一角獣を駆る少年の物語   作:諸葛ナイト

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今回も少し短いです


クラスマッチと侵入者

 クラス代表戦の当日。

 第二アリーナの観客席は人でごった返しており、会場に入りきらなかった生徒や関係者たちはモニターで鑑賞までしていた。

 

 それもそのはず。ここで行われる第一試合の組み合わせはどちらも専用機持ちであり、今回のクラス代表戦での注目株である翼と鈴音なのだ。

 

「ふー」

 

 好奇の視線に晒される翼は目の前の鈴音とそのIS、甲龍(シェンロン)を見据える。

 彼女のISの特徴は非固定浮遊部位(アンロックユニット)だ。

 肩の横に浮くそれのスパイクアーマーや全体的に赤い色はまるでその装備者の意気込みを示すかのように攻撃的なものを主張している。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 アナウンスに促されて翼と鈴音は空中で向かい合う。

 その距離は5メートルほどまで近づいたところで鈴音がオープンチャンネルで翼へと言葉を飛ばす。

 

『あんたなら当然知ってるとは思うけどISの絶対防御も完璧じゃない。

 シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させることなんてできてしまう』

 

 それは脅しでもなく本当のことだ。

 ゆえにISの操縦者に直接ダメージを与えるための装備も存在している。

 もちろんそれは競技規定違反であり、人命に危険が及ぶが言ってしまえば殺さない程度にいたぶることはできる。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ビーッ!と鳴り響くブザー。

 それが切れる瞬間に翼は展開していた新武装であるビームライフルの雷撃と実弾式のアサルトライフルの電撃を構え放つ。

 

 向かってくる実弾とビームを鈴音は一度上に高く上昇してそれをかわした。

 あまり深追いをすることはなく射程に収めながら翼は電撃、雷撃で攻撃を続けていくが、機動力は十分にあるようで当たることはない。

 

(セシリアよりもずっと早いな。射撃されることに慣れている、ということは──)

 

 翼が予測した通り、射撃をかわし続けていた鈴音は突如旋回を行うとジグザグの軌道を取りながら距離を詰め始めた。

 

 彼女が手にしていたあまりにもかけ離れすぎており、辛うじて青竜刀と呼べるそれをバトンでも使うように器用に回しながら切りかかる。

 両端に刃の付いた、いや、刃に持ち手が付いていると表現できるそれは、縦、横、斜めと容赦なく翼へと奮われ続けていた。

 

 翼はシールドを使い防ぎ、鈴音に膝蹴りをしたが彼女はそれが当たる瞬間に右半身を引き後方に下がった。

 

(やっぱり近接戦に特化してるな。だとすれば下手に詰められ続けるとこちらが潰される。

 ここは、一度距離を––––)

 

 なにをするにも一度距離を取って戦況を立て直すべき。そう判断して下がろうとした瞬間だった。

 

「甘いっ!」

 

 言葉と共に甲龍のアンロックユニットの装甲がスライドして開き中心の球体が発光した。

 

「っ!?」

 

 直感に従い右に回避行動を取ったが、それは寸でで間に合わず、左肩が目に見えない衝撃により軽く殴り飛ばされた。

 翼はそれによりバランスを崩す。

 

「今のはジャブだからね」

 

 鈴はにやりと不敵な笑みを浮かべていた。

 ジャブのあとはストレートが来るものである。

 

 ドンッ!!

 

「くっ!?」

 

 翼は反射的にシールドでそれを防ぐが衝撃まではなくせず、地表へと吹き飛ばされた。

 地面に叩きつけられる寸前でブースターを全力で吹かし上昇する。

 

(さすがは代表候補生に与えられるだけのものだな。

 毎度毎度妙に面倒な装備を持っている……!)

 

 雷撃、電撃を収納、大きな刃を持つ槍、松風を展開させるとすぐさま鈴音へと距離を詰めた。

 

◇◇◇

 

「なんだよあれ」

 

 ピットからリアルタイムモニターで戦闘を見ていた一夏が反射的に呟いた。

 それに答えるのはセシリアだ。

 

「衝撃砲、ですわね。

 空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃、それ自体を砲弾化して打ち出す。ブルーティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」

 

 箒にはその会話は耳に入ってこずただモニターを見つめていた。

 

(翼––––)

 

 箒の表情には本人が気付かないほどの微かな焦りの色が浮かんでいた。

 

◇◇◇

 

「よく躱すじゃない。衝撃砲(龍砲)は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」

 

 そう、翼を苦しめていたのはまさにそれだ。

 砲弾が見えないならまだしも砲身が見えないと銃口から攻撃の予測が出来ずにうまくかわせない。

 

(ハイパーセンサーに空間の歪みと大気の流れを探らせてるが、これじゃ射たれてからしか回避が出来ない)

 

 翼はゆっくりと深呼吸をして、松風を構え直した。

 甲龍に特徴的な武装があるのと同じようにこの松風にもちょっとした隠し球がある。

 通用するのは一度だけだが、その一度あればこの状況をマシにはできる。

 

「凰」

 

 急に雰囲気が変わった翼に鈴音はたじろぐ。

 

「な、なによ?」

 

「悪いけどこの状況、ひっくり返すぞ」

 

「ッ! や、やれるもんならやって見なさいよ!」

 

 鈴音はたじろぎながらも言うと接近を開始。再び2人の距離が詰まる。

 翼は頭部のビームバルカンで攻撃を仕掛けるが、当然その程度ではほとんどダメージを与えられない。

 

「ふっ、そんなもの?」

 

 挑発を含み言う鈴音に対し、翼は表情を変えることはない。

 

 刺突はかわされ、続けて振われた一撃も当たることはなかったがその槍の切っ先は突如として甲龍のアンロックユニットへと向けられた。

 

「っ!!!?」

 

 そして、その瞬間、鈴音は見た。

 

 何かの目を。明らかに人ではないものの目を。

 

 それはユニコーンの機械的な目でもなく、人のような真剣な眼差しでもない。獰猛な獣のような目だった。

 

 それに睨まれ鈴音は動きが一瞬止まる。

 瞬間、松風の槍の先端が上下に開き、その間から稲妻が走った。

 

「まさか!?」

 

「もらった!」

 

 松風のメインは槍としてだが、レールガンとしての役割も持っている武装だ。

 電磁加速を受けて放たれた弾丸は甲龍のアンロックユニットを貫き、爆発させる。

 

 その爆発に乗じてそれぞれ大きく距離が開いた。

 

「な、なんなのよ……」

 

 小声でそう言う鈴音の声は聞こえていない翼は口を釣り上げる。

 

「どうした? その程度か凰!」

 

 翼は言いながら役割を終えた松風を収納、不知火を展開して中段に構えた。

 しかし、鈴音の方はそれどころではなかった。

 

(なに、なんなの……あの目。あれは機械の目なんかじゃない)

 

 脳裏には生物的な目をこちらに向けるユニコーンの姿が浮かんでいた。

 

 それに一瞬、ゾクリと寒気が走ったが鈴音はそれを首を振ることで消す。

 視線を前に移すと翼が不知火を中段に構えて、一気に攻撃しようと近づいていた。

 

(今は勝負に集中しなさい!私!!)

 

 それを迎え撃とうと青竜刀、双天牙月(そうてんがげつ)を構える、時だった。

 

 突然「ズドォォォォンッ!!!」という大きな音と衝撃がアリーナ全体に走った。

 それはステージの中央あたりに落ちたようでそこからはもくもくと土煙が上がっている。

 

「な、なんだ?」

 

『翼、試合中止よ』

 

「当たり前だ」

 

 答えるのと同時、ISのハイパーセンサーが緊急告知のウィンドウと機械音声が響く。

 

『ステージ中央に熱源。所属不明。現在ロックされています』

 

「チッ」

 

 翼は状況の悪さに舌打ちする。

 アリーナ内にいると言うことはISと同じもので作られている遮断シールドを破ったということ、その力を持った機体が乱入、ロックしているということだ。

 

 危機迫った状況ではあるが念のために左手に電撃を展開して構えて所属不明の侵入者へと問いただす。

 

「おい、貴様。今すぐに所属している国家又は企業等を言え。ここはIS学園敷地内だ」

 

「……」

 

 予想通りそれから答えが来ることはなかった。

 それから1分ほど待つがそれでも何か言葉が返されることもない。

 

(まぁ、そりゃここで答えるならわざわざこんなことしないよな)

 

 なら、と翼が次の行動を考えていると、高エネルギー発生のアラームが鳴り響いた。

 その方向は自分。ではなく––––

 

「凰ッ!?」

 

 ロックオンされたのは鈴音だ。

 翼はそれがわかるや否やすぐさま鈴音の体を抱きかかえてさらったその直後、彼らがいた場所を熱線が通り過ぎる。

 

「ビーム兵器!? しかもビームマグナムと殆ど同じ威力だと!?」

 

 驚愕する翼の腕の中で抱えられている鈴音は顔を赤面させ暴れ始めた。

 

「ちょっ、ちょっと、馬鹿! 離しなさいよ!」

 

「お、おい、そんな暴れんなって馬鹿! 殴るな!」

 

「う、うるさいうるさいうるさいっ! だ、大体どこ触って––––」

 

「っ!? 次!」

 

 恥ずかしさで言う鈴音の言葉を遮るように翼は回避行動を取れるように構える。

 煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれた。

 

 翼はそれを回避するとその射手であるISがふわりと浮かび上がってきた。

 

「……あれ、あんたの知り合い?」

 

「残念ながら、変人は何人かいるがこんなことする奴は知らないな」

 

 そのISは深い灰色で手が異常に長い。つま先よりも下まで伸びている。

 それにはビーム砲口が左右に2つずつ合計4つあり、それを支えるためか全身にはスラスター口らしきものが見えている。

 剥き出しのセンサーレンズが不規則に不規則に並ぶ頭部は肩と一体化されており、どこか不気味さを醸し出していた。

 

 加えて一番の特徴はユニコーンと同じ全身装甲(フル・スキン)というところだろう。

 

 翼達が目の前の侵入者を警戒している時通信が送られてくきた。

 

『岸原くん! 凰さん! 

 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生達がISで制圧に行きます!』

 

 通信を送ったのは緊急事態のせいかいつもよりどこか威厳のある真耶だ。

 しかし、それに対して翼は同様も戸惑いもなく毅然とした態度で返す。

 

「いえ、先生が来るまで俺たちで食い止めます。

 今俺たちが下がってしまうと最悪の場合、観客席にいる人たちに被害に合うかもしれません。

 悪いけど凰、いいよな?」

 

「べ、別にいいけど、それより早く離しなさいよ! 動けないじゃない」

 

「ん? ああ、悪い」

 

 翼が腕を放すと、鈴音は自分の体を抱くような格好で離れる。

 

『岸原くん!? だ、ダメで––––』

 

 翼は真耶の制止を無視し途中で通信を切ると不知火を展開して構えると鈴音へと告げた。

 

「凰は援護、俺が突っ込むからフォロー頼む」

 

「あっ、ちょっと––––」

 

 鈴音の制止を聞かず翼はユニコーンのブーステッドモードを使用、一息に侵入者との距離を詰めると不知火を振り下ろす。


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