妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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もーいーくつ寝ーるーとー、春休みー終わるー(虚ろな目)
はい、長い休みの終わりが近づいてくると同時に学習意欲も限りなくゼロへと近づいて行くのを感じている御堂です。
今回も結構なボリュームのクリスマス回!4······いつぞやかのお兄ちゃん争奪戦と並び、最長の話となった訳ですが······その、まぁ、あとがきの方で言いたいことが。

えーと、とりあえず本編どうぞっ!



兄と義妹とクラスメイトのクリスマス会(のお手伝い)4

(くすのき)飛鳥(あすか)と!」

詩音(しおん)で送る!」

「「前回までのあらすじー!」」

 

 

どんどんぱふぱふー!

前回に引き続き、あらすじ用に柊が生成してくれた白き亜空間(ホワイト ボックス)内にて、俺の愛する妹たちが太鼓とラッパで場を盛り上げていた(可愛い)。

 

 

「······今回のあらすじはあの二人でやるのか」

「そーみたいだね。何でも、ボクたちにあらすじを任せるとまた前回みたいにちょっとした弾みでボコボコにされるからーって、作者クンが」

 

 

俺の呟きに、隣で飛鳥たちの様子をTV局で使われるような業務用カメラで撮影していた柊がそう返してくる。というか、ボコられたのは奴の自業自得だと思うのだが。

 

 

「まぁそれは良いんだけどよ。飛鳥と詩音の二人のあらすじとか、お茶の間に流したら何人かの読者様たちがキュン死してしまいそうで心配なんだが」

「しないよ。ていうか、生粋のシスコンのクスノキくんが死んじゃってないんだから大丈夫でしょ」

「ぐふぁッ!(吐血)」

「突然の死⁉︎」

 

 

突如大量の血を吐いて地面に倒れる俺を見て狼狽(うろた)え出す柊。だが、問題は無い。

 

 

「ふぅ。残機に余裕を持たせといて正解だったぜ。今ので軽く5回はキュン死したな······」

「クスノキくんはマリ○かル○ージなのかな?」

「1UPキノコが無ければ即死だった······」

赤い彗星(マリオ)?」

 

 

などと下らない漫才を繰り広げる俺たちに、飛鳥と詩音が軽く頰を膨らませつつ声を掛けてくる。何で君たちはいちいちそんなに可愛いんですか?

 

 

「もうっ。二人共ちゃんと撮影してよー!」

「そうですよっ。私たち、これでも緊張してるんですから......何テイクも完璧にこなせるとは限らないんですからね?」

「わ、悪い。······柊」

「りょーかいっ」

「じゃあ二人共、すまないけど2テイク目だ······3、2、1、キュー」

 

 

俺は二人に謝りつつ、柊と飛鳥たちに合図を送り、撮影を再開させた––––––––。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「––––––––あれっ⁉︎」

 

 

開幕驚愕。

柊と共にクリスマス会開催のコールをした我が妹、楠詩音が、ステージ裏に戻ってマイクを羽原先生に返した途端に急に何かに驚いたように声を上げた。どうしたんだ一体。

 

 

「どした、詩音」

「い、いや······先程私とお姉ちゃんであらすじを説明したハズなのですが、何故かソレが放送されていないような気がしまして......ちゃんとテープ残ってましたよね?」

「残ってたと思うが······」

「······え、二人共何の話してるの······?」

 

 

あわあわと落ち着き無く手を振りながら俺に訴える詩音に、俺は冷静にそう返す。······あぁ。

 

 

「カメラのテープは残っていても、あらすじ枠自体のスペースが残ってなかったのかもな······下手したら、俺がお前と飛鳥の撮影を再開させたとこまでしか放送されてない可能性まである」

「そ、そんなぁ······」

「······ねぇ、何の話······?」

「ちーちゃんちーちゃん。アレはね、この世界の裏側についてのお話なの。マトモに聞いてると怖い黒服のオジサンたちが来ちゃうよ?」

「······怖い······何が怖いって、そんな危険なことを平然と聞いたり話したりしてる楠くんたちが怖い······」

 

 

なんだか柊たちが妙なことを話しているようだが、今はクリスマス会が開始したばかりなのだ、余計なことを考えている暇は無い。俺は「慰めて下さい」と抱き着いて来た詩音の頭を撫でつつ、二人に告げる。

 

 

「とりあえず俺たちはステージから降りて生徒たちと一緒に先生たちのイベント内容の説明を聞いておいてくれだと。羽原先生からの指示だ」

「オッケー······と言いたいところだけど、この格好だと子供たちの注目集めちゃわない?」

 

 

そう言って自身が身に付けているサンタコスのミニスカートの裾をくい、と持ち上げる柊。目のやり場に死ぬ程困るから止めて欲しい。

 

 

「四人もステージ裏に立ってたら邪魔でしょうがないだろうからな······多少注目されるのは仕方ない」

「ま、そうだよね。じゃあ降りよっか」

「ほら、八雲と詩音も」

「······うん」

「了解ですっ」

 

 

そんなわけで、俺たち四人はステージから降り、生徒たちが体育座りで先生の説明を聞くべく座っている床面の方に出る。すると––––––––。

 

 

「「「サンタさんだ––––––––!」」」

「ぎゃぷらんっ⁉︎」

「あぁっ!お兄ちゃんがステージから降りた途端、子供たちにもみくちゃにされてしまいました!」

「······正直、このオチは読めてたよね······」

 

 

何人かの生徒たちが瞳を輝かせつつ俺––––––––正確には、俺が扮するサンタさんの腹部に飛びついて来た。

「すごーい!」だの「かっこいー!」だの「サンタさんはこんな服を着てプレゼントを届けるフレンズなんだね!」だの言いながら俺が着ている衣装を弄り倒すその姿は大変子供らしいのだが、いかんせんその膂力(りょりょく)が子供らしくない。というか人間じゃない。何でこんな力強いんだよ、俺の周りには人間の枠を外れたバケモノしかいないのか。

と、俺がそんな感じで子供たちの為すがままになっていると。

 

 

『はいはーい?皆さん、先生の説明一つも聞けないような子はサンタさんからプレゼント貰えませんよー?』

「「「························ッ」」」

「わ、すっごい。一瞬で静かになった」

「······鶴の一声ってヤツだね」

 

 

羽原先生とは別の女性教師のマイク越しの呼び掛けに、先程までの荒れっぷりは何処へやら、コンマ数秒の内に元の位置に戻って体育座りの体勢を取る子供たち。残されたのは乱れた衣装を身に付け、床面に倒れ伏す俺のみ。おい、せめてお前らが乱した衣装は戻していってくれよ······。

 

 

『では、今日のクリスマス会のスケジュールを説明しますねー。まずは······』

 

 

女性教師が説明を始め出す。俺も乱れた衣装を直し、いつの間にか取られていたサンタ帽を被り直しつつその説明を聞く。······どうやら、ビンゴやクイズゲームなどを行うらしく、俺たちがサンタとして逃げ回る鬼ごっこイベントは最後に回されているらしい。

んでもって、女性教師の説明が終わると。

 

 

「······ん、説明終わったね」

「終わったねー」

「終わったわね」

「えっ、いつの間に俺たちの横にいたんですか、羽原先生······」

「気配を全く感じませんでした······」

 

 

突然、羽原先生が俺たちの横に現れた。俺たちと同じくサンタのコスプレをした羽原先生は、優しげな笑みを浮かべながら自らが掛けていた黒縁眼鏡をくい、と上げる。

 

 

「まぁそのことは置いといて。どうかしら、貴方たちも一緒にクリスマス会に参加してみない?運営(私たち)側としてではなく、生徒たち側としてね」

「えっ?でも、俺たちは手伝いがあるんじゃ」

「そりゃあ、手伝ってくれたら助かるのは確かよ?でもまぁ、貴方たちに一から十までやってもらうのも······ってこと」

 

 

苦笑しながら頬を掻く羽原先生。

 

 

「せっかくだし楽しんでいきなさい?手伝ってくれたお礼よ、お礼。現物支給でも構わないのだけれど、貴方たち、それだと遠慮して受け取ってくれないでしょう?」

「それは······まぁ。元々そんな見返りとかを期待して引き受けたわけじゃありませんし······」

「だからこういう形で······ね?」

「クスノキくん、羽原先生もこう言ってるわけだし良いじゃん!楽しんでこうよ!もちろん、お仕事もちゃんとやるからさ!ね、いーでしょ?」

「お、お兄ちゃん、その、私も······」

 

 

詩音と柊が懇願するように俺に身を寄せ、上目遣いで視線を寄越してくる。いや、別に俺はお前らの保護者でも何でもないし、そんな目を向けられてもって感じなんだが······いや、詩音に関しては義兄である俺は保護者と言えるのか。あぁあと、柊に関してもコイツの暴走を抑える的な意味で保護者かも······アレ?俺ってもしかしてコイツらのパパさんだったりします?

 

 

「······じゃ、決まりで良いんじゃないかな、楠くん。ほら、ビンゴのカード貰って来たよ」

「お前も内心凄ぇワクワクしてんだろ。いや、悪いことじゃないんだが」

「それじゃ、他の教師たちにも貴方たちも参加するってこと、伝えてくるわね」

 

 

そう言って歩き去っていく羽原先生をビンゴカード片手に見送りつつ、俺も表情には出さなかったものの、最後に参加したのがいつかも忘却してしまった、クリスマス会という非日常感溢れる響きに心躍らせるのであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

ビンゴゲーム。

それは、至ってシンプルなルールであると共に、宴会やパーティー、お祭りなどで、かのジュラ紀から親しまれていると言われる(大嘘)由緒正しきゲームである。

んで、そのルールだが。

 

① 机など、皆から見えやすい位置に景品を並べ立て、参加者の闘争心を極限まで煽り倒す。

なお、この際に目玉商品(言い換えるのならば、高額かつ子供に人気の商品)を前方に置いておくと、より効率良く参加者の闘志を増幅させる。

 

② 参加者にビンゴカードを配り、参加者はカードの中央にあるFREEの部分の穴を開ける。

上級者はこれだけの行動にも全精力を注ぎ込むが故に、穴開けの際に人差し指を骨折したりする事例も多々あったりする、らしい。

 

③ ビンゴマシーンをガラガラする。コレを行う人は常に参加者たちの血走った視線を向けられることになるので、ソレにも気圧されない鋼のメンタルを持つ者を採用すると良い。

ちなみに、『丈夫だったら良いんだろ?じゃあ俺のメンタルはダイヤモンド製だぜ!』などと(のたま)う阿呆がたまにいるが、金槌(かなづち)如きに粉砕されるメンタルなど豆腐と大差無いということを学んで頂きたい。ダイヤモンドは砕けないと言ったな。あれは嘘だ。

 

④ そんなこんなで読み上げられる番号を確認し、それに対応するカードの番号を開けていく。そして、それらの番号がタテ、ヨコ、ナナメのいずれか一列並びであと一個で揃う!となれば······。

 

⑤ 「Reach(リーチ)ッ!(絶叫)」

 

⑥ そして一列揃えば?

 

⑦ 「Bingo(ビンゴ)ッッッ‼︎(咆哮)」

 

⑧ 晴れて景品をゲットする。この時の幸福感たるや、浄土に往生する時のソレにも匹敵するとビンゴ界隈では専ら評判である。真偽は不明であるが。

––––––さぁ!皆もレッツビンゴ!

 

 

「まぁ、ざっとまとめるとこんな感じだな。ある程度は理解出来たか?詩音」

「なんとなく分かりました!」

 

 

先生の質問が終わり、ビンゴが始まるまでの短い間に、俺はこういう催しに慣れていないという詩音のために、心配無いとは思うが念のために一通りビンゴゲームのルールを説明していた。うむ、理解出来たようで良かった。

 

 

「······う、うーん······今のは······」

「クスノキくんのルール説明、明らかにおかしいんだけど要点はちゃんとまとめられてるんだよね······」

 

 

と、そこで八雲と柊が釈然としないといった表情で首を捻っているのが見えた。

 

 

「どうした二人共。何かあったのか」

「「えぇー······」」

「え、何······」

 

 

不審に思い声を掛けてみると、次は「それお前が言っちゃうのー?」みたいな半眼を向けられた。何だ、俺が何をしたって言うんだ。

俺と二人が訝しげな視線を交わし合っていると、詩音がすっ、とステージを指差し。

 

 

「あっ、羽原先生ですよ」

「「「えっ?」」」

 

 

詩音のその言葉に俺たち三人がステージに視線を向けると、確かにサンタコス姿の羽原先生がマイク片手にステージに立っていた。というかビンゴゲームのルール説明を生徒たちにしているところだった。詩音へのルール説明に熱中していたためか、まったく気付かなかった。やだ!妹への情熱が強すぎて怖いわ!自分が!

 

 

「っつーか、羽原先生がしてくれるんなら俺がルール説明をする必要も無かったかもな······」

「そんな事ないですよ!私はお兄ちゃんがシテくれて······凄い、嬉しかったです······」

 

 

俺の呟きに詩音がそう返し、頬を赤らめたと思ったらやたら淫靡(いんび)な表情をし出す。いや何でだよ。

そして、その表情を見た柊と八雲の視線が訝しげなモノから冷ややかなモノへとチェンジした。だから何でだよ。流れるように俺を性犯罪者に仕立て上げるのは止めて頂きたい。

 

 

「ま、まぁとにかく。生徒たちにもカードが配られ始めたことだし、もう少しで始まるっぽいな」

 

 

そう俺が誤魔化す様に言った時、初めて。

 

 

『では、今からビンゴゲームを始めます。······あぁ、ゲーム中は進行の妨げにならない程度に自由にしていて構わないわ。そうね······そこにいるサンタさんたちと一緒に楽しむのもアリかもしれないわね?』

 

 

羽原先生が俺たちを仕事から解放した理由の一端を理解することになったのである。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「ねーねーサンタさん!見て見て!ユウカねー、もうダブルリーチになったよ!」

「おぉ、凄いなー。羨ましいぞー」

 

「サンタさん、ぼくのカード見て!あと少しでリーチだよ!ぼくの方が先にビンゴになりそうだね!」

「······私も、もうすぐリーチ。負けないよー」

 

「サンタさん、まだ二つしか穴、あけられてないみたいだけど······だいじょうぶ?わたしのとこうかん、する?」

「い、いえ、お気になさらず。······おかしいですね······私ってこんなに運がありませんでしたっけ」

 

 

ゲーム開始から十数分後、そこには一人につき複数人の子供たちの相手をしながらビンゴゲームに興じる······いや、逆だろうか。ビンゴゲームに興じながら子供たちの相手をする俺たちの姿があった。······元々羽原先生は、子供たちに俺たちと触れ合い、楽しんで貰いたいという意思もあったのだろう。最初から言ってくれれば良いのに······。

俺、八雲、詩音のそれぞれが適度に距離を取り、子供たちが密集して窮屈にならない様にする。幸いにも誰かの下に子供たちが偏って集まることも無かったため、先程俺がもみくちゃにされたような時ほどギュウギュウ詰めになることはなかった。

······いやまぁ、僅かなから子供たちを俺たちよりも多く自らの周りに集め、注目の的になっている奴もいたのだが。無論、柊伊織サンタである。

 

 

「サンタさん、もういっかい、もういっかい!」

「ほっほ、そう慌てるでない。······ワシは元気な子も好きじゃが、落ち着きのある子供も好きなのじゃぞ?(老人ボイス)」

「「「すげぇ!」」」

 

 

誰だお前は······。

柊は百八ある特技(自称)の一つである声帯模写によって、誰かしらの––––––––年老いた男性であることは確かだが、俺には聞き覚えの無い声だった––––––––声を模写、その可憐な見た目とのギャップに子供たちを湧かせていた。俺も遠目に見て超驚いてた。本当アイツ何でも出来るな。下手したらドラえ○んより万能なんじゃねぇか。

 

 

「すごいすごい!何でそんなことできるの⁉︎もしかしてホントはおじいさんなの⁉︎」

「にゃはは、流石にそれは無いかなぁ。ボクはまだまだ若い、花も恥じらう女子高生さ」

「でも、サンタさんのおねーさん、じぶんのこと『ボク』ってよんでるよね?なのに女の子なの?」

「うぇっ⁉︎え、えと、それはねぇ······」

 

 

それ聞いちゃう?という様な感じで口元をもにょもにょさせて言い淀む柊。ちょっと前に、世界には若いサンタや女性のサンタもいると子供たちに説明していた柊だが、コレは誤魔化すことが出来ないらしい。最近はよく見るようになった柊の慌てる姿だが、こうして第三者の立場から見るとまた違って見える。具体的に言うとメチャクチャ面白い。

 

 

「ぷっ······くく······っ」

(······ちょっとクスノキくん。何笑ってるのさ)

(······お前、脳内を読むだけに留まらずテレパシーまで習得しやがったのかよ。ファミチキください)

(うるさいよ、もう!)

 

 

子供たちに囲まれながらこちらをキッ!と睨んでくる柊を手をヒラヒラと振って受け流し、子供たちと戯れつつ自身のビンゴカードに視線を落とす。何やかんやで俺もリーチだ。あとは37番が出れば『次は······37番』ビンゴ。

 

 

「わっ!サンタさんビンゴだね!ほらほら、はやくけーひんもらいに行かないと!」

「っと、はいはい。行くよ」

 

 

他の生徒と比べ、やたら俺に懐いた様子のユウカちゃんに背中を押されつつ、俺は「ビンゴでーす」と声を上げてステージに上がり、景品を受け取る。······机の上に置かれた景品は全てラッピングされており、大きさ以外はプレゼントの内容を推測出来るようにはなっていない。なるほど、早めにプレゼントをゲットしても、その良し悪しは運次第だということか。

まぁ、こういう時は、大きな箱より小さな箱を選んだ方が良いと相場が決まっている。俺は『舌切り雀』のおじいさんの幽波○(スタ○ド)が俺に力を貸してくれるように祈りつつ、目に付いたプレゼントの中で最も小さい箱を手に取った。

 

 

「さて、中身は何かな······」

「なにかなー♪」

 

 

ユウカちゃんを筆頭とする多数の子供たちに囲まれつつ、プレゼントを開封する。その中身は······。

 

 

「······水晶髑髏(クリスタルスカル)······」

 

 

置物として使えということだろうか。何か質感が恐ろしくリアルな気がするのだが······レプリカ、だよね?いや、本物を見たことがある訳じゃないんだけどさ。

 

 

「すごいキレーだねっ」

「がいこつだー!かっこいー!」

「とーめいだー!」

 

 

子供は無邪気で可愛いものである。俺は苦笑しつつ水晶髑髏を箱に戻し、ビンゴゲームが終わるまで他の子供たちとしばし戯れるのだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

『はい、これでビンゴゲームは終了よ。良いプレゼントは当たったかしら?』

 

 

羽原先生が、先程まで置かれていたプレゼントが無くなった机の上に手を置きながらそう言った。景品が全て当たったため、これでビンゴゲームは終了したようだ。しかし······。

 

 

「サ、サンタさん······ざんねんだったね······」

 

 

······まさかリーチにもならないとは驚きだった。それなりに穴は開いたのだが、全て位置がバラバラで、最後まで列を成す事がなかったのである。悔しい。

私こと楠詩音は、子供たちに「次から頑張りますよ」と微笑みかけながらステージ上のホワイトボードに書かれたプログラムに目を向ける。

 

 

「クイズゲームですか······こういうのって大体内輪ネタからの出題ですし、私はそこまで答えられそうにないですね······」

 

 

まだ私は中学二年生であるし、記憶力にも多少自信がある。故に小学校の頃の事柄もほぼ正確に覚えているのだが······大体、こういう催しの際のクイズというのは、『この学校の校長の名前は?』とか、『この学校の飼育小屋で飼っているウサギは何匹?』とかそういう類の問題であることが多い、ハズ。

だから、そんな本気で生徒たちの知識を試すようなモノではない······と、思っていたのだけれど。

 

 

『––––––––では第一問。この学校の教師である平井(ひらい)が飼っているペット6匹の動物名、またその名前全てをそれぞれ答えなさい』

 

 

分かるかっ!

私は内心でそう叫んだ。

 

––––––––現在私は、羽原先生の指示によって10人班に別れた子供たちの集団の一つに加わって問題に答えていた。どうやら私を含めた四人はこのままクリスマス会を小学生たちと共に楽しめ、ということらしいけれど······。

 

 

「ねーねー、サンタさん!こたえわかるー?」

「ぼくたち、ぜんぜんわかんないよ······」

「さ、さぁ······私にもさっぱり······」

 

 

というか、こんなの誰にも分かるはずないでしょう。そもそも平井という先生のことすら知りませんよ。

ちら、と隣の班を見てみると、お兄ちゃんや柊さん、八雲さんも眉をひそめ、額に汗を滲ませている。なんやかんやでお兄ちゃんも相当なスペックホルダーだと思うのだけれど、流石にこのような問題は分からない様子。

まぁ、次の問題で頑張ろう······そう思っていると。

 

 

「あぁ、僕なら余裕ですよ」

「え······」

 

 

そんなことを班の一員である男の子が言った。

そして、各班に配布されていた紙に問題の答えを書き込んでいく。

············早い。もしかしてこの子本当に、内容を考えた人たちの悪ふざけとしか思えないような、あんな問題の正しい答えを知っているというの······?

そう思い、答えが分からないにも関わらず、男の子が解答を書き込み終わったと同時に紙を覗き込む。

 

 

第一問 解答

 

・犬、名前「しかばね」

・猫、名前「伊勢海老」

・文鳥、名前「ディアヴロ」

・キングコブラ、名前「非常食」

這い寄る混沌(ナイアルラトホテップ)、名前「嫁」

・黒い女性、名前「貞子」

 

 

やはり適当だったようだ。

ツッコミ所しかないこの解答だが、コレが正解だったら、それはそれで平井先生の脳構造が心配になってしまう。ネーミングセンス云々の前に、まず色々おかしいナニカがあるのではないだろうか。いや、もちろんコレが正解だったらの話で、そんなことはないと思うのだけれど「はい、正解です」嘘でしょう······。

 

 

「シュウヤくん、すっげー!」

「さすが、べんきょうはぜんぜん出来ないのに、いらないことだけたくさん知ってるシュウヤくん!」

「煩いですよ!······ふふ、どうですかサンタさん。これが僕、『雑学王』倉間(くらま)シュウヤの実力です!えぇ、えぇ、識ってますよ。サンタさんは優秀な(良い)子にプレゼントを配るそうで。······今年も僕にプレゼント、くれますか⁉︎」

 

 

解答の正誤を確認しに来た先生が、シュウヤくんというらしい男の子が解答を書き込んだ紙を手に取って正解を示す赤丸を付けた途端、他の子供たちがシュウヤくんを(はや)し立て、シュウヤくんもそれを受けて胸を張り出した。

『雑学王』とかいう称号が明らかに自称であることは察したけれど、なるほど、今の解答を知っていた所を見るに、本当に知らなくても良いことを知り尽くしているのかもしれない。私は子供特有のキラキラした瞳でこちらを見つめてくるシュウヤくんに苦笑を返した。

 

 

––––––––ちなみにこの後も、本当に答えがあるのかどうかも疑わしい、理不尽な難易度の問題が次々出題されたのだけれど、それら全てにシュウヤくんが正解したのは言うまでも無い······ですよね?

 

 

 

 

◆ ◆ ◆  

 

 

「はぁ······」

 

 

俺こと楠祐介(ゆうすけ)は、ふざけた難易度のクイズゲームを乗り越え、その次に開かれた有志の生徒たちによるオリジナル演劇(演出担当は羽原先生だったそう。あの人働き過ぎじゃない?)を、先程も同じ班だったユウカちゃんと共に一緒に鑑賞しながら溜め息を吐いていた。

その溜め息に反応したのか、床に胡座(あぐら)をかいて座る俺の上にいたユウカちゃんがこちらに視線を向けてきた。

 

 

「? どうしたの?サンタさん」

「ん?······あぁ、気にしなくて良いぞ。ちょいと考え事をしてただけだからな」

「そーなの?」

 

 

きょとん、と小首を傾げるユウカちゃんに頷きを返すと、彼女は演劇が繰り広げられている最中のステージに再度視線を戻した。うぅむ、この子も相当可愛い。小学生時代の飛鳥とタメ張るかもしれんな······いや、やっぱねぇな!だって俺の飛鳥は世界の飛鳥だもんっ!っと、そうではなく。

俺が考えていること······というか、気になっていること、それは八雲(やくも)千春(ちはる)の所在である。

 

 

(さっきから姿が見えねーんだよな······あの子の場合、姉の八雲か、自意識過剰かもしれないが俺の所へ寄って来ると踏んでいたんだが)

 

 

結果としては、俺や八雲どころか、他の二人の下にも彼女は居らず、周りを見渡しても影も形も無かった。

あの子と今日接触したのは、このイベントの開始前に、彼女が校内に仕掛けたというトラップの状態をチェックには来たあの時のみ。別に心配とかそういうのではなく、間違い無く何かを企んでいるであろうあの子の姿が見えないというその事実が、言い様のない不安感を煽ってくるのである。

 

 

「怖いなぁ······」

「えっ?このげき、そんなにこわい?」

「いや、そうじゃなくてね」

 

 

俺はユウカちゃんにどう説明したものか、あるいはどう誤魔化したものかとしばらく悪戦苦闘することになった。

 

––––––そんなこんなで、いよいよ。

 

 

『では、今回のメインイベント、“チーム対抗鬼ごっこwithサンタクロース”を始めます。選手の方とサンタさんたちは前に出て来てね』

 

 

そんな羽原先生の声が聞こえると共に、俺は腰を上げて前方へと歩き出した。そして俺に釣られるようにユウカちゃんも立ち上がり······。

 

 

「······いや、ユウカちゃんは来なくても良いんだぜ?俺はこの競技の参加者だから行くだけで」

「? ユウカもせんしゅだよ?ネコさんチームのせんしゅなのっ!えへへー、すごいでしょー?」

「······マジかよ」

「まじなのですっ」

 

 

無邪気に微笑むユウカちゃんだが、その事実を知った俺はユウカちゃんの背後から仄暗いオーラが立ち昇っている様な錯覚を覚えていた。だって、同じく選手の千春ちゃんがあんなんだし······ねぇ?

と、俺がそんな感じで顔を青褪(あおざ)めさせていると。

 

 

「······楠くん、どうしたの?」

「ん、八雲か······いや、何でもない。早いとこ前に出ようぜ。俺たちが行かないとルール説明が出来ないからな」

「······だね。行こっか」

 

 

同じく立ち上がり、前に出ようとしていた八雲と合流する。先程まで俺と少し離れた地点にて子供たちの相手をしていたためか、何人かの子供が名残惜しそうに八雲を見つめているのが確認出来た。

かなり昔のこととはいえ、八雲も元はここの生徒。何か通ずるところもあったのかもしれない。

そして、俺たちが前に出ると。

 

 

『では、ルール説明を始めるわね』

 

 

羽原先生が鬼ごっこのルール説明を始めた。まぁ、以前にも俺たちは羽原先生より同様の説明を受けているのだが······おさらいとして再度ルールを示そう。

 

 

① 基本的なルールはごくシンプルな鬼ごっこと同じです。鬼役と逃げる役に別れ、鬼役が逃げる役を全員捕まえたら終了です。範囲は校内や校庭などを含む、学校の敷地内全体とします。

 

② 逃げる役(高校生組)はサンタのコスプレをし、プレゼントの詰まった袋を担ぎながら逃げて貰います。

さん生徒たちは3グループに別れ、グループで捕まえたサンタクロースの人数で競います。

 

③ 1位のグループには豪華プレゼントが贈られます(1位以外のグループも、サンタクロースが個人で持っていたプレゼントは獲得出来ます)。

 

 

以上。分かり易く言えば、プレゼントを背負って逃げる俺たちを捕縛した上にプレゼントを略奪して欲望を満たすという内容のゲームである。いまの しょうがくせい こわい。

んで、それらのルールを説明し終えた羽原先生は、次いで俺たちと共に前に出てきていた複数の生徒に顔を向け。

 

 

『生徒の皆はサンタさんを捕縛したら、ここ、体育館までサンタさんを連れて来てね。サンタさんを捕まえた生徒と連れてくる生徒は別の子でも構わないわ。もちろんサンタさんは誰かに捕まった時点で抵抗しないように』

 

 

なるほど、正に犯人の護送だ。

······そういえば、俺たちを追う立場にある生徒たちのチームは、3人ずつの3組に分けられているらしい。一応説明しておくと······。

 

いつの間にか前に出て来ていた千春ちゃん率いるイヌさんチーム。千春ちゃん含め3人とも女の子だが、何か怪しげなオーラを纏っているし校庭のトラップが何たら言っている。怖い。

人懐っこいユウカちゃんがリーダー(っぽい)ネコさんチーム。ユウカちゃん以外の2人は生徒たちの中でも背が高めの男子。正に体育会系といった感じである。

最後は倉間シュウヤという男の子が率いるウサギさんチーム。詩音がその男の子を見た途端「あぁ······あの子も······」と呟いていたので先程まで彼女の近くにいたのだろうか。3人とも男子生徒で、何か頭良さげに校内の案内図的なモノを見て話し合っている。

 

まぁ、以上のメンバーが俺たち四人を追いかけて来る訳だ。正直小学生が相手なのだし、マジになって逃げるというのは気が引けるのだが······。

 

 

「······楠くん、気をつけてね。ハルってばこういうイベントの時の手加減を知らないから······」

「クスノキくんクスノキくん。あのユウカちゃんって子、何故かシャドーボクシングしてるんだけど。一秒間に100発以上パンチ放ってるんだけど。ボクたちって今から小学生たちと鬼ごっこするんだよね?青銅聖○士(ブロンズセイ○ト)相手じゃないよね?」

 

 

そんなことを言っていたら生命の危険すら感じるのは気のせいだろうか。俺が知る中で随一を誇るスペックホルダーである柊がビビる程の拳速を小学生が叩き出すとかもうね。スーパー○イヤ人のバーゲンセールに通ずるモノを感じる。いわゆる理不尽なインフレである。

 

 

「まぁ、千春ちゃん以上にイベント物で手加減を知らない馬鹿や、本気出せば光速に届くと思うぜ?とかほざきながらシャドーの衝撃波で校内の窓ガラスを全て粉砕した馬鹿を俺は知ってるしな。その経験を生かせば少なくとも詩音と八雲のことは守れると思う、安心してくれ」

「お兄ちゃん(楠くん)······」

「ねぇ、何でボクのことは守ってくれないの⁉︎ あと前者ってもしかしてボクのこと⁉︎ 酷いよ!」

 

 

だからお前自衛出来るじゃん······イベント物だけじゃなく、あらゆる事に対して手加減知らないじゃん······。

そんな俺の考えを読んだのか、柊が瞳を涙をうっすらと溜めてこちらを睨んでくる。それを見た詩音と八雲が、ちらと遠慮がちに「伊織さん(ちゃん)にも、ね?」というような俺に視線を向けて来る。分かったよ······。

 

 

「分かった分かった、お前も守ってやる。明らかにお前の方が強いけど守ってやる。だから泣くなっての······」

「······えへへ」

 

 

俺がそう言いながら頭を撫でると、途端に頰を緩ませてふにゃ、と微笑む柊。おっと、また美少女化しましたね。飛鳥や詩音にやるノリで頭を撫でてしまった俺も俺だが、そういう表情をされると心臓に悪いので止めて頂きたい。鎮まれ俺のハート、力を貸してくれ笠原(かさはら)の逞しい筋肉に覆われた女装姿気持ち悪いよし落ち着いた。

と、そんなやり取りをしていると、羽原先生がマイク越しに俺たちに声を掛けて来た。

 

 

『さて、仲睦まじい四人のサンタさんたち?そろそろ準備は出来たかしら?』

「「「「あ、はい」」」」

『······さて。ではまず、サンタさんたちには五分間の間に各々散らばって貰います。そして五分後、生徒たちが体育館からサンタさんたちを追いかける』

 

 

五分間。まぁ、それだけあれば十分ここから距離を取れるだろう。道中、千春ちゃんが仕掛けたトラップに掛からなければの話だけどね。

 

 

『選手以外の皆はこのモニターで競技中の様子を見ていましょうね。自分が所属するチームの選手の子たちを応援してあげなさい。では––––––––』

 

 

『スタート!』

 

 

羽原先生の掛け声と同時に、一斉に駆け出す俺たち四人のサンタ。そしてそのまま出口へ向かい、丁度千春ちゃんとすれ違うように「······つかまえたら······とくせいのくすり······きす······」何か不吉な言葉が聞こえたんですけど?

 

······俺は、ここに来て更に膨れ上がった千春ちゃんへの恐怖心を抱えながら、体育館の外へと走り出したのだった––––––––。

 

 

 

 

 

 

 




すいませんでしたッ!

なんやかんやで5まで続きました終わる終わる詐欺が酷い!いい加減皆様もくどく感じてるところでしょうが、あと一話だけお付き合い下さい······!!
全身全霊で執筆中、すぐに書き終えますので!

では、次回で最長記録を塗り替えるクリスマス編5話でまたお会いしましょう。ありがとうございました!感想待ってます!


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