妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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テストなんて滅びてしまえ。
はい、またもや期末試験の影響でダークサイドに堕ちかけている偏差値50以下の御堂でございます。
コレ書いてる時も実はテスト勉強をするべき期間なんですよねー......。
まぁ、それがどうしたってことなんですけど!僕の怠惰具合を舐めるなよ!
というわけで気張って行きましょう!どうぞー!



楠兄妹とボクっ娘と筋肉(ry とプチ温泉旅行♨︎2

 

前回までのあらすじをダイジェストで!

 

「温泉旅行に行ってみない?」

「俺ほどの上位お兄ちゃんになると、妹の声からその裸体を想像、もとい創造することが出来んだよ」

「「頭が割れるぅ!」」

「報酬は妹たちの浴衣姿です」

「幼女虐待の容疑で通報」

 

......前回の会話文を適当に抜粋していったら何となく内容が纏められるかなーと思ったのだが、結局最初の台詞くらいしか参考になるものがないという事実。普段俺たちはどれだけ中身の無い会話をしているのだろうかと心配になった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ここは温泉旅館『白峰館(はくほうかん)』の名物とされている露天風呂。周りは緑の山で覆われており、そよ風に合わせてざわざわと揺れている。何故白峰と銘打っておいて真緑(まみどり)(みね)がそびえ立っているのかは突っ込んではいけないことなのだろう。

さて、詩音の提案(というより光男さんのゴリ押し)によって昼風呂を楽しむことにした俺たちは現在露天風呂にいる訳なのだが......。

 

「クソッ‼︎親父さん駄目だ!塀のどこにも向こう側を覗けるような穴はねぇ!」

「諦めたらそこで試合終了ですよ笠原くん!理想郷(アガルタ)への道をこんな塀如きに阻まれてなるものですか!かくなる上は私が持ってきたこの爆薬で吹き飛ばして「止めなさい」あぁっ!爆薬が森の中に!」

 

その前に、この覗き魔(未遂)共をどうにかする必要があるだろう。早速男湯と女湯を隔てる塀を爆破しようとしていたし、放置しておくのは危険だ。

俺は腰にタオルを巻いている光男さんの手から怪しげなドクロマークが印された袋を山にはたき落とし、笠原には背後から首筋にフォークを突き刺して動きを止める。この銀色の三叉は聞くところによると邪神をも討伐し得る兵器であるということなので、笠原を始末する用に常時携帯しているのである。腰にタオルを巻いただけの姿のどこに携帯しているんだとは聞いてはいけない。

 

「二人共落ち着け。他の客がいないとはいえ、流石に爆破はやり過ぎだ」

 

俺はそのまま露天風呂へと身体を沈めつつ二人に声をかける。因みにコイツらは覗き行為の為に塀の周りをチョロチョロ動き回っており、未だ露天風呂にその身体を浸からせてはいない。ココに何しに来たと思ってんだ。

 

「むぅ......そうでしょうか......」

「なぁ、何かがオレの首筋辺りに刺さってないか?妙な違和感が感じるんだが」

「なんにもないよ」

 

全力でフォークを突き立てたハズなのに全く出血している様子がない笠原。お前はどこの自動喧嘩人形だよ。何、私服がバーテン服だったりすんの?あと何故気付かない。痛覚が死んでるのだろうか。

 

「覗きを止めろとは言わない。ぶっちゃけ俺も超見たいし、気持ちは分かるからな。だが、やるならやるでもう少し慎重にやれっつーことだ」

「止めろとは言わないんですね......」

「そういえば祐介、覗きのリスクやら何やらを考慮してはいたけど、倫理的、法的なことに関しては何にも言ってなかったよな......」

 

当たり前だ。お兄ちゃんは妹の裸体の為なら法程度軽く破る。ただ、今回は相手が悪かったということだ。例を挙げるなら柊とか柊とか柊とか。

 

「俺がやらないってだけで別にお前らが覗きをするのは良いんだよ。だけど、後々他の客の迷惑になるような行為は止めろ」

「「くっ......」」

 

悔しげに歯をくいしばる馬鹿二人。ちなみに後々と言ったのは男湯のみならず女湯にも現在は柊たち以外の客がいないことに起因する。ここに来る前に女将さんに聞いておいたのである。ていうか二人に纏めて説明するためといっても、今普通に光男さんにタメ口聞いてるよね。まぁ、義父とはいえ身内にそこまで気を回さなくても良いだろう、変態だし。

 

「そんな......ということは僕が考案した掘削機で地中を掘り進めて男湯から女湯への直通トンネルを作るという素晴らしい計画も......」

「却下ですね」

「じゃあオレが考えた「死ね」何で⁉︎」

 

二人の提案(片方は提案すらしていないが)をにべもなく却下する。もっとマシな計画は立てられなかったのだろうか、この単細胞たちは。

そんな死ぬ程下らないことを三人で話していると、塀の向こう側から女子勢の声が聞こえてきた。

 

『八雲さんはエベレスト......柊さんは富士山......』

『ひぅ......っ。あ、あの、詩音ちゃーん?何でボクの胸、をっ、急に揉んでるのカナー......?』

『いえ、何でも。九条先輩は......』

『にゃあああああっ⁉︎なになになに⁉︎し、詩音ちゃん⁉︎どうしたのーっ⁉︎』

『......荒れ果てた荒野......』

『何か凄い不名誉な評価を受けた気がする!』

『私、九条先輩に一生付いて行きます!』

『何か素直に喜べないよぅ!』

 

..............................ふむ。

 

「......やはり、諦められませんね」

「あぁ......これはもう覗くしかねぇ......」

「俺も協力しよう。妹のあんな可愛い姿(妄想)を見るためならもう腕の一本や二本は惜しくない」

「「えっ」」

 

俺の突然の手の平返しに驚いたような表情を浮かべる二人。何を驚くことがある、俺は元々妹たち......ひいてはまぁ、八雲などの裸体を拝みたいという気持ちは人並みにあるのだ。今まではあの柊相手に覗きを行うという愚行にビビっていただけであり、リスクを上回るリターンを得られる可能性があるならば俺は全力で覗き行為に手を貸す。というか俺が覗く。何なら写真を撮って永久保存するまである。

(注)重大な犯罪行為です

 

「そうと決まればアレだ、もう一度策を練る必要があるな。塀の爆破なんてもっての外だし」

「じゃあトンネル「黙って」

「それなら「爆ぜ散れ」

 

策を練ろうにもコイツらは使えない。欲望に身を任せ、何かを考えようという脳が失せてしまっている。そこらの獣と変わらん。

ならば俺が考えるしかないだろう。そうだな、まずは単純な方法で攻めてみようか。

 

「二人共、良い作戦を思いついたぞ」

「本当ですか祐介くん!して、その作戦とは⁉︎」

「作戦名とかあったりすんのか⁉︎」

 

期待に目を輝かせて俺に問いかける二人に、俺は温泉に浸かったまま作戦名を告げる。名付けて、

 

「『笠原生贄(オトリ)作戦』だ」

「オレ捨て駒にされてね⁉︎」

 

俺が作戦名を告げた途端に騒ぎ始める笠原(煩わしい)。俺はそれを鮮やかにスルーして作戦内容を続けて説明することにした。

 

「内容はこうだ。笠原が堂々と入口から女湯に入る。女子勢が多分笠原をボコボコにするだろうからその間に俺と光男さんが塀を乗り越えて女湯に侵入。思う存分脳内に女子の裸体を焼き付けた後速やかに退散だ。OK?」

「OK」

「いや全然OKじゃねぇよ⁉︎やっぱりオレ捨て駒になってんじゃねぇか!」

 

何を今更。俺は笠原の肩に手を置き、柔らかな笑みを浮かべたまま笠原に言った。

 

「––––良いか笠原。俺はな、お前が犠牲になったところで......全く心が痛まないんだよ」

「そんな事実は聞きたくなかったよチクショウ!」

 

そんな訳で作戦開始だ。まずは笠原を真正面から女湯にけしかけることから始まるのだが。

 

「お前に妹たちの柔肌を見せる訳にはいかないからな。目隠しをしてこの手錠で両腕を拘束した上で女湯に出向いてくれ(ジャラッ)」

「オレ覗きに行くんだよなぁ⁉︎何かこの作戦でオレが得られるモノが無に等しい気がするんだけど!」

 

コイツは勘違いをしているようだが、俺は二人に協力するとは言ったものの、最終的に利益を得るのが俺でさえあれば後はどうなってもいいと考えている。笠原の生贄作戦が失敗したら次は光男さんを捨て駒にしてどうにかする予定だ。妹たちの裸体を拝むのは俺だけで良い......!!

 

「では定位置に着け。作戦開始」

了解(ラジャー)

「マジで⁉︎ねぇマジでオレが行くの⁉︎」

 

良いからとっとと行け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐ、ぐへへへ!伊織たちの裸を見に来たゼェ‼︎さぁおれにその綺麗なカラぐぎゃあああああっ!』

『楠詩音、変態を制圧しました』

『きゃあっ⁉︎か、笠原先輩⁉︎』

『......覗きに来るにしてもまさか正面から––––......って、何で笠原くん、目隠しして来てるの......?』

『笠原さん、覗きに来たんですよね......?』

 

そんな声が聞こえて来た時、俺と光男さんは既に行動を開始していた。

 

「行きますよ光男さん!梯子(はしご)は調達済みですさぁ早く登って!Hurry(ハリー)!Hurry!」

「流石用意が良いですね!分かりました!」

 

俺たちは小声で話しながら凄まじい速度で塀に立てかけておいた梯子を登っていく。そして梯子を登り切り塀を乗り越え、着地音を完全に殺して女湯の床へと降り立つ。–––––––侵入成功。

 

そして––––––。

 

「ウェルカム、二人共っ♪」

 

即見つかった。最悪の悪魔に。

 

「..................」

「..................」

「............さて、と。来たばかりではありましゅが、そろそろ帰りみゃしょうか、光男しゃん」

「動揺して噛みまくってるね。ていうか、あんな状態のカサハラくんを置いて帰るってどうなのさ」

 

見ると笠原は両腕の関節を全て外された状態で、さながらキリストのように磔刑(たっけい)に処されていた。(はりつけ)にされた両腕がぷらんと垂れ下がっているのが痛々しい。何もあそこまでやらなくても。

 

「......いつから、気付いていた」

「教えてあげるからボクの胸から目を離しなよ」

 

折角なのでタオルに覆われた柊の身体を凝視しつつ柊に問うと、呆れたような声が頭上から声をかけられる。まぁ、裸体とまではいかずとも女子のタオル姿を見れただけで満足だ。例えそれが柊のものでも、これで死んだとしても悔いはない。俺が覚悟と共に指で十字を切り始めると、柊が光男さんの関節を極めながら「ぐあああっ!柊さん、腕が!僕の腕はそちらには曲がりまああああッ⁉︎」言ってきた。

 

「いつからっていうか何て言うか。最初からだよね、うん。だってクスノキくんたちの声丸聞こえだったし」

 

あぁ......。そういえばこちらから向こうの声が聞こえていたのだ、こちらの声が向こうに聞かれていても不自然ではない。興奮によるものだったのか、アホみたいに大声出してたしね。

俺はそれを聞き、柊に背を向け笑った。

 

「フッ......つまり俺たちは最初から負けていたという訳か......とんだ道化だったな」

「あ、うん。そうだね」

「だが俺はな、思うんだよ。どんなにそれが無駄な行いであったとしても、俺たち男子が協力(?)し、全力を尽くして計画した今回の覗き行為はとても尊いものであったと」

「うんうん」

「であるからに、今回の覗き行為は褒められこそすれ非難される筋合いはないと俺は考える訳だ」

「......うん」

「これはあくまで性への知的好奇心が少々暴走してしまったが故に起きてしまった悲劇。それを咎める権利など誰にも無いだろうな」

「そうだね。......で、遺言はそれだけ?」

 

はい。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

笠原と光男さん同様腕の関節を極められつつ女湯を追い出された俺は、夜の入浴時には女子たちと少し時間をずらして入るよう命令を下されてしまった。何気に九条の「楠先輩......信じてたのに......」と訴えかけるような視線が一番心を抉った。

 

「はぁ......やっぱ覗きなんてやるもんじゃねぇな」

「祐介の作戦、全部聞かれてたんだってな。流石に大声出し過ぎちまったかなー(ガコッ)」

「ですね。あのメンバーの裸体を拝めると思ったら随分と気分が高揚してしまっていたようです。不覚......僕としたことが......(ガコッ)」

 

そう言いながら淡々と外れた関節を一つずつ元の位置に嵌めていく二人は、恐らく一般の人とはかけ離れた人生を送っているのだろう。

 

「......そんじゃまぁ、俺は上がりますけど」

「僕は覗きの計画を立てることに夢中でロクに温泉に入っていませんからね。もうしばらくココにいることにしますよ」

 

そうして立てられた計画が『塀の爆破』であったというのだから驚きである。主にこの人の無能具合に。これで仕事面では優秀だというのだから、もしかして多重人格者なのではないかと疑ってしまう。あ、無能な方は始末して貰って構わないです。

笠原ももう少し温泉に浸かっていくというので、俺一人で先に上がることにした。脱衣所にて身体を拭き、髪をドライヤーで乾かす。

 

「ふぅ」

 

そして、着替えとして備え付けられていた浴衣を着て脱衣所を出る。さーて、まずはとりあえず部屋に行ってみるかな......と、その時。

 

「......九条か」

「(ビクッ)く、楠先輩......!!」

 

同じく浴衣姿の九条と鉢合わせた。えらい警戒されているようで少し傷ついた(自業自得)。

 

「いや、その。......怖がらせてすまなかったな」

「いえ......男の人はそういうコトも考えてるものだって知ってましたし......気にしないで下さい」

 

とりあえず先程の覗き行為について謝罪をする。どうやら彼女は許してくれたようだが、俺から距離を徐々にとっていくのを止めて欲しいなと思ったり思わなかったり。いや、覗き魔が何言ってんだって話だけど。九条は見た目が幼い分俺のメンタルを破壊することに長けているようである。僕ってば小さい子に弱いの。

俺がそんな感じで気分を沈ませながら部屋に向かおうとすると、突如九条が意を決したような声音で声を掛けてきた。何ぞ。

 

「あっ、あのっ。楠先輩。......部屋で少し、お話しませんか?家での飛鳥ちゃんや詩音ちゃんのこととか......楠先輩のこと、教えて欲しいんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––ってな感じでな。飛鳥が作ったオムライスが爆散して笠原に突き刺さっちまったんだよ」

「あははっ。飛鳥ちゃんったら、家でもやっぱりそうなんですね。中学でもそうなんです」

「へぇ。家庭科の調理実習とかか?」

「はいっ。飛鳥ちゃんが調理実習でお味噌汁から兵器を錬成した時から、先生が一人につき一着防弾チョッキを買ってくれました」

「やらせてくれるだけありがたいよ......」

 

二人で部屋に入り、適当に雑談をする俺と九条。

......あれれー?何か割とすぐに打ち解けられたよー?覗き魔がそのターゲットの一人だった娘と一瞬で仲良くなれちゃってるよー?

不思議に思ったが、よくよく考えると不自然なことでもないことなのかもしれない。コミュ力の化け物たる柊曰く、あまり話したことのない人との会話の際、大切なことは色々あるが、その中の一つに『共通の話題』があると良い、というものがあるらしい。つまり、俺と九条の共通の知人(俺の場合は身内だが)である飛鳥の存在が会話の良い潤滑剤となったということだろう。

 

「あははっ––––あ、す、すみませんっ!こんなに長くお時間を取らせて頂いちゃって......」

「あん?あぁ、気にすんなよ。こうして九条と話すのは楽しいし、さっきの......その、覗きのことも謝りたかったし。本当、ゴメンな」

「.....あ、ああいうのは今後は控えて下さいねっ?ていうか改めて言わなくても良いですから!思い出しちゃいますからっ!」

 

そう言って赤くなった顔を両手で隠す九条。ふむ。

 

「いやいや、それじゃあ俺の気持ちが収まらないんだよ。一度ちゃんと覗いたことを謝らせて欲しい」

「だ、だからもう良いですってばぁ!」

「......この度は他の男共と共謀し、入浴中の九条の無防備な姿を覗いてしまい誠に––––」

「うううう〜っ!」

 

何これ楽しい。俺にロリコンの気はないが、こうして覗かれたことを思い出して恥ずかしがる九条の姿は何かその、そそる。やべぇ、これ救い難い変態の思考なんじゃないだろうか。......まぁ、流石にしつこいよね。いい加減九条も可哀想だし誰かに見つかると俺の社会的地位が危ないしそろそろ「......お に い ち ゃ ん?」危ないのは俺の命だ。

 

「あ、飛鳥......」

 

いつの間にか俺の背後には飛鳥が居た。その顔は見えないが、射抜くような視線が俺の背中に向けられているのは感じ取れた。怖すぎる。

と、飛鳥は俺に自身の方へと身体を向かせることなく、背後から静かに声を掛けてきた。

 

「––––お兄ちゃん」

「はい」

「お兄ちゃんは、さっき温泉で光男さんたちと一緒に何してたんだっけ?」

「えっと、それは」

「......ハヤク、コタエテ?」

「......覗きを、してました」

 

もう駄目だ、俺は助からない。

どんな方法で俺は処刑されるのだろう。

 

「覗きをして、反省したと思ったら今度は莉奈(りな)ちゃんにセクハラですか?」

「返す言葉もごさいません」

 

飛鳥の口調が敬語になった。コレはマジ切れモードだ。こうなると俺と飛鳥の立場は最早兄弟ではなく、ただの罪人と処刑人の関係と化す。

 

「祐介さん」

「......はい」

「少し眠って、頭を冷やして下さい」

 

......グッバイ、現世。

俺は覚悟と共に胸の前で十字を切った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「–––––––はっ。ここは......?」

「あ、お兄ちゃんが起きましたよ。おはようです、お兄ちゃん」

「? 詩音か?ていうか頭......」

 

俺が目を覚ますと、詩音が自身の膝に俺の頭を乗せ、上から顔を覗き込んできていた。俗に言う膝枕というやつである。

 

「いや、何で俺詩音に膝枕されてるのん?」

「私が温泉から上がってここに来た時には既にお兄ちゃんは寝ていましたよ?」

「寝て......いた......?」

 

理由は不明だが、温泉から上がった後の記憶が綺麗さっぱり抜け落ちてしまっている。俺はいつ眠りについたのだろう。というか、記憶を取り戻そうとする度に身体が震え出すのは何故だろう。まるで本能が思い出すのを拒否しているかのようだ。

俺が飛んだ記憶をどうにかして掘り起こそうとしていると、部屋の(ふすま)が開き、浴衣姿の柊と飛鳥、九条がやって来た。コイツらも今上がったのか?

 

「たっだいまー!......っと?クスノキくんやっと起きたんだね!おはよ〜」

「ん、お、おぅ。おはよう」

 

......やっと?俺は一体どれだけの時間......。

 

「おにーちゃんっ」

「(ビクッ)な、何だ飛鳥」

「余計なことは考えずに、今日は楽しもうねっ?」

「も、勿論だ。はは......」

 

気になる。俺は何を忘れているんだ。飛鳥を見た瞬間に背中に走った謎の悪寒と合わせて気になる。

......まぁ、そのことはもう考えないことにしよう。全く思い出せる気配が無いのもそうだが、飛んだ記憶を取り戻したら最後、俺は酷い絶望を味わう気がするのである。多分これは開けてはいけないパンドラの箱なのだろう、しかも底の方に希望が眠っていないタイプの。

そんな訳で、俺は詩音の膝枕から頭を起こし、旅館の中を探索してみることにした。知らない建物の中に入ったら何となく探索したくなる、これは最早人間の性である。

 

「俺、少しそこら辺回ってくことにするわ。お前らは部屋に居たままか?」

 

俺が柊たちにそう呼びかけると。

 

「あー、うん。ボクちょっと温泉で軽くのぼせちゃったし、ここでゆっくりしてるよ」

「飛鳥もそうするー」

「じゃ、じゃあ私もそうしますぅ......」

「私はお兄ちゃんと一緒に行きます」

 

柊、飛鳥、九条は部屋に残り、詩音は俺に着いてくるようだ。......では、出発。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「なんだ、俺が温泉から上がった後に一体何があったというんだ」

「おおっ!祐介か!頼む、この縄を解いてくれ!もう30分もこのままでいい加減頭に血が上ってきて辛いんだ!」

「SOS!SOSです祐介くん!」

「......あ。楠くん起きたんだね」

 

詩音と旅館内の探索を初めて僅か五分。旅館の入り口付近を詩音とフラフラしていると、身体を旅館の柱に何重にも巻かれた縄で逆さまに括り付けられた笠原と光男さんの姿が目に入ってきた。ていうか30分?常人なら10分達する前に危険域突入だと思うんだけど。何で普通に話せてんだよ、サーカス団員かテメェらは。

 

「八雲。お前何してんの」

 

俺は二人からのSOSを華麗にスルーし、柱に縛り付けられている二人の様子をPSP片手に傍観していた八雲に声をかけてみる。え?二人の救出はしないのかって?あぁ、その内誰かがやってくれるんじゃない?ちなみに今現在この旅館内に客はいない。

 

「んー、飛鳥ちゃんにお願いされたんだよ。二人を見張ってて下さいって」

「見張ってて下さいって......まさか、またこの二人が何かやらかしたのか」

「うん。覗きをね」

 

コイツらには学習能力というものが無いのか?

俺と詩音は哺乳類としての最低限の知能すら持っていなさそうな阿呆二人を冷めた目で見つめた。

 

「「..................」」

「ち、違う!アレは結局覗けなかったから未遂で終わったんだ!情状酌量の余地があるはずだ!」

「そうです!見られなかったのにこの仕打ちはあんまりだ!せめて逆さまに縛らず普通の体勢で縛って頂きたい!」

「罪人の分際で何を言ってるんですか」

「どの面下げて言ってんだ」

「「お前(君)も覗き魔だがな(ですけどね)」」

 

何のことだか分かりませんね。

あまりにも何のことだか分からなかったので、俺は笠原たちを無視することにした。妥当な判断だね!

 

「よし、詩音。次は向こうに行こうぜ」

「あ、はい。お兄ちゃん」

「ええっ⁉︎ちょ、待てよ祐介!今のは俺たちに何があったかを聞く流れだろ!」

「酷い!見損ないましたよ楠くん!」

 

既に俺の中でコイツらは見損われる余地が無い程に地位が失墜しているのだが。

それに、ちゃんとした理由もある。

 

「いや、本当にもう良いよ。覗きのパートはもう撮れたから。もうこれ以上この回に野郎共のむさ苦しい描写は要らないから」

「何言ってんだお前」

「祐介くん......三次元と二次元の区別はきちんと付けましょうね?」

 

何も知らないコイツらをぶっ飛ばしてやりたい。

割とイラッ☆ときたので、腹いせに笠原と光男さんの鼻に辛子(チューブ)をねじ込み「「ふぎゃあああああ‼︎」」俺は詩音と共にその場を後にした。

 

◆ ◆ ◆

 

 

笠原&光男さん(馬鹿共)と別れて間も無く。

詩音と二人で旅館の探索を継続していると、自動販売機らしき機械と、見覚えのある台のようなモノを発見した。そう、

 

「卓球台か。まぁ、温泉といえば卓球だよな」

「そのイメージっていつから定着したんでしょうね?昔の人たちは皆お風呂上がりに卓球をしていたんでしょうか」

「さ、さぁ......」

 

そんなこと俺に聞かれても。まぁ、イメージというものはそもそも何でそんなものが定着したのかすら不明なモノが多々あるものだ。例えばアニメ=オタクが観るモノ、とか。本当何でだよチクショウめ。それで『◯の名は。』とかは例外だとか言っちゃうんでしょう?まぁ、イメージなんてモンは人によって更に形を変えていくモノだし知らんけども。

 

「ま、折角だしやってみるか?」

「ですね。夕ご飯前に少しお腹を空かせておくのも良い気がしますし、汗をかいたらまた温泉に入りましょう、一緒に!」

「あぁ!勿論だ––––(ゾクッ)......いや、やっぱり止めておこう」

「えぇー」

 

俺の言葉に不満気な反応を見せる詩音。ごめんね。でもね、詩音。お前の言葉に同意しようとした瞬間に、どこからか凄まじい程に冷え切った視線を感じたんだ。あと視界にゆらりと揺れるポニーテールが入ってきた。よく分からないが、これ以上この話題を続けると俺の生命が危険に晒されるということだけは本能で察知した。

俺は震える手を伸ばして卓球のラケットを取り、それっぽく素振りをしてみる。うん、分からん。素振りしても今日の調子とかは微塵も察することが出来なかった。じゃあ何で振ったんだ。

 

「んしょ、んしょ......うにゅっ、浴衣だと少し動きにくいですね。(すそ)が......」

「着替えなら一応あるけど(スッ)」

「......何故バニーガールの衣装なんでしょうか」

「メイド服とチャイナドレスもあるが」

「それでもおかしいですよ!......お兄ちゃんと二人っきりの時に着るのはやぶさかではありませんが、こんな公共の場では流石に恥ずかしいですよ......」

 

確かにそうだ。今は俺たちの他に客はいないものの、もしどこぞの馬の骨とも知れん奴が詩音のバニーガール姿などを見た際には、俺はソイツの目にレーザーポインターを浴びせた上で耳に濃硫酸を流し込むことになるだろう。うん、自分で詩音を着替えさせておいてその仕打ちはエグすぎるな......。

 

「..............................はぁ......」

「そう落ち込まないで下さいお兄ちゃん。私は条件さえ揃えば、メイド服でもチャイナドレスでもチアガールの衣装でもスクール水着でも裸Yシャツでも、お兄ちゃんが望めば何でも着ますよ?」

 

妹の優しさに涙が止まらない。

さて、そんな話をしてる間にも詩音は裾を(まく)り、準備万端といった装いになっていた。あらやだ詩音ちゃんったらやる気じゃない。

 

「何、詩音。お前卓球好きなのん?」

「ふふっ。そういう訳ではないのですが、お兄ちゃんと二人っきりで遊べる折角の機会ですし。目一杯楽しみたいじゃないですか」

「一つ屋根の下に住む兄妹同士なのに二人っきりにすらなれないってのも変な話だよなぁ」

「でも、事実なんですよ?お兄ちゃんは毎日誰かと一緒にいますし。特に......女性の方と」

 

そうやって聞くと俺がハーレム系ラノベの主人公っぽく聞こえるから不思議なものだ。でも、全うなハーレム系ラノベの主人公はヒロインに家を改造されたり鼻にワサビ水を流し込まれたりエロ本の居場所晒しをネタに脅迫されたりしないと思うんだ。......ていうかコレ全部一人の女子の仕業じゃねぇか。そろそろアイツを一発シメとく必要があるかもしれない。

 

「..................」

「お、お兄ちゃん。お兄ちゃんの瞳から光が失せているんですが。どうかしましたか?」

「何でもない。さ、始めるか」

 

突如俺の身体を暗いオーラが覆い始めたのを直感的に気づいたのか、詩音が心配気に声をかけてくる。俺はそれを微笑みと共に流し、詩音と同様に腕まくりをして卓球選手っぽいフォームをとった。.......柊への復讐はこの後にしよう。

 

「......卓球なんざ中学の時の授業以来だが......ちゃんとボール返せるかね」

「私は今丁度やってますよ」

 

お互い卓球台で向かい合い、軽く手首を回す。そして、詩音がピンポン球を手にし、サーブを放った。

 

「いきますよお兄ちゃん。それっ」

「ほい」

「たぁ」

「ほい」

 

カコンカコンと小気味の良い音がテンポよく鳴る。うむ、俺の腕もそこまで鈍っていないようだ。まぁ、元々の実力が高くないため、平均以上に上手いという訳でもないのだが。

 

「てい」

「やぁ」

 

カコンカコン。

 

「そら」

「たぁ」

 

カコンカコンカコンカコン。

 

「ほれ」

「それ」

 

カコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコンカコン。

......え、卓球ってこんなに動きが無いスポーツでしたっけ?ウッソだろお前、テニスはあんなにアグレッシブなスポーツなのにそれに『テーブル』が付いただけでこんな地味なスポーツになっちまうのかよ。

......まぁ、恐らくは俺も詩音も初心者のため、スマッシュか何かで勝負を仕掛けることが難しいが故にこのような事態に陥っているのだろう。これはミスを覚悟で俺からスマッシュを打って「隙ありですお兄ちゃん!」(スカッ)みるべきだろうか、よし、そうするかあれボールは?

 

「お兄ちゃん、油断は禁物ですよ?」

 

見ると、詩音が心無しか得意気な表情で薄い胸を張っていた。何てこった。コイツ、ミスを恐れていたんじゃなく、ずっと俺の隙を伺ってやがったのか。我が妹ながら慎重で可愛くて天使のような奴だ。だが、

 

「フッ、甘いな詩音。たった一点でそんな誇らしげにしてるようじゃ、足元をすくわれちまうぜ?」

「勿論私も油断はしませんよっ。何たってお兄ちゃんが相手ですからね。どんな(こす)っ辛い手を使われるかわかりませんし」

「お前俺のことどんな風に思ってんの?」

 

狡っ辛いて。義理とはいえ兄に言いますかねそんなこと。酷い!詩音ちゃんってば酷い!そんな酷いこと言われると何かに目覚めそうになっちゃうじゃない!コイツいつも目覚めそうになってんな。いや俺だよ。

 

「愚問ですねお兄ちゃん。勿論私はお兄ちゃんのことは最高の男性だと思ってますよ?」

 

そう言って茶目っ気全開の笑顔を見せてくる詩音。詩音のヤツ、性格変わってね?いや、まぁ旅行先でテンション上がって性格が微妙に変わるのはよくあることだけど。......詩音も楽しんでる、ってことかしら。

 

「......そりゃ、どうも」

 

俺はそんな推測に頰を緩ませつつ、ラケットを握り直した。

 

 

 

 




はい、どうでしたか?
結局温泉では覗きしかやってねぇ、良いのかコレ。
ちなみにここの温泉には美容と血行促進の効能があるらしいです。はい蛇足ですね。

では、今日はこの辺で。感想待ってます!

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