I remember you   作:春瑠雪

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下の階のお兄さん

「ユイ」

「ん?なぁにー、お母さん」

 

ベッドでゲームをしていると、母が部屋に入ってきた。ユイが夢中になっているということは知っているらしく、ドアの近くで話を始めた。

 

「ー...とりあえず下の階の人のところにお邪魔してくるね。すぐ戻ってくるから」

「はぁい」

 

生返事をするのも母は何も言わない。ずっと寝たきりのユイがゲームをするのを、母は悪く思っていないようだ。

 

あーあ、ゲームオーバー。

 

ぼふん、と枕に顔を埋める。最近はこのゲームにも飽きてきた。それはいつまで経ってもクリアしないということもあるが。

ユイは小さい時に事故に合い、それからずっとベッドとお友達状態である。みんなが学校に行ってる間、ユイはずっと家にいる。病院ではないところが唯一の救いだ。

と、つけていたテレビが最近放送し始めた月9のCMになった。それで今日は月曜日なのだ、と思う。

 

つまんないな...こんな人生。

 

CMでは人気の俳優がこれまた人気の女優を抱きしめている。そしてー...キスをした。そこでCMは終わった。

それを見てまた、はぁ、とため息をつく。

 

れんあい、か...いつかしてみたいな...なんて。寝たきりの私にどんな出逢いがあるのかなぁ。

 

「いつか...カッコ良くて優しい王子様に逢えないかなぁ...」

 

そういえば母は何のために下の階の人に会いに行ったのだろうか。ふと疑問に思った時に、「ただいまぁ」と声がした。母だ。

 

「おかえりー」

「ああ...ユイ、これ下の階の人が」

「ふぇ?わ、美味しそうなケーキ!!いいの!?」

「うん...貴女のことを話したら、ね」

 

食べよっか。そう言って母はユイを車椅子に乗せた。ユイはそれに従って、乗る。母が押す車椅子でリビングまで向かった。

 

「ねぇお母さん。何で下の階の人に会いに行ったの?」

「んー?さっきも言ったでしょ?洗濯物がね、飛んじゃってて。ほら、今日風が強いから」

「へー...って、何で私のパンツがテーブルにあるの!?」

「だから、洗濯物が飛んで」

「せ、洗濯物って私のパンツが飛んだってこと!?」

「そうそう...女の子の下着見ちゃったからって、下の階の人がお詫びにケーキくださったのよ?」

「ええ!?」

「大丈夫よ、優しそうなお兄さんだったから」

「なっ...おっ男の人っ!?」

「大丈夫って。貴女も女の子になっちゃったのね」

 

くすくす笑いながらケーキを小皿に入れ、こちらへと持ってきた母に頬を膨らます。

女の子ってなんだ。ユイはいつだって王子様に憧れていたのだ。素敵な恋だってしたいし、異性に下着を見られたら恥ずかしい。

 

「お母さんはわかってないなぁ。ユイ、もう16だよ?」

「そうね...良かったわ、貴女も女の子で」

「私は女の子なんだから、そう思うのは普通だよ!」

 

ユイは顔を赤らめながら、ケーキを頬張った。

 

 

 




初投稿です。どうか温かい目で見てやってください。

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