「そんなに熱い視線で日向くんを見つめてたら、日向くんの背中に穴が開いちゃうわよ」
「ふぇっ!?」
ゆりと野田がビーチバレーをし、日向がその試合の審判をしていた。車椅子のユイは勿論その試合に参加することはできず、ただぼーっとその試合の行方を見ていた。
ユイとしては試合を見ていたと思っていたが、無意識に視線は日向へと向いていたようだ。それはたった今休憩に入ったゆりが放った言葉が示している。
「あっ、あたしそんな!ひなっち先輩ばっかり見てないですから!」
「ふぅん?まぁ何でもいいけどね。まぁ日向くんはモテるわよ」
「だから違いますからっ!」
「そんな真っ赤になって否定しても説得力、これっぽっちもないわよ?」
「うう...」
ユイの頬が火照ってきたので、手で仰ぐ。そこでゆりはユイにスポーツドリンクを渡した。
「あ、ありがとうございます」
有り難くゆりからペットボトルを受け取り、キャップを開けようとする。そこでゆりが持っていた部分がにわかに熱を持っていることに気づいた。
「あたしね、日向くんとは腐れ縁なの。わかるかしら...出席番号でいつもペアになっちゃうのよ。中学校三年間は同じクラスだったからね」
少し羨ましいな、と思いつつ、ユイは「そうなんですか」と相槌を打った。
「ええ。だから貴女に日向くんの過去を曝露してやってもいいわよ?」
「それってあたしにどんなメリットがあるんですか!?」
「ほら、好きな人の事は知りたくなるじゃない?」
「いや、好きな人ってわけでは...」
「まぁまぁ、なかなか面白い話もあるものよ」
そういってゆりは自分の膝を抱え、日向を見た。
なんだかその視線、ゆりが日向を見つめている表情、どちらも認めたくなくて、ユイはゴクッ、と先ほどのスポーツドリンクで喉を潤した。
そして、口を開く。
「ゆりっぺ先輩。先輩ってーーー」
「あっ、ほら、日向くんと野田くんの試合が始まるわよ。ほらユイ、貴女日向くんへラブコールを送りなさい!」
ーーーだから、あたしはひなっち先輩をそんな風に思ってないんですってば!
さっきまでそう否定していだが、何故だかわからないが、今は素直にそれを受け入れた。
「ひなっち先輩!」
「ほら、ら、ぶ、こ、お、る」
「...頑張ってください」ゆりに二度言われ、何だか恋心を肯定してしまったようで急に恥ずかしくなった。
「ほら、もっと大きな声で言いなさいよ?」
「うっ...頑張ってくださいね!ユイ、応援してます!」
「おうよ!」日向はニッ、と笑った。
「ゆりっぺは俺を応援しているのか!?」
「あー、はいはい、野田くん頑張って」
「ふっ...日向、容赦しないぞ」
「いや待て待て待て待て!何でそこで落ちてるビン拾うんだよ!?ボール割る気満々だろ!」
そんな会話をしている日向と野田がおかしくて、ユイとゆりは顔を見合して笑った。
と、その時。遠くから誰かが日向達の近くに来たのが見えた。
ゆり曰く、“音無くんとかなでちゃん”。
「音無くんたちが来たわ。ユイ、挨拶に行くわよ」
「っ御意!」
ゆりの押す車椅子乗り、日向の知り合いの元へと連れて行ってもらった。
「紹介するわね、音無くん、かなでちゃん」
「初めまして、ユイです!」
「...お前らいつの間に仲良くなったんだよ」
「なーによ、嫉妬しちゃって」日向の呟きにゆりが茶化しを入れた。
「ユイ...?」
不意に聞いたことのある声でそう名前を呼ばれた。ちょうど先週に聞いたばかりの声だ。
「...音無、先生?」
「なんだ、やっぱりユイだったのか。日向の彼女がユイだなんて、世間は狭いな」
「だから彼女じゃねぇって...」
「結弦、この方は?」
「ああ、俺の受け持っている患者だ」
そう、音無はユイが通院している病院の先生だ。そして偶然なことにユイの担当の先生でもある。
「いやー、まさかこんなところで音無先生に会えるなんて、あたしびっくりしちゃってます」
「そうだな。日向の彼女なら、これからもよろしくできるしね」
「音無...何なんだよ、お前ら揃って茶化しやがって...」
「ほぉら、いいからみんな揃ったところだし、おっひるっにしーましょっ」
すでに野田がBBQの準備を始めているのを見て、それぞれの腹の音が鳴った。