一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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課題と始まり

 

「なぁ、箒、翼」

 

 時間は放課後、場所は剣道場。昼の予定どおり翼達は訓練をしていた。

 のだが––––。

 

「……あ〜」

 

「どういうことだ」

 

「いや、どういうことって言われても……」

 

 とりあえず今の一夏の力を知るために箒と試合をさせたのだが、1分もまたずに一夏が負けた。 それも完全な完封負けだ。

 

「……どうしてここまで弱くなっている!?」

 

「えーっと、受験勉強してたから、かな?」

 

 頬を掻きながら苦笑いを浮かべる一夏。

 それに対し箒はこめかみを痙攣させながら質問した。

 

「一夏、お前中学では何部に入っていた?」

 

「帰宅部。3年連続皆勤賞だ」

 

「あ、それはすごいな。立派なことだ」

 

 感心して頷く翼とそれに対して少し照れながら頭を掻く一夏。

 2人の間には穏やかな空気が流れていたが、箒は違った。

 

「––––なおす」

 

「はい?」

 

「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後3時間、私が稽古を付けてやる!」

 

「えっ、いや、それより先にISのことを––––」

 

「まぁ、それ以前の問題ではあるのは間違いない」

 

 一夏の反論の言葉が終わる前に翼が遮った。

 

「正直あれじゃ、ISに乗っても振り回されるだけでまともに扱えないぞ。

 ISはロボットじゃない。パワードスーツだ。補助はあれど動くのは自分なんだ」

 

「うっ」

 

 と図星を突かれたじろぐ一夏を見て箒は––––。

 

「軟弱者め」

 

 軽蔑の眼差しを一夏に向けながら言い、更衣室に向かった。

 翼はそれを見送ると、挑発を含ませながら言う。

 

「さて、どうする? 現在最底辺の織斑一夏くん?」

 

「……」

 

 一夏は少し俯いてから何か決心したように顔を上げた。

 

「決まってるだろ。最低辺なら後は上がるだけだ!」

 

 はっきりと言い、落ちていた竹刀を拾って素振りの構えを取る。

 

「おう、その意気だ。俺も付き合ってやるよ」

 

 翼はいつの間にか持っていた竹刀を一夏に向け構えた。

 

「えっ? でも、翼、お前防具は? いくら竹刀でも当たると怪我するぞ」

 

「心配すんな」

 

 少し笑いながら言い、その表情を真剣なものにさせる。

 

「今のお前の攻撃は絶対に当たらないから」

 

 言うと同時一夏向けて竹刀を思いっきり振り振り下ろす。一夏はそれを下段からの切り上げで受ける。

 その後連続で竹刀同士が激しくぶつかり合う音が道場に響いた。

 

◇◇◇

 

 そして翌週の月曜日。セシリアとの対決の日。アリーナのピットに翼達はいた。

 

「なんだ、一夏」

 

 一夏の呼びかけに先に答えたのはISスーツを着込んでいる翼。

 

「気のせいかもしれないんだが」

 

「そうか、気のせいだろ」

 

 次に答えたのは箒。その顔にはわずかに冷や汗が浮かんでいる。

 そう、一夏には問題がひとつあった。それは––––。

 

「ISのことを教えてくれる話はどうなったんだ?」

 

 ISに関することを“何一つとして教えていない”ということだ。

 

「「……」」

 

「目 を そ ら す な」

 

 あれから6日間一夏は箒と翼(特に箒)に剣道の稽古をみっちりつけてもらっていた。

 だが、一番の問題はそれしかしていなかった、というところだろう。

 

「ま、まぁ、しょうがないだろ。俺と違ってお前のISまだなかったんだから」

 

 箒がうんうんと同意するように頷く。

 

「確かにそうだけど、でも、基本的なこととか教えられるとこあっただろ!」

 

「……」

 

 箒は目をそらしたが翼は腕を組み自信満々に告げた。

 

「いや待て。大丈夫だ、心配するな」

 

「はぁ? なんでだよ」

 

「俺の戦い方を参考にすればいいんだよ」

 

 こういう無茶なことを平然と言い切れるあたりはやはり、あの2人の子供、ということなのだが翼本人がそれを自覚することはおそらく一生ないことだろう。

 

 一夏が「無茶だ」と言う直前にスピーカーが鳴った。

 

「岸原、準備しろ」

 

 千冬の声がアリーナピットに響く。「了解」と翼は答えてすぐさまISを展開させた。

 

 翼の体が光に包まれたがその光はすぐに消え去り、そこには彼の専用ISであるユニコーンが展開されていた。

 

「それが、翼のISか……」

 

「ああ、そういや見せたこと無かったな。そう、これが俺のIS、ユニコーンだ」

 

 翼がそう言うとそれに同意するかのようにユニコーンの2つのセンサーアイが光る。

 

 ユニコーンの最大の特徴はその特異な形と色だろう。

 展開されたユニコーンを箒は興味深そうに見て呟く。

 

全身装甲(フル・スキン)か。珍しいな」

 

 そう、箒が呟いたようにユニコーンは翼の全身を覆うように展開されている。

 色は本体の九割ほどが純白だった。残りの一割は関節部などのみだ。

 

「え、なんでだ?」

 

「その辺の説明は俺が全部終わってからしてやるよ」

 

 翼はそう言いピットゲートに進む。

 進みながら翼は「ああ」と何かを思い出すかのように一夏に向けて言う。

 

「一夏、きちんと準備しとけよ次の相手はお前なんだからな」

 

 この試合に勝った者が一夏と戦い、その勝者がクラス代表となる。それゆえ、翼の言葉は誰にでもわかる明確な勝利宣言だった。

 一夏は一瞬、驚いたような顔を浮かべたがすぐに力強く頷き答える。

 

「ああ!」

 

 翼は行ってくると言うように軽く手を挙げるとユニコーンをカタパルトに接続して強く前方に視線を向ける。

 各システムを確認したところで千冬から通信が来た。

 

『翼』

 

「はい」

 

 千冬は通信に表示される翼の顔を真剣な顔で見つめて言う。

 

『天狗になったあいつの鼻を思っ切りへし折って来い。いいな?』

 

「……了解です」

 

 その翼の返事を聞いて千冬は通信を終える。

 

(千冬さん。気付いていなかったみたいだけどさっき俺を名前で呼んでたよな)

 

 翼はふっと口元を緩め笑う。

 

(俺のことも心配してくれるのか……)

 

 ユニコーンの基本武装であるビームマグナムとシールドを展開させ中腰の姿勢をとる。

 

「本当、俺は周りの人達に感謝しないとな」

 

 小声でそう言うと同時にランプが点灯、3つの緑のランプが一つずつ消えていき残り一つになり。

 翼はゆっくりと息を吐く。

 

「岸原翼、ユニコーン––––」

 

 大きな警告音と同時に最後の緑のランプが消えて、赤いランプが3つ点灯した。

 

「––––出る!!」

 

 カタパルトに乗って白い一角獣は勢い良く空に飛び出した。


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