一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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今回は少し短め


IS学園入学(下)

 二時間目の休み時間また女子の視線が集まる中、翼はさっそく一夏に勉強を教えていた。

 

 そんな時だった。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「ん?」

 

 翼達に声をかけた女子は日本人にはまずない鮮やかな金髪を持っていた。

 白人特有の透き通ったブルーの瞳が少しつり上がった状態で座っている2人を見下ろしている。

 わずかにロールがかっている髪が高貴なオーラを出して、雰囲気もいかにも『今の女子』という感じだった。

 

 今の世の中、ISのせいで女性はかなり優遇。いや、もはや行き過ぎて女=偉いという構図ができている。

 そうなってくると男の立場は奴隷や労働力。そのため今ではすれ違っただけで女のパシリにされる男、というのも珍しくはない。

 

 つまりそういう女子が翼達の前にいた。腰に手を当てているその姿が妙に様になっている。

 ちなみにこのIS学園は無条件で多国籍の生徒を受け入れているためにクラスの半分が外国人だったりする。

 

「訊いています? お返事は?」

 

「ああ、訊いているがなんか用か? 今ちょっと忙しいんだけど」

 

 嫌な予感を感じた翼はこの会話を早々に切り上げようと答えたのだが、その女子は軽くあしらっていると感じたようでわざとらしく声をあげた。

 

「まぁ!? なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも栄光なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 改めてその少女の顔を見つめて翼は首を傾げた。

 

「悪いな。俺は君のこと知らないし、今は手が離せない」

 

 しかし、彼の答えは少女に付け入る隙を与えた。

 少女は驚いたような声で2人に詰め寄るとよく通る声を辺りに響かせる。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

 翼はその名前を心の中で数回唱え、ようやく思い出した。

 

(セシリア・オルコット、イギリス。ああ、そう言えば入学式で挨拶をしてたな)

 

 ようやく思い出せた翼の隣で一夏が小さく手を挙げて問いかける。

 

「あっ、質問いいか?」

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務め。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

 聞き耳を立てていたクラスの女子が数名ずっこけた。

 隣にいる翼もこの時は怒りがどこかに吹っ飛び机に突っ伏している。

 セシリアでさえもピクピクと震えていた。

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ?」

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

 とセシリアはかなりの剣幕で言うが。

 

「おう、知らん」

 

 一夏はそれにかなりあっさりと答える。

 しかし、そのおかげでセシリアは怒りが一周して冷静になったらしくこめかみに人差し指で押さえながらブツブツと呟き始めた。

 

「あ、あのなぁ、代表候補生ってのは国家代表IS操縦者の、その候補生の事だ。そうだな、エリートって言ってもいい。

 っていうか社会常識だろ。これ……」

 

「そう、エリートなのですわ!」

 

「って言っても俺には関係ないことだって思ってたからさ」

 

 そんな一夏に対して胸を張っていたセシリアがさらに詰め寄ろうとしたところで少し小さめに、しかし聞こえるように翼はこぼした。

 

「……と言っても、『候補』でここまで自慢してるんじゃ実力は怪しいけどな」

 

 翼の挑発するような言葉にセシリアは睨みつけながらかすかに殺気を含ませた。

 

「あなた、わたくしを馬鹿にしてますの?」

 

 学生とは思えない十分な迫力のある表情。自信と誇り、それを貶された怒りの表情だ。

 だが、翼はそれに気圧されることもなく平然と返す。

 

「権力は傘にするものじゃない。自信は持っていい」

 

 そんな2人の掛け合いの中で一夏には確かに見えた。翼とセシリアの間に火花が散っているのを。

 

「でも、それで他者を支配しようとするのは見栄えが悪いし、見ていて不快だ」

 

「ッ!?」

 

「おい、翼もうやめろ」

 

 一夏が仲裁に入った時だった。

 三時間目開始のチャイムが険悪なムードが漂い始めていた教室に響く。

 

「っ!? またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 それにより勢いを削がれたセシリアは言い捨てると自分の席に戻った。

 

◇◇◇

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 3時間目の授業は1、2時間目とは違い千冬が教壇に立っていた。よほど大事なことなのか真耶もノートを手にし耳を傾けている。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ふと思い出したように千冬は言う。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席、まぁクラス長だな。

 ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。

 今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間は変更はないからそのつもりで」

 

 一通りの説明を終えた千冬はクラスを見回す。

 翼はどうするか考え込むようにしていたが答えは早く出た。

 

(ふむ、パスだな。これは時間を取られるやつだし、こういうのは––––)

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 

 女子が1人手を挙げながら言った。

 そして、それに同意するような声が続く。

 

(ほら、こういうのは一夏のしご––––)

 

 翼は安堵の息を吐こうとしたところで予想外の言葉が耳に飛び込んできた。

 

「私は岸原くんを推薦します!」

 

 と女子が1人が手を挙げて声を上げた。

 また、それに続くように翼を推薦するような意見がちらほらと出始める。

 

(は?」

 

「「お、俺!?」」

 

 翼と一夏は同時に言い立ち上がる。

 

「織斑、岸原。揃って立つな。席に着け、邪魔だ。

 さて、他にはいないのか? いないなら、この2人のどっちかに決まるぞ」

 

 決定を下そうとする千冬に翼は拒否の言葉を飛ばす。

 

「ちょっと待ってください! 俺はそんなことに裂く時間は!」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

 しかし、千冬のその言葉と眼力により封じられた。

 

「ぐっ」

 

「い、いやでも……」

 

 一瞬たじろいだ翼の代わりに反論をしようする一夏を今度は甲高い声が遮る。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

 そう言いながらバンッと机を叩いて立ち上がったのは、あのセシリア・オルコットだった。

 

「そのような選出は認められません!

 大体、男がクラス代表者だなんていい恥さらしですわ!

 わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

(そうだ、もっと言ってや……んん?)

 

 セシリアの言葉に翼と一夏は同意するようにうんうんと頷いたが言葉の妙なニュアンスに気がつき首をかしげる。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の雄猿にされては困ります!

 わたくしはこのような島国までISの技術の修練に来たのいるのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

「なに––––」

 

「翼、気持ちは分かるけどとりあえず落ち着けって」

 

 翼が言い返そうとしたが一夏が小声で静止する。それで頭が少し冷やされたのか小声で翼は謝ろうとした所だった。

 

「大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」

 

「イギリスだってそんなお国自慢ないだろ」

 

 翼の堪忍袋の尾が完全に切れた。からかうように、挑発するように言う。

 

「なっ……!?」

 

「おい、翼!?」

 

 セシリアと一夏、どちらも驚愕の表情をあらわにしていたが挑発された本人であるセシリアはすぐさま言葉を返す。

 

「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先にしたのはそっちだろ! 自分がされたくないことはするなって教わらないのかそっちは!」

 

 このままでは口論はどんどん激しくなる。そう誰もが予想したがそれはセシリアの机を叩く音と続く言葉により予想は外れた。

 

「っ!! 決闘ですわ!」

 

「ああ、いいだろう。口論するよりは楽だ」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ、奴隷にしますわよ」

 

 そのどこか余裕を感じる顔に翼はさらに苛立ちを募らせるが顔を背けることでそれを抑え込む。

 

「侮るな。真剣勝負で手を抜くほど腐ってない」

 

「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

 翼はあることを思いつきセシリアに聞く。

 

「んで、ハンデはどれぐらいだ?」

 

「あら、早速お願いかしら?」

 

「俺がどれぐらいハンデをつければいいかって聞いてんだよ」

 

 翼が言うと同時にクラスからドッと爆笑が巻き起こった。

 

「き、岸原くん、それ本気で言っての?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ」

 

「岸原くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

 全員本気で笑っている。

 それもそうだろう、現在、男性はかなり弱い。腕力は全く役に立たない。

 

 ISは確かに限られた一部の人間しか扱えないが、女子は潜在的に全員が扱える。それに対し、男は原則ISを動かせない。もし男女で戦争が起こったら1日もたないだろう。

 しかし、彼女たちはある部分を見落としている。

 

「そうだな、制限時間は10分。これが過ぎたら俺の負けでいい」

 

 翼のその言葉は挑発ではなく、寧ろただふざけているようにしか聞こえない。

 

「なっ、あなたはどこまでわたくしを馬鹿にしますの」

 

「翼」

 

 一夏は少し心配した口調で言う。

 

「大丈夫だ、問題ない。俺は、あの2人の子供だからな」

 

 翼が言っている言葉の意味を理解し一夏は表情を和らげる。

 そう、彼はIS開発者の息子なのだ。そしてそんな2人から約8ヶ月間訓練を受けた。

 技能だけならば代表候補生であろうとも負ける要因にはならない。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、岸原、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

 ぱんっと手を打って千冬が話を締める。そのあとに翼達は席に着く。

 これは余談になるが。

 

(あっ、これ勝ったら俺がクラス代表になってしまうんじゃ……)

 

 と翼が気付いたのはそれから数時間過ぎた後のことだった。




う〜ん、Fate/EXTELLA。どこで予約しよう(2016/06/02)
↑ISとは無関係

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