妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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テストなんか無かった、良いね?

はい、テスト勉強やら夏休みの課題やらで今までロクに執筆出来ていなかった御堂ですすみませんでしたっ!
今回は何か色々な人物視点で回っていく回にしてみたので、少し分かりにくいところがあるかもですが、今回は習作ということで大目に見て頂けるのとありがたいです!

では、そこを踏まえ......どうぞ!


義妹と兄の遊園地デート!2

さて、考えろ楠祐介。

何故今日の詩音との遊園地デートの舞台、松島アミューズメントパークに柊と笠原––––そう、アイツら災厄の根源(トラブルメーカーズ)がいたのかを。

と、隣を歩く詩音が。

 

「んー、思いの外メリーゴーランド楽しかったですね。単調な動きでしたけど、妙に気に入りました」

「あ、あぁ。そうだな」

 

そう言って笑う詩音。......守りたい、この笑顔。

メリーゴーランドが終了し、俺たちは新たなアトラクションに乗るために遊園地内を歩いていた。今の詩音はご機嫌で、今まで見たことのないレベルで感情を表に出している。これから先も何かトラブルが無ければ詩音は今日1日を最高の日として記憶することが出来るだろう。......トラブルが無ければ。

そのためには不穏分子は排除する必要がある。正直、アイツらが俺たちに利益をもたらすような行動を取っているとは考えられない。というか何か写真撮ってたしね。撮影許可は取ったんですか?ん?

 

「何を考えている......柊......‼︎」

 

結局、警戒すべきはあの悪魔のみ。

俺は周囲に視線を巡らしつつ、これから起こるであろう戦いに備えるのだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

ボクこと柊伊織(いおり)は、少し悩んでいた。

 

「うーん......」

「んぁ?どした、伊織」

 

ボクが漏らした声に反応した笠原信二......通称カサハラくん(通称という言葉の意味はスルー)がボクに声を掛けてくる。心配してくれてるのカナ?

 

「んーん、何でもないよー」

「おぉ、そうか」

 

だけど、別に調子が悪いとかではないんだよね。

寧ろクスノキくんと詩音ちゃんのラブラブデート姿を見れてテンションMAXだよ!アレもうカップルみたいだよね!普段は見れないクスノキくんの表情とかも見れてラッキーだよっ!クスノキくんったらいつも死んだ魚みたいな目してるもんね......。

 

「......だけど、見つかったちゃったのは迂闊(うかつ)だったかなぁ。ついつい近づき過ぎちゃったよ」

 

いつにもなく素直に遊園地のアトラクションを楽しんでいたクスノキくんが可愛く見えたものだから、写真を撮って後々その写真でクスノキくんをおちょくろうとしたのが間違いだったかもしれない。

具体的には「見て見てクスノキくん!この、いつもは死んだ目なのにこんなにキラキラした目でメリーゴーランドに乗ってる可愛い子はだーれだ?」みたいな感じで。子供っぽいやり方だけど、クスノキくんは割とこれでも乗ってくるから面白い。

クスノキくんって、詩音ちゃんと...... それと、多分飛鳥ちゃんと一緒にいる時はこんな感じなんだね。

 

............あ。そもそも何でココにボクとカサハラくんがいるのかの説明が必要カナ?まぁ、大体察しがついてる人もいるかもだけど......一応、ねっ。

 

 

ー 数時間前 ー

 

 

ボクはいつものように自宅でクスノキくんの家に仕掛けられた盗聴器の音声を聞いていた。え、犯罪?創作なんだから良いんだよ。知らなかったの?

 

「さーて。今日はクスノキくんはどんな面白いコトしてるのカナー。楽しみだなぁ♪」

 

クスノキくんの家には、彼の家に初めて招かれたときから盗聴器を仕掛けてある。何せ、彼の周りにはいつも面白いイベントが絶えず起こるものだから、楽しいことが大好きなボクとしては、彼の日々の会話でさえ聞き逃せない事柄なのである。

そんなボクの聖水よりも清い好奇心の賜物である盗聴器が拾った音声の中に、興味深い言葉が。

 

『お兄ちゃん、デートしましょう』

『........................ふむ』

 

おおっ?

良い感じに楽しそうなイベントの匂いがするよ?

ボクが引き続きクスノキくんと......コレは詩音ちゃんだね。二人の会話を聞いていると、詩音ちゃんが巧みな話術でクスノキくんを言いくるめ、二人で遊園地に行くコトが決定したようだ。

 

...................コレは見に行かないと(使命感)‼︎

 

クスノキくんと詩音ちゃんの遊園地デート。

こんなにボクの心を惹く言葉もそう無い。コレはもう二人の様子を見に行かないのは罪と言えよう。そうと決まれば用意をしなくっちゃね!

とりあえず牽制からしよっか。

ボクはスマホを操作し、クスノキくんにLINEでメッセージを送った。その内容は以下の通り。

 

『詩音ちゃんとの二人っきりのラブラブデート!いっぱい楽しんで来てねー!お土産ヨロシク!』

 

うんうん、コレでクスノキくんもやる気が出るってモンだよね。我ながら良い後押しをしたよ。え?コレのどこが牽制かって?だって、お土産を催促してるのに自分から遊園地に来るなんて普通思わないでしょ?......勿論、遊園地に着いて行くよ!

と、その瞬間、ボクの盗聴器が壊されていく音声が聞こえてきた。あちゃー、バレちゃったか。

そして全ての盗聴器が壊されたのか、向こうの音声が全く聞こえなくなった時、スマホがクスノキくんからのメッセージが来たことを伝えてくれた。

内容は以下の通り。

 

『マミれ』

 

酷いよクスノキくん。

 

 

 

 

そんな訳で、ついでにカサハラくんも誘って二人の様子を見に来てた訳だよ。まぁ、ホントにクスノキくんたちの普段とは違うトコロが見てみたいな〜、みたいな軽い感じで来ただけだから、別に特に何かしようと思ってた訳じゃないんだけど......。

ボクは物陰から、今まで追跡していたクスノキくんたちの様子をコッソリ伺う。

 

『何を考えている......柊......!!』

 

何か、クスノキくんはボクが何か企んでるみたいなコトを考えてるっぽいんだよね。ボクが詩音ちゃんとのデートを邪魔するとでも思ってるのかな。全く、失礼しちゃうよね!

だけど、せっかく向こうも乗り気なので......。

 

......少し、からかっちゃおうかな♪

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん。次はアレに乗りませんか?楽しそうですっ!」

「えっ!お、おぅ。そうだな」

 

俺は詩音に手を引かれ、ウォーターアトラクションの方へと向かっていた。ウォーターアトラクション、その名の通り、ボート型の乗り物に乗って水路をあちこち回るアトラクションである。たまに水が思いっ切り客に掛かるタイプもあるので、その際は薄手のシャツなどを着ている女性の方に視線を集中させることをオススメする。そう、濡れ透k(殴

 

「なぁ詩音、今日って服、何枚重ね着してる?」

「何ですか急に?......このワンピースの下はもう下着ですよ。今日は特に暑いですから」

 

そう言って詩音は着ているオフショルダーワンピースのお腹の部分をくいっ、と引っ張る。どうせならあの柊&笠原(アホ共)にはこの場面を激写して欲しかった。俺だったら激写どころか連写するまである。

詩音の艶姿が見れると思うとドキがムネムネする。

 

「......お兄ちゃん、鼻血が出てますよ」

「気にするな。早く行こうぜウォーターアトラクション。今すぐ行こうぜウォーターアトラクション」

「駄目ですよ⁉︎シャツが真っ赤になってますもん!明らかに失血死手前の量ですもん!」

 

この際柊たちはどうでもいい気がしてきた。

 

「なぁ、よく考えろよ詩音。天下のムッツ◯ーニ先輩はこの程度の失血じゃ死ななかっただろ?つまり、そういうことだ」

「どういうことですか⁉︎ライトノベルの世界と現実世界をごっちゃにしないで下さい!」

 

そんなことを言っても、この世界にはご都合主義も物理法則の域を超えた現象なども普通に存在するのだが。さっきも腕がリペアされたじゃん。いや、ヒール?え、どっち?......どうでもいいよね。

このままだと詩音が心配して動きそうにないので、懐から取り出したティッシュ(箱)を丸ごと使用して血を拭い取る。しばらくし、止血も成功する。

 

「何故ティッシュを箱ごと......」

「ティッシュはいくらあっても困らないからな」

 

とにかく、気を取り直して詩音と仲良くウォーターアトラクションに乗ろう––––

 

ピコンッ

 

「.......................」

 

––––としたところで、俺のスマホからLINEの通知音が鳴り響いた。......まさか。

俺は嫌な予感と共にLINEを開く。そこには......。

 

『詩音ちゃんとのデート楽しんでるかなっ?』

『さて、ご存知の通りボクとカサハラくんはこの遊園地のどこかにいます』

『そこで一つゲームをしましょー!』

『この遊園地の閉園時間までにボクたちを捕まえられたらキミの勝ち、捕まえられなかったらボクらの勝ちです!ね、簡単でしょ?』

 

柊か。......何を言っているんだコイツは。

誰がそんなアホみてぇなゲームするか。一人神経衰弱でもやってろ。やり過ぎで衰弱死しろ。

俺が冷めた目でスマホの電源を落とそうとした時、再び柊からメッセージが届いた。

 

『もし捕まえられなかったら、あの手この手でクラスの皆に「クスノキくんは自分の義妹とイケない関係になっている」という嘘情報を流しますので、そこのところはお気をつけ下さいねっ♡』

 

「ぶっ飛ばすぞあのアマ‼︎」

「ひゃっ⁉︎い、一体どうしたんですかお兄ちゃん⁉︎急にスマホに届いたメッセージを見たと思ったら叫び出すなんて⁉︎」

 

待て待て落ち着け落ち着け待て。そもそもコイツが広めようとしている『イケない関係』とはどの程度のモノだ?アレだろ、精々ちょっと他の兄弟より仲が良いとかその程度だよな別に恋人とかいや待てアイツがその程度で済ますか下手したらあんなコトやこんなコトをする仲だとかそんな情報を広めるのではいやでも別に義理の妹なんだから––––、

 

「お、お兄ちゃん?本当に何かあったんですか......?もしお姉ちゃんやお義母さんに何かあったのなら、すぐに家に帰って......」

「え?あ、あぁ。何でもねぇよ。ちょっと柊がまたいらん事をしてくれてな」

 

あえて詳細は話さない。俺は今日は詩音と心ゆくまで遊んでやると決めたのだ、わざわざ俺の私情で振り回す気はない。......まぁ、柊も構ってちゃんのような側面もあるし、ただ俺と遊びたいだけなのだろう。脅しは多分その為の口実で、本当は実行する気など無いのだ。......無い、よな?

ちなみに、詩音が心配する人々の中に自身の父親に当たる人物が含まれていなかったことには、たまに外道と称される俺も、この場にいないあの人への同情の念を抱かざるを得なかった。

ま、どうでもいい(外道)。俺は詩音の手を引き。

 

「と、とにかくっ。さっさと並ぼうぜ」

「わわっ。どれだけお兄ちゃんはウォーターアトラクションに乗りたいんですか......まったく」

 

そう言って微笑む詩音を見て、決意は固まった。

詩音に柊たちの存在が気付かれない様に奴等を始末する。要は捕まえられれば良いだけだ。

閉園時間は6時、現在は3時ちょっと前。

制限時間の三時間以内に、あの悪魔共を排除する。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

詩音の濡れ透け最高でした。

俺は、ウォーターアトラクションにて見事詩音の艶姿を見ることに成功し、最早今ココで死んでも悔いは無いと思える程の心境となっていた。

冗談だよ?奴等を消さないことには死んでも死に切れないよ。嬉しいのは本当です良いモノを見た。

では、柊と笠原を捕獲するための作戦をいくつか試していこう。まずは一つ目の作戦。

 

作戦① 変装の可能性を疑ってみよう!

 

アイツらの事だから、自身の姿を偽り、民衆の中に溶け込んでいる可能性もある。根拠は昨日の柊。アイツは昨日の昼休みの時間にやたらクオリティが高い明石家さ◯まに変装していた。動機は全く不明だが、とにかく似ていた。性別とは。

とにかく、実行に移そう。まずは......。

 

「あのマスコットから当たってみるか......」

「マスコット?あぁ、ミルくんですか」

 

俺が視線を向けたのは、一人(匹?)子供たちに群がられながらポップコーンを売っている犬型のマスコットである。この遊園地の看板的な存在であり、正式名称はミルク=ミルミルキー。ミルミルミルミル若干クドい名前だが、纏めて『ミルくん』という愛称を与えられ、親しまれている人気キャラクターである。

 

「お兄ちゃん、ポップコーンが食べたいんですか?アレは......キャラメル味みたいですね」

「ん?まぁな。買いに行こうぜ」

「はいっ。丁度空いてますしね」

 

俺たちが近づくと、ミルくんはフレンドリーな仕草を取りつつ、不自然なほど甲高い声で訪ねてきた。

 

「やぁお二人さん!ポップコーンをご所望かな?」

「あぁ。Mサイズを一個」

「オーケー!お二人で仲良く食べておくれよ!」

「ハハハ、勿論だ。––––ところでミルくん」

「何だい少年?このミルクに何か用かな?」

「オススメのプロテインジュースは何かな」

「ホエイプロテインだな。アレは良いものだ。とにかくタンパク質の保有量が多く、とても......」

「.....................」

「.....................」

 

ホエイプロテイン。プロテインのことはよく知らんが、俺のクラスメイトがよく学校に持って来ていたモノである。日々勧めてきたのが果てしなくウザかったことを覚えている。

俺は、何故か着ぐるみ(禁句)の外までも真っ青になって震えているミルくん(笠原)の肩に手を置くと。

 

「......よしミルくん。後でそこの男子トイレ来いや」

「伊織......恨むぜ......」

 

一人捕獲である。ちょろい。

というかコレ、変装って言えんの?

 

◆ ◆ ◆

 

 

恐らくこのゲームには柊の口車に乗せられ、流されるがままに参加させられたと思われる笠原をロープで縛り、男子トイレに軟禁した後。

 

「お待たせ」

「おかえりなさい。随分長かったですね?」

 

俺はトイレに行ってくると言って待たせておいた詩音と合流した。この様子だとまだ気付いていない様だ。よしよし、このまま柊もサクッと捕獲しよう。

とりあえずトイレが長かった理由は適当にでっち上げとこうか。腹が痛かったと言って心配させてしまうのも何だしな。

 

「いやぁ、トイレの中に急にリ◯レウスが出現してな。討伐するのに時間がかかったんだよ」

「10分程でリオレ◯スを素手で討伐するなんて、お兄ちゃんはサイ◯人か何かなのですか?」

「残念、ナメッ◯星人だ」

「だったら頭部から触角の一本でも生やしてみて下さいよ。......いや、生やして欲しくはないですが」

 

クソ、俺の頭にアホ毛が無いのが恨めしい。

などと詩音と軽口を叩き合っていると、先程までロープで縛られていたはずの笠原がすまし顔で男子トイレから出て来た。......は?

 

「......おい、お前何なの?俺結構キツくロープ縛ったよね。明らかに解ける固さじゃなかったよね」

「おう、まぁな!だから力任せに引き千切った」

「もうアレだろ、寧ろお前がサ◯ヤ人だろ」

「......? 何の話をしているのですか?というか笠原さん、来てたんですね」

 

しまった。普通に詩音の視界に笠原を入れてしまった。......まぁ、問題なのは柊であって、コイツ単体ならそう害は無いのだが......どうしよう、念の為に懐に仕込んであるメリケンサックでボコっておくべきだろうか。何でそんなのを持ってるか?お兄ちゃんはいつでも妹を守る為の準備は欠かさないんだよ。

と、笠原は俺たちをしばらく眺め、言った。

 

「......あー!わ、悪ィ、俺ってば道に迷っていつの間にかこんなところまで来ちまってたみてーだわ!さっさと家に帰らねーと母ちゃんに怒られちまう!じゃ、じゃあ、またな!」

 

そして遊園地の出口へと走っていく笠原。アイツは多分俺たちを気遣って二人っきりにしてやろうとでも考えたんだろうが、言い訳が苦し過ぎるだろ。家に帰ろうとして迷ったとか、お前の家からココまで2駅挟んでますからね?どんだけ歩いたんだよ。

 

「......気にしなくてもいいのに」

 

ほら見ろ、詩音に即刻見破られてやがる。

......まぁ、笠原にしてはよく考えた方だな、うん。

 

「ま、笠原の気遣いを無下にすることも無いさ。閉園までまだ2時間以上ある、目一杯遊ぼうぜ。......二人っきりで、な?」

「......はいっ」

 

勿論、柊をどうにかしてからだけどね。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

遊園地内の一角にて。

 

『もー!カサハラくんってばすぐ見つかっちゃって!もっと自分を隠さないとダメでしょー!』

 

『そ、そうは言ってもよぉ......俺、こういうの苦手だし、祐介が思いの外策士だったのよ』

 

『カサハラくんの頭が弱いだけだよ』

 

『ひでぇ!』

 

『まったくもー......ん?さっきの人達......』

 

『お?何だ何だ?誰か知り合い見つけたのか?』

 

『いや、知り合いっていうか......うーん。ちょっと尾けてみよっかなー......まぁ、念のためにね』

 

『おっ?ちょ、伊織、どこ行くんだ?伊織ー?』

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「お兄ちゃん、次はアレに乗りましょう!」

「ちょ......ま......休憩しよう!少し休憩を!」

 

俺は笠原と別れてからも、柊を捜索しつつ、詩音と各アトラクションを乗り回していた。意外にも詩音はお化け屋敷と違って絶叫系はイケるそうで、俺は詩音に連れ回されるままにフリーフォールやらジェットコースターやらに乗っていたのだが。

 

(詩音の奴、楽しんでるなぁ......)

 

余程遊園地で遊ぶ事が楽しいのだろうか、詩音も体力は無い方であるはずなのだが、疲労など全く感じさせない勢いで遊園地内を歩き回っていた。

おかげで引き回される俺の方がガス欠気味である。......まぁ、嫌じゃないんだが。ここまで楽しんでくれるのは、義兄冥利に尽きるというものだ。

俺は疲労で死にそうだが、些細なことである。

と、そこで俺の肩がすれ違った男性の肩に衝突してしまった。一旦俺は詩音と繋いでいた手を離し、男性に頭を下げ、謝罪した。

 

「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ。あ、コレ、落としましたよ」

「え?......ハンカチ。コレ、俺のじゃありませんね」

「あっ、そうですか。私の勘違いだったみたいですね。それでは......」

「あっ、はい」

 

男性は肩がぶつかったことなど気にしていないようで、誰かが落としたと思われるハンカチを俺に見せた後、どこかへ行ってしまった。

俺は男性の人の良さに感謝しつつ、再び詩音の方へ振り返って笑いかけた。

 

「ま、まぁいいや。さて、詩音。次は––––」

 

––––––––しかし。

 

「......詩音?」

 

そこには、詩音の姿は跡形も無かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

迂闊だった。

 

「よぉ、嬢ちゃん。俺たちのコト、覚えてっか?」

 

––––まさか、気を抜いていた時にこんな男たちに連れ去られてしまうとは。

 

「はい。以前『俺は市内一の不死鳥になる‼︎』などと意味不明なことを口走りつつ、3日後身体中を羽毛まみれにして登校して来たクラスメイトの田淵くんですね。こんにちは」

「誰だよ!そんなイロモノと同一視すんじゃねぇ!俺たちだよ!喫茶店で会った‼︎」

 

私、楠詩音をお兄ちゃんから引き離し、人目に付かない物陰に押し込んできた三人の男たち。見た目は完全な不良で、お兄ちゃんが通っている高校の最寄りにある、薙原(なぎはら)高校の制服を着ていた。

その男たちの中心に立っている男が怒鳴ってきたので、私は至極真面目に返答することにした。

 

「..................えっと。お久しぶり、です?」

「思い出してねぇ!絶対忘れたままだコイツ!」

「どうするコウキ!コイツ、絶対俺たちのこと舐め腐ってるぜ!一度痛い目に......‼︎」

 

私に完全に存在を忘却されたと思った両端の男たちが騒ぎ立てるが、この男たちには見覚えがある。

私がお姉ちゃんと一緒に、お姉ちゃんの友人である九条(くじょう)先輩の父親が経営する喫茶店でアルバイトをしていた時に絡んできた、マナーの悪い不良共だ。

あの時はお姉ちゃん作の劇物(ナポリタン)で記憶を消し、撃退したはずなのだけれど......。

 

「まったく。一体何の用ですか。私はお兄ちゃんとのラブラブデートを楽しんでいたいのです。貴方たちのような社会に順応出来ない、なんちゃってヤンキーたちと関わっている時間は無いのですよ」

「誰がなんちゃってヤンキーだコラァ!」

「おうテメェ、あんまり調子に乗ってっと......」

「まぁ待て、お前ら」

 

私は彼らのことを思い出した上で煽っていると、中心のコウキと呼ばれた男が激昂する二人を制した。

 

「言ってくれんじゃないの、嬢ちゃん。......記憶が戻った後、俺たちさァ、ナポリタンが食えなくなっちまってんのよ。しかも後遺症なのか何なのか知らないけど、たまに味覚が失せるんだよね」

 

まさかそこまでの破壊力があるとは思わなかった。

それにしても、なるほど、お姉ちゃんのナポリタンは一時的に食べた人の記憶を抹消するだけで、永久に消したままには出来なかったらしい。つまり......。

 

「復讐、ですか」

「おっ、やっぱ俺らのこと覚えたんじゃーん。いやね?丁度ここらでたむろってたら、キミらがこの遊園地に入るのを見かけてさ。あん時の礼をしようにもキミらの住所も何も知らなかった訳だし?ホント、ラッキーだったよ」

 

何て間の悪い。

丁度彼らの記憶が戻った後、たまたま私とお兄ちゃんが家から二駅挟んだこの遊園地に遊びに来ていて。そしてさらに偶然彼らに見つかってしまった、と。......今日は厄日のようだ。

 

「はぁ......で、貴方たちの望みは?」

「潔いねぇ。とりあえず......この場で服脱げよ」

巫山戯(ふざけ)ないで頂けますか汚らわしい下郎方」

「コイツ丁寧に暴言吐きまくりやがった!」

「立場分かってんのかテメェ!」

 

本当早くお兄ちゃんの所に戻りたかったので、軽い願いなら叶えてあげようと思ったのだが、やはり無理だった。こんな屑共に辱めを受ける謂れは無い。

 

「ハハッ、いやホント。立場分かってんの?ここはこの遊園地の中でも特に目立たない場所だからさぁ......無理矢理脱がしても、大丈夫なんだぜ?」

 

チッ、この性欲に塗れた猿共め。

......おっと、口が滑った。さて、どうするべきだろう。一応、そこそこ武術を齧っているので、男性一人くらいなら有無を言わさずに片付けられる。

しかし、三人ともなると不安が残るのも事実。

 

「............やる気、ですか」

「おっ、キミこそ抵抗する気かな?三人相手だっつーのに、勇ましいねぇ。......おい、お前ら」

「オッケー」

「ヘッ、その澄ました表情、すぐに歪ませてやる」

 

とりあえず凄んではみたけど、やはり向こうも人数の差に自信を抱いているのか、特に慄くことはない。まぁ、私の身体が華奢なのもあると思うけど。

 

「............っ」

「表情に余裕が無くなってきてるねぇ。んまぁ、とりあえず......お前ら、好きにして良いぜ」

「ヒャッハー!サンキューコウキ!」

「ギャハハ、覚悟しとけよ!これから長いぜぇ⁉︎」

 

下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる二人に、私は覚悟を決め、せめてもの抵抗として一人は潰そうと––––

 

「「––––ひでぶっ⁉︎」」

 

–––したところで、私の背後から伸びた拳が二人の顔面に勢い良くめり込み、二人は飛び散る鼻血と奇妙な悲鳴と共に吹き飛んだ。

 

「......あ?誰だ、お前ら......⁉︎」

 

突然のことで、事態を掴めない様子のコウキ。

当然、私も掴めていない。が、その間に新たに二人の男女が現れる。その人たちは......。

 

「笠原さんと......柊さん?」

「やっほー詩音ちゃん。大事無いかな?......カサハラくん、ナイスストレート。世界狙えるよ」

「おうよ。義妹ちゃん、怪我は無いよな?」

 

突如現れたお兄ちゃんの高校のクラスメイトである二人。助けに来てくれたのだろうか。......にしても。

 

「笠原さんはさっき会いましたが......柊さんまで遊園地に来てたんですか。偶然ですね」

「えっ?......あ、あー!その、うん!偶然だね!」

「......................」

 

とりあえず、狼狽え様から間違いなくココに来たのは偶然ではないことが分かった。またこの人は変なことを企んでいたのか。

私がじー、と柊さんを見つめていると、彼女は露骨に視線を逸らしつつ言った。

 

「ま、まぁとにかく。ココはボクとカサハラくんで処理しとくからさ。詩音ちゃんはクスノキくんとのデートを楽しんできなよ。ね?」

「そうだぜ。コイツは俺がぶっ飛ばしておくから」

「ッ!テメェら......!!」

 

二人の余裕とも見える態度に憤慨した様子のコウキ。だが、その怒りを彼らにぶつけることは不可能だろう。何かと不憫な目に遭うことが多いものの、その膂力は明らかに人間の範疇を超えた笠原さん。そして、あらゆる面において底が視えない、お兄ちゃん曰く“大魔王”柊さん。この二人が相手では、このようなチンピラでは話にならないだろう。

ここは任せても大丈夫だと判断する。

 

「......ありがとうございます。このお礼は必ず」

「にゃはは、良いよ良いよー。いやぁ、さっきたまたまこの人たちを見つけたから尾けてみたんだけど......ホントに性懲りもなく詩音ちゃんたちに危害を加わる気だったなんてね。呆れちゃうよ」

「だな。こういう奴はちょい強めに懲らしめておかねーと、また何かやらかすからなぁ」

 

いつもになく真剣な表情でそんなことを言う二人に軽く頭を下げつつ、笠原さんのストレートで未だ昏倒したままの不良×2の横を通り過ぎて物陰から脱出し、お兄ちゃんの元へと戻っていく。

 

「お、おい!このまま逃すとでも––––!」

「ソレはこっちの台詞♪」

「安心しな。あの二人は場面が場面だったから手加減なくぶん殴っちまったけど、お前は怪我しない程度に加減して懲らしめてやる」

「クソッ、邪魔なんだよテメェらァ‼︎」

 

––––コウキのものと思われる悲鳴が物陰から聞こえてくるまで、数秒と掛かることはなかった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「詩音、詩音ー!どこだー⁉︎」

 

俺は突如として姿を消した詩音を捜し回っていた。

何てこった。この俺が詩音を見失ってしまうとは、不覚の極みである。きっと詩音は今頃寂しくて震えてるに違いない。お兄ちゃんが今行くからね!

 

「詩音ー!どこだ詩音ー!詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音詩音ー!」

「やめて下さいお兄ちゃん、ゲシュタルト崩壊してしまいます、やめて下さい!」

「おおっ、詩音!良かった、無事か!」

 

俺が愛する妹の名を叫びつつ捜索を続けていると、詩音が赤面しつつ俺を止めにやって来た。発見!

 

「悪い、詩音。俺が目を離したばっかりに......」

「子供じゃないのですから、そんな四六時中目付けをしなくても大丈夫ですよ?......まぁ、実際はこうしてはぐれてしまったのですが」

 

中学二年生はまだまだ子供だと思うのだが、確かに詩音は年齢に比べて幾分か大人びているが故、心配はそこまでしなくても良いのかもしれない。が、お兄ちゃんというものはいくつになっても妹のことが心配になってしまう生き物なのである。

 

「まぁ、何にせよ無事で良かったよ」

「ふふっ。心配してくれてありがとうございます、お兄ちゃん。......あの時に助けに来てくれるともっとありがたかったんですけどね」

「ん?何か言ったか?」

「何でもないでーす」

 

少し拗ねた様子の詩音に、俺は首を傾げる。ううむ、詩音の気に障るようなことを何かしてしまったのだろうか。分からん......。

......と、とにかく気にしていてもしょうがない。引き続き、詩音とのデートを楽しみつつ、柊の奴を捜し出さなければ......と、俺が詩音に気取られないように周りを見渡していると、詩音がクスッ、と笑い。

 

「柊さんなら、多分もういませんよ?」

「えっ?」

 

意味深な表情で笑う詩音。

俺は困惑し、詩音に慌てて問うた。

 

「ちょ、詩音?どういうことだ?気づいてたの?」

「さぁ?どうでしょうね?」

「し、詩音ー?」

「ほら、次はアレに乗りましょうお兄ちゃん!」

 

俺の質問を華麗にスルーしつつ、今日で何度目か、俺の手を引いて走り出す詩音。

 

俺のと詩音の二人っきりの遊園地デート。

ソレは、小さな謎を生み出しつつ、まだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、俺の柊たちを見つけ出す作戦がまだ➀しか試されてないんだけど」

「まぁまぁ。アレですよ、闇鍋の時みたいな」

「ああ、アレか......」

「そう、アレです」

 

「「計画性皆無のその場のノリか(です)」」

 

 





いかがでしたか?
夏休み中から跨いで書いたものなので、物語に幾分か歪みが出来ているかもですが、次回からはキッチリ纏めて書きますので、どうか見捨てないで下さいっ!

では、また次回!感想待ってます!

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