I remember you   作:春瑠雪

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今回から日向sideです。
日向もキャラが掴めるか不安ですが...


これが出会い

「いよっと...ただいま...って、誰もいないんだよな」

 

大学から帰り、自分の部屋に入るがそこは静寂の間であった。親元を離れ、一人暮らしを今年の春から始めた日向は、まだこの感覚がむず痒い。

日向はお世辞でも頭がいいとはいいきれなく、学生のイベントでもあり試練でもある定期テストでは中高といつも三桁の位置にいた。しかし唯一得意だった野球と積極的な性格のおかげで内申点だけは優等生に劣らないほど好成績だったので、何とか推薦で大学が決まった。

ムードメーカーのような存在で、ルックスもいいと周りから何度か言われてきた日向は一人という孤独感を味わったことがなく、今の生活になかなかなじめないのだ。

 

「これで彼女がいたらなぁ...帰ってきて、台所で飯なんか作ってくれてたら最高だけどな」

「いるわよ、日向くん」

「どわっ!?」

 

突如背後から声がした。その声が怖かったのか、突然の声に驚いたのかわからないが、心臓が跳ねた。

ゆっくり首をひねると、そこには思っていた人が立っていた。

 

「んだよ...ゆりっぺかよ...」

「何よ、んだよ...とは!」

「わり...って、お前いつからいたんだよ!」

「貴方がマンションのエレベーターから出てきた時からよ。驚かせようと思って、声はかけなかったけど、まさか本当にあたしの存在に気づいてなかったとはね...」

「お前存在消すのうまいよなぁ...」

「それって褒め言葉?」

 

ゆりっぺこと、仲村ゆりがため息をついた。

 

ゆりとは中学校が一緒でその時の交友関係がまだ続いている。日向とは正反対で、頭もよく、かなり成績は優秀だ。彼女は中学を卒業すると同時にドイツに留学に行ったので、学年は今は一個下になってしまったが、彼女に逆らえないのは変わらない。特に激怒した時なんか、ドイツ語で怒鳴られるのでそれが余計に怖いのだ。

 

「んで?何のようだよ?」

「ああ...参考書。前借りてたから、返しに来たのよ」

「あー、あのレベルの低い参考書な。役に立ったか?」

「ぜんっぜん。だから早めに返しに来たのよ!」

「ひでぇいいようだな...ゆりっぺは何でんな頭いいんだよ?それなのに何でこんな学校に進路を決めたんだよ?お前ならもっと上が目指せるだろ?」

「そ、それは別にいいじゃない...あたしのやりたいことがここにあったのよ!はい参考書!」

 

日向の胸に参考書を押し付け、ゆりは身を翻した。その時、ふわっと甘い香りがした。そこでゆりが一人の女性であるということを意識した。

 

「...何よ、人のことジロジロ見ちゃって」

「あっ...わり」

「んまぁそんなことはどうでもいいわ。じゃ、日向くん。ちゃんと食事は取りなさいよ」

「わかってるって。んじゃな」

 

 

***

 

ゆりがいなくなり、また部屋は静寂に包まれた。

 

「...俺こんなんでこの先大丈夫か?」

 

 

ふと不安になったその時、チャイムが鳴った。ゆりがまたっ戻ってきた、と思い少し嬉しくなったのは言うまでもない。

慌てて玄関に向かい、ドアノブをひねった。

 

「何だ?お前もやっぱ寂しくなったのか?ゆりっ...」

「あ...突然の訪問ごめんなさい」

 

ドアの向こうにはゆりーーーではなく、年上の女性だった。どこかで見たことがあるような、けっこう美人の。

 

「あの...私、階が上の者なんですけど」

「あっ、どうりで見たことがあると思えば!」

 

しかし何故マンションの部屋が一つ下の自分のところに突然現れたんだ?まさか、ゆりっぺとの会話がうるさくて迷惑だったとか?苦情か?

 

アホと呼ばれる部類にいる日向はそう考えた。むろん、さっきの会話は会話とも言えぬほど短く、たいして大声を出したわけでもないし、もし苦情が来るのなら、お隣さんからしかないということにも気づかずに。

 

「えっと、そちらのベランダに洗濯物が飛んでしまって」

「あー、今日風強いですからね!ちゃんと飛ばないよう工夫しなきゃだめですよ?」

「ふふ、そうですね」

お、笑顔も美人っつーか、可愛い。

「んじゃ、ちょっと取りに行ってきますね」

「あ、はい。すいません」

 

いえいえ、と言いながら日向は部屋の中へ入り、ベランダに出た。

しっかし、洗濯物、なんてアバウトだよなぁ。まぁ明らかに女物で落ちているやつを見つければいっか。これで下着だったらラッキースケベなんだけどな、なんて。そもそも下着なら俺に取らせないだろう。

 

「は?」

 

なんて思いながらベランダを見回すと、明らかに女物の洗濯物が見つかった。

 

下着だった。

 

「...いや。いやいやいや!なんだぁ、これ。モニタ〇ングか?」

カメラがいるのはわかってるぞー、と吐き捨てて、ベランダから出る。窓も閉めた。

 

 

「っWhy!?何なんだよこれっ!試されてんのか!?って、誰に試されなきゃなんねぇんだよ!?」

 

再度チラリ、とベランダを見る。きっとあの人は外で俺が下着を持ってくるのを待っているんだろうな、と思うと、胸がチクリと痛んだ。

いやらしいことは一切考えていません。神様、どうかお許しを。

さっと下着を掴んだ。ささっと、ではなく、さっとだ。

とりあえず、これをはいどうぞ、とは渡せないので、その辺にある紙袋を手に取り、その中に入れる。

 

 

「あの、持ってきました」

「あっ、ありがとうございます。こんなもの落としてしまって、すいません」

「いえ!万々歳ですよ!って、何言ってんですかね俺っ!あ、変な目で見てて渡すの遅くなったわけじゃないですからね!」

「わかってますよ。面白いんですね」

「そんなことないですよ」

「あの子と波長が合いそう...」

 

クスクスと笑う彼女を見て、子供のことだろうか、と思った。

 

「あの、お子さんのことですか?」

「あ、ああ、はい。家には一人娘がいるんですよ。なんだか娘と合いそうで」

「ってことは、それ娘さんのですよね!?」

 

それ、と言って指を指したのは紙袋。柄的には中高生だろうか。

 

「あ、はい」

「っ!ちょっと待ってくださいね!」

 

慌てて部屋に再度入り、台所へ向かう。最近買ったケーキを取り出し、それまた紙袋に詰め込む。

つまり、思春期の女の子の下着を見たということだ。しかもそれを手に取ったのだ。これは詫びなくてはならぬ。

 

「っこれ!つまらないものですが!娘さんにあげてくださいっ」

「えっ、大丈夫ですよこんな!」

 

ケーキを母親へ押し付けると、逆に押し返されたが、何とか日向が説得し、無事にケーキを渡すことができた。

その母親の後ろ姿が見えなくなるまで日向はずっと頭を下げていた。

 

「縦じまだったな...」

 

ようやく母親の姿が見えなくなったので、ぼそりと呟いて日向はドアノブをひねり、室内へ入った。




日向とゆりっぺの関係をちょろっと書きましたが、まぁ彼たちは中高と同じ学校なのです。
激怒するとドイツ語で怒鳴るゆりっぺ。この設定をいつか活用していきたい。
今回は長くなりましたが、閲覧ありがとうございます。
試験が近いので次回の投稿は7月頃になります。

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