とあるメイドの学園都市   作:春月 望

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変わってしまったメイド

携帯の着信音が、静かだった部屋に鳴り響いた。

私が手を伸ばして携帯電話を見ると、そこには『上条当麻』と書いてあった。

 

『あっ、もしもし咲夜?』

「なに?」

『わりぃ、御坂の部屋番号ってわかるか?』

「二〇八だけど。いきなりどうしたの?というか今は黒子しかいないんじゃないかしら」

『くろこ?』

「ええ、美琴と同室なの。じゃあ、案内するからとりあえず二〇六押してくれる?」

 

そういうと、しばらくしてチャイムが鳴ったのでキーを解除すると玄関まで時を止めて向かった。寮監がいないのを確認し、時を動かすと当麻を迎えた。黒猫を抱いていたが、とりあえずスルーである。

本当は客人をこんな適当に迎えちゃいけないらしいが、まあいい。バレなきゃいいのだ。

 

「いらっしゃい」

「なんつーか、すげぇ豪華だな……」

 

と、レッドカーペットを見て当麻が言う。

 

「そう?こっちよ」

 

階段を登り、二〇八号室をノックすると中から黒子の声がした。

 

「どちらさまですの?」

「私よ。入っていい?」

「ああ、咲夜でしたの。どうぞ」

 

木のドアの開けると、黒子が私の後ろを見てびっくりしたように固まった。

美琴のベットの上で寝ていることには、もう驚かない。

 

「!?」

「知ってるでしょう、当麻よ。美琴に用があるんですって」

「は、はあ、そうでしたの」

 

黒子は飛び上がり、美琴のベットに座り直した。

 

「では、そこのベットに腰掛けてくださいですの。咲夜はどうしますの?」

「そっちに座るわ。すぐ帰るし」

 

と、私は黒子のベットに腰掛けた。

 

「座らないの?」

「いや、さすがに本人の許可がないのに……」

「大丈夫よ、そっちが黒子のベットでこっちが美琴のだから」

「なにやってんだアンタ!」

「黒子はそういう星の元に生まれたんだから大目にみてあげて。それに、世の中には誰の許可もなく自室に入ってくるヤツもいるしね」

「最悪じゃねぇか!」

 

黒子はこんなことは言われ慣れているため何事もなかったかのように振舞っている。

 

「えっと……後輩じゃなくて同級生だったのか?」

「いえいえ、私は一学年ですのでれっきとした後輩ですわよ」

 

平然と黒子は答え、当麻と美琴についての会話を始めた。

私は喉が渇いたので適当に麦茶を飲んでいたが、途中でそれをぴたりととめてしまった。理由は簡単、カツカツという寮監の足音が聞こえたからである。

 

「……黒子」

「ま、まずいですわね……」

 

黒子も同じことを察したらしい。そして次の瞬間、当麻をベットの底に押し込み始めた。

 

「な、なにやってるの?」

「もう、しょうがないですわね!私のテレポートで……って、アレ!?」

「当麻はそういうの効かないのよ、私が外に連れてくから……ってもう!」

 

え?なんですの?と強引に当麻をベットの下にねじ込んだ黒子が言う。ベットの下からは、当麻の唸り声が聞こえてきた。

 

バンっ!

 

といつものように勢いよくドアが開く音がして、寮監が現れる。

 

「白井。十六夜も一緒か。夕食だ、食堂へ集合せよ。……御坂はどこだ?門限破りなら減点と見なすが構わんか?」

「いえいえ。本当に急用なら外出届けを出す暇などないと思いますの。私はお姉様を信じて減点は受け取りません」

 

黒子がぐいぐいと寮監の背中を押してでていき、私は部屋に残った。

 

「当麻」

 

私がひょこりとベットの下を覗くと、当麻はぬいぐるみをいじっていた。

美琴が校則で禁止されているが、持ってきているものたちが入っているぬいぐるみだ。

ぬいぐるみはところどころにファスナーがついていて、それを開けると香水やらハンドクリームやらが出てくるのである。

当麻は何かを読んでいるようだった。

 

「なに読んでるの?」

「咲夜、まだいたのか!」

「いちゃまずかった?」

 

当麻がベットの下から読んでいた資料と共に出てきたので、それをひったくると読み始めた。

 

(レベル6への、シフト……?)

 

「おっ、おいっ!」

一方通行(アクセラレータ)ね。当麻、知ってる?」

「何をだよ」

一方通行(アクセラレータ)についてよ。彼は学園都市の七人のレベル5の一人でありその頂点。ありとあらゆる向き(ベクトル)を操ると聞くわ」

 

噂でしかないが、おそらく本当である。

二位と三位の間には、越えられない壁があるそうで。あの美琴に勝てたらしい当麻でも、彼を倒すのは不可能に近いかもしれない。

 

「クローンを二万回殺す、ね。そりゃ大変な作業だこと。これか、美琴が抱えていたのは」

「?」

「私と美琴はね、ついこの間、これの元となる資料を見つけたのよ。それがこの前読んでた資料。そこには、クローンの量産を行った結果などが書かれていて、超電撃砲のクローンはほとんど力がなかったから実験を永久凍結するってあったの。けど、これを見ればわかるように再びクローンは生み出されているようね」

「じゃ、じゃあ……」

「あの子はきっと、妹達(クローン)を助けるつもりよ。けど、残念ながら私はこれから夕飯だから」

 

私はドアを開け、駆け足で食堂へと向かった。

とりあえず食事を摂ろう、話しはそれからだと自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を摂って、部屋に戻るとすぐに美琴の姿を探した。

セピア色の空で、目を凝らした。

 

「いたっ!」

 

時間なんて関係ないのに、高速で急降下して息を整える。

 

「み、こと……」

「さくや……?」

 

彼女は泣いていた。

太ももには、当麻が寝ていた。気を失っているようだった。

 

「っ……」

 

その時、小さなうめき声をあげて当麻が目を開けた。

 

「さくや?」

「遅れてごめんなさいね。美琴、泣くのはやめなさい。実験に行くのでしょう?私も当麻も止められないわよ、友人の涙なんて見たくないもの」

 

ああ、私は変わってしまった。

涙なんて見たくない、そんな人間に変わってしまった。

けれどこれもいいかもしれない、友人を救うことが出来るんだから。

 

 

しかし、問題点があった。

超電撃砲が一方通行を倒したところで、レベルが同じなのだからと流されて終わるかもしれない。時間操作が一方通行を倒したところで、能力の容量が上回ったと思われるだけかもしれない。

けど、上条当麻はこう言った。

 

「そんなの、俺がやればいいじゃねぇか」

 

何言ってるんだ、と、さも初めからそうするつもりだったかのように。




変わってしまいましたね。
まあ……まだまだ変わる余地はありますけどね。


そして始めて定時投稿です。
今はまだ前日になってます。

これからは8時にします。タグつけます。

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