紅魔館や常盤台には劣るものの、それなりに豪華な玄関。
当麻曰く、ここは「ここの塾に入ろうかな」と考えた人へいいイメージを与えるためのものなんだと言う。
まあ、確かにボロボロで時代遅れな所より、豪華で現代風の方がいい気がする。
「__そんなことより」
と、私は言葉を切った。
当麻とステイルが、不思議な顔をして見てくる。
「彼らは私たちに気づいていないみたいね」
「え?」
視線などはおろか、先ほど急接近していた生徒がいた。
気づくことなくどこかへ行ったが。
「あと」
「まだあるのか?」
「むしろこっちの方が本題よ」
ひくり、と漂う匂いに感覚を寄せる。
うん、間違いない。
「……この、血の匂い。致死レベルよ」
一番近くて__あそこから。そこへ向かうと、そこには力尽きた騎士の姿。
「ほら、ね。もう死んだも同然だわ」
「き、救急車!」
「ばかね。そんなことしたってもう助からないわ」
「その通り。ほら、さっさといくぞ」
当麻は悔しそうに眉をひそめ、アレ?っと止まる。
「……なんで、こいつら気づかねーんだ?」
「さっき言ったでしょう。彼らがいるのはコインの表のようなもの。なら、裏にいる私たちに気づくわけがないじゃない。きっと、この血まみれの人も裏の人なのよ」
私はそのまま、エレベーターを無視して階段へと向かう。
えっと……向かうべき階は……
「エレベーターは?」
「……潰される可能性を無視するのなら、利用すれば?」
うげぇっと当麻は顔をしかめておとなしく付いてきた。
……それでいいのだ、それで。
「なあ、ひとつ聞いていいだろうか」
「なに?ステイル」
「なんで、君はそんなに血の匂いに敏感なんだ?」
「……なんで、って言われても……」
吸血鬼に支えているために毎日嗅いでいる匂いだから、とか言えばいいのだろうか。
いや、それだとちょっと刺激が強すぎるかもしれない。まず、これから
じゃあ__
「私の一家は殺し屋だったのよ」
「!?」
……そんなに刺激的なことだろうか?
少なくとも、物心ついた頃からそんな家にいた私にはわからない。
「こ、こ、こ、殺し屋!?」
「え、ええ。今は離縁してるから(吸血鬼の)殺しはしてないけど……」
三人で揃って廊下を歩む。
ステイル曰く、この建物全体がコインの裏らしく、歩くときの衝撃はそのまま私たちに帰ってくるのだという。
確かに、疲れる気がする。
……この二人はそれどころではないようだけど。
「よ、よかった……って言えばいいのか?」
「ま、それが生き業なんだから大目に見て欲しいわね。もう私には関係ないけど」
うん、疲れた。
私はバレない程度に浮いた__けど、ステイルには気づかれたようだ。
……あれ、魔術師って霊力にも詳しいのだろうか。
「……魔術?」
「なわけないじゃない。私は能力者、それに魔術なんてみたことしかないわ」
「じゃあ……」
「霊力、気づいてるんでしょ?魔力じゃないって。魔術なんて大それたものでもない。能力なんて言えるものでもない。浮いた理由はただ一つ、疲れるからよ」
とりあえず言葉を並べ、当麻でもわかるレベルに高度を上げた。
「!?なっ、えっええっ!?」
「私の周りでは当たり前だったけどね。こっちじゃ珍しいらしいし」
そして、またバレないレベルに(バレてるけど)高度を下げる。
ふう、とため息をついたところで当麻の顔に少し違和感を覚えた。
「どうしたの?」
「いや……インデックスどーしてんのかなーって」
「電話してみたら?」
「え、寝かしたんじゃねーの?」
「そうだけど……あの子のことよ、きっと起きてるわ」
そうだな、と当麻が携帯を取り出して自宅へかけ始める。
すると、インデックスの声が聞こえてきた。
「……嫉妬してるの?」
「しないわけがないだろう」
「そうね」
「あの子は色々な人と親しくしてきた。父親になろうとした人、親友になろうとした人……けど、あの子は忘れてしまった」
思い出してくれれば、すぐにでも飛びついてくるはずなんだよ、とステイルは言った。
「……でも、今は逆ね。忘れたのはインデックスじゃなくて、当麻なんだから」
ぼそっとそう呟いたが、誰にも聞かれてはいないようだった。
ここは五階だろうか。気が遠くなるような長い非常階段を抜け、ドアの向こうへと足を踏み入れた。
「__……」
あるのは、目、目、目、目。
一六〇もの目が、こちらを見ている。じぃっと、生気のこもっていない目で。
「__熾天の翼は輝く光、」
一人の声は二人になり、二人の声は三人になる。
八〇の魔術の大合唱が、部屋を覆い尽くしていく。
そして、魔術と思われる弾幕が見え__
「
私は当麻の命運を祈りながら時を止めてその場から少し離れた場所へと移動する。
「まるで、
クスリ、と気づけば笑っていた。
けど、時を止めることをやめたところで彼は逃げて行く。
私は今度は苦笑した。
「こんなのいちいち相手にしてられっか!」
「それじゃあ意味がないじゃないか!」
なので私はまたまた時を止める。
「いい?これはゲーム。制限時間があるゲームなのよ。ルールは簡単、避けるだけ」
そうはいったものの、私たちは階段まで走ってきていた。
それを話しているだけで、ここまで来てしまったという方が正しいかもしれない。
「……これは戦闘なんかじゃない。ってことで、頑張りなさい」
どんっ。と当麻を階段へと突き落としといた。
咲夜さんはつおい。
あと、これからも読み返しします。
頑張ります。