一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

33 / 53
脈動する力

「シャルル。ありがとう」

 

 あれからしばらくたち翼は部屋に戻りシャルルに軽く頭を下げた。

 シャルルはその礼の意味を察し頭を横に首を振る。

 

「感謝するのは僕の方だよ。翼がいなかったら僕は諦めて流されるままに生きてるだけだったから。ありがとう翼」

 

 笑顔でそう返した。それはいつもと変わらないシャルルの姿だった。

 

「い、いや。あれはその。俺みたいに自分の生き方で後悔して欲しくなかったから」

 

 翼はその眩しい笑顔から目をそらす。

 

「それに、ね。もう一つ決めたんだ。僕のあり方。翼が教えてくれたんだよ」

 

「そんなこと教えたか?」

 

 そんなことを言った覚えはない。そもそも自分の話のどこにそんな要素があったのかわからない。そう思っている翼の心情をある程度察しシャルルは肩を落とす。

 

「翼って鋭いときあるけど基本鈍感だよね。もう憎たらしいくらいに」

 

「う、それは……すまん」

 

「いいよ。許してあげる。ただし、これから僕のことはシャルロットって呼んでくれる?2人きりのときだけでいいから」

 

「それって、本当の?」

 

「うん。本当の僕の名前。お母さんがつけてくれたんだ」

 

「分かった。シャルロット」

 

「ん」

 

 嬉しそうにシャルル、いや、シャルロットは返事を返す。それは子供のように無邪気でいつもの屈託のない表情だった。

 

「本当は俺にも名前があるんだよ。本当の両親がつけてくれた名前が……」

 

「……そうなんだ」

 

「ちょうどいい機会だし教えよう。俺の本当の名前は––––」

 

 翼が本当の名前を口にするとシャルロットは優しい笑みを浮かべた。

 

「……いい名前だね」

 

「汚れた名前だけどな……。たぶん俺はこの名前を使うことはないだろうな」

 

(いや、もう一度使うとき……それは)

 

 翼はその考えを消すように部屋から見える夜空を見上げた。

 

◇◇◇

 

 翌日。朝のホームルームにシャルロットの姿はなかった。

 

「あれ?」

 

 翼は疑問に思いながらも自分の席につく。

 

「どうした?」

 

「いや、シャルロ……。シャルルがいないんだよ。先に行っててって言われたんだが。ラウラはまだ怪我が治ってないだろうから分かるんだが」

 

「み、みなさん、おはようございます」

 

 教室に入ってきた真耶はフラフラしていた。朝からかなりの精神的ダメージを負ったことがよくわかる。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといますか、ええっと……」

 

 真耶の説明にほとんど全員が首をかしげる。

 

 たった1人を除けば、だが。

 

(あれ?なんだ。なんか嫌な予感がする。この予想は組み上がったらダメなような気が……)

 

 翼は頭を下げていた。顔には冷や汗が浮かんでいる。

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します」

 

「っ!!?」

 

(や、やっぱり!)

 

 翼の嫌な予感は的中した。してしまった。

 顔を上げた翼の視線の先にはスカート姿の彼女がいた。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 そう言うとシャルロットは丁寧に頭を下げる。

 

「ええっと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります」

 

(山田先生、大変そうだなぁ。……って、今の問題はそこじゃない!!)

 

「大丈夫だ。昨日の大浴場は俺たち2人だけで入ったから––––」

 

 ざわつく女子から翼をかばうように一夏は先手を打ち女子たちにそう告げた。そして、付け加えた。

 

「まぁ、同じ部屋で色々あったみたいだが、な?」

 

 一夏は笑っていた。ただし、それは他人の不幸をだが。

 そんなときかなりの勢いで教室のドアが蹴破られたかのような勢いで開いた。

 

「死ね!!!」

 

「第一声がそれか!!」

 

 翼の叫びはISを展開した鈴音に聞こえない。

 鈴音は衝撃砲の龍砲をフルパワーで放つ。

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

 怒りのあまり肩で鈴音は息をしていた。それはさながら毛を逆立てた猫のようだった。

 

(……あ、れ?なんで、生きて)

 

 鈴音の攻撃は直撃したはずだった。だが痛みは全く訪れない。

 翼が目を開けるとそこにはIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開しているラウラの姿があった。

 

「た、助かった。ラウラ。ISは予備パーツでも使ったのか?」

 

「ああ、コアは無事だったからな」

 

「そうか。よかっ––––むぐっ!?」

 

 それは突然だった。

 翼は突然胸倉を掴まれるとラウラに引き寄せられ、唇を奪われていた。

 

「っ!?!?!?」

 

 その光景にその場にいる全員が唖然としている。と言うよりもするしかなかった。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は決して認めん!」

 

「よ、嫁?そこは普通、婿じゃ」

 

 混乱が一周しむしろ冷静になった翼はつっこみを入れる。

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

「それ、デタラメだぞ」

 

「あっ、あっ、あ……!」

 

 鈴音はぱくぱくと口を動かし声にならない声をあげる。

 

「あんたねえぇぇえっ!!」

 

 再び衝撃砲が展開される。

 

「ちょっとまて!俺はどちらかというと被害者側––––」

 

「アンタが悪いに決まってるでしょうが!絶対!全部!アンタが悪い!」

 

「どんな理屈だよ!」

 

 翼は生命の危機を感じ教室の後ろ側の扉から廊下に出ようとする。だが––––。

 

(っっっっ!!)

 

 強い何かを感じギリギリのところで立ち止まる。その鼻先をレーザーが通り抜けた。翼は恐る恐るレーザーが飛んできた方向を向く。

 

「ああら、翼さん?どこにお出かけですか?わたくし、実はどうしてもお話ししたいことがありまして、突然ですが急を要しますので」

 

 おほほほ、と笑みを浮かべるセシリアの顔は明らかに怒りが浮かんでいた。

 セシリアはゆらりと立ち上がる。その手にはスターライトmkⅢが握られておりビットも展開されていた。

 

「わ、悪いが。俺も急を要するんだ。あ、後にしてくれ!」

 

 翼は言うと今度は窓の方に向かう。ここは二階だが着地の瞬間にISを展開すれば余裕だろう。

 だが、翼の行動は目の前に突然現れた日本刀により妨げられた。

 

 ここはいつから戦国時代になったのかと現実逃避をしている翼に日本刀のような鋭い言葉が投げられる。

 

「翼、貴様どういうつもりか説明してもらおうか」

 

「待て待て。説明を求めたいのは俺も––––って、危なっ!!」

 

 鋭き斬撃が翼に襲いかかる。

 その斬撃から逃げていると誰かにぶつかった。

 

「ん?」

 

 翼は顔を上げるとそこには満面の笑みを浮かべるシャルロットがいた。

 

「翼って他の女の子の前でキスしちゃうんだね。僕、びっくりしちゃった」

 

「シャルロットさん。俺がしたわけではなくどちらかといえばされたと言う方が正しいのであってなぜISを展開しているのか聞きたいのですが?」

 

「さぁ?なんでたろうね」

 

 パンッ!と炸薬のはじける音ともに露出するのは六七口径のパイルバンカー【灰色の鱗殻(グレー・スケール)】。通称【盾殺し(シールド・ピアース)】。

 

(これ、さすがに死ぬなぁ。俺……)

 

 その日のホームルームは轟音と爆音、そして絶え間ない衝撃でクラスは文字どおり揺れた。

 

◇◇◇

 

 翼が死を予感している時を同じくしてとある研究施設が炎を激しく上げ燃えていた。

 ここはあるシステムを研究開発していた場所だった施設。

 しかし、その貴重なデータ類は物理的にも破壊されつくされている。

 

 研究施設を無残な有様にしたのは紫色の全身装甲のISだ。

 それは肩や胸部、スカートアーマーなど細かな違いはあるがそれはユニコーンに酷似していた。唯一とも言える大きな違いは頭部の二本角だ。

 何かを感じたのかその頭部が天を仰ぐ。空は上がる煙や火の粉のせいでよく見えない。

 

(翼ちゃん……)

 

 そのISに通信が入る。

 

『あー、あー。聞こえるかな?』

 

「……はい。状態は良好。よく聞こえますよ。お母様」

 

 お母様と呼ばれた女性、楓はどこか照れくさそうに微笑む。

 

『あらあら、気が早いわねぇ。沙耶(さや)ちゃんは』

 

 明るい世間話をするように返すと表情を真剣なものに転じさせる。

 

『沙耶ちゃん。もう一度言うけどその施設は残していたら翼に悪影響が及ぶ可能性があるの。研究員は誰一人殺さず。けれど施設は徹底的に破壊しちゃって』

 

「翼ちゃんに悪影響……」

 

 沙耶の脳裏に浮かぶのは感情をなくした翼、そしてその翼が初めて自分に向けてくれた笑顔。

 

 彼女はそれだけでなんでもできた。翼のためになんでも。

 

「翼ちゃんは私が守る。もう、あんな顔はさせない!お願い。私に力を貸して【バイコーン】!」

 

 沙耶の声に答えるようにツインアイが赤く光る。

 沙耶は前腕部からビームサーベルを取り出し刃を展開させ研究施設の破壊を再開した。

 

 それをモニターで見ていた女性は電話の相手言う。

 

「とまぁ。VTシステムの研究施設は絶賛破壊されてるところだよ。この調子だとあっという間に破壊され尽くされるだろうね」

 

「……そうか。では、邪魔をしたな」

 

 そう言うと電話の相手、千冬は電話を切った。

 千冬と電話をしていた女性の姿はどことなく不思議の国のアリスを思わせる服を着ている。しかも頭には白うさぎの耳まで付いていた。

 

「いや~。束さんは久しぶりにちーちゃんの声を聞けて嬉しかったけどねぇ」

 

 そう言うと篠ノ之束は携帯電話を放り出した。

 千冬と束の出会いは小学生の頃だった。

 それ以来、束により2人はずっと同じクラスだった。

 

 束が過去に思いを馳せようとした時だった。まるでそれを防ぐかのように放り出された携帯電話が着信を告げる。

 

「やあやあやあ!久しぶりだね!ずっとずうううっと待ってたよ!」

 

 束は嬉しそうにその電話に出た。

 なにせ着信を告げた音楽は今まで一度も鳴ることがなかったものだからだ。それが鳴った。その意味を分かるからこそとてつもなく嬉しい。

 

「……姉さん」

 

「うんうん。用件は分かってるよ。欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、オルタナティヴ・ゼロ、箒の専用機が。モチロン用意してるよ。最高性能にして規格外。そして、白と並び立つもの。その機体は【紅椿】」




【IS名】
 ユニコーン・リペア

【外見】
 灰色の装甲がいくつか追加。肩や胸にはスラスターが追加され重装備化されている。また武御雷と同様のブースターを装備している。
 頭部はツインアイだったものがバイザー型に変更された。

【装備】

《ビームサーベル》
 前腕部、バックパックにあったビームサーベルは無くなり両腰のみになっている。
 その他ビーム出力、形状などは変わらない。

《ビームバルカン》
 頭部の二門にあり威力が少し上がっている。

《シールド》
 今まで使っていたものではなく楕円形のシールドに変更されている。
 またシールドの先端部分は可動する。そこには爆発反応装甲(リアクティブアーマー)があり攻撃にも使うことができる。

《突撃砲》
 武御雷のものと変更点なし。
 ユニコーン・リペアでは背中に追加されたサブアームで保持して使用することが多い。

《モーターブレード》
 ユニコーン・リペアの脛に追加された装備。チェーンソーのように刃を回転させることで轢断する。

《雷撃》
 変更点なし。

《電撃》
 変更点なし。

《不知火》
 変更点なし。

【その他】
 一角獣の暴走で大破したユニコーンを無理矢理使えるようにした機体。
 ユニコーンの機動力強化を目的としていた追加装備の【疾風迅雷】を元に改修された。ただし、あくまでも応急処置のために制御は難しい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。