一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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飛び立つ者

「許す……か。俺自身を」

 

 黒いユニコーンはゆっくりと立ち上がった。

 3人はその姿を見ながらこくりと頷く。

 

「俺は、何が出来ると思う?」

 

 その問いに中学生の少女が答えた。

 

「わからない」

 

 ユニコーンは、翼はゆっくりと頭をあげながら質問を続ける。

 

「俺は、何をすればいいと思う?」

 

 その問いに小学生の少女が答えた。

 

「わからない」

 

 今度はその両手を天へと伸ばしながら問う。

 

「俺は、どこに行けるんだ?」

 

 女性が首を横に振りながら答えた。

 

「わからない」

 

 そうか、と翼はフッと笑みをこぼす。

 

 そんな答えが返ってくることなど最初から理解していた。

 自分ですらわからないのだ。

 そんなものを他人が分かるわけがない。知るわけがない。教えられるわけがない。

 

 だが、それでいいのかもしれない。

 

 そうやってわからないことを悩み続けて、生き続けることが贖罪なのかもしれない。

 

 何をすればいいのか、何が出来るのか、どこに行けばいいのか。まだわからない。

 

 この手足には枷がある。まだ暗闇の中にいる。

 しかし、自分を責め続けてうずくまっているだけでは何もできない。

 

 だから、ほんの少しだけ自分を許そうと思った。

 もう少し、上を向いてみようと思った。

 そうしながら償いをしていきたいと思った。

 

「俺は––––」

 

 伸ばされた両手を強く握りしめると同時に黒いユニコーンの背中から真っ白の大翼が1対伸び始めた。

 

 それがいつまで、どれくらいかかるのかなんてわからない。どこまでその道が続いているのかもわからない。

 

 だが、それでも……いや、だからこそ––––

 

「––––生きる!」

 

 その大翼が大きく開かれると黒いユニコーンの外装が吹き飛んだ。

 新たな力を纏ったそれは大翼を大きく羽ばたかせると勢いよく飛び立ち、その空間から離れて行く。

 

 残されたその場所でそれを見上げるのは2人の男女。

 

「行ったな……」

 

「……ええ」

 

 飛び立ったその影はどんどん遠くへ飛び、小さくなっていく。

 

「あいつには、何もできなかったからな」

 

「……そう、ですね」

 

「次に来るときは、もっと強くなっていろよ。(いのる)

 

 男性はそう言うとどこか満足げな笑みを浮かべた。その隣の女性はその顔を見ると笑みを浮かべて静かに寄り添い、飛び立つそれを見送った。

 

◇◇◇

 

 ユニコーンが沈んだその場所が光ったかと思うと突如爆発。巨大な水柱が立ち、その中からは白いISが現れた。

 

 細身な全身装甲(フル・スキン)のそのほとんどを白に染め、頭部アーマーから伸びる天を穿たんと伸びる1本の角。

 その前では機体とほぼ同じ全長を持ち、生物的な流線形を持つ大型のウィングバインダーが閉じられている。

 

 それは閉じていた1対の大翼を大きく広げて羽ばたくことで付いていた水滴を吹き飛ばす。

 

 何かを探すように数度辺りすと目的の物を見つけたのかわずかに方向転換すると大翼を力強く羽ばたかせてその方向へと飛翔した。

 

◇◇◇

 

「……目覚めたのね」

 

 空を見上げていると少女が言った。

 その言葉でふと隣に視線を移したがそこにはあの少女はいない。

 

「あれ?」

 

 辺りを見回すが人影はどこにも見当たらない。

 ただ波の音だけが響いていた。

 

「力を、欲しますか?」

 

「え?」

 

 急に耳に届いたその声の方を向くと女性がいた。

 その姿は白く輝く甲冑を身に纏っており、さながら騎士を思わせる格好だ。顔も目を覆うバイザーのようなものに隠されており、下半分ほどしか見えない。

 大きな剣を自らの前に立て、その柄の上に両手を添えている。

 

 その女性はもう一度、一夏に問う。

 

「何のために、力を欲しますか?」

 

「……友達、仲間を守るため」

 

「仲間……」

 

「ああ、もう、誰かに守られて引っ張られるだけじゃダメなんだ。俺は、あいつに守られてばかりだった」

 

 頭に思い浮かぶ彼は1人だった。

 自分は確かに彼の友人だ。しかし、そうであったからこそ彼に頼られることはなかった。

 

 もう叶わぬ願いだが彼の隣に立てるほど、強くありたい。

 彼の代わりはできない。彼の代わりにはなれない。

 

「あいつには恩がある。あいつがやり残したことを、俺はする。そのための力が欲しい」

 

「そう……」

 

 女性はその答えを聞いて何を思ったのだろうか。ただ、静かに頷いた。

 

「だったら行かなきゃね」

 

 後ろから声をかけられ、振り向く。

 その先には白いワンピースを着た女の子がいた。

 人懐っこい笑みで、無邪気そうな顔でただ一夏を見つめている。

 

「ほら、ね?」

 

 その少女に手を取られ、にっこりと微笑みを向けられる。

 一夏はひどく照れくさい気持ちになりながら一度頷いた。

 

 その瞬間、空が、その世界が、眩いほどに輝き始める。

 

 その光景はどこか、夢の終わりのように見えた。

 

◇◇◇

 

「このっ!」

 

 ラウラがレールカノンを放つ。

 

 その先にいたバイコーンは右手を前へと向ける。そこには円形のエネルギーシールドが発生していた。

 

 2発の弾丸はそのシールドに弾かれダメージが入ることはない。

 さらに、バイコーンはそのシールドをまるでフリスビーでも投げるようにラウラへと投げ飛ばす。

 

 それを後退してかわすがバイコーンの左手からビームウィップが伸び、ラウラの前を通り過ぎたそれを捉えた。

 チャクラムに似たそれはバイコーンの腕の動きに合わせてラウラを襲う。

 

 しかし、ビームチャクラムの刃がラウラを捉える寸前でそれが箒が放った光の帯によって切り裂かれた。

 そのまま上空からバイコーンへと急降下で接近しようとしたが、両サイドのスカートアーマーが可動、砲門が向けられたかと思うとすぐにレールガンが放たれた。

 

 それを回避するがバイコーンはブースターを吹かして急接近するとその手の爪を振るう。

 

「くっ!」

 

 その攻撃を受け止めたが勢いは重く海面へと叩き落とされた。

 海面に衝突する寸前にスラスターを全開で吹かし、波飛沫を上げて急上昇。しかしバイコーンは変わらず箒を狙っている。

 

「箒!」

 

 ラウラが射撃でバイコーンの狙いを惹きつけようとしたが横から吹き飛ばされてきたシャルロットにぶつかり中断された。

 

 そのせいで動きが止まっている2人へと福音が頭部から生えているエネルギー翼から放たれた光の弾丸が向かう。

 

 2人が光弾に襲われる直前にセシリアが押し出すことでギリギリのところでその攻撃が当たることはなかった。

 

 さらに攻撃を続けようとした福音へと鈴音が切りかかることで阻止する。

 

 戦況は彼女たちが完全に押されていた。

 

 福音とバイコーンが第2形態移行(セカンド・シフト)したことが原因で翼の残した行動パターンに当てはまらなくなった。

 また、単純に性能が上がっているせいで数で押しきるということもできなくなった。

 

 さらに一夏が墜とされたことも重なり2機の分断もできなくなり、福音の射撃とバイコーンの両腕の近接の連携をまともに受けることになっている。

 

 福音が放った弾雨をセシリアはかわすがその回避した先にはバイコーンが両手を向けていた。

 その手のひらが光ったかと思うとビームが放たれる。

 

 それはシャルロットが前に出ることでセシリア、ラウラを守ったがその衝撃を相殺しきることができずに吹き飛ばされた。

 

「うわあぁぁぁあ!!」

 

「シャルロットさん!」

 

「よくも!!」

 

 セシリアの上に乗っていたラウラがレールカノンを向け、放とうとしたが横から飛んできた福音の弾雨によってセシリア共々吹き飛ばされた。

 

「くそ!」

 

 そんな2人に追撃をかけようとするバイコーンへと箒は切りかかる。

 

 その攻撃をバイコーンはその腕で完全に受け止めた。

 力を込めるがエネルギー節約のため展開装甲を出していない今、出力は第2形態移行してる分バイコーンが上だ。

 

 徐々に押し返される中でバイコーンのサイドスカートアーマーにあるレールガンが展開される。

 

「ッ!!」

 

 そこから超加速された弾丸が放たれる直前、海中から荷電粒子砲の一撃が真っ直ぐにバイコーンへと向かう。

 

 それに気がついたバイコーンは箒を投げ飛ばすとすぐに後退。

 海中から飛び出したそれは箒の前に出ると手に持つブレードを構える。

 

「悪い……遅れた」

 

 それは白式第2形態・雪羅(せつら)を纏った一夏だった。

 

「さぁ、反撃開始だ!」


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