一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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ヒント

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 二クラス合同での授業。人数はいつもの倍、さらに千冬が教えているためか返事には妙に気合が入っている。

 

「今日は戦闘を実演してもらう。凰!オルコット!」

 

「「はい!」」

 

「どっちも頑張れよ」

 

 翼の声援が入る。それに二人は笑顔で答えた。

 

「はいですわ!」

 

「当然!それで相手は誰?セシリアでもいいけど」

 

「ふふっ返り討ちしてあげますわ」

 

 二人が早速火花を散らす。どちらもすぐに始めの合図があれば模擬戦を始めるだろう。

 

「慌てるなバカども。対戦相手は––––」

 

 千冬が言っている途中だった。

 キィィィンっという空気を切り裂く音が響く。その音は段々と翼の方に向かっていた。

 

「ん?なんだこの音?」

 

「ISの飛行音だろ?」

 

 翼がさも当然のように一夏に返した瞬間。

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

 と叫び声がその飛行音が聞こえる方向からしてきた。

 

「んんっ!?」

 

 ドカーン!という派手な音を立て翼は謎の飛行体とともに数メートル吹っ飛んだ後少し転がった。

 

「はぁ、ギリギリでユニコーンの展開が間に合った。って、ん?」

 

 翼が疑問の声をもらした。理由は簡単だ。

 なぜか手に柔らかい感触があったからだ。地面はこんな柔らかい感じではない。ということは分かる。

 

(それじゃあこれは……?)

 

「あ、あのう、岸原くん……そ、その、ですね」

 

 翼は恐る恐る自分の手の先に視線をやる。

 自分の手は真耶の大きな胸の上にあった。いくらISの装甲が間にあるとはいえその柔らかな感触は良く感じられる。

 

「あ、あの、こんな場所では……いえ!場所ではなくてですね」

 

 追記すると飛ばされたおかげで側から見れば翼が真耶を押し倒している体制に見える。

 

(いや、いやいや。どんな状況だよ……)

 

 呆れを感じ翼は息を吐く。それとほぼ同じ時だった。

 

「っ!?」

 

 殺気を感じ翼は即座に真耶から体を離す。その瞬間に先程まで翼の頭があった場所をレーザーが貫いた。

 

「ほほほほ。残念です。外してしまいましたわ……」

 

 それを放ったのはセシリア。その顔は笑顔が浮かんでいる。

 そう、たしかに顔は確かに笑っている。普通なら見惚れるくらいだ。

 ただし、その目に強い殺気がこもっていなければ、だが。

 

「お、落ち着こう。セシリアここは平和的にだなーーー」

 

 翼はなんとかセシリアの怒りを抑えようと言う。その後ろでガシーンと何かが組み合わさる音がした。

 

(今の音って……)

 

 翼はゆっくりと後ろを振り向く。そこには鈴音が甲龍を展開しその武装、双天牙月(そうてんがげつ)を連結させ振りかぶって投げている姿があった。

 

「って、おいおい!?」

 

 間一髪すれすれでそれをかわす。だが、その勢いのまま翼は仰向けに倒れた。

 そのせいで投げられた双天牙月がブーメランのように戻ってきているのが見えた。

 

 翼は急いで電撃を展開、それと同時に打つ。

 “二つの発砲音”の後、ライフルの弾丸が双天牙月に命中し地面に撃ち落とした。

 

 だが、翼はすでにその方向を見ていない。クラスメイトも驚きで声が出ていないようだ。

 

 翼が展開したのは今右手に持っている雷撃のみだ。

 だが、発砲音は二つした。

 翼含めほとんどの者が見ているのはもう一つの発砲音がした方。そこにはアサルトライフルを構えている真耶がいた。

 翼は真耶の上から移動して真耶はその場から起き上がる。

 

「え?山田先生?」

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからなを今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに結局候補生止まりでしたし……」

 

 肩部武装コンテナにライフルを預けて手を振りながら照れ笑いを浮かべる真耶。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさと始めるぞ」

 

「え?あの、二対一で?」

 

「さすがにそれは……」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」

 

 負ける。と断言されたのが気に障ったらしく、セシリアと鈴音の瞳には闘志をたぎらせていることがよく分かる。

 しかし、翼もその言葉に疑問は感じなかった。

 

(あの不安定な姿勢の中での武装展開と射撃。並みの腕でできるような芸当じゃない……)

 

「では、はじめ!」

 

 翼が冷静に分析している中、千冬の号令とほぼ同時にセシリアと鈴音は飛翔。真耶はそれを確認して同じく飛翔する。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

「い、行きます!」

 

 言う言葉は少し緊張しているのか震えているがその目は先程の狙撃時と同じく鋭く冷静なものになっている。

 先制したのはセシリア鈴音組だがその攻撃は簡単に回避されている。

 

「さて、今の間に……デュノア、山田先生が使用しているISの説明をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 シャルルは返事をししっかりとした声で説明を始めた。

 

(あのIS、ラファール・リヴァイヴか……)

 

 ラファール・リヴァイヴ。

 デュノア社製の第二世代型IS。開発自体は最後期だがその分性能は他の第二世代型ISよりもかなり良く初期第三世代型にも劣らないほどだ。

 安定性、整備性、豊富な後付武装が大きな特徴である。

 

 その扱いやすさ故に世界第三位のシェアを持ち、七ヶ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されている。

 

 さらに特筆すべきはその操縦の簡易性。これにより操縦者を選ばず多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立させている。装備により格闘、射撃、防衛のように全タイプへの切り替えが可能となっているのだ。

 

 翼がラファールの解説を簡単に思い出しているところで千冬は言った。

 

「ああ、一旦そこまででいい。……終わるぞ」

 

 千冬の声でシャルルは説明を中断し翼は上空の戦闘に意識を向ける。

 

 真耶の射撃がセシリアを誘導、鈴音とぶつかったところでグレネードを投擲。爆発が起こり煙の中から二つの影が地面に落下した。

 

「くぅ、このわたくしが……」

 

「あ、あんたねぇ。何面白いように回避先読まれてんのよ」

 

「り、鈴さんこそ!無駄に衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「じゃあなんであんたはすぐビット出すのよ!しかもエネルギー切れ早いし!」

 

 代表候補生の言い合い。

 しかもどちらの主張も合っているので余計にみっともなく見えてしまう。

 

 この二人のいがみ合いは他の女子たちのくすくす笑いが起こるまで続いた。

 ぱんぱんと手を叩き千冬はみんなの意識を切り替えさせる。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教師の実力は理解できた事だろう。以後は誠意を持って接するように」

 

 千冬は少し周りを見渡して続ける。

 

「専用機持ちは織斑、岸原、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では岸原以外の8人をグループリーダーとして実習を行う。岸原は山田先生と模擬戦闘をしろ。では、分かれろ」

 

 千冬が言った瞬間一夏、シャルルに一気にニクラスの女子が詰め寄る。

 

「織斑君一緒に頑張ろうね」

 

「ちょっと教えて欲しいんだけど」

 

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

 

「ね、ね、私もいいよね?同じグループに入れて!」

 

 あまりの繁盛ぶりで二人ともどうすればいいのかわからず立ち尽くしているのみだ。

 その状況を見かねたのか、あるいは自分の浅慮に嫌気がさしたか、千冬は面倒くさそうに額を指で押さえ少し低い声で言った。

 

「この馬鹿どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通りだ。次にもたついていたらISを背負ってグラウンド百周だ!」

 

 鶴の一声とはまさにこのことだろう。それまで一夏とシャルルに集まっていた女子たちはそれぞれの専用機持ちグループに分かれた。

 

「最初からそうしろ。馬鹿者どもが。岸原も準備しろ。山田先生お願いします」

 

「は、はい。じゃあ岸原君。早速始めましょうか」

 

「分かりました」

 

 翼は言うとISを展開。すでにIS展開済みの真耶と少し距離を取る。

 そうしながらもチラッとグループに分かれた女子達を見る。各グループの女子はぼそぼそとおしゃべりをして楽しそうだが、たった一つラウラ・ボーデヴィッヒのグループのみ会話がない。

 

 張り詰めている緊張感に人を拒むオーラ。生徒たちへの軽視が込められている冷たい眼差し、一度も開かない口。さすがにそんな状態ではあの女子達も話しかけることができないようだ。

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ軍人か……。あいつのことも少し調べておくか)

 

 翼の思考を中断させたのは真耶の声。

 

「岸原君、準備はいいですか?」

 

 先ほどの模擬戦闘で自信がついたのかどこかいつもより堂々としているように見える。

 翼は雷撃、電撃を展開して答える。

 

「はい、問題ありません」

 

「それでは、行きます!」

 

「っ!!」

 

 真耶が言った瞬間、二人は上空へ急上昇。二十メートル程上昇したところでそれぞれ射撃を開始。

 

 翼は射撃をしながら真耶に接近、真耶は一定の距離を維持したまま後退しながら反撃を行う。

 

(長期戦になったら機体を扱えていない俺は不利。ならっ!!)

 

「速攻で終わらせる!」

 

 電撃と雷撃を連結させ雷電撃にし砲撃、それと同時に接近しながらサイドスカートの ビームサーベルを装備と同時に刃を展開する。

 

 真耶は左手にもう一丁ライフルを展開し射撃。

 翼はそれを最低限に回避して出来るだけ速度を落とさずに真耶に肉薄。ビームサーベルを振り下ろす。

 

 真耶はそれを二丁のライフルを交差させ受け止める。その後受け止めたライフルを放棄。そのライフルはビームサーベルに切り裂かれ爆発。

 

「チッ」

 

 舌打ちをして少し距離を取ろうと後退するが爆煙の中からナイフを展開し突き刺そうとする真耶が飛び出してきた。

 

 翼は肩のスラスターと腰にあるブースターを使いスレスレで左に回避。

 その勢いのまま真耶の後ろに周りをビームサーベルを振るう。その攻撃は真耶の背中に命中、翼は間髪入れずそれを蹴飛ばし電雷撃を放つ。

 

「なかなか、やりますね」

 

 真耶は言いながら姿勢を立て直しシールドで受け止めライフルを展開し射撃。

 

「まぁ、なんとかですけどねっ!」

 

 翼は言いながら砲撃を回避、ビームサーベルをサイドスカートに収納し電雷撃を分 離、背中にある二つのライフルマウントを展開し前方に向けて同時に打つ。

 

 真耶はそれをシールドで受け、回避するがさすがに全てを防ぎきることは出来ずに少しずつだが確実にシールドエネルギーは減っていく。

 

(機動力、火力ではラファールは不利、接近しなければ有効打は与えられませんか……)

 

 真耶は思いながら接近するタイミングを伺う。

 

 翼は四門同時射撃をしながらチラッとライフルの残弾数を見る。この減り方だと後三十秒ほどで弾は切れるだろう。

 

(多分リロードする隙はない。 弾切れになった瞬間に接近戦に持ち込んでくるはず)

 

 翼の頬を汗が伝う。

 

(出来るか?今のユニコーンと俺に……)

 

 不安を抱えたまま四つのライフルの弾が切れた。

 その刹那だった。真耶は翼にブレードを展開して接近する。

 

「くっ!?」

 

 翼は雷撃、電撃を収納。サブアームも元の位置に戻しサイドスカートからビームサーベルを取り刃を展開、ブレードを受け止める。

 ユニコーンの機動力を活かして距離を取ろうとするが––––

 

「動きが硬いですよ」

 

 最低限の動作で後ろに回り込んだ真耶は翼に告げブレードを振るう。

 

「分かってますよ!!」

 

 翼はもう一方のサイドスカートからビームサーベルを逆手に持ち、刃を展開し受け止める。

 真耶はライフルを収納グレネードを展開する。

 

「っ!?」

 

 翼はとっさに距離を取る。そこで気付いた。

 

(まずいっ、距離をとったらっ!?)

 

 真耶はグレネードを翼に向けて投擲。回避は間に合わない。翼は––––

 

(俺の負けか……)

 

 動かなかった。

 

 グレネードは翼の目の前で爆発。翼は地面に吹き飛ばされた。

 

◇◇◇

 

「はぁ」

 

 翼は爆発の衝撃で激突した地面から起き上がりユニコーンの展開を解除する。

 真耶はゆっくり下降しながら言う。

 

「ダメですよ。最後まで油断したら」

 

「そうですね。あそこで距離をとらなかったらなぁ」

 

 はぁ、と翼はまたため息をつく。

 先ほどの模擬戦、翼は距離をとった時点で詰んだ。

 

 グレネードを撃ち落とせばグレネードを防ぐことはできたが動きが止まったところで今度は狙撃か又は不利な近接戦になり落とされていただろう。

 

「岸原君どうしたんですか?近接戦になった途端に動きが悪くなりましたよ?」

 

「いや、俺がユニコーンを扱いきれていないんですよ」

 

「そうですか……。何かあったら先生を頼ってもらって構いませんから焦らずに頑張ってくださいね」

 

 真耶は笑顔で言うと千冬の方に向かった。少し話していると今度は千冬が翼の方に近づいてきた。

 

「岸原」

 

「は、はい」

 

「まだ、動きに慣れていないのか?」

 

「まぁ、そうですね」

 

 千冬は少し考え言った。

 

「今のユニコーンは武御雷とほとんど同じか?」

 

「はい。各部スラスター、ブースター出力とか微妙に違いはありますけど」

 

 千冬の突拍子な質問に翼は若干困惑気味に答えた。

 千冬はそれを聞くとため息をつきぼそぼそと小さく呟くと言った。

 

「その機体、常識で考えるな。それと過去の機体を調べろ。それで分かる。お前は先にISの整備をしろ。それと終了の十分前になったらISの輸送用カートをもってこい」

 

 千冬は言うと各グループを見に行った。

 

「どういうことだ?昔のISを調べろ?激震と陽炎のことか?」

 

(考えるより動いた方がいいか)

 

 翼はISの調整室に向かった。

 

◇◇◇

 

 そんな翼を見て一夏は言った。

 

「翼大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろう。あれぐらいではな……」

 

 箒は冷静に答えた。ISに搭乗するために箒は一夏にお姫抱っこされている状態だが自分でも驚くほどに冷静だった。

 

(昔の私なら他のことを考える余裕などなかっただろうな……)

 

 もう気付いた自分の気持ちに––––

 

 思い出した過去を––––

 

(私は翼のことを……)

 

 好きなんだ。ということを––––


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