一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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変革

(いける!)

 

 一夏は確かな手応えを感じながら雪片弐型を振るう。

 対するバイコーンはそれをビームサーベルで受け止めた。

 

 動きの止まったバイコーンへとラウラが横から砲撃を行う。

 それを察知するとそれはすぐさま一夏を蹴り飛ばすと急速後退。しかし、その退路に光弾と帯状のエネルギー刃が飛んで来る。

 

 スレスレのところで1回転し、それらをかわすが狙いを修正していたラウラが放った2発の砲弾がバイコーンへと飛んでいた。

 

 1発はビームサーベルで切ったがもう1発は肩アーマーに命中、大きく姿勢が崩れたところに一夏は零落白夜を発動させ追撃の斬撃。

 バイコーンはそれに切り裂かれ海へと落下した。

 

「よし!次だ!」

 

 一夏たちはセシリアたちが戦っている福音の方へと向かう。

 

◇◇◇

 

 セシリアの高機動からの射撃、シャルロットの多種多様な射撃兵装での射撃が多方向からほぼ同時に福音へと向かう。

 

 片翼がないためか上手く機動制御ができておらず当たり続けるがそのままで終わるわけもなく、弾雨がセシリアとシャルロットへと向けられる。

 

 セシリアは持ち前のスピードで回避、シャルロットはシールドで防ぐ。

 福音の意識が2人に向いているその間に甲龍が急加速で近づき、双天牙月を振るい斬撃を叩き込んだ。

 

 そのせいで狙いが鈴音へと向かったところにシャルロットが放ったグレネードが福音の頭部に命中、爆煙が広がり視界を奪う。

 

 福音が腕を振り、煙を払い飛ばすがその時にはもう遅く、その場所に鈴音の姿はない。

 しかし、代わりに真っ直ぐに進むシャルロットの姿があった。

 

「はぁああああッ!!」

 

 手に持つのは1本のブレード、福音はそれを手で握り攻撃を止めていた。そこから押し切ろうと力を込めるが出力ではシャルロットの方が下だ。

 

 次第にシャルロットが押されるなか、福音は大翼の砲門を向けるがその背中にセシリアの射撃が3発命中。

 それを見るや否やシャルロットはブレードを捨て、距離を取る。

 

 それと同時に鈴音が振るった双天牙月が命中、福音を海面へと蹴り飛ばした。

 

 その海へと落ちゆく福音へとセシリアがスターダスト・シューター、鈴音が衝撃砲、シャルロットがアサルトライフルで射撃を行う。

 

 それらの攻撃を受けながら福音は海へと落ちた。

 

「そっちも、終わったみたいだな……」

 

 その光景を見ていると通信が入ってきた。

 彼女たちが後ろを振り向くとバイコーンを倒した一夏たちがいた。

 

「ええ……そちらも、その様子だと」

 

 こくりと3人が頷く。

 

 終わった。

 失ったものは小さくはない。だが、その仇は取れた。

 

 だが、全てが終わったわけではない。まだこの事件の犯人がわかってはいない。

 この事件の犯人を捕らえ、その罪を償わせる。

 

 それでようやく終わることができる。彼も安らかに眠れることだろう。

 

「……よし、手分けして2機を回収して、戻ろう」

 

 一夏の言葉に全員が頷く。

 疲労を強くその顔に浮かべてはいるがやりきったという満足感もわずかだが感じている。

 目下の心配事は戻った後にあの鬼教官からどんな説教が飛んでくるかということだ。

 

(もう少し、待っていてくれよ……翼。すぐに、本当に終わらせるからな)

 

 一夏がバイコーンが沈んだ海へとゆっくりと降下している時だった。

 海の中から何か光が近づいてくる。

 

 それは次第に大きくなりながら近づいてきていた。

 

「……え?」

 

 その疑問の声と同時に一夏は海から伸びてきた光に飲まれ、海へと沈んだ。

 

 その代わりに海から上がってきたのは1機のISだった。

 

 全身装甲という珍しい分類のISでその装甲は黒。頭部からは2本の角が伸びている。

 背中には大型のスタビライザーをもつブースター、両腕が異常なまでに大きく膝あたりにまである。

 

 それを見た箒とラウラが息を飲み、絞り出すように呟く。

 

「ま、さか……」

 

第2形態移行(セカンド・シフト)……!?」

 

 まるでそうだとも言わんばかりにバイコーンの2つの赤いセンサーアイが光を放った。

 

 そして、最悪は重なる。

 

 福音が沈んだ場所では海面が強烈な光の球によって吹き飛ばされた。

 球状に蒸発した海はそこだけ時間が止まっているようにへこんだまま。

 その中心には青い雷を纏った銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がうずくまっていた。

 

「そん……な」

 

「こんなタイミングで、第2形態移行なんて」

 

「ッ!?くる!!」

 

 福音は頭部からエネルギーの翼を生やし、3機へと真っ直ぐに向かって飛翔した。

 

◇◇◇

 

 さざ波の音で一夏は我に帰った。

 気がつくと波打ち際で打ち上げられていた流木に腰を下ろし、歌いながら踊る少女を見つめていた。

 

「あれ?ここ……どこだ」

 

 辺りを見渡してみるがそこにあるのは海と砂浜と青い空だった。

 空には太陽が浮かび、じりじりと一夏と少女を照らしている。

 

 視線を周りから少女に移すと少女は踊りと歌をやめ、空をじぃっと見つめていた。

 

 知らない少女、知らない場所。

 なぜ自分がここにいるのかも分からなかったが歌も踊りもやめたことを不思議に思い、一夏は流木から立ち上がり少女に近く。

 

「どうかしたのか?」

 

 聞くが少女は答えずに空を見つめ続けている。一夏も何の気なしに同じように空を見上げた。

 

 こんなところでみんなとピクニックでもしたら楽しいんだろうなぁ。と少し場違いなことを一夏は思っていた。

 

◇◇◇

 

 翼は何もない闇の中でただうずくまっていた。

 目を閉じ、耳を塞ぎ、口をきつく結び、全てを拒絶するようにおびえた子供のようにうずくまっていた。

 

 しかしそれでも容赦なく映像が流れる、音が聞こえる、感触が蘇る、においが立ち込める、味が広がる。

 

 五感の全てをそれが支配していた。

 

「もう嫌だ……もう嫌だ……もう、許してくれ……許して……」

 

 ただ翼は力なくそう泣きながら呟いていた。

 

「あなたは……また、そうやって逃げるの?」

 

 それは少女の声ではなく、女性の声だ。

 翼はそれに答えずに目をきつく閉じてさらに小さく縮こまる。

 

「あなたは……そうやってまだ、過去を認めないの?今を見ないの?未来を見ないの?」

 

「……るさい」

 

「いつまで、そうしているの?いつまで、枷に繋がれたままなの?」

 

「うるさい……」

 

「何も変わらないままで、あなたは何を守るというの?その汚れた手で」

 

「黙れぇええええ!!!」

 

 翼はその声の主の首を両手で握りしめる。

 

 その女性はそんなことができるほど近くにいるというのに不思議なほどに姿がおぼろげで、自分の手の上にある顔は霧がかかっているかのようにはっきりと見えなかった。

 

 しかし、そんなことも気にすることなくさらにその両手に力を込め、女性の首を締め上げる。

 

 翼のその想いに答えるかなのようにその体が次第に黒い泥に包まれ形を作っていく。

 

 最終的にできたのはシンクロシステムを発動したユニコーンだ。

 だが、その装甲色は黒でA.E.Bからは炎のようにエネルギーを放出し、頭部のフェイスマスクは獣の口のように上下に開いていた。

 

「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!お前に何がわかる!お前が何を知っている!わかった風な口を聞くなぁああ!!」

 

「ここは、あなたを写す鏡の世界。あなたが見たものはあなたが見たかったもの」

 

 ISの力で首を締め上げているというのに女性の声は何かに押しつぶされたようなものではなく、普通の時と同じ聞こえ方をしていた。

 

「ふざけるな!あれを、あんなものを俺が望んだというのか!」

 

「あなたは望んでいる。贖罪を……でも同時に死に場所を探している」

 

「ッ!?」

 

「あなたは自分が死ぬことを贖罪と思っている……」

 

 形容しがたい違和感を覚えてその手からゆっくりと力が抜けていく。

 女性の目がよく見えなくてもわかる。彼女はユニコーンの拘束から解かれても変わらず翼を見つめる。

 

「だって……だってそうするしかないじゃないか!俺は殺したんだぞ!自分を守った人たちを!なにもできない俺を守って、俺に殺されたんだ!他にどんな償いが出来るっていうだよ!!」

 

 ユニコーンはゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 頭部アーマーの中の翼は嗚咽を漏らしながら涙を流していた。

 

 自分のような人間が生き続けて何になる。

 自分のような存在があって何の意味がある。

 

 ただ、壊すことしかできない自分にこれから死ぬ以外に何が出来る。

 

「償いは死ぬことじゃないよ。––––ちゃん」

 

「償う方法はあるんだよ。––––お兄ちゃん」

 

 泣き崩れる翼に2人の少女が女性の後ろにスッと現れてそう言葉をかけた。

 

「お前……たちは……」

 

 その少女たちが現れたのと同時に暗闇の世界にヒビが入り始めた。

 

 中学生ほどの少女はユニコーンの右肩に手を置いて言う。

 

「生きてても何にもならないかもしれない」

 

 小学生ほどの少女はユニコーンの左肩に手を置いて言う。

 

「存在していても意味なんてないかもしれない」

 

 そして、その女性がゆっくりとユニコーンの頭部、頬の辺りを優しく撫でる。

 

「でも、それがここに居続ける理由にはならない」

 

「俺、は……」

 

「「「もう少し、自分を許してあげて」」」

 

 3人の優しい声音で暗闇の世界が完全に割れ、白い世界が広がった。

 

 翼はただ、言葉を失ってその景色と手を置く3人を見る。

 ユニコーンを介していてもたしかに伝わるのは、懐かしくどこまでも暖かい温もりだった。


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