一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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今回は少し短め。次回は少し早めに更新するので許して下さい……


ブロンド貴公子

 時間はギリギリだがなんとか全員が起動訓練を終え、一組と二組の合同班は格納庫にISを移し、再びグラウンドへと集まっていた。

 だが、先ほど言った通り時間ギリギリだった為にほとんどの者が肩で息をしている。

 

「では午前の授業はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備をする。各人は格納庫に班別で集合。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

 連絡事項を伝えると千冬と真耶は校舎に向かって歩き出した。

 

「あー。あんなに重いとは……つ、疲れた」

 

「まぁ、動力=人だからなぁ。あれ」

 

 訓練機はIS専用カートで運ぶのだが動力という優しい物はなく翼が言ったとおり動力=人である。

 

「お疲れ様。んじゃ俺ちょっと機体調整するから先行ってろ」

 

「ああ、分かった。シャルルはどうする?」

 

「僕もちょっと整備するよ。少し時間がかかるかもしれないけど……」

 

「別に大丈夫だ。んじゃ、先に行っているからな」

 

 一夏は言うと着替えるためにアリーナに向かった。

 

「さてと、さっさと終わらせて合流するか」

 

「うん。そうだね……」

 

 どこか歯切れの悪いシャルルに翼は声をかけようとしたが。

 

「翼、ちょっといいか?」

 

 翼は箒に話しかけられた。ずっと待っていたらしくまだISスーツを着ている。

 

「シャルル、先に行っててくれ」

 

 シャルルは頷くと整備室に少し駆け足で向かっていった。

 

「どうした?箒」

 

「い、いや。その、だな……」

 

 箒はよほど恥ずかしいのか顔を微かに赤くし少し言い淀みながらもなんとかそれを口にした。

 

「今日、い、一緒に昼食を取らないか?」

 

「別にいいけど……。あっ、で––––」

 

 翼が続きを告げる前に箒は表情を一気に明るくさせ嬉しそうに微笑み「そうか」と言うと翼から背を向け校舎の方に走り去った。

 

「………まぁ、いいか。って、ちょっと急いだ方がいいな」

 

 翼は時計を少し見て駆け足で整備室に向かった。

 

◇◇◇

 

「……これはどういうことだ」

 

「ん?」

 

 昼休み、翼たちは屋上にいた。

 屋上は欧州風で花壇には花が綺麗に咲き、それぞれ円テーブルには椅子が用意されている。

 普段ならかなりの人がいるのだが今日はシャルル目当てで学食に向かっているらしく翼たち以外には人がいなかった。

 

「天気がいいから屋上で食べることになったんだろ?」

 

「そうではなくてだな……」

 

 箒は横に視線を向ける。その先にはセシリア、鈴音、シャルル、一夏がいた。

 

「せっかくの昼休みだし、大勢で食べた方がうまいだろ?それにシャルルは転校したばっかりでよくわからないだろうし」

 

 今度は箒に聞こえるぐらいの声で加える。

 

「この方が箒もやりやすいと思ってな。もし邪魔だったら一夏と二人っきりにさせるけど、どうする?」

 

「は、はぁ!?な、なぜ私が一夏と……あっ」

 

 箒はそこで気付いた。翼はまだ自分は一夏のことを好きだと思っている。まだ自分は何も翼に伝えていないということに。

 

「も、もう、そのことは何もしなくても大丈夫だ。その……ひ、一人でなんとかできる」

 

「ん?そうなのか。んじゃ余計なお世話だったかな?」

 

 翼が箒との会話を終えたところで。

 

「はい翼。あんたの分」

 

 鈴音は言うとタッパーを放り投げる。

 翼はそれを危なげなくキャッチしフタを開ける。

 

「おお、酢豚か」

 

「そ。今朝作ったのよ。アンタ、一度食べてみたいって言ってたじゃない?」

 

「悪いな」

 

「べ、べつにいいわよ。自分のついでだし……」

 

 鈴音は顔を少し赤くし自分の酢豚とご飯を食べ始める。

 

「って、俺のご飯は?」

 

「あるわけないでしょ」

 

「おい、酢豚だけかよ……」

 

 はぁ、とため息を吐き肩を落とす翼にセシリアは声をかけた。

 

「コホンコホン。翼さん、わたくしも今朝はたまたま偶然何の因果か早く目が覚めましたので、こういうものを用意してみましたの。よろしければどうぞ」

 

 言うとバスケットを開く。そこには丁寧に作られたサンドイッチが綺麗に並べられていた。

 

「お、おう。あ、あとでもらうよ」

 

 翼はの返事はいささか引いている。その反応は全てを知っている鈴音、一夏、箒も同じような反応だ。鈴音にいたっては「うわぁ」と表情で言ってしまっている。

 

「どうかしまして?」

 

「いや!どうもしてない!」

 

 なぜこのような反応をするのか。理由はただ一つ、彼女セシリア・オルコットはイギリス生まれだからか、はたまた王族だからか、料理が下手なのだ。

 

 見た目は食欲を誘うほど綺麗に仕上がっているが味が凄まじく悪い。

 本人曰く本と同じにすればいいのでは?とのこと。

 

 だが、翼はそこに突っ込みたいと思っている。それは本と同じではなく写真と同じと言うことを。

 うなだれる翼に鈴音は小声で言う。

 

「はっきり言わないからずるずるいっちゃうのよ。バーカ」

 

 翼も小声で返す。

 

「確かにそうだろうけど。でも、せっかく作ってもらったものだしなぁ。言いにくいんだよ」

 

 それを聞くと鈴音は少し呆れたようにため息を一つ吐くと「あっそ」と素っ気なく言い食事に戻った。

 

「ねぇ、本当に僕が同席して良かったのかな?」

 

 翼の左側にいるシャルルは言う。その姿勢からかなり遠慮していることがよく分かる。

 

「まぁ、大丈夫だ。なあ?一夏」

 

 シャルルの隣にいる一夏は箒からもらった弁当を食べながら答える。

 

「そうそう、同じ男同士だし仲良くしていこうぜ。色々不便もあるだろうが、協力していこう。分からないことがあったらなんでも聞いてくれ」

 

「IS以外でだろ。唐揚げ貰うぞ」

 

 翼は言い切った一夏が持っている弁当から唐揚げを流れるような動作で一つ掴みそのまま口にする。

 

「あっ、翼!何すんだよ」

 

「ん!?美味いなこれ。もう一個寄こせ」

 

「嫌に決まってんだろ」

 

 一夏は弁当を翼から遠ざける。

 そんなやりとりをしていると鈴音が呆れたように話す。

 

「一夏はそうやって遊んでないで、もうちょっと勉強しなさいよ」

 

「してるって。これでも。多すぎるんだよ、覚えることが。お前らは入学前から予習してるから分かるだけだろ」

 

「ええまぁ、適性検査を受けた時期にもよりますけど、遅くてもジュニアスクールのうちには専門の学習を始めますわね」

 

「へぇ、そんなもんなのか」

 

 翼が感心するように声を上げている翼に鈴音は話しかけた。

 

「アンタはいつからIS関係の勉強してたの?」

 

「そういえばそうですわね」

 

 両親はIS開発者、その息子が一体ついからその専門知識を知ったのか少し気になっていたようだった。他のメンバーも同じような反応だ。

 

「んー、はっきり覚えてないけど。多分、八年ぐらい……前……」

 

 最後の方は隣にいたシャルルがやっと聞こえるほどの小さい声になっていた。

 

「ん?どうしたんだ?翼」

 

 翼の変化に疑問を感じ声をかける一夏。翼は一瞬ハッとなりすぐに元の調子に戻り少し笑いながら言う。

 

「い、いや!何でもない。にしてもこの酢豚美味しいなぁ。さて、これも……」

 

 翼はなにか焦っているのかバスケットの中のサンドイッチに手を伸ばしそれを掴む。

 

「あっ、つ、翼それは……!」

 

「ん?」

 

 一夏の声が翼の耳に届いた瞬間、翼はサンドイッチを口にした。

 

「………………っ!!!?」

 

 翼は口を押さえながら悶える。

 

「つ、翼さん!?どうしたんですの!」

 

「な、なんでも……ない。ちょっと……お茶貰えるか?」

 

 翼は目に涙を浮かべながらもなんとか言う。

 セシリアは急いでお茶を翼に差し出す。翼は礼を言いすぐに出されたお茶を飲み干した。

 シャルルは心配し翼の背中をさすりながら小声で話しかける。

 

「だ、大丈夫?」

 

 翼はセシリアに聞こえないようにそっと小さく呟いた。

 

「……甘かった。甘かったんだ。BLTサンドなのに……ホワイトチョコよりも数倍、いや数十倍も甘かったんだ」

 

「えっ?………なんで」

 

「わからん。バニラエッセンスがあるのは分かる。だが他が全くわからない……」

 

 翼は少し心配そうな表情をしているセシリアを見る。

 

(セシリア・オルコット。なんて奴だ……)

 

◇◇◇

 

 時間は流れ夜のこと。

 

「じゃあ、改めてよろしくな。シャルル」

 

「うん。よろしく、翼」

 

 夕食を終えた翼とシャルルは部屋に戻ってきていた。

 食堂では三人目の男性操縦者ということで女子の質問攻めにあっていたがシャルルの丁寧な対応でなんとか切り上げて来た。

 部屋はこの通り翼と同室になっている。今はそれぞれ椅子に座り日本茶を飲んでいた。

 

「紅茶とはずいぶんと違うんだね。なんか不思議な感じ。でも美味しいよ」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。そうだな。今度抹茶でも飲みに行くか?」

 

「抹茶って畳で飲むやつだよね?特別な技能がいるって聞いたけど、翼はいれられるの?」

 

「抹茶はいれるんじゃなくてたてるって言うんだ。出来るけど今は駅前に抹茶カフェがあるらしくてな。それならコーヒーみたいな感覚で飲めるらしい」

 

「ふぅん。そうなんだ。じゃあ今度誘ってよ。一度飲んでみたかったんだ」

 

「ああ。ついでに色々案内っても俺はあんまり知らないからなぁ。一夏も誘って三人で行ってみるか」

 

「本当?嬉しいなぁ。ありがとう、翼」

 

 柔らかな笑みを浮かべるシャルルに翼は一瞬ドキッとした。

 あまりにも素直な笑顔を向けられて戸惑ってしまったのだ。それに気付かれないように翼は少し窓の景色を見ながら言う。

 

「ちょっと買いたいものあるしついでだついで」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 翼が照れているのを見透かしているのかシャルルの笑みはどこか優しげだった。

 

(母親ってこんな感じなのかな)

 

 翼はシャルルの笑顔を見てそんな場違いのことを思っていた。


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