとくっついてもらう」

「酷ぇとばっちりだ!ていうか千春ちゃん、クリスマス会の時に『これからはやり過ぎないように応援する』とか言ってなかった⁉︎ 武力行使とか明らかにやり過ぎだと思うんですけどー!」

 

 

突如ターゲットを俺へと変更した狩人(千春ちゃん)は、彼女の主武装である吹き矢(怪しい薬品付与)を懐から取り出しながらも俺の問いに「この馬鹿何も分かってないわ」とでも言いたそうに肩を竦め。

 

 

「······これはあらすじパートだから、ほんぺんとはかんけいない」

「都合良すぎじゃないかなぁ!」

「······ぷっ。······ぷっ。······ぷっ」

「淡々と吹き矢を連射するの止めろっつってんだろ!何でそこは本編準拠なんだよ!チクショウ、こんなところで死んでたまるか!(ダッ)」

「······にがさない(シュバッ)」

 

 

「············えっと。······本編、始まります」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

ギリギリ逃げ切れた。千春ちゃん足速すぎじゃない?撒くのに20分もかかったんですけど?

······現在、俺は二人のクラスメイトと一人の天使、そして一人の大魔王と共に夏祭りに来ていた。先程から様々な屋台を適当に回っているが······うん、こういうのもたまに来てみると割と楽しいものだな。さっきからすれ違う人に足踏まれまくってるけど。下駄だからいつもの三割増しくらい痛いけど。

 

 

「だから人混みは嫌なんだよー······なぁ柊、そろそろ帰らない?クレープ奢ってやるから」

「帰らないよ⁉︎ もー、クスノキくんってばいっつもそーゆーこと言うんだから!」

「そうだよお兄ちゃんっ。せっかく皆で来てるんだから、今日は沢山楽しむの!」

「······でも、楠くんって毎回渋る割には結局付き合ってくれるよね。······ふふ」

「はっはー、やっぱり祐介はツンデレぶぁいッ⁉︎」

 

 

戯言を吐き出した笠原の頰を神速で引っ叩く。うーん、最近暴力のステータスの向上を感じる。笠原ならいくらシバいてもダメージが無いようだから心も痛まないし、将来は俺の専属サンドバッグとして雇ってやろうか。24時間勤務休み無し月給五十銭くらいで。

俺が笠原の将来設計を考えていると(やさしい)、柊が先程屋台で購入したわた菓子を幸せな表情で頬張りつつ。

 

 

「むぐっ······まぁまぁクスノキくん。キミだって飛鳥ちゃんの浴衣姿をもう少し見ていたいでしょ?」

「そりゃあ······まぁ······」

「そしてボクの浴衣姿も!」

「それは······別に······」

「何でさー!」

 

 

いつものように頬を膨らませながら飛びかかってくる柊の頭を鷲掴みにして抵抗していると、八雲と飛鳥がとある屋台の方へ歩いて行くのを視界の端に捉えた。

 

 

「飛鳥と八雲はどこに······」

「おー、金魚すくいの屋台みたいだぞ?」

「にゃはー、まさに夏祭りの定番だねっ」

 

 

確かに、夏祭りの屋台といえば金魚すくいみたいなところは結構ある気がする。もちろん人によるだろうし、あくまでイメージの話なので実際にその人がよく行く屋台は違うのかもしれないが。ちなみに、俺はそもそも夏祭りに行くこと自体が少ないのでイメージでしか語れません。

 

 

「八雲さん、沢山取れた方が勝ちですよっ」

「······うん、負けないよー」

 

 

どうやら二人は金魚を何匹獲れるかでささやかな勝負をするつもりらしい。ポイを握りながら意気込む二人の姿はとても微笑ましいものがある。そんな二人の様子を笠原と柊と共に後ろから眺めていると、思い出した様に柊が口を開いた。

 

 

「あー。そういえばクスノキくん、昔から金魚すくい得意だったよねー」

「お?そうなのか祐介」

「いや、人並みだと思うんだがな······何もコツとか気にしてないし」

「えー。でもキミが昔チャレンジしたら、一瞬で出禁になったじゃんかー」

「それって金魚を獲り過ぎたからか?」

「うん、乱獲罪」

 

 

そんな罪状は存在しねぇ。俺が柊と笠原の会話に適当に付き合っていると、その会話が聞こえていたのか、八雲がこちらを振り返ってきた。ちなみに、彼女が握っていたポイは無残にも破れていたことをここに記す。

 

 

「······ぜ、全然獲れないや······ねぇ楠くん、お手本見せてくれない、かな」

「あん?いや、俺は······」

「お兄ちゃんもやるの?ふふん、お兄ちゃんも飛鳥と勝負してみるっ?」

 

 

自慢気に胸を張る飛鳥(かわいい)が持つボウルの中では、既に金魚が4匹程泳いでいた。流石俺の妹、金魚すくいのセンスも抜群ね!

まぁ、飛鳥も楽しんでることだし、ここは一つ乗るのもアリだろう。俺はポイを一つ購入し。

 

 

「へいへーいクスノキくん!これで一匹も獲れなかったら恥だぜー!」

「やかましいわ。別にそこまで意気込む程のことでもないだろうに······えーと、確か、こう」

 

 

バシャッ(← 金魚七匹ゲット)

 

 

「「············は?」」

「うーん、まぁまぁってとこだな」

「······いや、おかしくない?楠くん、今明らかに一回しかポイ動かしてなかったよね?何でもう七匹も獲ってるの?」

「お、お兄ちゃん、こんなに金魚すくい上手かったの······?」

 

 

飛鳥と八雲に若干引いたような表情をされた。なんだお前らこの野郎······。

 

 

「やー、やっぱり上手いねクスノキくん。もうアレだね、チートだね。神様から与えられた異世界転生の特典だね」

「異世界転生するにあたって金魚すくいのスキルを転生者に授ける神か。うん、ソイツ絶対俺のこと嫌いだよな」

 

 

もしくは神の名を騙る悪魔か何かだろう。きっと最終的に魂を喰われたりするのだと思う。横にいる(悪魔)をぶつけたら共鳴現象っぽいのを起こした挙句に両方とも消滅とかしないだろうか、ぷよ〇よみたいに。

 

 

「······クスノキくん、いい加減もっとボクにデレてよー······不公平だよ不公平!」

「脳内透視やめろっての(バシャシャシャ)」

「凄ぇ······呆れ顔しながら手だけが鬼のように動いて金魚をすくってるぞ······」

「······あまり参考にはならないかな······」

 

 

あ、獲った金魚はちゃんと一匹を除いて全て元気な内に返しておきました。

 

 

 

 

◆      ◆      ◆

 

 

 

 

それから再びしばらく適当に屋台を回った後。

 

 

「さて、そろそろ花火の場所取りしとくか」

「あ、ボクも付き合うよー。場所って、昔キミと見たところと同じだよね?」

「あぁ。人気(ひとけ)は少ないところだが、一応な」

 

 

実は、俺は昔二度ほど柊に無理やり連行されて(ここ重要)ここで行われていた夏祭りに来たことがあったのだが、その際に人目に付かない割に花火がよく見える、所謂穴場スポットを発見していたのだ。今回もそこを利用させて頂こうという訳である。

 

 

「っつー訳で俺と柊が場所取りしとくから、飛鳥たちはまだしばらく楽しんできて良いぞ」

「あ、うんっ。ありがとお兄ちゃん」

「······じゃあ私たちは飛鳥ちゃんについておくね」

「後でオレと千秋が場所取り交代するからなー」

「あー、気にすんな。こっちはこっちで道すがら屋台回ってくだろうからな。お前は飛鳥に近づく害虫(オトコ)を片っ端から殴り飛ばしてくれれば良い」

「うん、それオレ間違いなく補導されるよな」

 

 

笠原一人の犠牲で飛鳥の安全が守られるなら安いものじゃないか。そして不満気な表情で文句を垂れる笠原を引っ張って人混みの中に消えていく八雲と飛鳥の姿を見送った後、俺は柊の方にちらと視線をやり。

 

 

「······んじゃ、行くか」

「かしこまー☆」

 

 

柊伊織渾身の横ピース。何なんだよ。

目的の場所はここからそこそこ離れた位置にある。なので自然と二人で並んでそこへ向かう形となるのだが······。

 

 

「······えっへへー♪」

「随分楽しそうだな。そんなに今回の花火楽しみだったのか?確かに規模は大きい方だとは思うが」

「ぶぶー、40点」

「あ?」

「確かに花火も楽しみだけどさー、キミはこの状況で何かこう、胸が高鳴ったりしないのー?」

「胸の方は水面(みなも)のような静寂を保っているが、俺の妹センサーには反応がある。近くに詩音がいるな」

「あー、そういえば詩音ちゃんも友達と一緒に来てるって言ってたね······じゃなくてー!」

 

 

突然叫び出して俺の胸をポカポカと叩いてくる柊。なになになに。お前の胸ポカ肋骨に響くんですけど。全く可愛くないんですけどぐふっ。

 

 

「目の前にこーんな可愛い女の子がいるのに全く気にしないとか、クスノキくんったら不合格だよ不合格!」

「自分で自分のこと可愛いとか言っちゃう女の子は、多少ぞんざいに扱われても仕方ないんじゃないかな」

「むー······クスノキくんのばかっ。アンポンタンっ、シスコンっ」

「え、何で俺罵倒されてんの」

 

 

突然頬を膨らませながら憤慨し出した柊に困惑を隠せない。コイツ、夏祭りの雰囲気に当てられてちょっとテンションおかしくなってません?

 

 

「······まぁ落ち着けよ。ほら、さっきそこで買ってきたたこ焼きやるから」

「むっすー」

「何を拗ねてんだ······たこ焼きいらねーのか」

「食べるー♪」

 

 

色気より食い気とはよく言ったものだ。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「むむむ······」

 

「なぁ楠、なんで僕までお前のストーカー行為に加担させられてるんだ?もう他の奴等と合流しないか」

 

「だって、私一人だとあの二人を見失う可能性があるじゃないですか。保険です保険。ほら、目を離しちゃ駄目ですよ」

 

「いや、だから何で僕が付き合わされてるのかって話なんだけど。あれ、お前のお兄さんなんだろ?彼女さんと一緒みたいだし、そっとしといてやれよ」

 

「彼女さんじゃありませんよ!きっと!多分!」

 

「不安要素だらけじゃないか」

 

「むぐ······。だ、だから今それを調べるために二人の後を尾けてるんじゃないですか」

 

「下世話だなー」

 

「ふぐぐ······っ。は、早く行きますよ氷室(ひむろ)くん!クラスメイトなんですから、それくらいは協力して下さい!りんご飴あげますから!」

 

「いらない」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「気配を感じる······!近くに詩音がいる······!ついでに詩音に近づくゴミ虫の気配も······!」

「クスノキくん、物凄い表情してるよ······」

 

 

俺の妹センサーが妹へ擦り寄る男の存在を感知している。今すぐその男の元に赴いて痛覚を持って生まれたことを後悔させてやりたいところだが、人混みのせいか正確な位置までは掴めない。ちぃ、抜かった······!

 

 

「まったくこのシスコンは······ほら、そろそろ着くよー。ていうかもう花火上がっちゃうや。途中で楽しみ過ぎたね」

「お前が俺を引っ張り回したせいだろうが」

 

 

花火が上がる寸前で観覧場所に到着しそうな俺と柊。場所取りとは一体なんだったのか。

 

 

「まーまー、ご愛嬌ご愛嬌♪······それにしても、詩音ちゃんはまだ着いて来てるの?」

「あぁ。大まかな位置は把握出来るから感知出来てるんだが、どうも俺たちの後を尾けてるみてーだな。目的は分からんが」

「えっ、分かんないの?」

「えっ、お前分かるの?」

 

 

お互い「え?え?」と首を傾げ合う。ウッソだろお前、何でお兄ちゃんの俺が分からないことをお前が分かるんだよ。チクショウ、何だこの敗北感。

 

 

「······ふん(ぐにー)」

「ふにゃうっ⁉︎ ふぇ、ひゃんへ⁉︎ ひゃんへほふ、ほっへはひっははへへふほいひゃいいひゃい!」

 

 

腹いせに柊の頰を引っ張ってやった。······コイツの頰、妙に柔らかいな。成分表見たら三割くらい餅が配合されてそう。人造人間かな?

 

 

「ひゃへ······っ、ほ、ほらっ、もう行くよクスノキくん!花火上がっちゃう!」

「へいへい」

「へいは一回!」

「返事が『へい』であることは訂正しないのな」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「どう見てもカップルじゃないか」

 

「違いますよ!恐らく!」

 

「断言出来ないんじゃないか。······僕はお前の兄やその友人についてよく知らないけど、あの二人は結構親密な仲のように見えるね」

 

「いや待って下さい!見て下さい氷室くん、さっきから柊さんがコッチ見てる気がしませんか?多分アレわざとですよ。見せつけてるんですよ」

 

「そうか······?たまたまコッチに視線が向いただけで、別に僕たちの存在を認知してる訳じゃないと思うけど。結構距離も取ってるし」

 

「ふにゅ······!で、でもぉ······」

 

「まぁ落ち着け楠。今日のところは引き上げて夏祭りを楽しもう。連絡を入れたとはいえ、クラスの皆もどうせならお前がいた方が良いと思ってるハズさ」

 

「······し、しかしあの二人の行く末をこの目で確認しない訳には······」

 

「何も無いって。ほら、今だってベンチに寄り添い合いながら座って、親しげに話してるだけだし」

 

「尾行続行!行きますよ氷室くん!」

 

「デスヨネー」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

俺と柊は並んでベンチに座り、花火が打ち上がるのを今か今かと待ち構えていた。

 

 

「······なぁ、何でこんなに密着して座ってんの俺たち。もう少し離れろよ、何でグイグイ距離詰めてくんだよ」

「えー?だってぇ、他の人が来るかもだし、ベンチのスペースはある程度空けておかないとじゃんかー♪」

「お前何のためにこんな人気の少ないところまで来たと思ってんの?」

 

 

······まぁ俺の方は、ベンチの上でやたら距離を詰めてくる柊を押しのけながら、だが。何だコイツ。さっきからあらぬ方向を見ながらニヤニヤしてるのも気になるが、とにかく密着度が異様に高い。物凄い良い匂いがするんですけど、何お前人間リードディフューザー?

 

 

「······いい加減離れろっての。何企んでんだお前は」

「むぅ、ボクが悪戯のためだけにこんなことしてると思ってるのー?」

「うん」

「そっかそっかー。······えいっ」

「ふにゅ······っ」

 

 

何故か柊にさっきのお返しとばかりに頬を引っ張られた。そしてそのまま上下左右にむにーむにー、と頬肉を弄ばれる。

 

 

何の真似だよ(ひゃんほひゃへひゃよ)······」

「むー······鈍感系主人公は流行らないよー?」

 

 

何の話だ。俺は柊の両手をペシッと払い。

 

 

「······ほら。花火が上がり出したぞ」

「えっ?······わ、ホントだ······綺麗」

「飛鳥たちにも既に連絡しといた。あと少ししたらアイツらもここに来るってよ」

 

 

そう柊に伝えつつ、夜空に咲く大輪の花に視線を向ける。一筋の光がヒュルルル······、と少々気が抜けるような音と共に空に伸びたかと思えば、一転して爆音を響かせながらその身を散らす。そんな様に見惚れていると、横に座る柊が。

 

 

「······ねークスノキくん。さっきボク、鈍感系主人公は流行らないーって言ったじゃん?」

「あー?まぁ、言ったな」

「よくよく考えると人の気持ちを察するのって、結構難しいんだよねー」

「······そりゃな」

 

 

人の気持ちなんてモノを完全に理解することは不可能。それは皆、心の奥底では分かっていることだ。······横のコイツみたいに脳内を盗み見出来る奴は例外だけどね?いや、普通はそんなこと出来ないが。

で、それがどうかしたのだろうか。

 

 

「······だから、さ。ボクもちゃんと、自分の気持ちは言葉にして伝えたいよ」

「······柊?」

 

 

轟音の中、急に柊の声音が真剣なものになったことを察して、俺は花火から視線を外し、そのまま彼女の方へと視線を向けた。

 

 

––––––その表情は俺が今まで見てきた、彼女のどんな表情とも違うもので。潤んだ瞳に見つめられた瞬間、何故か妙に切ない気持ちになった。

俺が自身の急な変調やら柊の突然の変化に戸惑っていると、そのまま彼女はどこか熱っぽい声音で。

 

 

「ね、クスノキくん」

「························」

「ボクね––––––キミのことが好きなんだ」

 

 

······························えっ。

 

イマコイツ、ナンテイッタ?

 

ちょっと待て、今コイツ俺のこと好きっつったか?は?え?いやちょっと本当に待っていきなりそんなこと言われても心の準備が出来てないっつーか別に嫌だって訳じゃないんだけど何やかんや柊のことは憎からず思っているけどだからこそ少し時間が欲しいっていうかえっていうかコレマジで現実?もしかして幻術か何かに侵されているんじゃ頰を一度千切って痛かったらこれは現実流石にそれは過激過ぎるかなとりあえずまずは返事を「◼◼◼◼◼◼◼◼️◼◼◼◼◼◼––––––ッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」えっ、何⁉︎

 

 

「あっ、そこか!」

「······は?ちょ、柊サン?」

 

 

突如草むらの中から聞こえてきた形容し難いナニカの声に驚いていると、一瞬でいつもの明るい雰囲気に戻った柊がテレポートをして(これには驚かない。もう慣れたし)その草むらの元へ移動した。え、どゆこと······。

 

 

「へっへー、詩音ちゃんと······キミは詩音ちゃんのクラスメイトの子かな?覗き見とは悪趣味だなー♪」

「あ、いや、僕はその······!」

やっぱり······!やっぱりそうだったんですかお兄ちゃん······!

 

 

柊が草むらからヒョイっと引っ張り出して来たのは一組の男女。しかも、その内の女子の方は今日はクラスメイトと一緒に夏祭りを回ると言っていた詩音(放心状態)だった。花火に気を取られてて気付かなかったが、まだ着いて来てたのかコイツは······⁉︎ 男の方は詩音とどういう関係なのかを後で鉄拳と共にお話を聞いておくとして。

 

 

「······柊。状況説明」

「あ、うん。いやー、さっきクスノキくんが詩音ちゃんが尾行して来てるって言ってたじゃん?もうどうせ尾いて来てるなら、一緒に花火見た方が楽しいから、ね?」

「······つまり?」

「クスノキくんに告白したら詩音ちゃんは絶対に何かしらのアクションを起こしてくれるって信じて、ちょっとおびき寄せるために一芝居打ちました☆」

「テメェふざけんなよ⁉︎ こちとらマジで意識しちまったんだからな⁉︎」

「······え······っ」

 

 

俺の言葉に心底意外というような表情をする柊。と思ったら、彼女は急激に頰を赤らめ始め。

 

 

「······あ、その、ゴメン。いつものクスノキくんなら、これくらい適当にあしらっちゃうんじゃないかって勝手に思ってて······本当に、ごめんなさい······」

 

 

······え、そんなにしおらしくされると逆に困るんですけど。何故かまた周囲に展開されるピンク色の雰囲気。詩音のクラスメイト(仮)が物凄く居心地悪そうにしていた。おい、お前今回の件は不問にしてやるから助けろ。この空気どうにかしろ。

妙に気恥ずかしく、俺と柊が中々視線を合わせられずにいると。

 

 

「あ、お兄ちゃん!いたいた!おーい!」

「「ふぎゃああああああッ!?」」

「······え、どうしたの二人共······」

「はっはー、花火に集中してたから急な声にビックリしちまったんだろうなー。······お?何で義妹ちゃんがいるんだ?」

 

 

これまた突然背後から掛けられた声にビビり、二人揃って珍妙な声を上げてしまう。

 

 

「······あ、飛鳥か。ちゃんと場所は取っておいたぜ」

「うん、ありがとっ。······何か顔赤くない?」

「ナンノコトヤラ」

「ち、ちーちゃん!遅かったね!」

「······うん。場所取りありがとね。······何かあった?」

「ナンノコトダカ」

「お?義妹ちゃんと······誰だ?」

「あ、どうも······氷室といいます······」

 

 

間違いなく先程のことはコイツらに言わない方が良い。飛鳥や八雲に知られるのはともかく、笠原に知られたらほぼ確実に面倒なことになる。俺と柊は視線を交わし合い、頷き合うと。

 

 

「「さぁ、花火鑑賞楽しもうぜー!」」

「え、何そのテンション」

「······まぁ、今日も暑いから······」

「うわはは、了解だぜ二人共!という訳で隠し持っていたこの二尺玉を一発打ち上げて「「それは止めろ」」

 

 

とりあえずハイテンションでゴリ押すことにした。

 

普段なら考えられないようなテンションで騒ぎ立てる俺を、困惑しながらもどこか微笑ましそうに見てくる飛鳥たちに笑顔を返しながら。

未だ宵の空に広がり続ける大輪を見ながら。

口から何かエクトプラズムみたいなのを出し始めた詩音を介抱しながら。

 

俺は、夏の始まりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに夏祭りが終わった後、俺と柊はお互いにごめんなさいをして先程のやり取りについては色々チャラにした。あんな雰囲気のままでいられるかってんだ。

 




いかがでしたか?
シスコンの兄が揺れ始めてますね。このまま妹の存在がかき消えることはありませんが、またしばらくはこんなシリアスだかラブロマンスだかの波動は眠りについて貰います。ごめんね。
次回のテーマについては考えていませんが、ネタどうしましょうかね。
では、今回はこの辺で。ありがとうございました!感想待ってます!

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