とあるメイドの学園都市   作:春月 望

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久しぶりの日曜更新です。明日?未定です。


闇坂逢魔は静かに笑う

「咲夜でも無理だったのか!?」

「ええ……ごめんなさい」

 

チッと舌打ちが聞こえる。

私が無意識に当麻をみると、慌てたように『咲夜に向けたものじゃない』と言ってきたが、私は別にそんなのを気にするような人間ではない。

その時、ぴょんっ!と何かが屋根から降りてきた。

 

「!スフィンクス!」

 

スフィンクスはミャー、と鳴いて自分についてこいとでも言うように走り始める。

私と当麻は顔を見合わせ、後を追った。

当然だが、猫の足は普通の人間よりすばしっこい。特にスフィンクスのようなまだ若い猫なら当然である。

つまり__________、こうなる。

 

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

 

これは当麻の息切れだが、はっきり言えば私も辛い。時を止めて休めばいいのだが、なんとなくそうしたくなかった。

 

「……ここ?」

 

ついたのは、ホテルだった。

それなりの値段がするホテルだったはず。時々美琴が利用しているらしく、前にゴミ袋にここの領収書がポイ捨てされていた。

ふとスフィンクスへと目を向けると、彼はゴミ箱を漁っている。

 

「お腹空いたの?」

 

当麻はなんともいえない顔をしているが、まあ何も食べてないのだから仕方がない。猫はゴミ箱を漁るものだ。

 

「おいいいいい!!!テメエは飼い主に対する恩義っつーモンはねぇのかぁーーー!!!」

 

叫ぶ当麻を横目に、ホテルを見上げた。

 

「__________」

「どうした?咲夜」

「……いいえ、なんでもないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

 

 

 

 

 

「ほう、縄縛術は私の専門ではないとはいえもう縄を一つ解いたのか」

 

とある女性の写真を見ていた闇坂逢魔は、顔をあげてインデックスを見た。

 

「こんなのじゃ、私は喋らないんだよ。それに、咲夜は……とうまは、来てくれるから」

 

インデックスはそう言って、また一つ縄を解く。

縄縛術は日本独自の拷問技術だ。三日も四日もたって、血が止まり腐っていく己の手足をみることで『早く解放されたい』と思う心を利用する拷問技術である。

とはいえ、インデックスも伊達に魔道書図書館をやっていない。彼女は意図的に貧血状態を作り、痛覚を鈍らせることだって出来るのであった。

 

「己を見捨てた人間をまだ信じるのか。まあ私の知ったことじゃないが」

「咲夜は私を見捨てたんじゃないよ。だってこれは、咲夜の良心の表れだもん」

 

そう、インデックスは知っていた。

十六夜咲夜がどんな人間かを、きちんと知っていた。

本人から聞いたわけではない。確信が持てるわけでもない。

けど、言葉の端々。それから、彼女の人間に対する情の掛け方。彼女は十六夜咲夜がどんな人間かを、薄々ながら感じて知っていたのだ。

そんなインデックスだから言える。十六夜咲夜は、こんな人間簡単に殺すことができるはずだと。それをしないということは、彼女が優しさを見せている証なのだと。

そして__________十六夜咲夜は自分に精一杯の優しさを見せてくれていることを。

 

「随分と余裕だな」

「余裕じゃないよ。こんな結び目の強い拷問されてたら」

 

十六夜咲夜は変わった。何をきっかけに、と言われればわからないが、それでも変わったと思う。

少なくとも、こうして人を殺さない程度には。

 

「こんな肺を圧迫したり腕や足の動脈を止めるのはよくないもん。生かすつもりなら、親指を軽く縛れば動きを封じられるのに」

「なるほど、専門家は詳しいな」

 

闇坂は軽くいって、インデックスの縄をいくつか解いていく。

これには思わずインデックスが面を食らってしまった。

 

「君も気づいていたようだが、私は君を拷問するつもりはない。魔道書が欲しいのも事実ではあるがな」

 

インデックスは咲夜の良心を信じた。

 

「さて、まずは準備のための結界を張らねばな」

 

そうして彼は細いしめ縄を使って結界を貼り始めた。どうやら縄縛術が苦手だというのは謙遜らしい。

インデックスのことは常に意識の端に留めておくレベルのものらしく、その辺に転がされていた。

魔女狩りにおける拷問はオレンジジュースを搾り取るようなものだ。ジュースをつくるためのオレンジがどうなってもいい、つまりこの場合はインデックスの持つ魔道書が重要なのであってインデックスのことはどうなってもいいはずだった。

なのに放り出されているだけなど、捕虜としては贅沢の域なのだった。

とはいえ捕虜はどうでもいいなんて心から思える人間はそう多いわけがない。拷問をする人間の多くは暗示や魔草を使うことによって罪悪感を打ち消しているぐらいだ。

ふと、彼女の意識は咲夜に向いた。

 

彼女なら、きっと躊躇なく出来るはずだ、と。

 

逆に彼はそれができない人間だ、と、インデックスは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、咲夜、アンタ何やってんのよ!もう門限が……」

「許可はもらってるわよ、それぐらい。美琴こそ大丈夫なの?」

「うぐっ!?」

 

さて、ここで美琴の出番は本格的におしまいであったりする。

つまり無駄な茶番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美琴と別れてしばらく。

当麻がインデックスから電話が来たと言った。

曰く、インデックスに〇円携帯とかいうのをもたせているらしいが……彼女は使い方をいまいちよくわかっていないらしい。

彼女の科学力は当初私と同レベルだったはずだが、たかが一ヶ月でここまで変わるものなのか。

しかし、彼女は電話をしてきた。いや、それとはまたちょっと違うかもしれない。謝ってボタンを押してしまったことかららしかった。その証に、当麻からの「もしもし?」の言葉に応答していない。

 

『なに。結界を張ったのはコイツの威力を少しばかりかさ増しするためだ。この弓は元々祝い事で使うべきものだから』

『……、梓弓?』

『素晴らしい。日本(こちら)の文化圏もカバーしているのか』

 

当麻の携帯に耳をそばだててみれば、そんな声が聞こえた。

これは、確か博麗神社で見たことがある。あの怠け者の霊夢とはいえ、これぐらいの神道の知識は持っているらしく、聞いたら教えてくれた。

これは射るのではなく弓を引いて弦を鳴らす衝撃で、魔を撃ち抜くものらしい。本来は神楽の舞に使われる楽器で、神降ろしに使うともいっていたが、霊夢は針と札が得意分野だし、こっくりさんで神霊呼び出せるのでどちらの用途でも使わないらしいけど。ただ飾ってあるだけなんだとか。

 

『元々の威力はそう大したことはないが、このように一定の条件が揃えば、心の詳細まで読むことができる。例えば、そうして必死で隠している一〇万三〇〇〇冊の魔道書でさえ、な』

 

インデックスが子供のように叫んだ。

普通の人間なら一冊でも読めば発狂すると。特別な魔術師でも、三十冊も耐えられないと。

しかし、闇坂逢魔は静かに笑った。

 

「無論、百も承知」




美琴ちゃんの扱いを雑にして見たかった。
なんでこの子いるの?っていうのやってみたかった。
しかし私はインデックスより美琴ちゃん派です。

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