とあるメイドの学園都市   作:春月 望

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難産でした……
すごく久しぶりな本編です!3月中に終わるといいな!六巻!


不幸で幸運な彼

「心を正気に保ちなさい!」

 

しばらくの沈黙のあと、私は思わずそう叫んだ。

氷華はびっくりしたように、私をみた。

 

「あなたがもし、人間ではないとしたら、なぜあなたはここにいるの」

「そ、それは……」

「人間じゃなかったとしても、あなたがここまで作った思い出は、偽物だっというの」

 

人間ではない。

例えば、御坂美琴のクローンである妹達も、本物の人間ではない。

もともとが殺されるために造られている妹達は成長速度が早く、寿命が極端に短いという話だ。

例えば、お嬢様は妖怪で人間ではない。

お嬢様は日光に弱くて、私がまだメイドになりたての頃。転んでお嬢様の上半身を灰にしてしまったことがある。それでもお嬢様は、すぐに復活した。人間ではない何よりの証拠である。

この両方のパターンでも、二人ともこの世界に生き、この世界で思い出を作っている。

 

「そんなことは、ありません!」

「……っていうか、そんなこと言ったら私たちだって人間じゃないじゃない。こんなわけのわからない能力を持っておいて、普通の人間なんて言えるはずがないもの……」

 

幻想郷でも、能力は普通ではない。

人里では能力の存在が知られていても、もっている人間は一握りだ。

 

「そう……ですよね」

「時間、戻すわね」

「あ、すみません」

 

セピア色の世界が色を取り戻せば、あたりは雑音に包まれ始めた。

 

「行きましょう。当麻を追うわよ」

「え、あ……はい」

 

そのまま、私たちは地下街をかけた。

天井がある地下街は、音が反響して塗れていた。

 

「あの……咲夜さん」

「なに?」

「……やっぱり、なんでもありません」

「あらそう」

 

それだけ言ったとき、私は目の前に見覚えのあるツンツン頭を見つけた。

 

「当麻っ」

「咲夜!?って、風斬まで……なんで白井を待ってなかったんだ!?」

「別にいいでしょう」

 

そして私は手にナイフを構えることにした。

ギラリと銀色のナイフは輝いて、私の霊力を少しだけ混ぜると、それは赤や青に変化する。

現代科学では決して明かされることのないであろう、私だけの色だ。

 

「咲夜……?」

「私もちょっとはやってみたくてね」

 

当麻にとって、私は一応保護対象であるらしい。が、自分の身くらい自分で護れるし、逆に当麻がいる方が邪魔だとはとてもじゃないけど言えないのであった。

 

「________来た」

 

巨大な石像の巨大な何かが振り下ろされ、私と当麻は避けた。

 

「……あら?これ、当麻が?」

「別になんもしてないぞ。俺はただ、友達を護ってほしいっつっただけだ」

「したんじゃない」

 

氷華の周りには、警備員が守るように取り囲んでいた。

当麻は氷華が真っ白であることを知らないのだから、きっと彼女は正真正銘の人間であると思っているのだろう。

実際はそんなものとは無縁であるとは思っていないはずだ。

私はとりあえずクスリと笑ってから、ふたたびナイフを構えた。

 

「エリス________」

 

石像の向こうにいるシェリー=クロムウェルが何か呟いていた。

私はナイフを構え、エリスに向かって投げの姿勢をとった。

こういうとき、学園都市は面倒だ。ダミーで殺し用じゃないナイフ型の霊弾が一切使えないのだから。

石像の一部が壊れ、攻撃にひと段落つけば今度はシェリーに向かってナイフを投げた。

 

と、次の瞬間。

私から逃げるように、石像の全てが崩れた。

 

「え!?」

 

シェリーの姿もどこにもない。

先ほどまで彼女がいた場所には、大穴が広がっていて。

 

「どこ行った!?」

「地下街の外、でしょうね……」

 

ナイフをしまい、私は黒子を探すことにした。

 

「氷華っ」

「は、はい」

「あなたはどうする?」

「へ……?」

 

当麻は幻想殺しのおかげで黒子の空間移動が通用しないが、人間じゃないだけの氷華には問題ないはずだ。

 

「私、黒子を探すけど。あなたもくる?」

「は、はいっ!」

 

茶色の髪を揺らし、彼女の目の色が変わる。

 

「おい、そんなことしたら一体どうなるか……」

「地下街のシャッターはしばらく開かない。こちらがいくら安全だといっても、管理側がきちんとチェックしないと開けてくれないのよ……その間、彼女の狙いがなんなのかはわからないけど、学園都市がぐちゃぐちゃになる可能性も十分あるでしょうね」

 

当麻は自分の右手を見た。

幻想殺し、どんな異能にも通用する代わりに一般人にはなんの役にも立たないそんな能力。

 

「……じゃあ、頼んだぞ」

「あら、珍しく素直なのね」

「咲夜の実力は俺も知ってる。不安だけど……外にはインデックスたちがいるんだ。もしなにかあったらって考えたら……」

「私はどうなってもいいの?」

「いや、そういうわけじゃ……っ」

 

私は一瞬思わずクスリと笑ってしまった。

そんな私を氷華も当麻も不思議そうに見上げる。

 

「わかってるわ。私だって己の傷つけるなんてバカみたいな真似はしないもの。……それに、この地下には地下鉄が通っていることぐらい知ってるでしょ?」

 

そして、地下街の最も人が集まったシャッター前まで時を止めて駆け出した。

するとすぐそこに、黒子がいたのはとても幸運なことで。

私たちは彼女に、外へ出してもらうことができた。

 

シェリー=クロムウェルの狙いは知らない。

それでも、誰かのために動いているのは明白だった。

もし建物ならば、最初に暴れたのは地下街じゃなくともよかったはずだ。地下街で暴れたのち、どこかに逃げたのなら。きっとターゲットは、誰かしらの人間なのだろうから。そしてそれは、風斬氷華でもないはずだ。

シェリー=クロムウェルを追い詰めるには、まだ情報が足りなかった。

 

それに、万が一私が追い詰めきれなくて、真相にたどり着けなくてもきっと大丈夫。

()()()()()()彼が、全てをいっぺんに守ってくれるのだろうから。

本来は私なんて邪魔者で、いようがいまいが変わらないのだから。

 

……ま、お嬢様からの命があるからこの件には関わるけど。




不幸で幸運な彼はこれからも不幸です。

咲夜さんは割と強いのですが、ちょっとネガティヴ感が最近出てるような気も。
物事はきっぱり決め、可、不可を分けるタイプな気がします。
すごく主人公向いてない……けど楽しいから良い。
六巻を3月中に終わらせるためには難産だろうとなんだろうと春休み中にどうにかする次第です!

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