一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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紫の二角獣

「な、何をしている!せっかくのチャンスが!」

 

「船だ……。識別反応……なし。間の悪い密漁船だ」

 

 密漁船だと言って見殺しにはできない。

 チャンスは無くなったがそれでも彼らを救うことはできた。

 

 あの時とは違って––––

 

「馬鹿者!犯罪者などを庇って……。そんな奴らなど……!」

 

「箒!!」

 

「ッッ!」

 

「そんな、寂しいことを言うなよ。力を手に入れたら弱い奴は無視するのか?お前は。そんなの、箒らしくない」

 

「わ、私……は」

 

 明らかな動揺を浮かべ、それを隠すかのように手で顔を覆う。

 その動作で落ちた雨月が光の粒子に消えていくのを見て、翼の頬に冷や汗が流れた。

 

(今のは……具現維持限界(リミット・ダウン)!?……まずい!!)

 

 具現維持限界。

 端的に言えば武装を展開するエネルギーが枯渇したということ。さらにわかりやすく言うなら、エネルギー切れだ。

 

 そして、ここはアリーナではなく実戦の戦闘エリア。

 

「箒いぃぃいいい!!」

 

 ユニコーンは不知火を収納、すぐさま紅椿の元へと向かう。

 

(間に合えよ!!)

 

 視界の先では福音が再び一斉射撃モードに入っている。そして、その狙いは紅椿だ。

 エネルギーの切れたISアーマーは恐ろしいほどに脆い。そこにはISの世代など関係ないだろう。

 

 たとえ絶対防御を展開できるだけのエネルギーがあれどあの連写を防ぎきれる保証などない。

 

 ユニコーンはギリギリのところで紅椿の前に躍り出た。

 

 何かに福音の光弾が当たり爆発、爆煙が箒の前に広がる。

 

「翼ぁ!!」

 

 まるでその声に応えるように爆煙から左手に半壊した楕円形のシールドを持つユニコーンが飛び出し、福音へと急接近する。

 右手にはロングバレルタイプの突撃砲を持っており、その砲門から弾丸が3発放たれるがその全てを回避された。

 

「つ、翼……」

 

「はぁ、はぁ……っ箒。今すぐにその密漁船を連れて離脱しろ」

 

「な、そんなこと、出来るわけが!」

 

「エネルギー切れで何を言っている!今のお前は足手まといだ!早くここか––––」

 

 翼が全てを言い切る前に高熱原体の接近をレーダーが捉えた。

 それを確認するやいなや急上昇、その後すぐに光がユニコーンをいた場所を貫いた。

 

「な、なんだ……今のは」

 

 箒はその方向を見る。

 そこには紫色のISがいた。それは今、ユニコーンの方へと両側に大型のスタビライザーを持つブースター、そこにあるメガビームランチャーの砲門を構えていた。

 

 全身装甲で頭部には2本の角、その他はユニコーンとほぼ同じ装甲を見に纏っている。

 

「……バイコーン」

 

 翼は奥歯を噛み締めてそれを見つめた。

 

◇◇◇

 

「バイコーンが、暴走した!?」

 

 島の司令室となっていた宴会場の中で源治は通信を入れてきた楓に聞き返す。

 

『ええ、完全に制御不能。沙耶ちゃんとの通信も途切れている』

 

 戦闘エリアを映し出している空中ディスプレイへと視線を移す。そこには銀の福音の隣に並ぶバイコーンが映されていた。

 

「無駄だろうが、制御を取り戻せるか試してくれ」

 

『了解』

 

 楓は言うとそそくさと通信を切った。

 それを確認すると源治は千冬と真耶、そして束に言う。

 

「見ての通り我々が製造していたバイコーンが私たちと操縦者の制御下から離れて暴走した。おそらく、福音と同じやつだろう」

 

「そ、それじゃあ……」

 

「作戦は、完全に失敗したな」

 

 千冬はその映像を睨みつけながらそう呟いた。

 

◇◇◇

 

「……箒、離脱しろ。俺が時間を稼ぐ」

 

「こ、こんな状況でそんなこと出来るわけが––––」

 

「聞こえなかったのか!!」

 

 箒の視界に映る翼の顔には焦りと怒りが入り混じっていた。

 その目は今までにないほどに強く、箒を射抜いている。

 

「…………くっ、わかった」

 

 箒は俯きながら言うと降下、密漁船の壁面を掴むと急発進して島の方向へと向かった。

 

(ああ、そうだ。それでいい……これで後は託せる)

 

 翼は視線を前へ、福音とバイコーンへと向ける。

 半壊したシールドを投げ捨てるとロングバレルの突撃砲を左手に持ち替え、右手に松風を展開、大鎌の刃をビームで生成した。

 視界の右端にあるステータスウィンドウをチェック。損害軽微、戦闘に支障なしであることを確認。

 左端にあるエネルギー残量を確認。バックパックにあるバッテリーのおかげで戦闘するにはまだ充分なエネルギーがある。

 

「さぁって、新型相手にどこまで耐えられるか……だな!」

 

 ユニコーンはブースターを吹かしバイコーンに接近、松風を振るう。

 バイコーンはメガビームランチャーを折り畳んでブースターに収納。腕部装甲からビームサーベルの発振器を装備、ビーム刃を展開しそれを弾く。

 

 それと同時に2機はユニコーンの左右に回り込んだ。

 

 先に飛び込んできたのはバイコーンの方。

 ビームサーベルを振るおうと構えながら急接近。それを接近させないように松風を振るいながら反対側にいる福音へと射撃。

 

 バイコーンは急停止し上昇。その隙に福音が連射。

 ユニコーンがジグザグでそれをかわしていると急降下しながらバイコーンがビームサーベルで横薙ぎ。

 

 松風の大鎌の刃のようにビームを展開しているその基部を掴み直しながら刃を外側に向ける。

 その外側に向けた刃で攻撃を弾きながらバイコーンと入れ替わるように上昇、すぐに上下逆さまになりながら福音の方を向いて射撃。

 

 今度はサブアームも展開させ、そこにある突撃砲も加えた3門の同時射撃だ。

 

 福音はそれ完全にはかわしきれずに装甲をかすめ、2発は命中した。

 

 間髪入れず突撃砲を収納、松風を両手で持ち直しながらバイコーンの方に向かい急降下。

 通り抜け様にそれを振るう。

 

 それをスレスレのところでかわそうとしたバイコーンへとすぐさま左手にロングバレルの突撃砲を展開、それと同時に放った。

 

 全弾命中したバイコーンは姿勢を崩しながら後退、ユニコーンはそのまま海面へと向かう。

 

 海面スレスレで上空に向き直り、サブアームを展開、松風を収納し突撃砲を両腕で構えてると福音へと狙いを定めて撃った。

 

 ターゲットにされた福音は回避行動を取りながら面制圧射撃。

 ユニコーンはそれを回避するどころかその真っ只中に飛び込んだ。

 

 鳴り響く警報音をBGMに右へ左へ、時々止まり半回転、四肢を使い、重心操作を使った予測不能な機動を取りながら福音へと急接近。

 ほぼゼロ距離まで近づいた頃にはユニコーンの右手にはビームマグナムが装備されていた。

 

「とった!」

 

 言うが速いかトリガーを引くのが速いか。

 ともかく放たれた光を福音は左へと回避するが大きな翼までは回避できずに、表面を擦る。

 その部分から溶解し、爆発した。

 

 そのビームマグナム反動を受けながらユニコーンは降下、再び海面スレスレのところで立て直しすぐに前方へと急加速。

 先程までいた場所をバイコーンが放ったメガビームランチャーの光が貫く。

 

 しかし、ギリギリで間に合わず足先を掠めた。

 

 ビームマグナムとほぼ同等の威力のそれは掠めるだけでも充分なダメージを与えられる。

 現にユニコーンの足は溶解し、爆発した。

 

「ッッ!!?このおおお!!!」

 

 ユニコーンは急停止からの急旋回をしながら急上昇。

 松風を展開、分離させた。右手に鎌、左手に斧のビーム刃を発生させる。

 

 バイコーンに近づくと斧を振るう。

 それはビームサーベルで受け止めれられ、2機の間に光が舞った。

 

 そんな鍔迫り合いの中、バイコーンのはユニコーンの右腕を掴み動きを封じた。

 ユニコーンの真後ろには福音が残った大翼の砲門を向けている。

 

「ッッ!!」

 

 ユニコーンの脛の装甲が開き、モーターブレードが回転を始めると同時に振るう。

 流石にそれを受ける気はないらしくバイコーンは投げ飛ばし、その攻撃をかわした。

 

 降下するユニコーンへと福音の光弾が降り注ぐ。

 それに対し、姿勢を立て直す間すら惜しみ、回避。

 しかし当然完全に回避などできずにバックパックに数発命中、本体にも命中し、爆発した。

 

「くそ!」

 

 翼は視界が爆煙に包まれるなかで悪態を吐くと大型のバックパックを分離、予測で真っ直ぐに福音へと飛ばす。

 

 どうやらその予測は当たったらしく福音はそれを撃ち落とした。残っていた燃料に引火し爆発。

 2機の間に爆煙が広がった。

 

 それに臆することなく突入、その先にいる福音へと分離し、斧にした松風をブーメランのように投げる。

 

 当然ながらそんな攻撃が当たるわけもなく、福音は難なく回避。ユニコーンがそんな福音へと追撃を仕掛けようとしたがその間にバイコーンが入り込んでいた。

 

 反射的に鎌を振るったユニコーンのその手を掴むとビームサーベルをダガーモードにしてその切っ先をユニコーンへと向ける。

 

 ユニコーンはリアスカートから伸びているサブアームを介して繋がっているブースターの噴射口を真上に向けて一気に吹かした。

 その勢いにバイコーンは咄嗟に手を離すことができずに引っ張られる。

 

 少し降下したところで急停止、その動きに対応できなかったバイコーンは僅かにユニコーンより下にいる。

 それに脛アーマーのモーターブレードを展開、それで蹴り飛ばした。

 

 蹴り飛ばされたバイコーンの胸部にはくっきりとモーターブレードの後が走っている。

 

 それぞれに損傷を受けた2機は並んでユニコーンを見下ろす。

 それを見上げるユニコーン、その頭部アーマー内の翼は舌舐めずりをした。


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