妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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本当にすいませんでしたッ!
更新が大幅に遅れてしまった駄作者御堂です、本当に申し訳ありません!
もう季節も春に差し掛かるというところでまだクリスマス!自分の物語の進行の遅さが酷く恨めしい!
......うぅ、と、とりあえず今回もクリスマス回ですっ。あと二話程度で完結させる予定なので、この話を投稿したらマッハで次話も書き進める所存!アイデアは固まっております!

では、どうぞ!



兄と義妹とクラスメイトのクリスマス会(のお手伝い)3

俺はいつものように、読者の皆さんへのあらすじ用に生み出された真っ白な空間の中にいた。

 

............正座しながら。

 

そして、身体を恐怖で震わせながら正座をする俺の前には、一人の美少女が豪奢な椅子に足を組んで腰を下ろしている。

目の前の美少女–––––––読者様代理(柊 伊織)が、本来ならば彼女が絶対に俺に向けることはないレベルの冷えきった視線で俺を()めつけながら言ってきた。

 

 

「............ねぇ、クスノキくん」

「............なんでしょうか」

「クスノキくんさぁ、前のお話が更新されてからどれくらい経ったのか......ちゃんと把握してるの?」

「に、二ヶ月程、かな......」

 

 

バンッ!(柊が両の手の平で机を思いっ切り叩く音。ちなみに、先程まで俺たちの周辺に机など無かった)

 

 

「二ヶ月!二ヶ月だよクスノキくん!覚えてるクスノキくん、キミはこの小説を書き始めた際に週一更新を目指しますって言ってたんだよ!それが今やコレだよ!」

「大変申し訳ございません!仰る通りです!」

 

 

厳密にはこの小説を生み出しているのは俺ではないが、柊の叱責に謝罪の意を込めて素直に頭を下げる。今現在、俺は作者代理として読者様代理の柊から更新が遅れたことに対する説教を受けている最中なのだ、反論するなどおこがましいにも程がある。

俺が頭を下げている間も、柊は未だ憤慨した様子で頭上から俺を叱責してくる。

 

 

「それにクスノキくんったら、ここに書けないからって年越しストーリーとかバレンタインストーリーとか、皆自分で妄想するだけして満足してたでしょ!まったく、キミはどんな妄想してたのさ!まったく!」

「そりゃお前、飛鳥や詩音からの『チョコと一緒に私を食べて♡』的なアレだよ決まってんだろ」

「だろうね!............ボ、ボクのことは?」

「待て、記憶を掘り起こす。............あぁ、お前は正月に餅を喉に詰まらせて亡くなっていたな」

「............ッ!............ッ!」

「ゲハァッ⁉︎待て柊ゴフゥッ!無言でボディブローを打ち込んでくるのは止めぐふぁッ⁉︎」

 

 

何故か涙目で俺に腹パンを打ち込んでくる柊を同じく涙目で抑えつつ、俺は作者から受け取っていた紙を懐から取り出す。反省会も程々に、そろそろあらすじ説明としての役割を果たさなくては。

 

 

「あー。『更新が大幅に遅れてしまい大変申し訳ございません。まだこの作品を覚えて下さっている方が何人いることやら......さてさて、今回と次回の話でクリスマス編を終わらせる所存です、コレを書いている時点ではどれほどの長さになるか検討は付きませんが、それなりに長くなることでしょう』......これあらすじじゃねぇだろ!」

「誰がキミの心情やら予想やらを語れって言ったのさ!もういい加減頭に来た!クスノキくん、お仕置きだよ!今から作者クンにお仕置きしに行こう!ボク、あの人が今いる場所知ってるよ!」

 

 

何故お前が奴の居る場所を知っているのかだとか、お前が持っているハリセンが鉄製なのはどういうことなんだだとか言いたいことは色々あるが、俺もそろそろあの作者の怠惰具合には我慢の限界が来ていたところだ。

俺は柊からスタンガンと丈夫なロープを受け取り、奴を制裁するべく歩を進め始めた––––––––。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

はい茶番はこのくらいにして。

 

 

「前回までのあらすじ。八雲(やくも)千秋(ちあき)の妹の千春(ちはる)ちゃんに出会いました。まぁそれはともかく、いよいよクリスマス会でございます」

「......え、急にどうしたの楠くん......」

「お兄ちゃん、どこに話し掛けているんですか?」

 

 

現在俺は、八雲の母校である来栖小学校に忘れてしまったいたスマホを回収して駅まで全力ダッシュ、ギリギリで電車に乗り込もうとしていた柊たちとの合流に成功し、電車の中で吊り革を握っていた。おっと、駆け込み乗車はしてないゾ?お兄ちゃんってのはいつでも愛する妹に誇れる立派な男でなければならないからな。えっ、作者はどうなったかって?ばっかお前、妹の前でグロい話が出来るかよ。

と、俺の前の座席に座っていた八雲(見送りのために同行してくれているらしい)が、軽く驚いたような表情で俺に声を掛けてきた。その時、八雲の身体からフワッと柑橘系の良い匂いが漂ってきたうわ何コレが女の子の匂いかうおおお。

 

 

「......ていうか楠くん、ハルと会ったの?」

「ハル?......あぁ、千春ちゃんの事か?一応会ったぞ。お前とは真逆というか......性格面で全く似てない妹だな」

 

 

少なくとも八雲に姉がいたとしても、本人の承諾無しに私の姉と結婚しろなどとは言わないだろう。

 

 

「あはは......ハルはどちらかと言ったら私よりも飛鳥(あすか)ちゃんに似てる感じだからねー......」

「かもな。落ち着きの無さとかそっくりだ」

 

 

俺と八雲がそんな感じで談笑していると、八雲の隣に座っていた、俺が愛するエンジェルシスター詩音(しおん)と、俺の横に立ち、勝手に俺の服に大量のアップリケを縫い付けていた大魔王(ひいらぎ)が興味を惹かれたようにこちらに顔を寄せてきた。お前コレ後で外しとけよ。

 

 

「なになに?クスノキくん、ちーちゃんの妹さんと会ったの?どーだったー?可愛かったー?」

「ん、まぁな。流石は八雲の妹だと言うべきか、結構可愛かったぞ」

「やだもうクスノキくんったら、ロリコンさん♡」

「ぶっ飛ばすぞ」

「千春ちゃんですか......私も会ってみたいです」

「あぁ、クリスマス会の時に会えるかもな。天使な詩音と子供特有の愛らしさが光る千春ちゃん。何かこう、可愛さの化学反応みたいなのが起きそうだ」

「......楠くん、何言ってるの......?」

 

 

いかん、詩音の楽しみそうな微笑みを見て、そのあまりの可愛さに脳が少々トランス状態に陥ってしまっていたようだ。詩音の可愛さはそろそろ麻薬の類に認定されそうだなと不安になりました。まる。

と、そんなことを話している間に電車が停止した。俺たちはここで降り、今度はバスに乗り込んで帰宅するだけなのだが......。

 

 

「......あの、楠くん。ちょっと時間貰えるかな」

「ん?別に良いが......」

 

 

電車から降りた所で八雲に服の袖をくい、と引かれ立ち止まる。何かしらん。

 

 

「ちょっとだけ楠くんに聞きたいことがあるんだ。すぐ終わると思うんだけど......」

 

 

そう言って八雲が柊たちに、ちらと視線を向ける。......なるほど、あまりあの二人には聞かれたくないことらしい。

俺は八雲から視線を外し二人に声を掛ける。

 

 

「......まぁ、っつー訳で俺はもう少しここにいるよ。もうバスが来ちまうし、詩音と柊は先に帰っててくれ」

「ぶぅ......何か帰りの時は中々お兄ちゃんと一緒になれてない気がしますが......分かりました」

「おっけー。じゃあ詩音ちゃん!ボクたちは二人で百合百合しい時間を過ごそうね!」

「い、嫌です」

 

 

二人は素直に俺の言葉を聞き入れてくれ、柊が詩音に寄り添うような形でバス停へ向かうべく、駅のホームの階段の方へと歩いていった。......柊×詩音。アリだとは思うが、俺が妹を寝盗られたことによる嫉妬と憎悪で闇堕ちしてしまいそうなので、お兄ちゃんは許しません(決意)。

んでもって、二人が俺たちの視界から消えた後。

 

 

「うし。これでいいか?八雲」

「あ......気、遣わせちゃった、かな。別に深刻な内容とかでも無かったんだけど......」

「うんにゃ、だったら良いんだ。俺が勝手にやったことだからな。で、聞きたいことって何だ?」

 

 

俺が駅のホームの柱に身体を預けながらそう問うても、しばらく逡巡(しゅんじゅん)した様子を見せる八雲に少し戸惑う。いつもなら割と思い切りの良い感じがするのだが......ま、まさか愛の告白だったりするのかしら!あの八雲がここまで躊躇うことなんざそう無いし......ここは男として、毅然(きぜん)とした態度で聞いてやらなければ「そ、その......自意識過剰かも知れないんだけど、ハルから......私と結婚してあげて、とか言われなかった、かな」はいはい知ってた知ってた。

 

 

「あー、うん。言われたっちゃ言われたんだが......」

「うううう~っ......ハルだったらもしかしてって思ったけど、やっぱり......」

 

 

俺がそう答えると、八雲が赤面し、顔を両手でぱっと覆ってしまった。おぉ......こうして見るとやっぱ八雲って仕草一つを取っても可愛いな......どっかの柊にも見習って欲しいものである。いやもう言っちゃってんじゃねぇか。というか......。

 

 

「やっぱりってことは、何だ。その......ああいう事を色んな男に言っちゃってんのか、千春ちゃんは」

「......いや、家では『おねーちゃん、そろそろだれかとつき合ったりしないの?』とか、『おねーちゃん。すきな人、できた?』とか言われるんだけど......」

「八雲の男友達に手当り次第声を掛けてたって訳でもない?」

 

 

俺の言葉にこくりと頷く八雲。

というか、千春ちゃんはどれだけ八雲を男とくっ付けたいんだよ......まぁ、あの子から聞いた普段の八雲の様子だと、少々八雲の将来が不安に思えてきてしまうのは分からなくもない。だから、きっと千春ちゃんは八雲のためにそういうことを言っているのだろう。

と、俺がそんなことを考えていると、八雲が妹の暴走っぷりを恥じる様に再度頬を赤く染めつつ。

 

 

「......え、えっと。ハルの言う事は全部無視しちゃっていいからっ。その、私まだ......こ、恋とかそういうの分かんないし......」

「あ、あぁ......」

 

 

そう八雲に返事はしたものの、元よりそこまで意識していなかった千春ちゃんの言葉だが、そう言われるとむしろ意識し始めてしまう。

想像してみよう。もし八雲と付き合ったら......。

 

 

『......楠くん』

『ん、何だ?八雲』

『......わ、私たち、付き合い始めてから結構経った、よね』

『ん。まぁな。それがどうかしたか?』

『......そ、そろそろ名前で呼び合ってみるのなんてどうかなー......って思い、まして』

『お、おぅ。そうだな、それも良いかもな......ち、千秋』

『......うんっ。祐介くん......えへへ』

『改めて名前で呼ぶのは少し気恥ずかしいな......』

『......そうかな?私は、嬉しいよ?』

『『『見せつけてんじゃねぇぞ楠ィィィッ!!!!』』』

『うおっ!? どっから湧いて来たテメェら!? ちょ、ま、ぎゃああああああああっ!』

『ゆ、祐介くーん!』

 

 

駄目だ、最終的に俺が嫉妬に狂った八雲親衛隊の連中に処刑される未来しか見えない......。

ま、まぁ、今そんなことを気にしていても仕方ない。とりあえず今日は帰るか。

 

 

「じゃ、じゃあ俺はそろそろ」

「う、うんっ。またね、楠くん」

 

 

お互い何となく真正面から顔を見るのが恥ずかしくなり、ロクに視線も合わせずに別れの挨拶を交わす俺と八雲。......やだもう何この空気むず痒い!八雲とは明日もクリスマス会の本番で顔を合わせることになるのに!

くそ、千春ちゃんめ......俺を不審者 of the ロリコン呼ばわりして脅迫してきた挙句、こんな状況を作り上げるとは......恐ろしい子!

 

俺はそんな益体も無いことをぼーっと考えながら、我が家に帰るべく、詩音たちの後に続くようにバス停へと向かった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『......ただいまー』

 

『......おかえり、ハル。部活動お疲れ様』

 

『......うん。おねーちゃんもクリスマス会のおてつだい、おつかれひゃは......っ!?』

 

『......捕まえた』

 

『......おへーひゃん、いひゃい。ほっへはひっはははいへ......』

 

『......ハル。今日楠くんに会ったでしょ。それで、私と結婚してーって頼んだでしょ』

 

『............................................た、たのんでない』

 

『......こっち見てもう一度言ってごらん』

 

『......うぅ〜っ!』

 

『......まぁ、楠くんに既に聞いたんだけどね。そもそもハルに楠くんって名前が通じた時点でおかしいし』

 

『おねーちゃんがげーむばかりしてるのがわるい』

 

『開き直った!こら、待ちなさい!』

 

『............やだ』

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

俺が八雲と別れた後、しばらくバス停で待機し、詩音たちが乗り込んだものより一本遅いバスに乗って家に戻ると、今日は特に用事が無かったということで、朝から家で中学の課題を消化していた飛鳥がキッチンに立っt––––––––

 

 

「飛鳥ッ!?」

「うひゃぅっ⁉︎ お、お兄ちゃん、帰って来てたの⁉︎お、おかえり......」

「あ、うん、ただいま......じゃねぇ!何で飛鳥がキッチンに立ってる⁉︎まさか料理をしてたんじゃないだろうな⁉︎」

 

 

帰宅した瞬間に眼前に展開されていた悪夢のような状況に脳の処理が追いつかなくなる。飛鳥だって自分の壊滅的な料理の腕は把握しているはずだ。なのに、何故キッチンなどという彼女にとっての禁足地に......!?

俺が狼狽えていると、飛鳥は軽く頰を膨らませながら「むー!」と言いつつ抗議をしてきた。

 

 

「あ、飛鳥だって自分の料理の腕くらいもう分かってるもん!......きょ、今日はちゃんと詩音ちゃんに手伝って貰ってるの」

「あぁ? つっても、その詩音は......「ここにいます......」お、おぅ......」

 

 

俺が飛鳥を追及しようとした時に、脱衣所へと続く扉が開き、疲労に満ち満ちた表情を顔に貼り付けながら現れた。俺といた時とは服装が違うようだが、俺のいない間に一体何があったのだろうか。

 

 

「し、詩音」

「言いたいことは分かります......事の発端はもちろんお姉ちゃんの料理にあります」

「だろうな。そもそも俺と大して変わらん時間に帰ったはずの詩音が飛鳥の料理を手伝えるハズもないし、どうせまた料理を爆発でもさせたんだろう」

 

 

俺がそう言うと、嘘つきの飛鳥さんは目を逸らしたまま「う゛っ」と妙な声を漏らした。コイツは......。

 

 

「しかし何だ。っつーことは、詩音が帰宅し、キッチンへ向かった瞬間に飛鳥が料理を完成させちまったってことか?バッドタイミングにも程があるな......」

「いえ、少し違います」

「?」

「お姉ちゃんの料理は私が来た時には既に完成していたんです。それでお姉ちゃんも喜んでいたのですが......」

 

 

〜 数十分前 〜

 

 

『ただいまです......お姉ちゃん⁉︎ 何でキッチンに立っているんですか⁉︎ やめてくださいしんでしまいます!』

 

『死なないよ⁉︎ 違うよよく見てよ詩音ちゃん!ほら見て、飛鳥、やっとお料理を完成させることが出来たんだよ!』

 

『えっ?こ、これは......ショートケーキ、ですか?』

 

『うんっ!もう明日はクリスマスイヴだし......お兄ちゃんと詩音ちゃんは小学校のクリスマス会って頑張って来るんでしょ?それで、私からのせめてものプレゼントを......って思って、ケーキを作る練習をしてたんだ』

 

『お姉ちゃん......っ(´;ω;`)』

 

『えぇ!? な、何で泣いてるの詩音ちゃん!?』

 

『何でもないです......そ、そうです!お姉ちゃん、このケーキ食べてみても良いですか?明日のための練習だということは承知していますが......折角のお姉ちゃんの努力の結晶なのですし......』

 

『う、うんっ!じゃあ切っちゃうね!』

 

『あっ、包丁の扱い方は大丈夫ですよね!? ケーキなので猫の手にはしなくて良いですが、怪我をしないように細心の注意を払ってゆっくりと刃を落として......!!』

 

『詩音ちゃん過保護過ぎだよ!い、一応飛鳥の方がお姉ちゃんなんだからね!? まったく......んしょっ』

 

ドカンッ

 

 

.......

.............

............................

 

 

「というわけなのですよ」

「すまん、まったく分からん」

 

 

何が分からんって「んしょっ」からの「ドカンッ」が分からん。そこに至るまでの過程を丸ごとすっ飛ばした突然の爆発オチは止めて頂きたい。

 

 

「つまりですね......今までお姉ちゃんの料理は今まで完成直後、または完成してからしばらく経ったら暴発する仕様になっていたじゃないですか」

「そうだな」

「し、仕様とかそういうのじゃないもん!ただ普通に使ってもああなっちゃうだけで......」

 

 

それを仕様と言うんだ。

俺が溜め息を堪えながら飛鳥を見ていると、詩音が説明を再開し出す。すんません邪魔しました。

 

 

「つまり、今回は『一定以上の衝撃を与えると爆発する』仕様になっていたということです。お姉ちゃんが包丁を入れた、その行動が起爆スイッチになったのですよ」

「えぇ......」

 

 

何故彼女の料理の進化する方向はこうも斜め上なのだろうか。俺は飛鳥には料理の腕を向上させて欲しいのであって、料理の爆発物としての性能を向上させて欲しいわけではないのだが。

まぁ、要するに時間差で爆発して飛び散ったケーキが詩音の服に大量に付着してしまったため、着替えるために今まで脱衣所にいたらしい。ちなみに、同じくケーキの傍にいた飛鳥は咄嗟の判断で流水〇砕拳(りゅうすいが〇さいけん)なる拳法を使用、ケーキの破片を全て叩き落とすことで事無きを得たらしい。詩音を守ることは出来なかったと嘆いていたが、まずいつの間にそんな拳法を習得していたのかを俺は問いたい。

 

 

「はぁ......まぁ、飛鳥のその気持ちだけで十分だよ。俺が帰った後手伝ってやるから、詩音も入れて三人で一緒に作ろうな?」

「う、うんっ!一緒に作ろーね!」

 

 

飛鳥は俺たちのプレゼントとしてケーキを作ろうとしてくれていたのに、俺たちが手伝うのもどうかと思うのだが......そうでもしないと周囲への被害に気を配れないし、彼女も喜んでいることだ、まぁ良いだろう。

それに......明日は詩音が家に来て初めて迎えるクリスマス・イヴ、その次の日はクリスマスだ。

 

 

「......俺たち兄妹三人の思い出作りをするのも悪くない、よな」

「? お兄ちゃん、何か言いました?」

「いいや?うし、そうと決まればレシピを考えとこうぜ!飛鳥、詩音、どんな種類のケーキが良い!? 俺は勿論––––––––」

 

「「「ショートケーキ!」」」

 

 

明日という日が、俺たち兄妹にとっての特別な日になりますよう––––––––頼みましたぜ、サンタさん!

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

〜 翌朝 〜

 

 

「......すかー......」

「......で、テンションが上がってケーキのレシピを深夜まで考えてたら、寝坊しちゃったってこと?」

「は、はい。私は割と朝に強い方なので普段と変わらず起きることが出来たのですが、お兄ちゃんは......バスを降りるまではまだ起きていたのですが、柊さんと合流する直前にこの通り、寝てしまいまして」

「おかげで合流したボクと詩音ちゃんでクスノキくんを電車内に運ぶことになっちゃったね。まったく......呼んでも全然起きないんだから」

 

 

......む......ここはどこだ?俺はさっきまでバスに乗っていたハズなのだが。今日はクリスマス・イヴ、来栖小学校でのクリスマス会の日だ。次は電車に乗り換えなければ......。

 

 

「......んっ......」

「あっ、クスノキくん起きそう。......クスノキくんの寝顔って結構可愛いんだね」

「はい......ちょ、ちょっとだけ、頰を突いたりしても怒られないでしょうか」

「.................................大丈夫でしょ」

 

 

柊と詩音の声が聞こえる気がする。もしかして俺は今寝てんのか。意識が混濁してるのか状況がイマイチ掴めんぞ。

 

 

「うわ、クスノキくんのほっぺた柔らかい。それにスベスベ......女の子みたいだね」

「お兄ちゃん......コレは我慢出来ませんっ(ダキッ)」

「あっ!何してるの詩音ちゃん!ず、ズルくない!? クスノキくんが寝てる時にそういうことするのは、その、何かズルいと思うなー!」

 

 

ゴフッ、突然腹部に謎の衝撃が。何かが俺に抱き付いてきてるような......しかし今ので意識がはっきりしてきたぞ。もう少しで目を覚ますことが出来そうだ......。

 

 

「何故伊織(いおり)さんがズルいと思うのですか?それに、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんですから......ふふ、柊さんは所詮はお兄ちゃんのクラスメイト。こんなことまでする度胸は無いでしょう?」

「! 言ってくれるね詩音ちゃん!ボクを舐めて貰っちゃ困るね、クスノキくんに抱きつくのなんてボクにとっては朝飯前だよ!......い、いくよ〜......うぅ......」

「......ふっ、いつものようにじゃれつくならともかく、意識して抱きつこうとすると緊張して出来ないのでしょう?」

「むー!そんなことないしっ!せーの......っ!」

「何してんのお前」

「(声にならない悲鳴)」

 

 

俺が目を覚ました刹那、何故か赤面しながら俺に身を寄せて来ていた柊が、俺の顔を見た途端文字には表せないような奇怪な声を上げて俺から距離を取った。電車の中では静かにしなさい。

 

 

「......おい、ひいら「わー見てクスノキくん鳩さんが飛んでる!ほら、あそこあそこ!」ぐああああ首が引き千切れる!首から手を離せ柊ぃ!」

 

 

そんな柊に声を掛けようとすると思いっ切りネックロックを極められた。どうやら今の柊の姿については問いただしてはいけないモノなのだろう。アレはアレで可愛かったが。

 

 

「ぐうぅ......俺、寝てたのか」

「そ、そうだよっ。クスノキくんったら昨日深夜までケーキのレシピを考えてたんだって?」

「そのせいでお兄ちゃんは睡眠不足になっていたのですよ。まぁ、おかげで良い思いが出来たのですが」

 

 

先程のネックロックで起床前に朧げながら残っていた記憶が完全に吹き飛んだため、詩音の言葉の意味がよく理解出来ない。手掛かりはこれまた先程の柊の、やたら女の子していたあの表情のみである。

 

 

「............」

「な、何さクスノキくん。そんなにボクの顔をジッと見て。......は、恥ずかしいから止めてよ......」

 

 

誰だこの美少女......。

俺が困惑していると、目的の駅に到着したのか電車が停止した。すると柊が。

 

 

「さ、さぁクスノキくん、詩音ちゃん!早く降りよっか!ちーちゃんが待ってるよー!」

「おい、慌てるなって......」

 

 

俺と詩音は何故か再び頰を赤く染め始めた柊に手を引かれながら、来栖小学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「......あっ、楠くん。......お、おはよ」

「お、おぅ。おはよう」

 

 

しばらくして小学校へと到着すると、校門の前に既に八雲が立っていた。昨日の千春ちゃんの件で少々気恥ずかしさが残るが、何とかおう互い目を合わせて挨拶をする。

 

 

「ちーちゃんおはよっ!」

「......おはよう、伊織ちゃん。詩音ちゃんも」

「おはようございます。......まさか八雲さんとも何かあったのでしょうか......」

「......? 何か言った?詩音ちゃん」

「ナンデモナイデス」

「..............?」

 

 

何かを探る様な目付きの詩音を訝しげに思いつつ、俺は八雲たちと共に校門から学校の敷地内に入る。まだ小学生たちは来ていないようだが、このまま俺たちはクリスマス会の会場となる体育館へ向かう様に前以て羽原(はばら)先生に言われている。

そして、体育館の前まで行くと。

 

 

「おはよう、待ってたわよサンタさんたち」

「え、その格好で言っちゃいます?」

 

 

クリスマス会の衣装なのか、サンタのコスプレをした黒縁眼鏡を掛けた、表面上は光男さんと似た雰囲気を持つ女性–––––––羽原先生がやたら格好良く体育館の壁に身体を預けて立っていた。......が、少し頰に朱が刺している。小学校のクリスマス会の衣装とはいえ、大人になってのコスプレというのはやはり少々恥ずかしいのだろう。ここは褒め言葉の一つでも言うべきだろうか。

 

 

「似合ってますよ羽原先生」

「楠くん、それは皮肉かしら?安心しなさい、貴方たちの分の衣装もちゃんと全員分用意してあるわ」

「道連れにしないで下さいませんかねぇ⁉︎」

「私も昨日この衣装を着るように言われてね。その時から既に貴方たちにもこの衣装を着て貰おうと思ってたわ。鬼ごっこイベントの際にどうせ着るのだし、別に良いでしょう?」

「それとこれとは話が別だ‼︎それに、詩音の分は俺が既にもっと可愛いのを用意してるんですよ!」

「お兄ちゃん⁉︎私、初耳なのですが!」

 

 

俺が羽原先生への反論と共に、詩音のために仕立てておいたミニスカサンタのコスプレ衣装を懐から取り出すと、詩音が俺の横で困惑気味の声を上げる。何を言うか、コレは......、

 

 

「何を言ってるんだ詩音。この衣装に見覚えがあるだろう?ほら、二話前でバスの中で俺が持ってた......」

「..................あああああ!あの時のサンタの衣装⁉︎ あれ伏線だったんですか⁉︎」

「うっわ、これ手作りの衣装じゃん。しかも無駄に出来が良い......クスノキくんの熱意が伝わるようだね」

「......楠くん、変なところでスペック高いね......」

「私が衣装代一着分を損してしまったけど、コレはコレで可愛いから、完全な無駄にはならなかったわね」

 

 

俺作の衣装のあまりの出来に度肝を抜かれたのか、女性陣が口々にそんなことを言い始める。というか羽原先生、全員分の衣装ってのは自腹だったんすか。そこまでして俺たちを道連れにしたいんすか。

 

 

「さて、入りましょうか」

「そうね。他にも教師が何人かいるけどそこまで気にしないで良いわ。今日は授業も無いし、割と皆休日みたいな気分なのよ。......仕事は他にも大量にあるけどね。......へっ」

「うっ、社会の闇が垣間見えた......」

 

 

そんなこんなで羽原先生に誘導され体育館の中に入ると、内部はクリスマス会仕様なのか、そこら中に様々な飾り付けがしてあるのが確認出来た。へぇ、中々凝ってるな。......飛鳥か詩音の誕生日の際にはこれの数倍規模の飾り付けをしよう(確固たる決意)。

と、そのまま俺たちは体育館のステージの奥に案内され、詩音以外の三人にサンタクロースの衣装が手渡される。

 

 

「じゃ、子供たちが来る前に着替えちゃって頂戴」

「ひゃあ、女子の衣装はスカートなんですか」

「......鬼ごっこの範囲ってこの小学校の敷地全体なんだっけ。......校庭走る時、寒そうだなぁ」

「良かったな詩音。どちらにしろ衣装はスカートになってたみたいだ」

「こっちの方がすっごい短いじゃないですか。お兄ちゃんの手作りじゃなかったら恥ずかしくて着てられませんよ......」

 

 

俺の手作りだから着てくれるのか。あまりの嬉しさにブレイクダンスを敢行した挙句にヘッドスピンに失敗、首の骨が外国映画の『エクソシスト』みたいな感じになる未来まで視えたが、それをグッと堪え、他の三人とは別の更衣室に入って衣装に着替え出す。

赤い上下の服に同じく赤の帽子。付け髭もあるが、モサモサして鬱陶しいので鬼ごっこの時は外してしまってもいいだろうか......とにかく、それらを身に付けて再びステージに出ると、まだ誰も出て来ていなかった。まぁ、こういうのは女子の方が時間が掛かるものだと言うし、気長に待っていよう。

 

 

「〜♪〜♪」

 

 

......と、俺が何の気無しに口笛を吹きながら残りのメンバーを待っていると、突然背中をつん、と指で突かれた。

誰だろうか、羽原先生かな?

そう思い、口笛を中断し、背後を振り返る。そこにいたのは......。

 

 

「......おはよーございます」

「............千春ちゃんじゃないですかー」

 

 

そこにいたのは八雲千春ちゃん。数々の小学生とは思えないような面を持つ、今のところ(くすのき)祐介(ゆうすけ)内の警戒レベルがMAXの八雲の妹である。

しかし、何故千春ちゃんがここに。時刻はまだ7時半少し過ぎ。クリスマス会が始まる8時20分にはまだまだ時間があるはずなのだが。

 

 

「な、何か千春ちゃん来るの早くない?あと少しくらいお家で待ってても良いんじゃないかな?」

「......おにーちゃんの匂いがした気がした。チハルは、おにーちゃんとおねーちゃんのそばには、だいたいいる」

「なにそれこわい」

 

 

あと俺の匂いがしたって何だ。もしかして俺の体臭がキツいんじゃないかと不安になるからそういうこと言うのは止めて頂きたい。というか......

 

 

「本当に何でもうここにいるの?まだ他の子供たちは来てないのに......何か用事でもあった?」

「......とらっぷの、かくにん」

「......トラップ?」

「......チハルは、今日やるおにごっこのせんしゅだから。まえもってしかけておいた、学校の中にあるとらっぷとかのばしょをかくにんするために、早めにきてる」

「.........................」

「......おにーちゃん、きゅうにへんな顔しだして、どうしたの?おなか、いたいの?」

 

 

学校の敷地内にトラップが仕掛けられているということは羽原先生から聞かされていたが、まさかこの子が仕掛けたモノだったとは。確か今回の鬼ごっこイベントはチーム戦だったハズだが、まさかそのトラップとやらは他のチームを蹴落とすためのモノでもあるのだろうか。だとしたら相当腹黒い。

俺が目の前の女の子が本当に小学生なのかを見極めようとしていると、千春ちゃんが俺の背後に視線を向け。

 

 

「......あ、おねーちゃんと......誰?」

「えっ。......お、おぅ、八雲。柊と詩音も一緒か」

「うん......ハル、もう来てたの?」

「わぁ、クスノキくんサンタ服似合ってるねー!......って、その子誰?何かちーちゃんの小っちゃい版みたいな......」

「......もしかして、その子が話に聞いていた八雲さんの妹さんですか?」

 

 

俺が千春ちゃんと話している内に既に背後から接近して来ていたのか、振り向くと存外近くに八雲たちがいた。三人共サンタ服を着用しており、それぞれかなり可愛い。柊だって黙ってれば可愛いんだから、普段から口にガムテープでも貼っときゃ良いのに。

 

 

「大きなお世話だよ。それで、クスノキくん。やっぱりこの子が千春ちゃんなの?」

「あぁ。......千春ちゃん、このお姉さんたちも俺のクラスメイトと妹だ。名前は柊伊織と楠詩音。よろしくしてやってくれ」

「......ん、よろしくする」

 

 

俺の脳内が柊に読まれることは日常茶飯事なので、適当にスルーしながら柊たちに千春ちゃんを紹介する。まぁ、目の前に千春ちゃんの実姉である八雲がいるのに俺が紹介するのも少々変だが、流れでということで。

 

 

「......おにーちゃんも、おねーちゃんとよろしく(意味深)しても、いいよ?......いいよ?」

「子供が(意味深)とか言うんじゃありません」

 

 

八雲(本人)が目の前にいるのにそういうこと言うの止めてくれませんかねぇ......本当にさぁ......!

と、そこで唐突に千春ちゃんの姉である八雲が彼女に接近し、黒いオーラを滾らせながら千春ちゃんの耳元に口を寄せ。

 

 

「......ハル?」

「(ビクッ)..................なに?おねーちゃん」

「......お姉ちゃん、昨日何て言ったんだっけ?」

「......今日、もしおにーちゃんに会っても、いい子にしてなさいってゆってた......」

「............良 い 子 に し て て ね ?」

「......ち、チハルは、いい子。だから、とらっぷのかく認作業にもどることにする。......ばいばい、おにーちゃん」

「お、おう」

 

 

何だろう......二人の会話の内容は近くにいた俺でも聞き取れなかったが、八雲の言葉に千春ちゃんがえらく怯えていたのは確認出来た。恐らく千春ちゃんがまた八雲のことを俺に推さないように釘を刺したのだろうが......ま、まぁ、八雲と結婚してやら何やらっつー内容の言葉を、出来れば詩音や柊の前で言って欲しくないのは俺も八雲も同じだ。今日のところは、千春ちゃんには少し大人しくしていてもらおう。

 

 

「ねぇクスノキくん。クスノキくんってさ、昨日一度千春ちゃんに会ったって言ってたよね?」

 

 

..............................嫌な予感がする。

俺は頬を引き攣らせながらも、声は震えないように注意を払いながら、問いかけてきた柊に言葉を返す。

 

 

「ま、まぁな」

「けどさぁ、千春ちゃんも何か不自然に懐いてたっぽいし、さっき(意味深)とか言ってたし......ただ『会った』だけじゃないでしょ?」

 

 

鋭すぎんだろオイ。

 

 

「どういうことですかお兄ちゃん⁉︎ま、まさか小学生もストライクゾーンなんで「断じて否」

「んー......ねぇねぇちーちゃんっ♪ちーちゃんも何か知ってるっぽいよねー?クスノキくんと千春ちゃんに何があったの?おーしえて?」

「......ナンノコトカナー」

「......ぶー」

 

 

そこまで千春ちゃんの発言を隠し通しておきたいのか、八雲。別に教えても特に害は無いだろう......と思ったが、柊なら面白がって俺と八雲をくっつけようと千春ちゃんと手を組み出す可能性すらあるな......やはり黙っておこう。

と、俺がコスプレ of ミニスカサンタの女子勢と戯れていると、俺たちの前方から何枚かの書類を小脇に抱えた羽原先生が歩いて来た。俺たちが着替えている間に、色々イベントについてまとめていたりしていたのだろうか。

 

 

「あら、もう着替え終わっていたの。もう少し余裕があると思っていたのだけれど、ごめんなさいね」

「あぁ......いえ、別に良いですよ。んで、俺たちはコレでイベント開始の時間まで待機ですか?」

 

 

申し訳無さそうな表情をし出す羽原先生に俺たちは気にしていないと首を横に振り、今後の予定を問う。その言葉に羽原先生は掛けていた眼鏡に手を当て、一瞬だけ思考するような素振りを見せると。

 

 

「......まぁ、そうね。特にその時まで予定も無いし、待機してて貰えるかしら。昨日の応接室が空いてるからそこで......あぁ、お望みなら保健室のベッドや体育倉庫も空けておくわよ?」

「場所の選定に悪意がありませんかねぇ⁉︎」

「ジョークよ。私だって教師なのだし不純異s「本当ですか⁉︎ではお兄ちゃんと共に保健室に......!」

 

 

..........................................。

 

 

「......おい、詩音」

「......では、応接室に向かいましょうか」

「..................」

「..................」

「..................」

「......体育倉庫の方が良かったですか?」

「そういう問題じゃねぇよ」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

数分後、俺たちはサンタのコスプレ姿のまま、昨日羽原先生からクリスマス会の説明を受けていた応接室のソファに腰を下ろしていた。まぁ、誰もいないとはいえ、小綺麗な様相のこの部屋を無闇に汚す気にもなれず、全員がまるで何かしらの式典の際にするようなピシッとした格好で座っていたため、(くつろ)ぐという程でもなかったのだが。

そんな中、八雲がぼそりと呟いた。

 

 

「......楠くん、サンタさんの格好似合ってるね。子供たちも本物のサンタさんだと思ってくれるんじゃないかな」

「そうか?」

「あー、でもボクも分かるかもー。お爺さんって訳じゃないんだけど、クスノキくんってこう、老成した雰囲気っていうか......包容力っぽいのがあるんだよっ」

 

 

八雲の発言に便乗するようにそう言う柊に、俺は眉をひそめる。というのも、

 

 

「包容力ねぇ。生憎だが、俺はお前の悪魔っぷりを許容出来る程の大器の持ち主じゃないんだよなぁ」

「ひっど!ボク、最近はクスノキくんにそんな酷いイタズラとか仕掛けてないじゃーん!」

「確かにそうだが、一度形成された警戒心というものはそう易々と解かれるものじゃないんだよ。今俺が包み込んでやりたいのは、他でもない妹たちだけだ(ダキッ)」

「あふぅ。お兄ちゃんに包み込まれるの、いつやられても温かくて気持ち良いです......」

「くそぅ、このシスコンめ!」

 

 

そう言って立ち上がり、ソファに座っていた詩音を背後から抱き締める俺を見て、柊が何故か悔しそうにソファをボスボスと叩き始めた。ホコリが舞うから止めなさい。

 

 

「......ねぇ、皆。コレ、何かな?」

 

 

と、そんな中、八雲が応接室の壁のある一点を凝視しているのに気付く。その視線の先には......。

 

 

「......スイッチ、か?」

「......みたいですね。でも、この部屋の明かりを点けるモノはあっちですし......何のスイッチでしょう?」

 

 

......明らかに怪しげな赤いスイッチボタンが設置されていた。しかもその上部に『おして!』と平仮名で書かれている。コレは......

 

 

「ねぇねぇクスノキくん。それってもしかして、小学生たちが学校内に仕掛けたっていう......」

「......サンタ(俺たち)を捕獲するためのトラップだろうな」

 

 

壁に近づき、顎に手を当ててスイッチをじーっと観察しながらそう柊に返す。

まぁ、まず間違いないだろう。こんなあからさまな罠に引っかかるか否かは別として、このスイッチを押せば何らかのトラップが発動するのは確実であるはずだ。こんなのを小学生が製作したというのは驚きではあるが......所詮は子供、クオリティはこんなものか。ちょっと安心。

そう思い、苦笑しながら顎に置いてあった手を壁に預け「カチッ」なにいまのおとー?

 

 

「......く、楠くん......壁が凹んで......」

「......どうした、八雲」

「クスノキくん、露骨に壁から目を背けるの止めなよ。なるほどねー。スイッチはフェイクで、本当は何の変哲も無いように見せかけた壁の方に隠しスイッチがあったわけか ......お見事っ!」

「お見事っ!じゃねぇよ!おいどうなるんだコレ、モロトラップに引っかかったぞどうなるんだあああああ––––––––!」

「お、落とし穴⁉︎お兄ちゃーん!」

 

 

突然の浮遊感。

俺が壁に隠匿されていた隠しスイッチを押した瞬間、足元の床がパカッ☆と開き、俺の身体は猛スピードで穴の底に落下していった。そしてしばらくの間、その浮遊感を味わい––––––––、

 

 

「ああああああああ–––––––......げるぐぐっ⁉︎」

 

 

––––––––先程まで座っていたソファよりも遥かに柔らかい素材の上に顔面から着地した。痛みはない、が......。

 

 

「こ、怖ええええええ!ガチやんけ!小学生たち、ガチのトラップ仕掛けとるやんけ!アカンわこんなん怖すぎるわ帰らせてーな!」

「落ち着いて下さいお兄ちゃん、混乱で口調がエセ関西弁になってしまっています、落ち着いて下さい!」

「お、思ったより深かった!おーい、クスノキくーん、大丈夫ー?怪我してないー?」

「......私、ロープか梯子(はしご)取ってくるね......!」

 

 

俺の頭上......先程まで俺も立っていたハズの場所から詩音たちの声が聞こえてくる。結構な深さだ。これで後々、子供たちはココに落とされた俺たちを捕獲するつもりだったのだろうか。モンスターハンターというかもうハンターがモンスターなまである。

とにかく今は早くココから引き上げて欲しい。ココ暗くて狭くてかなり怖いのよ.....。

 

 

「やばいクスノキくん!この梯子下まで届かないんだけど!キミそこから出れないよ!」

「頼むどうにかしてくれ!」

 

 

––––––––結局、俺がこの狭い空間から脱出出来たのはイベント開始間際になってのことだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

俺がトラップによる穴から脱出してからしばらくした後に、羽原先生が俺たちを呼びつけに来た。そろそろクリスマス会が開かれる時間らしい。

んでもって、クリスマス会の舞台である体育館に舞い戻り、ステージの裏からひょこ、と身を乗り出して体育館の中を覗いてみると。

 

 

「わぁ、もう皆集まってるねー!」

「あ、千春ちゃんいましたよ」

「......あー、この感じ懐かしいなぁ......」

「ねぇ、何か何人か小学生とは思えない体格の子がいるんだけど。まさかあの子たちが鬼ごっこの相手だったりしないだろうな」

 

 

既に体育館内は多数の小学生たちで溢れ返らんばかりになっていた。クリスマス会の開始を待ち切れないとばかりに、子供たちの姿がユラユラと落ち着き無く揺れている。

そんな様子を見ていると、羽原先生がマイクを持ち、俺たちの横に立った。

 

 

「さて、始めるわよ。......柊さんと詩音さん、始めのコール、やってみたい?」

「「みたいです!」」

 

 

生粋のイベント好きたる柊と、大規模なクリスマス会が初めてという詩音が放つ『やってみたいな......!』オーラに勘付いたのか、羽原先生が苦笑しながらマイクを二人の方に手渡す。それを受け取った二人は喜び勇んでステージに上がり。

 

 

『はーい皆ー!サンタさんだよーっ!』

『お、おはようごさいますっ!』

「「「サンタさん⁉︎」」」

 

 

当たり前だがそのミニスカサンタのコスプレ姿を小学生たちに晒し、大層子供たちを驚かせていた。唐突なサンタさん(憧れの存在)の登場に、会場の熱気は早くも最高潮に達する。早い早い早い早い。

そして、その勢いのまま––––––––。

 

 

『では皆!ボク......もとい、ワシたちと一緒に!』

『来栖小学校クリスマス会、始めていきましょう!』

「「「おおおおおおおおお––––––––っ!」」」

 

 

柊と詩音、そしてやたらノリの良い小学生たちの手によって、やっとこさクリスマス会の幕が上がったのであった。

 

 

 




いかがでしたか?
今回こそはクリスマス会の開始まで漕ぎ着けようと思ったら、何気に自己最高の文章量となってしまいました。......いや、本当にすみません。
では、次回は焦らしに焦らしまくったクリスマス会です。その前段階に3話も使いやがってとの罵声が聞こえますが、仰る通りなので土下座します。
では、今回はこの辺で!感想お待ちしております、ありがとうございましたー!

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