IS-アルドノア   作:たまごねぎ

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 前回からだいぶ間の空いた投稿になります。エタらないように頑張っていきたいです。

 それはそうとグラブルのアニメを見始めたのですがopが良いですね。何回も聞いてます。



 


第6話

 入学式を終えホームルーム前の空き時間は、どのクラスも生徒達の話し声で騒がしくなっていたが中でも一年一組周辺の騒がしさは特に際立っていた。

 

 IS学園内は学年を問わず、世界初の男性操縦者である界塚伊奈帆、スレイン・ザーツバルム・トロイヤード、そして織斑一夏の話題で持ちきりになっている。

 

 クラスの内外を問わずに多数の生徒から向けられる視線を最前列の席に座る一夏は背中で感じながら、前日に携帯電話に届いた親友からのメールを思い返していた。

 

 携帯電話に届いた夥しい量のメールの内容を簡潔にまとめると『IS学園に入学できるお前がうらやましい。代わってくれ』と言った風になる。

 

 代わってもらえるのだとしたら喜んで代わるが、政府が下した決断となれば代わる事などできはしない。

 

 自分がISを動かせると判明した直ぐ次の日に黒服の男達がデータ収集の為や安全の為と言ってアパートに来た、まるでドラマか映画のような出来事を自分は一生忘れないだろう。

 

 

 ともかく実際に学園に入学するまでは中学時代の時に女友達がいたこともあってか女子に囲まれた中でも何とかやっていけるだろうと思っていたのだが──────

 

 (甘かった……想像していたよりもキツいな)

 

 加えて先ほどから誰も話しかけてきてくれない。関わるのが嫌なのか、あるいは緊張して話しかけ辛いのか。珍獣のような扱いを受けながら一夏は机から隣の席に座る自分と同じ男性操縦者である二人へと視線を向けた。

 

 一番奥の席から窓の外を眺めている白色に近い金髪の青年がスレイン。黒髪と赤茶色の瞳の青年が界塚伊奈帆。両者共に周囲の喧騒は全く意に介した様子は見せていない。

 

 図太い神経をしているなと一夏は彼らに尊敬の念を抱いた。自分と同じ境遇の仲間と親睦を深めておこうかと思い立った一夏が話しかけようとした時、チャイムが校内に鳴り響く。

 チャイムが鳴り響くのと殆ど同時に教室のドアを開けて一年一組の副担任である山田真那と一夏が見知った人物が現れた。

 

「ち、千冬姉っ!?」

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者。公私の区別をつけろ」

 

 出席簿の痛烈な一撃が頭部に直撃した一夏は命中した箇所を擦りながら自身の姉を見る。職業を聞いても答えてくれなかった為に以前から抱いていた『姉は何の職業をしているのか』と言う疑問は今ようやく解消された。

 

 ブリュンヒルデの異名を持つISの世界大会であるモンド・グロッソの初代チャンピオン、織斑千冬の登場によって男性操縦者の三人が集まり只でさえ浮き足立った雰囲気があった一年一組は女子生徒達の歓声を皮切りに熱狂の嵐に包まれる。

 

 本来であればホームルームの時間を使って、数日前から練っていた生徒達への激励の言葉を言うつもりだった千冬は生徒達を静める事だけに時間を費やされた為に、表情には出さなかったが心の中で無念と呟いた。

 

 

 ****

 

 

 IS学園は他校とは異なり、僅か三年間でISについての知識や操縦技術を身につけなければならないと言う理由から入学式の当日、しかも一時間目から授業が始まる。

 

 伊奈帆は教室の前側に備え付けられている巨大なスクリーンに映し出されているISの基礎理論についての内容をノートに書き取りながら、ISを実際に動かせる時を心待ちにしていた。

 

 今、抱いている感情はかつて高校に入学した時に兵科教練でカタフラクトを動かすことになると教師から聞かされた時に抱いた感情と本質的には同じモノだが、かつて抱いた感情よりも更に強いモノだった。

 

 数日前、部屋に備え付けられていた端末の画面に映っていた青空を自在に躍動するISの姿を見た時、伊奈帆は久しぶりに特定の物に対して大きな興味を持つと共に自分もISを動かしてみたいとの欲求に駆られた。

 

 その欲求も数日後には満たされる。伊奈帆は知らず知らずの内に口元に小さな笑みを浮かべながら授業に臨む。伊奈帆の隣の席に座る篠ノ之箒が初めて感情らしいものを見せた伊奈帆に少し驚いたのは余談だ。

 

 一限目が終了した事を告げるチャイムが鳴り響く。次の時間に使う資料を取りに教室から千冬が出て行くのと同時に再びクラス内に喧騒が満ちる。

 

「よう」

 

 参考書に目を通そうとした伊奈帆は自分に声をかけた人物の方に顔を向ける。声をかけてきたのは自分と同じ男性操縦者の織斑一夏だった。

 

「織斑一夏だ。同じ男同士、これからよろしく頼むよ。えっと……何て呼べばいい?」

 

「界塚でいいよ。こちらこそよろしく」

 

「ああ。じゃあ俺のことも一夏って呼んでくれ。……それにしても、周りが殆ど女子しかいないって想像以上にキツいな」

 

 伊奈帆たちから少し距離を置いて互いに牽制しながらこちらに視線を向ける女子達をチラリと見て、早くも疲労の滲んだ表情を見せる一夏に伊奈帆は同意の意味を込めて頷く。

 

 余り気にしないようにはしているが、それでも女子生徒たちの様々な感情を含んだ視線に晒され続けるのは気持ちの良いものとは言えない。

 

「そうだね。でも慣れるしかないよ、男性操縦者の僕たちはこれから三年間当人の意思に関係なくIS学園で過ごさないといけない」

 

「……少し、いいか?」

 

 伊奈帆の言葉に一夏が返事をしようとした時、一夏へと声をかける人物がいた。一夏に話しかけたのは長い髪をリボンで纏め、鋭い眼光と佇まいから抜き身の刃を思わせる少女、篠ノ之箒。

 

 伊奈帆もISの開発者である篠ノ之博士の血縁者と言う事と、他の生徒とは明らかに異なる彼女の佇まいから隣の席に座る彼女の自己紹介は特に印象に残っていた。

 

「もしかして、箒か?」

 

 緊張の余り他人の自己紹介が耳に入っていなかった一夏は話しかけてきた女子生徒が過去に幼馴染みであった少女だと言う事に今さらながら気がつき、胸の内に感動と懐かしさが去来するのを感じた。

 

「……知り合い?」

 

 二人の様子を見て、伊奈帆の口から出た問いに一夏は肯定の意を示した。

 

「ああ、幼馴染みだよ」

 

「一夏。その……話がある、付いてきてくれ。界塚も構わないな?」

 

 特に引き留める理由もなく、場所を移すという事からプライベートな会話なのだろうと考えた伊奈帆は構わないと言葉を返した。

 

 二人が教室を出て行くのと共に伊奈帆は教室の扉から参考書へと視線を移そうとし、教室の奥にある席から聞こえてきた女子生徒の甲高い怒声を聞き視線を声の発生源へと向ける。

 

 声の主はカールがかった艶やかな金髪と端整な顔立ちが目を引く白人の生徒だった。彼女のまるでモデルのような様になった立ち姿と所作の一つ一つから感じ取れる気品から伊奈帆は女子生徒が高貴な身分だと推測した。

 

 そして彼女の視線の先にいるのは、伊奈帆の見知った人物であるスレイン・トロイヤード。女子生徒の怒声によって教室に響いていた喋り声は一瞬で途絶えた。

 

「あなた、今なんと言いました!!」

 

「貴女には貴族の誇りはないのか、と言ったんですよ。セシリア・オルコットさん」

 

 怒りを隠そうともせず激昂した様子のセシリア・オルコットに対してスレインは冷え切った言葉と視線を送る。

 二人の周りにいた女子生徒たちは二人が放つ空気に耐えられないのか、その場から離れていき二人の周囲からは誰も居なくなった。

 

「あ、あなたは私の事を侮辱しますの!?」

 

「先に僕と、僕の大切な人達を侮辱したのは貴女の方だ」

 

 スレインが発したその言葉を聞き、セシリアの怒りは止めどなく上昇し続け、端整な顔立ちは見る見る内に怒りによって歪んでいく。

 

 張り詰めた雰囲気を伊奈帆は肌で感じながら、教室にいる生徒たちと騒ぎを聞いてやってきた他のクラスの女子生徒と共に二人を見守る中、授業の開始時刻が来たことを意味するチャイムが鳴り響く。

 

「開始時刻になったというのに何をやっている!」

 

 他のクラスの生徒たちはチャイムと同時に猛スピードで各々の教室に戻っていき、このクラスの生徒も同じく猛スピードで各自の席についた。

 

 騒ぎの中心である二人も席に座り、セシリアの方は隣に座るスレインを般若のような凄まじい形相で睨み付けているが、スレインは全く意に介さず無視を決め込んでいる。

 

 セシリアはその反応を受けて怒りが更に燃え上がり、昂ぶる感情のままに本来の彼女なら発さないであろう品位を欠いた言葉を隣の席に座る忌むべき男へとぶつけようとした時だった。

 

「ひっ!」

 

 教壇から自分に向けて放たれる無言の圧力に気付いたセシリアは小さく悲鳴を漏らし、恐る恐る視線をスレインから教壇に立つ人物───織斑千冬へと向ける。

 自分に向けられている視線に身の危険を感じたセシリアは織斑千冬が受け持つ授業は他の事柄に意識を向ける余裕はないと理解した。

 

「さて、授業を始める前に少し時間を使って再来週行われるクラス対抗戦の代表者を決めようと思う」

 

 挨拶の直後に千冬が放った言葉により、先ほどの一件で静まり返っていた教室は一気に色めき立った。千冬が教壇に備え付けられている端末を操作するとスクリーンにクラス代表がどのような役割なのかが図で表示される。

 

「クラス代表は生徒会の会議や委員会の会議に出席することが義務付けられている。まあ、ここまでは一般の学校で言うクラス長がする仕事と変わらないな」

 

「だが、クラス代表はそれらの仕事に加えて先ほど言ったクラス対抗戦などに文字通りクラスの代表として参加しなければならない」

 

「一学年である諸君らには、まだ適用されないが二学年からはクラス代表はそのクラスの生徒の基準として扱われる事になる。つまり、より重要な役割を担う存在となる事を知っておいてくれ」

 

「クラス代表は一度決まったら変更は認められない。クラス代表についての説明は以上だ、今から十分間時間を設ける。……ああ、自薦他薦は問わんぞ」

 

 話を終えた千冬は教室の脇にある椅子に座ると副担任である麻那と事務に関する話をしていた。しかし既に大半の生徒たちは彼女らには目もくれず近くの席同士で相談をしていた。

 

「あの!私は織斑君を推薦します」

 

「私も!織斑先生の弟だし、クラス代表も大丈夫でしょ!」

 

「えっ!?」

 

 数人の女子が上げた一夏を推薦する声を皮切りに、それまで相談をしていた女子達は相談をする時間はもう終わったのだと悟った。

 

「私はトロイヤード君がクラス代表にふさわしいと思います!」

 

「異議なし!」

 

「私は界塚君を推薦します!」

 

「私も!何というか界塚君からは底知れないものを──────」

 

 教室中の推薦する声を聞きながら、推薦される側である彼らはと言うと。

 

 一夏はこの状況についていけず混乱し、普段は感情を余り表に出さない伊奈帆もこの状況を見て勘弁してくれとでも言いたげな表情を浮かべている。スレインは経験した事の無い状況と雰囲気に圧倒されているのか、どこか呆然とした様子になっていた。

 

 

 ****

 

 

 放課後、周囲からの視線と時折すれ違った時に同じ一組の生徒から挨拶を受けつつ自室へと向かいながら伊奈帆は午前中のあの出来事を回想していた。

 

 事の顛末は一夏、スレイン、伊奈帆、そして国家のIS代表操縦者、その候補生であるセシリア。各々に推薦した人数が殆ど同じになった結果を受けた千冬は二週間後に放課後、アリーナで四人で総当たりの試合を行い総合勝利数が一番多い者がクラス代表を務めると言う案を出した事でその話は終わりとなった。

 

 その授業のあと、千冬から専用機を提供してくれる企業のリストが記入された書類を受け取った。千冬が言うには安全確保の為の保険との事らしい。確かにISを有していれば万が一の事態にも対応できる。

 

 回想しながら歩いていると前の廊下がやけに騒がしいことに伊奈帆は気付く。騒ぎに巻き込まれるのは無論嫌なのだが、自室はこの廊下の先にある。自室へとたどり着けるルートは他にはない。

 

 騒ぎに巻き込まれないことを祈りつつ、歩みを進める伊奈帆は騒ぎの中心へと辿り着いた。ビンタか何かをされたのだろうか右頬が赤く腫れた一夏がある部屋の前で土下座をしていた。

 

「……一夏、何かあったの?」

 

「伊奈帆!いや、その、詳しくは言えないけどトラブルが起きてな。箒が部屋に入れてくれないんだ」

 

 伊奈帆が一夏から話を聞いていると騒ぎを聞きつけて近くの部屋のドアから顔を覗かせた女子達が伊奈帆たちに気付き、周りに集まってくる。

 

 出てきた女子達は部屋の中でくつろいでいたのか全員ラフな格好をしており、殆ど女子しかいないと言う事もあってか一部の女子に至っては身に着けている衣服がパーカーとショーツだけと言う際どい姿を衆目に晒していた。

 

「これは、凄いな」

 

 眼前の光景に絶句する一夏だったが伊奈帆の言葉に停止しかけた思考が再び回転しだすと共に自分達が置かれている状況の不味さに気付く。

 

「箒、いや、箒さん。頼むから、部屋に入れてくれ!このままだと不味いので。本当に」

 

 切迫詰まった様子で部屋のドアを高速でノックしながら発した言葉はドア越しに立つ箒へと届いた。一、二分の沈黙のあと閉ざされていたドアが僅かに開く。

 

 一夏が部屋へと入った事で、騒ぎは収まり女子達は一夏の部屋を知る事ができたと喜びながら自室へ戻っていった。伊奈帆も課題と二週間後に控える試合に向けて基礎を徹底的に学習するべく自室へと早足で戻るのだった。

 

 




 

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