妹がいましたが、またさらに妹が増えました。   作:御堂 明久

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どうも、御堂です!
タイトルから季節感を破壊しにかかっております。
夏なのに鍋とかバカじゃねーの?と思う方もいるかもしれませんが.......何を血迷ったのか、ウチの昨日の晩御飯は鍋でした。

では、どうぞー!




楠兄妹+クラスメイト@闇鍋

屋内プールでの一件から数日。俺は久しぶりの何もない、ただただ平穏な休日というものを満喫していた。かの魔王っ娘(悪魔っ娘の上位派生種)や、筋肉野郎も今日はいない。

平和だった。

 

「あぁ......和む......」

 

そうだよ。これが本当の休日なんだよ。いちいちクラスメイト相手に体力を割かないといけない休日なんて間違っていたんだよ。

と、そこで我が義妹、詩音(ついに先日、“楠”詩音となった)が話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん。アイス食べます?」

「えっ、あるの?」

「はい、出張先から父が送ってきてくれたのです。中々の有名店のモノらしく、美味しいですよ」

 

詩音が自身が持つカップからスプーンでアイスをすくいながら言う。なるほど、光男さんが。

お袋も俺の義父である光男さんも、今は出張中で家にはいない。まぁ、ラノベのように海外出張とかではないから二週間くらいで帰ってくるらしいけど。

 

「んじゃ、貰おうかな」

「はいっ。イチゴにチョコにバニラに抹茶がありますが、どれにします?」

「抹茶で頼むよ」

 

俺は抹茶味の菓子などは大体好きだ。が、モノホンの抹茶は苦手である。一度飲んだことがあるのだが、コーヒーの苦さとはまた違う苦さのアレは、俺の味覚が圧倒的拒否反応を示していた。

 

「お兄ちゃんも抹茶ですか?ふふっ、一緒ですね」

「そだな。一緒だ」

 

お互い、何てことの無い偶然と思いつつも微笑み合う。平和だ。平和過ぎて逆に不安になるくらいの安心感である。まさに理想の世界だった。

 

「なぁ、詩音」

「何ですか?お兄ちゃん」

「日本って、平和だよな......俺、今超幸せだよ」

「はい、そうですね......私もお兄ちゃんと一緒にいられる今この瞬間が、とても幸せです」

 

再び微笑み合う俺と詩音。

そこに、今まで自室で学校の課題に取り組んでいた飛鳥が二階から降りてきた。

 

「お兄ちゃんと詩音ちゃん、何で二人そろってニヤニヤしてるの?宝くじでも当たって5兆円くらい手に入ったの?」

「その宝くじ太っ腹過ぎんだろ......別に特に意味はねーよ。ほら、お前もアイス食うか?」

「食べるー!」

 

俺は飛鳥にもアイスを放り、自分のもまた一口食べる。甘みの中でほんの僅かに覗く苦味が良いアクセントとなっており、するっと喉に流れていく。このクソ暑い中なので、より美味く感じた。

 

「「「ふぅ......」」」

 

それから、詩音が運んできてくれた冷たい麦茶を飲んで一息。平和である。平和平和とくどいようだが、実際そうなのだから仕方がない。この平和を揺るがす程の災害に見舞われたのなら話は別だが、今は平和なのだ。異論は認めない。

と、その時、突然外から声が聞こえてきた。

 

「クースノーキくーん!あーそびましょー!」

 

災厄()の襲来である。

 

 

* * *

 

 

俺は無言で玄関まで歩いて行き、ドアにチェーンを掛けた。さらに手近にあった傘立てや自転車の空気入れをバリケードのようにドアの前に立てかける。

この平穏は誰にも奪わせはしない......!!

確固たる決意。俺は退く気はなかった。

外からは未だに声が聞こえてくる。

 

「あれー?いないのかなー」

「兄妹仲良く散歩にでも行ってんじゃねーのか?」

 

笠原の声までする。何てこった、大魔王とその配下まで揃っているとは......。

 

「うーん、取り敢えずカサハラくん、電気メーター見てきてよ。回ってなかったら誰もいないんじゃない?回ってたら言ってねー」

 

俺たちは潜伏先がバレた逃亡犯か何かなのだろうか。何故そんな確認をされなければならないのか、皆目見当もつかなかった。

直ぐに家中の電気を消そうと思ったが、勿論間に合わない。笠原が馬鹿正直に柊に電気メーターが元気に回っていることを伝えた。

そして再度。

 

「クースノーキくーん!あーそびましょー!」

「うっせー!」

 

根負けした。俺はこのままだといつまでも家の前に居座りそうだった柊の声に青筋を立てながらドアを蹴り開けたのだった。勿論、擬似バリケードが脚にガンガン当たったので超痛かった。

 

 

「––––それで、今日は何の用だ、柊」

 

仕方ないので、二人を家にあげ、先程まで飛鳥たちと3人で寛いでいたリビングに二人を案内した。

 

「にゃはは、やだなぁ、ただ大好きなキミの顔が見たかっただけだにゃー♡......なんてねっ♪」

 

 

ワザとらしく語尾を猫っぽくしてなだれかかってくる柊の顔に手を当てて押しのけようとする俺。俺たちがそんなくっだらねぇ諍いを起こしている間にも、二人の客人(アホ共)の為に麦茶を用意しに行ったのだから、やはり詩音は出来た妹である。飛鳥も笠原に、「アイスいかがです?お義父さんから届いたばかりで、とっても美味しいんですよー!」と接していた。その女神かと見紛うほどの良心に満ち溢れた行動には、さしもの俺も涙した程だ(誇張)。

 

「で、何しに来たの。もう外出はしねーからな」

「んもぅ、つれないなぁ。ま、キミが外出しない気なのは分かってたけどねー」

 

やっと柊を押しのけることに成功した俺が問うと、柊は頬を膨らませながらもそう応える。

じゃあ何だと視線で問うと、柊がニヤリと笑った。

嫌な予感しかしない。

 

「ふっふっふ。いやぁ、ボクも家の中で遊ぶのも中々良いと思ってね。......クスノキくんたち、お昼ご飯はまだだよね?」

「そうだな。そろそろ昼ご飯にしたいから、お引き取り願えるかな?てか帰れ」

 

客人にする対応ではないが、コイツは招かれざる悪魔なのだ。この笑み。邪悪そのものである。

と、飛鳥と笠原の会話が聞こえてくる。

 

「笠原さん、その袋なんですか?」

「ん?あー、これは伊織に頼まれたヤツでよ。ここに来る前にちょいと買ってきたんだわ」

「えっと......ガスコンロ、ですか?あとは鍋の素」

「せいかーい」

 

おい待て。まさか......。俺は柊を見る。

その視線にうむ、と満足気に頷いた柊は腕を挙げ。

 

「今日のお昼は闇鍋だー!」

「アホか!」

 

そう宣言したのである。

その言葉に、お茶をお盆に乗せて運んできてくれた詩音が呆れたように言った。

 

「今は夏なのですが......」

 

そう、今の季節は夏。それも今日は気温は30°Cを超える真夏日なのである。何が悲しくてそんな日に熱々の鍋などをつつかなくてはならないのだ。しかもただの鍋でなく、闇鍋。最早拷問である。

 

「にゃはー、分かってるよぅ。だけどあえて!あえてココで鍋なのさ!いわゆる我慢大会だね」

「勝手にやれば?じゃあサヨナラ」

「待って待って待って!クスノキくんはもっと女の子に、ていうかボクに優しく接しようよ!」

 

いや、努力はしているんですけどね?

俺は冷めた目で柊を見据える。いやもう、本当に勘弁して欲しい。今日は冷たいそうめんでも食べて兄妹でゆっくりしようと思っていたのだ。そんな灼熱地獄みたいなステージには達したくないのである。そんなに暑いのが良いならインペ◯ダウン(Lv.3)にでも行ってこい。そして干からびろ。

 

「本当に待って!我慢大会で優勝したら賞品!賞品あげるからさ!ね⁉︎」

「賞品?」

 

柊の言葉にちょっと興味が湧く。コイツは流通ルートは不明だが、時々生涯お目にかかることすら難しいレベルの高級品(例 世界最古のダイヤモンド、《コ・イ・ヌール ダイヤモンド》の一部。どうやって入手したのか本当に分からない)を持ってきたりする。そんなコイツが賞品などと推してくるにはかなりの品なのでは......?と考えたのである。

 

「あ、飛鳥も興味あります!」

「私もです。是非賞品とやらを教えて下さい」

「おいおい、そんなこと俺にも言ってねーだろ?」

 

他の3人の期待も高まっているようだ。そんな俺たちの視線を受けた柊は自慢気に一つのチケットのようなものを俺たちに差し出した。

 

「......何だコレ」

「紙、ですね......」

 

そう、何の変哲のない紙である。そこには恐ろしく達筆な字で、『伊織ちゃんが何でも言うこと聞いてあげる券』と書かれていた。ガキかお前は。『かたたたたきけん』と同レベルだ。“た”が一つ多いのもポイントである。やべぇ、超どうでもいい。

 

「......で、何コレ?舐めてんの?」

「ちちち違うってば!だからその覇気みたいなの出すの止めて⁉︎段々クスノキくんも人間辞めてきてるよね最近!怖いよ!」

「凄ぇな祐介!それどうやって出すんだ⁉︎俺まだスーパー地球人2ぐらいにしかなれなくてよー」

 

それは大体お前らの影響だと思う。

あと笠原、お前はどこに向かってるんだ。

 

「えっと、伊織さん。コレは一体?」

「まったく......あぁ、説明するよ。この券によって得られる権利、それは......『このボクに、柊伊織ちゃんに何でも一つ望む事をさせられる』権利なのだー!」

 

だー、だー、だー......。

リビングに響く柊の声。皆がまったく反応しなかったので、その声は良い感じに反響していた。何故ただのリビングなのに反響するのだ、などと考えてはいけない。SSだから何でもありn(殴。流石にコレは柊も恥ずかしかったのか、不満気な表情のまま頬を赤く染めてそっぽを向いてしまった。

しかし、何も俺たちが総出で柊を無視ってやろうと考えたのではない。俺たちは全員、この言葉の重さを正しく捉えていたのである。

 

––––()()柊が『何でも』......‼︎

 

そう、あのトラブルメーカーで腹黒で狡猾な蛇のような魔王っ娘の柊が、である。えらい言い様だが、アイツの能力はこれ以上無いくらいに評価しているつもりである。何となくアイツが「ちょっと首相になってくるよ」とか言っても「減税よろ」とか言って普通に送り出せる安心感がある。

そんな万能魔王が何でもというのだ、俺たち程度の望みならまず間違いなく叶えられるだろう。

 

「ほぅ......本当に何でも良いんだな?」

「もっちろん!優勝出来れば何でも......はっ!ま、まさかボクにエッチなコトしたいって......!?やぁん、クスノキくんの、ヘ・ン・タ・イ♡」

 

渾身のデコピン。

 

「いったぁ!痛いよクスノキくん!」

「黙れ淫乱魔王。じゃあ例えば妹たちの写真集の作成を頼んだら作れるのか?いや、例えばの話ね」

「作れるけど......流石のシスコンだね」

「お兄ちゃん......」

「では私はお兄ちゃんの写真集を」

「詩音ちゃん⁉︎」

 

そんなわけで。

闇鍋 in 我慢大会が開催されることとなった。

 

 

* * *

 

 

俺たちは全員、冬物のセーターなど、保温性に優れた服を着込み、コタツの天板に乗る鍋を囲んでいた。もう一度言うが、今は夏である。

 

「ルールは簡単。暑さに倒れたり、闇鍋の具を食べられなかったりしたら失格!オーケー?」

『オーケー』

「じゃあ電気消してエアコンの冷房消して!エアコンの暖房起動コタツ起動ストーブ起動!」

『おおー』

 

我慢大会と闇鍋のルールに従い、部屋を暗くし、家にある暖房器具を全て起動させる。

まだ昼なので、電気を消しただけではまだ明るい。だが、流石無駄なところで用意が良いことに定評のある柊。どこからか取り出した暗幕を部屋中にかけ、完全な暗闇を作り出した。

しかし、暖房がまだ効いていないのにも関わらず、既に暑い。そりゃこんな服着てりゃあそうなるだろう。これから暖房は効き始め、さらにその中で鍋を食すのだ。死人が出てもおかしくない。

 

「さて、では......鍋に食材を投入だー!」

『とりゃー』

 

俺たち5人は一斉に鍋の中に食材を放り込む。

柊は複数の食材を入れたようだが、俺含め他の奴らは一つだけのはずだ。しかし、この暗い中では何を入れたかは分からない。ルール上食べられないものは入っていないはずだが......。

ちなみに俺が入れたのはただの白菜。自分に当たる可能性もあるのだから、まぁ、安パイを仕込んだ。

 

「皆入れたー?じゃあ、クスノキくん、詩音ちゃん、笠原くん、飛鳥ちゃん、ボクの順番で食べていこー!食べないのはバレるからね!」

『ぎくっ』

「......皆誤魔化す気だったみたいだね」

 

誰が好き好んで食べるか。

 

「んじゃ、クスノキくんから!どうぞー!」

「くっ......!!」

 

最早後戻りは出来まい。俺は先ず出汁をすくい......。

 

「......おい、出汁の匂いが何かおかしいんだが......」

「あぁ、俺がちょっと改良した特別な出汁にしといたんだぜ!水の代わりにアイス(イチゴ味)を溶かしたプロテイン(ココア味)を入れておいた!」

 

笠原の声が聞こえてきた方面にお玉を振り抜く。間もなく硬い手応えと共に、カァン!と小気味の良い音が鳴った。頭にクリーンヒットしたようだ。

 

「テメェふざけんな!何で基盤から破壊しにかかんだよ!出汁は闇鍋の対象じゃねーから!」

「い、いやいや!闇鍋とかじゃねーよ!皆暑いだろうと思ってアイスを入れたんだよ!思いやりだ!」

「火にかけたら溶けるだろうが!」

「......しまった!」

 

この馬鹿が!

いや、溶けるのを無しにしても鍋にアイスを入れるという発想はないだろう。しかもプロテイン投入に至っては「プロテインが嫌いな人類はいないから」といった俺には到底理解出来ない超理論によるものだった。とりあえず激情のままに笠原を断罪した。

 

「え、しかもコレ笠原が入れた“具”としてカウントされないわけ?マジで?」

「具じゃないからねー。カサハラくんに出汁の準備を頼んだのが間違いだったねー......てへぺろっ☆」

てへぺろっ☆じゃねぇ。

しかしどうするか。コレでは普通の具すらもこの出汁に毒されている危険性がある。最早この中に安全な食材など無いと考えた方が良いだろう。アイス入りプロテインが染み込んだ白菜。どう足掻いても絶望である。

 

「クソッ......食えるモノ来い食えるモノ来い食えるモノ来い食えるモノ来い......!!」

「お、お兄ちゃん凄い気迫......!!」

「一応全て食べられるモノのはずなのですが......」

 

俺は気合の声と共に具を一つ箸で掴んで皿に移す。甘ったるい出汁の匂いと共に俺の皿に移されたソレは暗くて見えないが、立方体に近いモノに見えた。恐る恐るソレを口に入れ......。

 

「......豆腐だな」

「私が入れたものですね」

「ちぇー。もっと凄いモノに当たれば良かったのに。それじゃあただの鍋じゃん!」

「ただの鍋で良いんだよ」

 

流石詩音だ、ちゃんとマトモな食材を入れてくれたらしい。飛鳥も一般的な感性の持ち主だ、入れたのは普通の食材だろう。真に警戒すべきはやはりあの大魔王なのだ。

 

「ふぅ、じゃあ次は詩音だな。気をつけろよ」

「はい......」

 

続いて、詩音がお玉で具を鍋から取り出した。

暗闇の中、詩音の表情を窺い知ることは出来ないが、きっと処刑台に立たされた罪人のような悲壮感溢れる表情をしていることだろう。

 

「うう......暑い......」

 

その上、彼女は暑さには弱い方だ。早く勝負をつけなければ、闇鍋の脅威より先に暑さで脱落してしまう。詩音は手早く具を口に入れ......。

 

「もぐ......あっ、コレはただのつくネゃッ⁉︎」

 

ボンッ‼︎と。

そんな音と詩音の奇妙な声が重なり、その後にドサリ、と何かが倒れるような音がした。

 

「お、おい!詩音!詩音!大丈夫か⁉︎おーい!」

「おに......つくね.....気を、つけ......」

「し、しおーん!」

 

声が途切れた。

うっすらと見える詩音のシルエットは横倒しになっており、一度ビクンと痙攣する。脱落、か。

 

犯人はこの中にいる......。

 

「なぁ、飛鳥」

「な、何?お兄ちゃん」

「お前、鍋に何入れた?」

「............つ、つくねを作って入れました......」

 

つくねを作った。つまり飛鳥が“料理をした(爆弾を製造した)”ということである。嗚呼、そうだった。飛鳥は一般的な感性の持ち主ではあるが、一般的な料理の腕は持ち合わせていなかったのだ。せめて野菜などの調理無しで入れられるものにしておけば......。

 

「詩音ちゃん、アーメン......」

「義妹ちゃん、良い子だったぜ......」

 

柊と笠原が無念そうに両手を合わせる。いや、別に死んでないからね?えんぎでもないから止めなさい?

とにかく、一周もしない内に詩音が脱落してしまった。やはりこの鍋は危険である。

 

俺たちは詩音の脱落を受け、再度実感する。俺たちは今、先程まで味わっていた平穏などとは無縁の状況に立たされているのだと––––。

 

 

【脱落者 1名 残り4名】

 

 




いかがでしたか?
妹モノ小説なのに義妹が真っ先に脱落するという事態。
しかし多分後々詩音は復活するので!ご安心を!

ありがとうございました!感想待ってます!

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