一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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短めなので今日の夕方か夜にも投稿します。


純白の大翼

 一夏は構えている雪片弐型でバイコーンへと切りかかる。

 それをひらりとかわしたバイコーンへと左手の新装備【雪羅】で追撃。

 

 白式が第2形態へと移行したことで表れた左腕の雪羅は状況に応じてタイプを変更する。

 一夏のイメージに答えるように、指先からエネルギーが放出、クローが出現した。

 

「逃がさねぇ!!」

 

 伸びたそのクローがバイコーンの右腕を捉える。

 腕そのものがシールドになっているためさしたるダメージは与えられていないが動きを止めることはできた。

 そこへと雪片弐型を振るう。

 

 バイコーンはそれを掴み、止めた。

 完全に拮抗した2機だったがバイコーンの脛からビーム刃が展開、それを蹴りを入れるように振るう。

 

 一夏は雪羅で掴んでいた腕から手を離し、その足を受け止めたがすぐに反対の足で蹴飛ばされた。

 

 飛ばされた一夏へと両手のひらを向けてビームを放つ。

 

「食らうか!」

 

 それを避けようともせず、雪羅をシールドモードへと切り替えてそれを構えた。

 甲高い音を鳴らし、雪羅が変形。すぐに光の膜が広がりバイコーンから放たれたビームを消した。

 

 これはただのシールドではない。

 エネルギーを無効化する零落白夜をシールドに応用したものだ。

 エネルギー消費は多いがその性質上攻撃を完全に無効化できる。

 

 射撃が無駄だと悟ったのかバイコーンはすぐさま一夏への距離を詰め、両腕のクローを振るう。

 それを一夏は雪片と雪羅で弾き防ぎながら応戦。

 

 どちらも機動力の高い機体ゆえか高速で移動しながらの格闘戦を繰り広げた。

 通常ならば下手に援護できない状況。

 

 あの時の自分は浮かれていた。今のような状況でも嬉々としてあの場所に突入したことだろう。

 

 しかし、今は違う。

 

 きっかけはどうであれ一夏は戻ってきた。だが、いくら第2形態移行したとはいえ自分のせいで彼がもう一度沈むことだってありえる。

 

 あの2機の間にはいるのが怖い。

 足がすくむ、手が震える。

 しかし、それでも意志だけはまだ折れていない。それどころか強く燃え続けている。

 

(私は、もう……足手まといなどにはならない)

 

「私は、まだ!戦えるぞ……!紅椿!!」

 

 まるでその言葉に答えるかのように紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出した。

 

 ハイパーセンサーには機体のエネルギーが急速に回復していることを表している。

 

 ––––【絢爛舞踏(けんらんぶとう)】発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築……完了。

 

 それは、紅椿のワンオフ・アビリティーだった。

 

(そうか……答えてくれるか。お前は)

 

 箒はキッと表情を引き締め、一夏の援護へと飛ぶ。

 

◇◇◇

 

 福音を相手取るセシリアたちは依然劣勢であった。

 戻ってきた一夏と箒によりバイコーンを考えなくてよくなったとはいえそれでも相当に強い相手。少しでも油断すれば容易に落とされる。

 

 福音が全方位へと弾幕を放つ。

 セシリアとそれに乗るラウラは回避、シャルロットの後ろに鈴音が隠れて攻撃を防ぐがそれもいつまでも持たない。

 

 すぐにエネルギー翼で繭のようなものを作り出したかと思うとそこからビームが放たれた。

 狙いはシャルロットだ。

 

「鈴は離れて!」

 

 咄嗟に予感を感じたシャルロットは鈴音を押し飛ばすと変わらず4枚のシールドを前面に向け、その攻撃を受け止める。

 

 だが、その攻撃は今までの弾雨とはエネルギー密度が桁違いで勢いよく吹き飛ばされた。

 

「シャルロット!」

 

「大丈夫!吹き飛ばされただけだから!」

 

 鈴音の声にシャルロットは姿勢を立て直し上昇しながらすぐさま答える。

 しかし、機体の方は防御に専念し続けていたせいでそろそろ限界がきている。

 今の攻撃はあと1度防ぐのが限界だろう。

 

 シャルロットがステータスウィンドウを見て奥歯を噛み締めた時だった。

 

「え?なに……これ」

 

 レーダーが何かの反応を捉えた。

 それはすぐさま他の機体にも表示され、皆が困惑の表情を浮かべる。

 

 熱源は1つだけ。しかし、その速度が異常なまでに速い。

 紅椿以上は余裕で出ている。などと思っている間にもさらに速度を上げていく。

 

「戦域突入まであと––––」

 

「シャルロット!!」

 

 疲れとレーダーに目を取られていたせいか集中がふっと途切れた。

 ラウラの声で再び意識を戻す頃には福音が先ほどと同じように翼で繭を作り、ビームを放とうとしていた。

 

「あっ––––」

 

 防ぐのは間に合わない。回避は言わずもがな。

 シャルロットはこの後に訪れるであろう衝撃、痛みに耐えるように奥歯を噛み締め、目を閉じた。

 

 そんなシャルロットへと容赦なくビームが放たれる。

 その寸前、なにかが福音のエネルギー翼とその本体を切り裂きながら通り過ぎた。

 

 シャルロット含めた4人が疑問の声を上げる前に福音の前を通り過ぎたそれは急上昇と共に反転、再び福音へと接近し、もう一度切り裂く。

 

 福音はその攻撃を防ごうとしたが速度もあってか完全に防ぐことができずに大きく吹き飛ばされた。

 

 それは急停止、ゆっくりと4人の方へと向き直る。

 ようやくゆっくりと確認できたのは白い装甲と白い大翼、そして額から伸びた白い角を持つ機体。

 

「ま、さか……」

 

「あ、あんた」

 

「よ……かった」

 

「…………遅い」

 

 セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの順で思い思いの言葉を純白のそれに向ける。

 

 その言葉を受けた純白の機体ユニコーン・メドゥス。その搭乗者である岸原翼はいつも浮かべるものと同じ笑顔を浮かべて答えた。

 

「ああ、みんな。よく頑張ったな。でも––––」

 

 福音が体勢を整え、ゆらりと空中に浮かんでいる。

 狙いはすでに決めてあるのかユニコーンの方を向いていた。

 

「––––あと、もう少しだけ力を貸してくれ」


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