I remember you   作:春瑠雪

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それぞれの変化

 あの海から早一週間が過ぎた。しかし一週間過ぎても8月はまだまだ終わらない。いまだユイの部屋ではセミの鳴き声が響く。

 

「あら、あっがりー!」

「んなっ!?」

 

 そんなセミの鳴き声をBGMにし、ユイの部屋ではババ抜き大会が開催されていた。

 メンバーはユイ、日向、そしてゆりだ。

 

「くっ...まさかお前と一騎打ちになるなんてな...」

「どーしたんですか?まさかこのユイにゃんと戦うのが急に怖くなった的な?逃げるのは今ですよ、ひなっち先輩!」

「誰がお前ごときに怖がるか!てっきり俺が一番であがれると思ったんだよ!」

「あらぁ、日向君。その言葉は聞き捨てならないわね?このゆりっぺさんに勝てると思ってたわけ?寝言は寝てから言いなさい」

「どんだけ自信家なんだよ、こんなみみっちい勝負でもよぉ!」

「でも実際一番に抜けたのは?あ、た、し」

 ゆりがふふんと胸を張って見せた。それを日向は横目で見たかと思うと、視線を逸らした。きっと目のやり場に困ったのだろう。そんな日向をこれまた横目で見て、ユイは日向に顔を突き出した。

「ひなっち先輩!さっさとカード引かせてください!」

「うおっ!?い、いきなり驚かすなよ!?」

「日向君ユイが急に近くに来てドキドキしてるんじゃなぁい?」

「んなわけあるか!」

 

 ---ないのか。

 ユイが日向に顔を近づけたのはもちろんカードを引くためだ。しかし同時にゆりの身体を日向が見ていたのが何となく嫌だったからでもある。自分以外の女が日向の視界に入ってほしくない。こんなこと思うなんて、自分でも馬鹿らしいとは思っている。でもこの気持ちはなかなか収まらないのだ。

 

 それにもしかしたらゆりっぺ先輩も---

 

 はた、と我に返る。も、とはなんだ。も、とは。

 

「ええい、隙ありぃ!」

 

 急に頬が紅潮したのが自分でもわかったので、慌てて日向の手元にあるカードを引き抜いた。そこに書いてある数字を見る。7だ。そしてユイの手持ちのカードにも、マークは違えども同じ数字が記されている。

 

「ふおっ!?勝った、ひなっち先輩に勝った!」

「何でだよWhy!?」

 日向はジョーカーを片手に持ち、床にゴロンと寝転がった。それをゆりはニヤニヤと笑いながら見ている。

「最下位には何か罰ゲームを与えなきゃね?」

「同じく、罰ゲームは必要だと思いまっす!」

「お前らなぁ、絶対俺が負けたからだろ!?」

「当たり前でしょ?」

 

 ゆりと日向の会話にたまに相槌を打っていると、嫌でもわかってしまう。二人がどれだけお似合いなのか。

 確か二人は腐れ縁というやつだ。中学校三年間同じクラスで席も隣だったと、先日の海で聞いた。二人とも高校も同じ学校だった気がする。学校でも顔を合わせるのか、と思うとやはり胸のモヤモヤは強くなる。

 

「あら、呼び出しだわ」

 

 突然ゆりのケータイが鳴った。バイトのシフトが変更になり、急きょ入ってほしいと言われたようだ。

 

「じゃあね、お二人さん。日向君は罰ゲームのこと忘れちゃだめよ」

「はいはいっと...一人で大丈夫かよ?」

 腰を浮かせた日向にゆりはくすりと笑った。

「貴方今何時だと思ってるのよ?真昼間よ?」

「いや、そうだが...」

「いいの。そんなことよりユイと二人でスピードでもしたら?で、負けた方にはあたしが罰ゲームを考えてあげるわ」

「...相変わらず鬼畜ですねゆりっぺ先輩」

 

 

***

 

 ゆりが帰って、日向とトランプを再開するわけではなく、二人はテキトーにダべっていた。当たり障りのない世間話だったり、野球の話だったり、音無の仕事ぶりだったり、いつものような喧嘩まじりのじゃれあいだったり。そうこうしているうちに、気づけば夕方になっていた。

 

「っと、悪いな。そろそろ帰って洗濯物取り込まなきゃなんねぇからお暇とするぜ」

「はい。楽しかったです」

「おお。それなら何よりだな」

 わしゃわしゃとユイの頭を撫で、日向は微笑んだ。その顔に何故か後ろ髪をひかれ、思わず日向のシャツの裾を掴んでしまった。

 

 


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