「……ねぇ美琴」
「どした?」
「この学食レストランってなに?」
「あー?なんか色んな学校の学食やら給食を食べれるとこよ」
へぇ、と私はそのファミレスのようなレストランに目を向ける。
「入ってみる?」
「いいわよ別に。今の常盤台のご飯で満足してるしね」
「……コンセプトはそういうことじゃないんだと思うけど……ま、咲夜がいいならいいわ」
苦笑して美琴がまた歩き始めた。私もそれについていく。
学食といえば常盤台中学の給食費はかなりのものだったりして、それに見合うような腕前の料理が出てくる。
お嬢様のお口に合うような味ではないのが難点だが……まあそこは特にお嬢様には関係のない話。 私の口に合わないというわけでもない。というか、逆に好みだ。お嬢様のお口に合うように料理をし始めてから味覚が変わりつつあるのも事実だが。
「で、どこいくのよ?」
「ゲーセン」
「ゲーセンねぇ……美琴もそういった類は好きよね」
____________ドカッ!
小さなポン、という音がしたと思えば、眩い閃光が視界に映った。
それから、あたりの人間が揃って逃げていく。車やバスに乗っていた人物も、押し合いへし合いビルへと駆け込んでいった。
「……美琴?」
「いやな予感がする」
閃光の発生元を睨みつけるように立つ美琴に私もそちらへ目を向けたが、特になにも見えなかった。
気づけば周りには誰もいなくなり、この広い地下街に私と美琴だけ。
「ちょっ、美琴!?」
彼女は駆け出した。
私は____________ちょっとズルをして時を止めた。
セピア色の中、閃光の元で見えたのは黒子によってドレスを縫い付けられているゴスロリを着た女性だった。横に目を向けると、黒子もいた。美琴の言っていた「いやな予感」とはこのことかと私は思いつつ、ゴスロリの女性をまじまじと見た。
黒と白のドレスは魔理沙を連想させるが全く違う。フリルは付いているものの、これは黒いドレスに白いフリルをつけただけのようだ。これを私の知っている白黒と重ねるには無理がある。
それに、肌もガサガサだった。見っともない金髪を伸ばし、先ほど語ったドレスにしても、ところどころ擦り切れていたりとボロボロだった。
あの白黒でも、これほどボロボロで紅魔館に姿を現したことなんて異変の時しかない。けど、この女性は。さっき汚したドレスを着ているのではなく、随分前から汚れ続けているドレスを着ているように感じた。
対する黒子は……そんなボロボロの女性に攻められて今にもな感じだった。おまけに足はよくわからないものに噛み付かれているようだ。
私はため息を付いて、黒子に触れた。
「…………………………え?」
「ようやく喋ったわね。仕事かしら?」
私は持ち歩いていたナイフを取り出し、黒子の足が出るようにカットした。
黒子はそこから出ながら、
「え、ええ……しかし、一般人の干渉は例え咲夜であろうとも了承出来ませんわ」
「あら、それが命の恩人にいう言葉なのね。ま、私なんかがあなたを助けなくとも美琴が来たのでしょうけど」
と、私は黒子を連れて影まで隠れて再び時を動かした。
今気づいたが、あのゴスロリ女性のすぐ後ろには瓦礫をくっつけたような大きな『腕』があった。
それに気づかないあたり、私がどれだけこの戦いに興味がなかったかを物語っている。
世界が色を取り戻したとき、黒いレイピアのようなものが、その巨大な『腕』の手首の部分を切断した。
「……あれ?黒子?」
颯爽と現れた美琴は、そのレイピアをバラバラに砕かせながら辺りを見渡す。
「こっちよ」
「あ、そっか。咲夜がいたのよね」
さて、と美琴は呟いて手首のなくなった『腕』を睨みつけた。
そして彼女はコインを弾く。
おおよそ彼女が超電撃砲を名乗る理由を知らしめるような、強烈な一撃を放つためだろう。
「________私の知り合いに手ぇ出してんじゃないわよ、クソが!!」
ゲームセンターのコインを弾くだけ、といえば簡単だが、彼女はこれでも学園都市三位の電撃使いである。
そのコインは空気摩擦によって溶けてしまうために射程距離は五〇メートルと少ないものの、速さは音速の三倍だ。
そして残った『腕』は爆発した。
「……逃げたわね」
ドレスを縫い付けられていた女性がいないのをみて、私がポツリと呟くと美琴から「みたいね」との言葉が返ってくる。
しかし黒子からの言葉はなにもない。
「お姉様ぁ……」
とか思っていたら、美琴に抱きついた。
最初はびっくりしたのか引き剥がそうとしていた美琴も、黒子が少し震えているのをみて抵抗をやめる。
「ったく、アンタも多少は私を頼りなさいよ。咲夜だっているわけだし。いっつも一人で解決しようとするからこーなんのよ」
真剣な眼差しで黒子の頭をぽんぽんと撫でる美琴に、思わず私はクスリと笑ってしまった。
「んな!?な、なんで笑うのよ、咲夜!」
「黒子をみてみなさい」
「……うっふっふ。これぞまさしく千載一遇のチャンスですわ。こうして近づけばお姉様の胸の谷間へと思う存分……」
「ちょ、黒子ぉ!?人がせっかく真面目に慰めようと……」
見るからに微笑ましい、そんなやりとりを私は少し離れたところで見ていた。
微かに黒子の目は涙で濡れている。泣き顔を見られたくない黒子らしいと、私はふと思った。
一週間以内にできたらいいなぁ(願望