俺ガイル✖️物語シリーズ   作:ライとも

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はちまんヴァンプ 参

小町ぃ…戸塚ぁ…うぅ…会いてぇよぉ…ん?

 あれ?何で意識があるんだ?

 俺、まさかまだ生きてるのか?いや、生きてるって表現は間違っている気がするな。《生き返った》って表現が正しい気がする。もしかして、夢だった…のか?しかし、それにしてはリアル過ぎる。そして、ここはどこだ?知らない場所だな。

 天井の蛍光灯は全部割れてるし、それにすげぇボロいし、廃墟なのか?

 ふむ…黒板に机、椅子。ここは学校なのか?いや、この雰囲気は多分、塾だ。それにしてもボロ過ぎるだろ…

 

 あれ?……どうして俺は、こんな、窓も塞がれ、光が全く入らないような部屋の様子が……、

《こんなにもはっきりと見えているんだ?》

 暗いことはわかる。決して明るいとは言い難い。真っ暗と言っていいほどなのによく見える。はっきりと見える。慣れてきたらそんなもんなのだろうか。

 不思議に思いながら、身体を起こす───

 

「……痛っ」

 

 その際に、口の中を噛んでしまった。

 ん?俺の八重歯ってこんなに長かったっけ?

 口の中に指を入れて確認しようとする。すると、俺はようやく気づいた。──投げ出されていた俺の腕を枕にして眠っていた、小さな少女の存在に。

 

 え?小さな少女?マジで?ちょっと待て。何で俺の腕に少女が頭を置いて寝ているんだ?いや、それ以前に何故、こんなところで俺と、この少女は寝ていたんだ?

 落ち着け八幡。昨日の出来事をよく思い出せ…。

 

 えーと…吸血鬼に噛まれて死んだ。うわぁぁぁ!もう尽きた!これ以上思い出せねぇ!あ…死んだらその後の記憶とかある訳無いか。てへっ☆八幡うっかり☆

というかこの絵面、結構危ないよな…なんたって、高校生と10歳くらいの少女が、こんな人気のない場所で寝てるんだからな…とりあえずこの子を起こすか。

 

「お〜い、起きろ〜」

 

金髪少女の身体を揺さぶりながら声をかける。

 

「う〜ん…」

 

すると、金髪少女は、不機嫌そうに唸った。

 

「あと5分……」

 

なんて、ありきたりな台詞なんだろうか。むずがるように、金髪少女は寝返りを打つ。昔は小町もよくこんなこと言ってたなぁ……。おっと、それどころじゃないな。

 

「早く起きろって」

 

さらに揺さぶり続ける。

 

「……あと気分」

 

「どんだけ寝るつもりだよ…」

 

「……64億年前くらい?」

 

「え!?過去に戻んの!?」

 

ガチでびっくりしてしまった。まさか過去に戻るとは…

てか、今何時だ?携帯、携帯っと……あったあった。ディスプレイには、3月28日、16時32分と表示されていた。は?2日もここで、金髪少女と寝てたのか……?なんですか。ご褒美ですか!おっと、危ない危ない…ただの目の腐った変態に成り下がるとこだった…。

とりあえずこの金髪少女の目が完全に覚めるまでこの廃墟の探索でもするとしますか。

 

ドアから外に出たところでまず、階段に目がついた。そこの床には────

 

 

『2F』

 

 

ん?2階?何で2階なんだ?普通に考えたら1階だと思うんだが…。まぁ外に出るなということかな。

というか、探索を始めてから不思議に思っているんだが、何で夕方なのにこんなにも太陽の光が《眩しく》感じるんだ?ほんの少しの光りなのに。何故なのだろうかと考えていると、ある1つの恐ろしい仮説が浮かび上がった。

 

 

───仮説という名の結果にたどり着くための仮定を作っていこう。

まず、俺が《生き返った》という仮定。この仮定を立てた理由として、俺は、3月26日の真夜中に確実にあの吸血鬼に血を吸い尽くされ《死んだ》からだ。

 

これはあまり信じたくないが次に、俺が今、《人間では無い》という仮定。理由として、八重歯が急に伸びていることと、視力が急激に上がっているからだ。これだけで人間では無くなったというには余りにもしょぼ過ぎる理由だが、あくまで仮定。あまり深くは考えない。

 

最後にこの2つの仮定に関係すること。つまり、最後の仮定。あの《金髪少女が、吸血鬼》であるという仮定。正直にいえば始めから気付かなかった訳じゃない。髪の色、髪の形、どこか気品のあるオーラ。部分部分が一致していた。だが、2日前に出会った吸血鬼は四肢が無く、血を流していたし、体格的に大人だったが、この金髪少女には、ちゃんと手足があり、どこも怪我をしていないような肌、そして身体が小さい。だから、考えなくなっていった。いや、考えたくなかったんだろう。

 

しかし、改めて考えてみるとこの最後の仮定が正しいとするならば、残り2つの仮定も間違えではないと思えるようになるし、この仮説が正しくない、とは考えにくくなる。

 

そして、その3つの仮定を元に出来た仮説は────

 

 

 

───《俺が、吸血鬼になっている》というものだ。

 

 

もしも、この仮説が正しいなら、太陽の下に出るとどうなるのだろうか。漫画やアニメでは、よく灰になっているようだが本当なのか。確かめようと思い、1階へ降り、外に出ようとした。が、金髪ロリ吸血鬼(仮)に止められてしまった。怒鳴られてしまった。

 

「何をやっておるのじゃ!それ以上進むでない!」

 

「全く…いきなり太陽の下に出ようとするもんじゃから、自殺志願者かと思うたぞ」

 

「すまん…」

 

そうだ。金髪ロリ吸血鬼(仮)が起きた事だし、あの仮定が合ってるか聞いてみるか。

 

「なぁ、お前って───吸血鬼なのか?」

 

「うむ」

 

「いかにも、儂は『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』吸血鬼じゃハートアンダーブレードと呼ぶがいい」

 

やはりそうか。吸血鬼だったか。まだ一応想定の範囲内だ。だが、次にこのロリ吸血鬼が放つ言葉は少し想定外だった。

 

「眷属を造るのは400年振り2回目じゃが、まぁ大丈夫じゃろ。それにしてもなかなか目を覚まさんから心配したぞ」

 

「け──眷属?」

 

「そう。ゆえに、うぬ……む。そういえば、まだうぬの名前を聞いとらんかったの。まぁこれまでの名前など今のうぬには何の意味も持たん。ともかく、従僕よ」

 

彼女は笑った。凄惨に笑った。

 

「ようこそ、夜の世界へ」

 

「…………」

 

不思議と動揺はしなかった。さっき、仮説を立てたからだろう。でも、改めて聞くと、心に、精神に来るものがある。死ぬ覚悟はしていたが、吸血鬼として生きる覚悟はしていなかった。吸血鬼として生きる。これは何を表すのだろうか。答えは1つ。もう《人間ではいられない》ということだ。

 

「なぁ───キスショット。質問したいんだけど……」

 

「待てい」

 

彼女。キスショットは制した。

 

「さっき、儂はハートアンダーブレードと呼べと言ったじゃろ」

 

「長ったらしいだろ。ハートアンダーブレード?言う間に2回は軽く嚙むぞ。それなら、キスショットの方が短くて言いやすい。……ダメだったか?」

 

「……いや」

 

キスショットは、何かを言いかけてから、しかし、首を振った。金色の髪が静かに揺れる。

 

「まぁ、そうじゃろうな、うぬがそれでよいならばそれでよいじゃろう──断る理由がないわ」

 

何とも微妙な言い方だ。あ〜外国の名前だとしたら、キスショットは、ファーストネームなのか?だとしたら馴れ馴れしかったかな?よくわからん。

 

「それで、質問とは何じゃ」

 

「何でそんなに子供みたいな身体つきなんだ?一昨昨日は、こう…なんか大人っぽくて───」

 

「子供っぽくて悪かったのう」

 

「そういうことじゃなくて」

 

大人っぽくて。そして───手足が切断されていた。それが言いたかったのだ。

 

「うぬの血は絞り尽くしたがの」

 

牙を俺に晒して───彼女は笑う。笑って言うことでもないが、笑う。

 

「それでは全然足りんかったのじゃ───じゃからそれ相応の姿になっておるのじゃ。これでも死なぬだけマシじゃ。とは言え、最低限の不死身しか保てぬし、吸血鬼としての能力のほとんどが制限されておる───不便極まりないな」

 

それでも。死なぬだけマシじゃがな───と、彼女は繰り返した。

死にたくない、と。泣き叫んでいた彼女の姿が───脳裏に浮かぶ。まぁ今のキスショットの口振りには、全くと言っていいほどその面影は無いがな。今頃になって、今更になって思う。

俺は本当に───この女を助けたんだ。吸血鬼を助けたんだ。自分の命を投げ出して。

 

「とりあえず、上下関係をはっきりしておくぞ、従僕。こんな見た目でも、儂は500年生きてきた吸血鬼じゃ。主人従僕の関係を差し引いても、吸血鬼としては生まれたてのうぬが、本来ならば対等に口を利ける相手ではないのじゃぞ」

 

「お、おう」

 

「なんじゃ曖昧な返事じゃのう───本当にわかっておるのか?」

 

「ま、まぁ───わかるけど」

 

「ならば服従の証として儂の頭を撫ででみよ!」

 

彼女は威張って言った。…………。撫でた。うわ、髪の毛めっちゃ柔らけえ…。結構、量があるのに指が滑るようだ。

 

「ふっ。よかろう」

 

「……これが服従の証なのか?」

 

「そんなことも知らんのか」

 

彼女は見下すように言った。人間と吸血鬼ではルールが違うようだ。

 

「しかしまぁ無知であれなんであれ、うぬが物分りがよい従僕でよかったぞ───まあよきあるじにはよき従僕がつくものじゃがな。じゃが、従僕」

 

キスショットは続けて言った。冷たい眼で俺を睨みつけて。

 

「うぬには命を助けられた。無様を晒した儂を、うぬは救ってくれた。じゃから儂は、特別にうぬの無礼な口の利き方も許すし、キスショット呼ばわりも許すつもりじゃ」

 

「……呼ばわりって───」

 

しかし。またキスショットは気になることを言った。

───手足もこの通り、

───形だけでも再生できたしのう。

 

ん?形だけ?中身は───スカスカ?

 

「それに……この先、うぬの力を借りねばならんこともあろうしなあ」

 

「お前の───中身を見つけに行ったりするのか?」

 

「まぁそんなところじゃ」

 

ここで、1番聞きたいことを聞いてみよう。

 

「なぁ、俺は」

 

意を決して、彼女を見据え、聞いてみた。

 

《俺は、人間に戻れるのか?》

 

「……ふむ」

 

キスショットは───俺が思っていたような、どんな反応をも返さなかった。てっきり、怒るか、不思議がるか、そんな類の反応を予想していたのだが、代わりに、むしろ納得するように頷いて見せたのだった。

 

「やはり───そうじゃろうなぁ」

 

そう言いさえした。こちらの予想は外れたが───向こうの予想は当ったらしい。

 

「それで、俺は───」

 

「……戻れるよ」

 

キスショットは、少し声を低くして、言った。俺を見る眼は、相変わらず冷たいそれである。刺すような視線とさえ言える。

 

「戻れる」

 

けれど───そんな視線で俺を見つめるままに、彼女は「戻れる」と、そうはっきりと、断言したのだった。

 

「保証するよ。儂の名にかけての」

 

「そうか…わかった」

 

「勿論……従僕よ。そのためにはちょっとばかり儂の言う事を聞いてもらわねばならんのじゃがな。まぁこれは命令ではなく脅迫という形にしておこう。人間に戻りたくば───儂に従え、とな」

 

そしてやはり──彼女は、凄惨に笑った。

 

 

 

 

 




なんと!初の4000字突破ですよ!なんか、すごく嬉しい気持ちでいっぱいです!いや、達成感っていうんですかね?まぁすごくいい気持ちですねw

次回もこんな感じで頑張ります!!

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