「ほおほお...ひなっち先輩は野球やってるんですか」
「おうよ!高校生の時はあれだよ、甲子園。甲子園目指してたんだよなぁ」
「あれ...先輩っていくつですか?」
走らせていたペンを止め、彼、日向秀樹の目を見る。
高校生と踏んでいた予想が外れていたのか。
「ああ、言ってなかったっけ?俺今18歳だぜ?今年で19な!」
「ということはー...大学生、っすかね?」
「おおそうだ、大学生だぞ、これでもな!」
「おお...大人、ですね!」
「そうか?そういうお前はいくつなんだよ?」
「あたしは今年16でっす」
「お前...若いなぁ」
「おおっと~、ひなっち先輩おじさん臭いこと言いますね~」
「んだとぉ!?」
そういって日向はユイの髪をくしゃくしゃにした。
もう二度と会わないんだろうな...なんて思って日向と別れた日の翌日。彼はユイの部屋に現れた。彼曰くーーーどうせ寝たきりのユイが毎日退屈しているのだろうと思ったらしい。だったら退屈な人生だとは思わねぇように、俺が相手してやんよ!と。
お母さんは日向がまさかそこまでしてくれるとは思ってなかったみたいで、かなり嬉しそうだった。当方のユイはというとーーー男の人が勝手に女しかいない家に上がるのはいかがなものかと...と不服に思っていた。
しかしそれからまめにやってくる日向に心を開くようになり、今に至る。
「んなぁ、俺もお前に聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん?なんすか?」
「その...どうしてひなっち“先輩”なんだ...?別に呼び捨てでもいいだろ?それに歳だって今知ったってのに」
「ああ...そんなことですか」
日向の情報用メモ帳を近くにあるテーブルに置いた。風で揺れているカーテンを見つめながら、ユイは“先輩”に込められたことを日向に告げた。
「ユイね、小さい頃に事故にあったんだ。だからさ、寝たきりになっちゃったの。ひどいよね、学校、いけないもんこんな身体じゃ...だからね、先輩なんだ。ユイが初めて関わるお母さん以外の年上の人。憧れてたんだよね、先輩っていう存在ができるの」
「そっか...」
「嫌、だった?元カノのこと思い出したりした?」
「ん?ちょっと待て、何だよいきなり元カノなんて出してきて!」
「ふぇ?だって、ユイがひなっち先輩って呼んだとき、先輩懐かしいな...とか言ってたじゃないっすか!だからてっきり元カノからそう呼ばれてたのかと!」
「いやそうじゃねぇよ!」
「おっと、すいませんっ!先輩に元カノ、なんていませんよねっ」
「お前なぁ...言っとくが、俺だってそれなりにモテんだぞ?」
とその時、日向のケータイが鳴った。悪い...と言ってユイに背を向けた。
日向が電話に出た途端、女の人の声で「遅い!」と聞こえた。
何だよ、いきなりかける方が悪いだろ!?---ああ、まぁそうだけどなーーーはぁ!?おまっ...何してんだか...あー、わかったよ。今から優しいひなっちさんが行って...そのいいようはひどくないか!?違いますから!何でそんな風に言うんですかね!?---っと、ちげーよ!何でそんな風に言うんだ!?...thank you!って、んなことしてる場合かよ!?---ああ。今から行ってやんよ!
「わり、ちょっと用事できちまったから今日はこの辺にしとくな」端末を耳から離した日向が右手を顔の前に持っていき、ごめんのポーズをとりながらそう言った。
「いいよ。彼女さん怒ってるみたいだからね」
「彼女って...悪いな、ホント。また明日な、ユイ!」
「はい」
***
「はぁ...退屈になっちゃったなぁ」
先ほどまで賑やかだった分、いきなり訪れた静寂に思わずため息がこぼれた。
ベッドでごろんと寝返りを打ち、日向が座っている椅子を眺める。
「彼女、かな...大学生なんだもんね。そりゃ、彼女の一人や二人はほしくなるか...」
テーブルに置いていた日向の情報用メモ帳を取り出し、そこに“彼女持ち”と書く。
「...ユイ、何してるんだろ」
何故かわからないが、胸がモヤモヤしてきた。目頭も熱を持ち始める。こんなの初めてだ。
「...ひなっち先輩の馬鹿ぁ...」
次回から日向編に少しばかし突入します。
なんだかユイがおとなしくなってますが、多少性格が違くても転生後ですもの、と言い訳ができますね。...はい、アニメ、漫画、キャラコメンタリー、ドラマCDでしっかり復習してきます。
追記◆誤字発覚しましたので直しました。パソコンでやるとどうもかなり誤字が出てしまうものなので...すいません。