一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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紅き華

 青い空に紅いIS、紅椿が飛んでいた。

 

 急上昇した時に発生した衝撃波で起こった砂が舞い上がっているのが空から見える。

 

(……これ、は––––)

 

『どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?』

 

「え、ええ、まぁ……」

 

 束もISか、もしくはそれに類したものを装備しているのだろうか、オープン・チャンネルでの会話が飛び込んできた。

 

『じゃあ、刀使ってみよー。右のが『雨月(あまづき)』で左のが『空裂(からわれ)』ね。武器特性のデータ送るよん』

 

 そう言い束は空中に指を踊らせる。

 武器データを受け取った箒は二本の刀を同時に抜き取る。

 この辺りの動作は普通の刀の扱いと同じらしくなれたような動作だった。

 

『親切丁寧な束おねーちゃんの解説〜♪ 雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣に!射程距離は、まぁ、アサルトライフルくらいかな?流石にスナイパーライフルの間合いは無理だけど〜、紅椿の機動性なら大丈夫』

 

 束の解説に合わせて行なっているのかどうかは一夏たちにはわからないが、箒は試しとばかりに突きを放つ。

 

 右腕を左肩まで持って行き構える。

 篠ノ之剣術流二刀型・盾刃(じゅんじん)の構え。

 攻防どちらにも転じやすく、刀を受ける力で肩の軸を動かして反撃に転じる守りの型である。

 

 そこから突きが放たれると同時に周囲の空間に緋色のレーザー光がいくつもの球体として現れ、順番に弾丸となり白い雲を穿つ。

 

『次は空裂ね〜。こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギー。ぶつけるんだよ〜。振った範囲に自動で展開するから超便利』

 

 箒は右脇下に構えた空裂を1回転するように振るった。

 再び現れた紅いレーザーが帯状に広がり雲を断ち切る。

 

「––––やれる!この、紅椿なら!」

 

『それは良かった。んじゃぁ、早速戦ってみよっか』

 

 どこか楽しそうに言う束にほぼ全員が首を傾げた。

 

「戦うって、誰と?」

 

 束が答える前に––––

 

 キュィイイイイイインッッ!!!

 

 という空気を引き裂き飛ぶ音を聞いた。

 

「レーダーに反応……」

 

 紅椿が捉えたその映像を箒は拡大させる。

 

「なっ……これ、は!!?」

 

 拡大した映像に映っていたのは灰色の騎士甲冑を思わせる装甲を身につけたユニコーンであった。

 

◇◇◇

 

「……一気に仕掛けても?」

 

『まぁ、大丈夫だと思うよ。なにせ相手は新型……“最後”の舞台には丁度いいだろ?』

 

「まぁ、たしかに」

 

 たしかに彼女はまだIS紅椿の扱いに慣れてはいないだろう。

 しかし、それをカバーできるほどの性能があれにはある。

 

(さて、んじゃぁ行きますか)

 

 ユニコーンは紅椿をカーソルに捉えるとさらに速度を上げた。

 

◇◇◇

 

 突如として現れたユニコーンは紅椿の前を一気に走り抜けると急上昇、その間にロングバレルタイプの突撃砲を展開、両腕で構えるとすぐに放つ。

 

「翼!?」

 

 箒は反射的に回避、そのまま移動を始めた。

 その背中を追いながらユニコーンは突撃砲を収納、電撃、雷撃を展開させ、追撃を放つ。

 

 実弾とビームの弾丸は逃げる紅椿を容赦なく攻め立てる。

 

(翼……本気か!?)

 

 箒は躊躇いながらも戦うことを決め、転進、雨月を空中に突き出す。

 その動きに合わせて複数の紅い弾丸が放たれた。

 

(データで見てはいたが実物を見ると––––)

 

 ユニコーンはリアスカートアーマーから伸びたブースターの噴射口を前方に向けて急停止。それと同時に肩に増設されたブースターを吹かし、スラスターの出力を調整して180度回転。

 

(––––面倒な装備だ)

 

 足と腕の間をその紅い弾丸が通り抜けていく中、背中の大型ブースターで急接近。そのまま足のモーターブレードを展開、回転を開始させ切りかかる。

 

 紅椿はそれを空裂で防ぐ。

 モーターブレードはそんなことを物ともせず回転を続け、2つの間で火花が舞う。

 

「くっ!?」

 

 間髪入れず空いている足もモーターブレードを展開させ切りかかる。

 

 半ば反射的に紅椿はその一撃を雨月で弾くとその反動のまま大きく後退して距離を取った。

 

◇◇◇

 

「……2人ともすげぇ」

 

 一夏は感嘆の声を漏らした。

 他の専用気持ちは言葉もなく広がる戦闘を見つめていた。

 

 性能的には箒の駆る紅椿が圧倒的に上、しかし技能的にはおそらく翼が駆っているのであろうユニコーンの方が上だ。

 

 色々と馬鹿げたISとトチ狂った機動で対抗するISの戦闘。

 

 ふと頭の片隅でもし自国の開発者たちがこの戦闘を見ればどのような反応をするのだろうか。と思う。

 見ていても何もマネなど出来るわけがない。そんな光景を見て彼らは何を思うのだろうか。

 

「お〜、やっぱり予想通り拮抗したね」

 

「んー、どっちが勝つかなぁ〜」

 

 そんな者たちの後ろでこの現状を作り上げた2人、源治と束はどこか間延びしたような気の抜けた声を出していた。

 

 この展開になるのは半ば予想していたどおりだ。

 だが、2人にはどちらが勝つか、その7割ほどは答えが出ている。

 

 果たしてその7割を覆せるのか、そこを彼らは見ていた。

 

◇◇◇

 

(これが、翼の動き……!!)

 

 度々映像で見ていたが実際に手合わせするとその戦いにくさがより実感できた。

 

 とにかく攻撃が当たらないのだ。

 普通なら絶対に当たる一撃を放っているというのにその僅かな網目を縫うような動きにより全てがかわされる。

 そしてその動きから展開される予測の困難な攻撃の数々。

 

 もし自分のISがこの紅椿ではなく、打鉄であったのならばもうすでに自分は地面に膝をついていただろう。

 

 雨月、空裂の二本から放つ時間差をつけた攻撃。

 しかしユニコーンはそのどちらも回転するように動いてかわし、その回避行動の流れのまま、雷撃、電撃による射撃。

 

 それをどうにかかわした頃にはその回避した位置にいつ放ったのか実弾かビームが飛んでくる。

 

 それを空裂、雨月で弾く頃にはすぐそこまでにユニコーンは接近しており足のモーターブレードを振るう。

 

 それを弾き距離を取ると同時に上空を取る。

 しかしユニコーンがそれを許すわけもなく背中のブースターにあるサブアームが展開、そこに装備されていた突撃砲が火を噴いた。

 

 それをかわしているうちにユニコーンも上昇、逃げる紅椿を追う。

 

(あれが、紅椿の動き……)

 

 現存するISの中で最強を謳うに納得できる性能だった。

 捉えたと思ってもするりと逃げられる。ようやく捉え力押しをしようとしても逆にこちらが押し負ける。

 

 紅椿の性能は機動力、出力共に強化装備を付けているユニコーン・リペアⅡよりも上だ。

 動きにどことなくぎこちなさが残っているがそれも戦闘が続くにつれてなくなり始めている。

 

 追いながら雷撃の後ろに電撃を連結、ロングビームライフルの雷電撃にするとその引き金を引いた。

 緑の光が伸びるが紅椿は急旋回を取ることで回避、そのままユニコーンに近づき空裂を振るい帯状のビームを放つ。

 

 ユニコーンは上昇しながら180度回転して回避、そのまま1回転すると今度は電撃の後ろに雷撃をを連結、レールガンの電雷撃にした。

 

 箒はその装備の攻撃を数度見ているため次に来るのはレールガンによる超高速の一撃が迫る。

 回避をしようと一瞬止まった。

 

 しかし、放たれたものは散弾。

 

「なん!!?」

 

 面の一撃をまともに受けた紅椿は一瞬、姿勢を崩した。

 その隙を逃すわけもなく間髪入れずに今度は徹甲弾を放つ。

 

 紅椿は未だ姿勢を立て直している途中、回避など取れるわけもなく反射的に防御する。

 しかし、放たれたのは対IS用の徹甲弾だ。

 

 放たれたその一撃は紅椿の防御を貫き、絶対防御を発動させることに成功。シールドエネルギーを大きく削り取った。

 さらに大きく崩れたところにユニコーンは不知火を展開、さらに斬月も展開させ一気に斬りかかる。

 

『はーい。中止〜』

 

 その通信が届くの同時に箒の胸元にまで迫っていた不知火の切っ先が止まった。

 

『千冬ちゃんからの報告だよ。ちょっと問題が発生したみたいだ』

 


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