IS-アルドノア   作:たまごねぎ

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 何とか十二月中に投稿する事ができました!上手くいけば次の話も十二月中に投稿できそうです。


第4話

「ここは……」

 

 目隠しを外されたスレインは自分がこの世界に出現した場所である格納庫に連れてこられた事を周囲を見て理解した。

 

「さて、トロイヤード君。君をこの場所に連れてきた目的ですが、君がISを起動させられるかどうかを確かめる為です」

 

「君が所持していたペンダントがISである事は先ほど話しましたね。どうしてISを使えない男がISを所持しているのか……色々と考えたのですが最もらしい理由は思いつきませんでした」

 

 独房での情報交換の際にスレインは自分が所持していたペンダントがISであると老人から聞かされていた。

 

 何の変哲もなかったペンダントがどうしてISに変化したのか、その不可解な出来事についてスレインは間違いなく格納庫で起こったどちらかの出来事が関わっていると踏んでいた。

 

「しかし、君の所持していたISには何らかのロックが設けられていてね。学園内の教員に起動させる事ができない事とIS内にあったデータベースに君の名前が存在した事を受けて、君にあのISを動かせる可能性が生じた」

 

 『君は別の世界から来た人間ですしな』と顎髭を触りながら老人はそう言った。ISの事を知っている者が聞けば一笑に附すであろう言葉。しかし老人の言葉を笑う者はこの場には誰もいなかった。

 

「君が所持していたISは更に奥の方にあります、行きましょう」

 

 

 ****

 

 

「馬鹿な……」  

 

 スレインは自分から数メートル離れた場所に全身に未知の器具とケーブルを差し込まれたモノを見て、絶句した。

 

 

 

 機械の騎士。

 

 

 

 眼前の存在を一言で表すなら、その言葉が最も相応しいだろう。従来のISとは違いそのISは全身が所々に金色の装飾が施された白銀の装甲で覆われており、その優美な姿は中世の王侯貴族が戦の時に身に着けていた甲冑の様だった。

 

 

 タルシス───元はクルーテオ伯爵が保有していたカタフラクトだったが彼の揚陸城を襲撃したザーツバルムの手によって奪取された後、自分に託された機体。あの戦争で自分と共に幾度となく死線を潜り抜けた愛機が目の前に佇んでいた。

 大気圏突入の際にドラッグシュートの代わりとなってスレインの命を救った引換に原型を留めぬほど大破し、鉄塊と化した筈の愛機がどのような要因に依る物かは分からないがISとなって再びスレインの前に現れた。

 

「知っているのですかな?このISを」

 

 思考の渦に呑まれそうになったスレインだったが、老人の言葉によって現実へと引き戻される。こちらへ訝しげな視線を送ってくる老人にこのISがかつて自分が搭乗していたカタフラクトである事を伝える。

 

 この機体がもし元の世界のタルシスが変化した物だとするなら先に老人が言っていた学園内の教員には起動させることができない原因に説明がつく。

 

 アルドノアの起動因子。

 

 ヴァース帝国のカタフラクトは例外なくアルドノアドライブを搭載しており起動させる為にはヴァース皇帝、またはその血族から借り受けた起動因子が必要だ。起動因子を持たない者にはアルドノアドライブが搭載されたカタフラクトを起動させる事はできない。 

 

 これまでの得た情報から推察するにこの機体には高確率でアルドノアドライブが搭載されているはず、ならば起動させる事ができない理由にも説明がつく。

 

「君は機体に乗り込むだけで構いません。そうすれば後はIS側が起動のプロセスを踏んでくれます」

 

 老人の言葉に従い、タラップを登って機体に乗り込む前にスレインは何を思ったのか真紅のフェイスガードで覆われた双眸を一瞥する。機体に乗り込むと同時に展開された頭部装甲がスレインの頭を覆う。

 

 瞬間、機体内部を青い輝きが満たす。

 

 金属質の鋭い音が頭の中に響く。そして次の瞬間、自分の意識に情報の濁流が流れ込んでくる。何故かは分からないが、その濁流の中にかつて戦場で目にした光景が混じっていた。

 

 タルシスの初陣となったノヴォスタリスクでの戦い、サテライトベルトで味方を次々に撃墜していくオレンジ色の悪魔の姿、父と呼んだ者が機体ごと自分が放った銃弾で爆散する光景、自分を卑しい犬と蔑んだ男の乗るカタフラクトの首をブレードで切断した光景、そしてタルシスの拳で頭部を破壊されながらも拳を突き出すオレンジ色のカタフラクトの姿を最後にかつて目にした光景は流れ込んでこなくなった。

 

 スレインは理解する。これらの光景は自分が見た光景であり、それと同時にタルシスが見た光景でもあると。

 

 光景は流れ込んでこなくなったが、このISの情報は未だ意識に流れ込んでくる。タルシスと自分が融合、あるいは一体となるような感覚がスレインを包み込み────ISと搭乗者であるスレインが根源で『繋がる』

 

 

【 ALDNOAH DRIVE 】 起動────

 

「まさか、本当に起動するとは」

 

 男がISを動かしたと言う前代未聞の事態が目の前で起こったからか、老人は声を僅かに震わせながら白銀の甲冑を纏ったスレインを驚愕の面持ちで見ていた。

 

 老人に限らず、その場にいた者達はこれまでの常識を覆された為に一様に驚きを顔に浮かべている。

 

「……ISの機能は問題なく働いていますな。トロイヤード君、体に何か違和感を感じたりはしませんか」

 

 現在スレインは起動させるまで知りもしなかったISに関する様々な情報を全て把握、理解していた。そして何よりあらゆる感覚が搭乗前と比較にならないほど鋭敏になっている。

 

「大丈夫です。問題ありません」

 

「結構。それではISを停止させて貰えますかな」

 

 起動させた際に流れ込んできた情報の中には停止させる方法も存在していた。スレインは老人の言葉に従いISを停止させた。停止すると同時に機体の装甲が開放され、そこから老人達が立つ場所の手前にスレインは立った。

 

 老人を初めとするこの場にいた者達が何れも顔に驚きの感情をうかべる中、目を閉じて何事かを思案している様子だった老人が目を開き、スレインの今後を決定づける提案を口にした。

 

 

 

****

 

 

 

「この封筒の中には入学に関する書類が入っている。それと、これがISについての参考書と授業で使用する教科書だ。本格的な授業の開始まで数日しかないが一通り目は通しておけよ」

 

「これが、参考書と教科書……?」

 

 渡された教科書と参考書の分厚さにスレインは軽く圧倒される。軽くページをめくってみるが、間違いなく五百ページ以上はあるだろう。

 これだけのページ数の本を数日で読むことは不可能ではないかと言おうとして口を開きかけたスレインだったが、反論は許さぬと言わんばかりの視線を送ってくる千冬を見たスレインは口を閉ざす事にした。

 

 それから学園の規則や設備に関する簡単な説明のあと、千冬は本題であるスレインの戸籍についての話を切り出した。

 

「さて、トロイヤード。お前の戸籍についてだが学園側で偽の物を作成しておいた。万が一、偽の物だと判明したとしてもIS学園内に居る限り、お前は学園が責任をもって保護する」

 

「……そうですか。ありがとうございます、織斑さん」

 

「織斑さんではなく、織斑先生と呼べトロイヤード。この学園に入学する以上、お前はこの学園の生徒なのだからな」

 

「分かりました」

 

 最後に住む場所についても手配済みであることをスレインに伝えると千冬はスレインと言う男性操縦者の登場によって増えた書類を片付ける為に職員室へと戻っていった。

 

 入学まで残された時間は少ない、今すぐに渡された書類や教科書などに手を付けなければ本格的な授業が始まってから苦労する事になる。部屋に戻る直前、何を思ったのか持ち運びに最適な形──ペンダントの形状になっているISを握り締めるとスレインは部屋へと戻っていった。

 

 

****

 

 

 部屋の手前まで戻ってきたスレインは千冬から渡されたキーを鍵穴に差し込みドアを開けた。ドアを開けた直後、スレインの視界には豪奢な部屋に似つかわしくない“軍服を着た眼帯の青年”が部屋の中央に立っている姿が映った。

 

「これはどう言う状況なのか説明してくれるか。スレイン・トロイヤード」

 

「界塚、伊奈帆──────」

 

 異なる世界で再び二人は巡り会う。この出来事がどのような結果を生むのか。それは誰にも分からない。

 

 




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