すみません、テストやらネタ切れやらで投稿が遅れましたネタを下さい······(切実)
えー、今回は後々書く予定の夏祭り回の前日談的なノリで書いたため、少し短めです。それを踏まえ。
どうぞ!
「······暑いな」
「······暑いですね」
「あーつーいー······」
季節が夏に差し掛かろうという頃。我等楠三兄妹はリビングにて、冷房を効かせる程でもないが窓を開けるだけではほとんど意味が無いというこの時期特有の微妙な暑さに苦しめられていた。
ん?ついこの前までクリスマスだっただろうって?HAHAHA、何を言っているんだ君は。きっと疲れているのだろう一刻も早く眠って全てを忘れてしまった方がいいさぁ は や く ね ろ 。
「······イモウトニウムが······足りない······」
そう呟きつつ、俺はつい先程詩音が注いでくれていた冷たい麦茶で喉を潤し、愛すべき妹二人に視線を向ける。
座椅子に身体を預け文庫本のページを
そんな詩音の隣で今にも意識が飛びそうな様子で、広げた勉強用具そっちのけでクタッとしているのは我が実妹、楠飛鳥。飛鳥自体はピクリとも動かないにも関わらず、彼女のトレードマークであるポニーテールは暑さに悶えるようにプルプル震えている。······え?それ生き物なのん?
「あぅー······暑いよー······分かんないよー······」
俺が戦慄していると、今まで不動を貫いていた飛鳥が顔を上げ、悲壮感溢れる表情でそう呻き出した。よくよく見ると彼女の目の前にある数学のプリントの解答欄は新品かと見紛う程に超ホワイト。難航しているようだ。
「数学か······俺も苦手だが、中学レベルくらいなら教えられると思うぞ。どうする?飛鳥」
「教えてー!」
そんな飛鳥の惨状を見かねそう提案した途端、ガバッと身体を起こして満面の笑みを浮かべる飛鳥。この野郎、最初からそのつもりだったな?
「ったく······。で?どの問題が分からないんだ」
「えっとね、先生が作ってくれた問題で確率の問題だって言ってたんだけど······」
問︰先生こと
さて、それらを踏まえ私が40歳までに結婚できる確率はどの程度か答えなさい。なお、
「······お兄ちゃん、わかる?」
「この先生の闇が深いってことしか分からない」
高橋先生、俺が中学にいた頃も古株だったのか名前だけは聞いたことがある。たまに廊下で人間サイズのまっくろ〇ろすけみたいなドス黒いオーラの塊を見かけた記憶があるが、まさかアレはこの先生だったのだろうか。躊躇いなく年齢を開示している辺り、相当追い詰められているようだ。こわい。
と、そこで文庫本に栞を挟んで机上に置いた詩音が、ヒョイとこちらに身を乗り出して来た。
「勉強ですか?······勉強、ですか?」
1度目は身を乗り出した勢いで言ったもの。2度目は飛鳥の持つプリントの内容を見てからのものである。確かにこれは勉強というより、先生からの人生相談のように見えるな······相談相手が中学生なのはいかがなものかと思う。
「一応数学だ。飛鳥、悪いがこの問題は俺の手には負えねぇ、他の問題なら教えるよ」
「う、うん······飛鳥たちの中学、もうすぐ定期試験があるからもっとやるべき教科もあるからね。お兄ちゃんに教えて欲しいな」
「私もっ。私もお兄ちゃんに教えて欲しいです!」
「分かった分かった、どうせ俺も暇だったしな。軽く勉強会でもするか······」
······と、そこで。
「––––––––––ッ!」
「(パカッ)呼ばれて飛び出てボク参z「呼んでねぇ!詩音、トラップ起動!」「了解ですお兄ちゃん!」にゃああああ––––––ッ⁉︎」
「ひゃうっ⁉︎なになに⁉︎突然床が開いて伊織さんが出てきたと思ったら一瞬でロープでぐるぐる巻きに⁉︎」
悪魔の出現と共に拘束に成功。後は窓から外に捨てるだけで任務は完了である。さらば災厄の化身よ。
「ちょっと待ってクスノキくん⁉︎ボクだよ愛しの伊織ちゃんだよ、泥棒とかじゃないよ⁉︎」
「泥棒よりタチ悪いだろ。あと別に俺、君のこと愛しくも何ともないからね?」
柊の襲来に備えて家の中に仕掛けておいたトラップが早速役立った。流石
「ひどいよクスノキくん!今日は普通に勉強会に参加させてもらおうと思っただけだよ、ほら、ウチももうすぐ定期試験じゃん⁉︎」
「えっそうなの?教えてくれてどうもありがとう、ではさらばだ柊くん!(ガラッ)」
「わああああクスノキくんがしれっと窓開けたー!助けて飛鳥ちゃん、助けて詩音ちゃーん!」
俺がそのまま柊を外に放り出そうとすると、彼女は激しく抵抗し出した。ええい、大人しくしてろ!
「お、お兄ちゃん!あんまり伊織さんのこといじめちゃダメだよ!ストップストーップ!」
「ひゃうっ⁉︎柊さんどこ掴んでるんですか、ちょ、握力強過ぎでしょう服が伸びる!」
「へるぷ!へるぷみー詩音ちゃん!」
◆ ◆ ◆
「さぁ、勉強会の始まりだー!」
「やかましいぞ柊。当然のように参加しやがって······あ、ここ飛鳥に教えてやってくれない?結構難しい問題もあるもんだな」
「もっとノッてよー······そもそもクスノキくん、中学の頃から数学苦手だったクセに何で引き受けたのさ」
飛鳥の制止を受けた俺が渋々柊のロープの拘束を解くと、柊は意気揚々と勉強用具を俺が使用していたコップの中から取り出し(は?)、これまたノリノリで勉強会の開催を宣言した。スルーしたけど。
「ぶー······あ、飛鳥ちゃん、そこはまず展開した後にaとbでそれぞれまとめちゃうんだよ」
「なるほど!ありがと、伊織さん!」
「にゃはー、もっと褒めてくれても良いよ!」
にしても、自分の勉強をしながらスラスラと飛鳥に勉強を教えていってるコイツのスペックやべぇな。褒められる度に俺の方にドヤ顔してくるのがウザいのはともかく、やはり柊がいると助かるのは事実だ。参加したならしたで、精々妹たちのために働いてもらうとしよう。
「お兄ちゃん、この国語の問題なのですが······」
「ん、長文読解か。まずこの問題に答えるのに必要な文がどこに書いてあるかは分かるか?」
「多分この段落かと······」
「んじゃ、その段落で必要なところをさらに抜き出すぞ。基本的にこういうのはいきなり答えを探そうとせず、適当に当たりを付けた後に無駄な部分を削ぎ落とす方法が良い」
「おぉ······!凄いですお兄ちゃんっ」
「理数系が壊滅的なのに文系科目も出来ないとなったら流石にヤバいからな······」
俺と同じく理系科目が苦手な飛鳥には柊が、全体的にレベルは高いが、どちらかと言えば文系科目が苦手と言う詩音には俺が付くというマンツーマン形式で教えていく。お前も試験があるのにそんな余裕があるのかという話だが、柊のヤツは勉強してもしなくても学年一位を取ることなど容易いし、俺は妹のためなら留年しても惜しくないので問題ないだろう。
「問題大アリだよ。クスノキくん、後でボクともマンツーマンで勉強してもらうからね」
「いやだ······つらい······」
こんな奴とマンツーマンとか絶対ロクでもないことが起こるから嫌だ。魔王にタイマン挑む奴とかこの世にそうそういませんからね?······ん?そういえば······。
「なぁ柊、お前今回は笠原や八雲を呼んだりしないのか?今思うとお前が一人で来るとか珍しいだろ」
「んー······まぁ、今は二人共試験勉強で忙しそうだったからね。ボクもそういう時は流石に遠慮するよ」
「何で俺にはその気遣いが出来ないんだよ」
俺には気遣いは不要とかそういう感じだろうか。ひでぇなコイツ。鬼!悪魔!柊伊織!
「······いや、キミってばボクが教えてあげないと数学や化学で赤点取っちゃうから、試験の時は助けてくれって自分からボクにお願いしたんじゃんか」
そうだっけ。
「お兄ちゃん、そんなお願い伊織さんにしてたの?駄目だよ、伊織さんだって試験勉強があるんだから」
「そうですよお兄ちゃんっ。私なら高校生の勉強内容だって極めています、私と勉強しましょう!マンツーマンで!二人っきりで!」
「妹に勉強教えてもらう兄とか絵面がキツいのでパス。というか、そこまで頭良いなら俺が教える必要無いんじゃね?」
「そんなのお兄ちゃんと密着するための口実に決まってるじゃないですか!」
「お、おぅ······そうか······」
これ以上無い程の真剣な表情でおかしいことをう詩音に気圧され、ただ頷くことしか出来なくなる。コイツ、何か最近色んな面でなりふり構わなくなって来てません?
「あ、お兄ちゃん、ここの地理の問題教えて?」
飛鳥は飛鳥で妙にスルースキルが磨かれて来ている気がする。俺は妹にスルーされると泣いてしまうのでそこら辺の調節はくれぐれも気をつけて欲しいものだが。
「クスノキくんみてみてー。制作時間一分、伊織ちゃん作のミニチュア
「遊んでんじゃねぇよ。いくら何でも集中力切れるの早すぎでしょう?」
そしてノートの1ページを破ってアホ程クオリティの高いアートを制作しているこの
「馬鹿やってないでとっとと課題なり何なりしてろ。······あー、飛鳥。作物ってのは地域の気候や周りの環境から何が作られているかが割と推測出来てな······」
「んー······」
「とりあえず、教科書のこの範囲見てみろ。また分からないことがあったら遠慮なく聞いてくれれば良いから」
「うんっ。ありがと、お兄ちゃん」
あぁ······何て可愛く愛らしい笑顔なのだろう。これだけで二週間は不眠不休かつ、食料及び水分無しでも生きていけそうな気がする。
「実はこれ、薬師如来型からマ〇ンガーZ型に変形することが出来ます。すごいよね」
「「す、凄い······!」」
「遊ぶなっつってんだろ」
◆ ◆ ◆
そこから更に一時間半ほど過ぎただろうか。
「「「「············」」」」
カリカリ、カリカリとシャーペンがプリントや問題集の上を走る音やそれらのページをめくる際の微かな音以外は聞こえない空間の中、俺たちはかつてない程集中して勉強に取り組んでいた。
「············(カリカリ)」
あの柊ですら無言でシャーペンを動かしている。普段は頭のネジが常時フィーバー状態のコイツが真面目に勉強している姿はどうにも違和感があり、ついついじっと見つめてしまう。と、そこで柊が俺の視線に気付いた。
「······?どしたのクスノキくん、ボクのことそんなに見つめちゃったりして。はっ!まさか普段見られないボクの新たな一面を見て惚れちゃったとか?やん、そういうのは皆の前では痛い!」
やはりコイツの本質は馬鹿そのものだったようだ。
俺は溜め息を一つ吐き、柊の額に投げつけた消しゴムを回収しながら妹たちに呼び掛ける。
「そろそろ休憩するか。以前お袋が買って来たカステラ食べちまおうぜ」
「そうだねー。ふぃー······疲れちゃった」
「じゃあ私はお皿持ってきますね。柊さんも食べますよね?」
「えっ」
「? どうしました?柊さん」
「あ、いや······クスノキくんならこういう時、必ずボクをスルーしてるからね······ちょっと面食らっちゃったよ」
「「·············」」
「流石にそれは可哀想じゃない?」という感じの視線を向けてきた妹たちと目を合わさないように、麦茶が注がれたコップ片手に思い切りそっぽを向く。いやだって、コイツ甘やかすとすぐ俺にちょっかいかけてくるんですもの······。
「とりあえずそれはそれとして。ありがたくボクも頂くよ。甘いモノは好きだからねー♪」
「どうぞどうぞ。あ、お兄ちゃんは小さいのね」
「馬鹿な······」
酷いとばっちりだ。これからは柊にも乾燥剤とか綺麗な形の石とかをあげるから許して欲しい。
そんな感じでしばしダラダラしていると。
シュポッ
「ん······
スマホからお馴染みの気の抜ける音が響き、俺と飛鳥の義父であると共に詩音の実父である変態、光男さんからメッセージが届いたことを知らせてきた。なになに。
【勉強会お疲れ様です(*⌒▽⌒*)】
何で知ってんだ。急遽決めたことだから前以てアンタに報告したりはしてないハズだぞ。······とりあえず聞いておくか。
【何で勉強会のこと知ってんすか】既読
【そりゃあリアルタイムで見て、聞いていますからね。ちなみに今は大量の洗濯物が見えます。狭いです】
俺は脱衣所に移動し、速やかに洗濯機のスイッチを入れた。何故かガタゴトと何かが中から脱出しようとしているような異音が響いてくるがスルーだ。
そこで再びメッセージが届く。
【たすてけ】
【嫌です】
既読は付かなかった。
「お兄ちゃん、急に脱衣所に行ったりして何してたの?早着替えの練習?」
「俺は何の前触れも無く早着替えの練習を始めるような兄だと思われているのか······?」
「お兄ちゃん、私としてはむしろ着替えずに半裸のままでいてくれても良いのですよ?」
「風邪引いちゃうから遠慮する」
「えっ、キミが心配するところってそこなの?」
俺が脱衣所から戻ると、柊たちが何やら袋のようなモノを囲んで雑談していた。
「······なにその袋。いつからあったのん?」
「何かキミのお義父さん······光男さんからのプレゼントみたいだよ?ほらこれ」
そう言って柊が俺に寄越した手紙のようなモノに目を通してみる。差出人はやはり光男さんで。
【てってれー!どうも、皆のお父さん光男さんです!勉強頑張っていますね、柊さんもお手伝いありがとうございます。つきましては、ささやかなご褒美として四人にそれぞれプレゼントを差し上げます。どうぞご自由にお使い下さい】
み、光男さん······アンタ良い人だったのか······邪魔にしに来た訳じゃ無かったのか······!!
見れば、袋の中に飛鳥と詩音には色違いの消しゴムとシャーペンが、そして柊にはノートといくつかの参考書が用意されていた。あくまで勉強のためのモノであるところが根は真面目なあの人らしい。ごめんね光男さん、貴方のことを誤解していました。貴方は立派な父親です––––––––、
使いかけのチビ消しゴム ←俺用のプレゼント
洗濯機の乾燥ボタンを押しておいた。その内干からびた男性のミイラなどが出てきたりしないだろうか。
◆ ◆ ◆
「さてクスノキくん。ボクとキミとのラブラブ♡マンツーマンレッスンの開始だぜ」
「···························································うっす」
「苦虫を噛み潰したような顔!もー、いつになったらクスノキくんはボクにデレてくれるのさー!」
「来世まで行ったらワンチャン」
「今のボクを全否定⁉︎」
休憩が終わり、俺は柊からマンツーマンレッスンの誘いを受け······それをのらりくらりと
「ぶー!酷いよクスノキくん!いつまでもそんな態度だと、その内学校中にクスノキくん同性愛者説を広めちゃうからね!」
「やってみろ。そんなことしたら柊伊織ニューハーフ説を学校中に流布してやるからな」
(二人共やり方がいやらしいなぁ······)
(何かお兄ちゃん、柊さんに甘くなってきてませんか?気のせいですか?)
妹二人の呆れと訝しみの意を込めた視線を向けられた気がしたが両方共スルーする。どうでもいいけど、「スルーする」って言う度に「やだ!無意識に洒落言っちゃった恥ずかしい!」とか思っちゃうんですよね。ホントにどうでもいいな。
などと他愛のないことを考えていると。
「ま、冗談はこのくらいにしといてっ。早く勉強するよクスノキくん!やることはしっかりやるの!」
「·············え。別に冗談のつもりはいや何でもありません勉強ガンバリマス」
俺が柊の言葉に異議を唱えようとした瞬間、彼女の目が僅かに細められ冷たい光が瞳に宿り始めたのを察知する。コレはアレですね、下手に逆らうとGAME OVERの文字がディスプレイに浮かんできちゃうタイプですね。
俺が頬を引き攣らせつつそう言うと、柊はニコッと笑いながら言った。
「よろしい!ではでは、飛鳥ちゃんも詩音ちゃんもクスノキくんも、集中して勉強しましょう!」
「「はーい」」
「···········すっかり柊に主導権握られてる······俺と妹たちの和やかな時間が······しくしくしく······」
「あ、そうだクスノキくん。今度のお休みに夏祭り行かない?花火とか打ち上がるよー楽しいよー!」
「集中力切れるの早ぇ!そんなの良いからとっとと勉強しろ、あとこんな蒸し暑い中人混みの中にわざわざ突入するとかあり得ません丁重にお断りさせて頂きます!」
「ええー、お兄ちゃん行こうよー!確か、昔お兄ちゃんが出禁になってたお店も今年で解禁でしょっ?」
「ちょっと待って下さいお姉ちゃん。出禁ってお兄ちゃんは一体何をやらかしたのですか?」
一度気が抜けるとそのまま流れるように本来の目的を見失って脱線し出すのが俺たちの性質である。
この後、俺たち四人は勉強しているだけなのに様々なアクシデントに見舞われることになるのだが······。
それはまた、別の話。
~ 定期試験終了後 ~
「クスノキくん、試験結果どうだったー?」
「····················(ピラッ)」
「わぁっ、成績凄い上がってるじゃん!ふふーん、ボクの指導の賜物カナー?」
「······何かムカつく」
「へっへー、これは何かご褒美を貰わないとねー!」
さーてまた来週からテスト勉強だ。
また少し更新が遅れるかもしれませんが、出来るだけ早く更新出来るように最大限の努力はさせて頂きます!
では、今回はこの辺で。
ありがとうございました!感想、ネタなど待ってます!