一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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IS学園入学(中)

 IS学園では入学式から授業がある。現在はその一時間目が終了し休み時間。

 

「……」

 

 そんな時間に頭を抱えている少年が1人。

 

(これは、すごい暇だ)

 

 翼はIS開発者の子供。ISに関することを今更説明されても彼にとっては知ってて当然のことなので退屈以外の何物でもなかった。

 開発の案を練ろうとも思ったが先が最前列ということもあり、とてもではないができない。

 

 これから数時間どうするものかと考えている中、隣から半ば助けを求めるような声音で呼びかけられた。

 

「なぁ、岸原。でいいんだよな?」

 

「ああ、えっと織斑 一夏だよな?」

 

 翼に声をかけたのはもう1人の男子である一夏だ。

 彼は人懐っこそうな笑顔を浮かべながら言う。

 

「おう、一夏でいいぜ。同じ男同士よろしくな」

 

 そう言うと一夏は手を差し出す。

 翼はその迷いのない動作に少し驚きながらも笑顔でその手を取った。

 

「ああ、俺の方こそよろしくな。俺も翼でいいぞ」

 

「んー、ならさ。翼」

 

「なんだ?」

 

「千冬姉と昔会ったことあるのか?」

 

「なんで……って、ああそうか」

 

 唐突な質問に翼は疑問符を浮かべたがどうやら一夏は翼が千冬をさん付けで呼ぼうとしたことを聞いているのだと翼は悟った。

 

 千冬は元IS日本代表。そのため名前は知っているだろうがそんな人を前にいきなり『さん』と付けて呼ぶ者などはいない。

 それに2人のやりとりはどこか親しみが感じられ、明らかに会ったばかりの者たちとは思えなかったのだろう。

 

「母さんと父さんの友達みたいな人だからな。それで俺も何回かあったことがあるんだ」

 

「へぇ、そうなのか。全然知らなかった」

 

「あの人はそういうことはあまり言わない人だからな。苦労多いんじゃないか?」

 

 一夏はどこか困ったような表情で頷く。翼にも思い当たる節があるようで頷いている。

 

「にしても––––」

 

「ああ、そうだな」

 

 翼は一夏の言いたいことを分かっているためそれに同意する。

 

 さっきから彼等は考えないようにしながら普通に会話をしていたが。

 

「「「……」」」

 

 先ほどから、いや、授業終了後からクラスだけでなく、廊下にまでいる女子達の視線が集中していた。

 

「これはきついな」

 

「ああ、これじゃ、まるでパンダだな」

 

 2人が顔を見合わせ息を吐いたところで突然声がかけられた。

 

「ちょっといいか?」

 

 声をかけたのは無論女子だ。その顔はどこか申し訳なさそうにも見えるが別の何かも見え隠れしている。

 

「……箒?」

 

「知り合いか?」

 

 一夏が箒と呼んだ少女は、身長は大体平均的、ただ何処と無く目つきは不機嫌な感じがしている。髪型はかなり長いポニーテールだ。

 

「ああ、篠ノ之 箒だ。俺の––––」

 

「あ、彼女か?」

 

 翼にとってはふと口から溢れてしまった程度の言葉だったが2人は顔を赤くしてほぼ同時に声を荒げる。

 

「「なっ!!? そ、そんなわけないだろ!?」」

 

 2人の予想外の反応に翼はたじろぎながら交互に見て問いかけた。

 

「じゃ、じゃあなんなんだよ……」

 

「箒とは幼馴染だ。会うのは久々だけど」

 

 一夏は否定の言葉を付け加えていたが翼には後ろの箒の表情は一瞬、怒りのようなものが見えた気がした。

 

「へぇ~、幼馴染なんだ……幼馴染!?」

 

 幼馴染と言葉を聞いた途端に翼のからかう表情はすぐさま消え、震え出し自分の肩を抱き締めた。

 

「ああ、そうだ、一夏とはそんな……って、どうしたんだ?」

 

「さぁ? 翼どうし––––」

 

「嫌だ嫌だ嫌だもう嫌だ」

 

 声をかけようとしたが翼はずっと「嫌だ」や「ごめんなさい」と言ったことを永遠とつぶやき続けているだけだ。

 

「「……」」

 

 2人は震える翼をしばらく見つめていたが一夏は言った。

 

「……箒、話あるんだろ。廊下に行こうぜ」

 

「あっ、ああ、だが––––」

 

 箒は心配そうにチラッと翼を見る。

 

「さすがに授業時間になったら戻るだろ」

 

 一夏は言い箒の手を掴んで教室から出た。

 

◇◇◇

 

「であるからして、ISの基本的な運用は––––」

 

 すらすらと教科書の内容を読み上げていく真耶。千冬はその隣、窓側の椅子に腰掛けている。

 

 そんな中で翼は正気に戻り、寝かけていた。

 一方その隣の一夏は理解できないのか周りを少しキョロキョロしている。

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

 

 その行動に気付いた真耶が一夏に声をかけた。

 

「あっ、えっと……」

 

 どうしようか戸惑っている一夏をよそに翼の頭はだんだん下がっていく。

 

「大丈夫ですよ。私は先生なんですから、それと岸原くんはきちんと教科書を開いててください」

 

 一夏は逡巡していたのか少しの間を置くと意を決すると。

 

「先生!」

 

 大きな声で言いながら手を挙げた。

 少ししょんぼりとしながらも素直に教科書を開いた翼の隣でその会話は続く。

 

「はい、織斑くん!」

 

「ほとんど全部わかりません」

 

「えっ、全部、ですか?」

 

 一夏その答えは予想外だったらしく真耶の顔は一気に困り顏になった。

 

「えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれぐらいいますか?」

 

 真耶そう言い挙手を促した。だが、誰も手を挙げない。

 

 そんな光景を見て困惑している一夏。

 隣の翼は今授業で話していた部分を流し見して問いかける。

 

「一夏、ここに入学する前に参考書。渡されなかったか?

 ここってそこに書いてあるぐらい基本的なことだぞ」

 

 一夏は記憶の引き出しを開けているらしく少し考えて「ああ」と思い出したように言う。

 

「あれなら古い電話帳と間違えて捨てた」

 

 言った瞬間、響く出席簿で頭を叩く音。

 

「必読と書いてあったろうが馬鹿者」

 

 もちろん叩いたのは千冬だ。

 彼女は腕を組みながら一夏を見下ろす。

 その表情や言葉には誰にでもわかるほどの呆れが含まれていた。

 

「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

 

「いや、一週間であの厚さはちょっと––––」

 

「やれと言っている」

 

 一夏が言い終わる前に千冬は有無を言わせぬように言った。

 

「は、はい、やります」

 

 さすがにもう言い返せないと判断した一夏はやむなく返事をする。

 

「それと––––」

 

 次は千冬は一夏の隣に居る翼の方を見る。

 

「岸原は織斑に勉強を教えてやれ、いいな」

 

「えっ、いや、俺は設計の方を––––」

 

 翼は言い終わる前に千冬に睨まれた。

 彼にはその目が「嫌と言ったら殺す」と言っているように見えた。

 

「あっ、はい。わかりました……はい」

 

 その返事を聞くと千冬は真耶に授業を止めたことを謝罪し、窓側の椅子に戻った。


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