ハンターは衰退しました   作:皇我リキ

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新キャラです、見納め下さい。


あの日の事『第七話』

 

前略、ハンターは衰退しました。

 

 

文明は滅び、人口は減り、人々は世代交代を余儀無くされました。

 

この世の理を担うハンターの役目は現人類であるアイルーさん達に任せて。

一方で数もままならない旧人類の我々は一人ではこの世の理に立ち向かう事が出来ない程に弱体化してしまったのです。

 

 

だから、我々はオトモハンターとしてニャンターさんに着いて行くのです。そうする事でしか、この世の理にとても歯が立たないので。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

これは夢だ。

そんな事は分かっていた。

 

身体は言う事を聞かずに勝手に動くし、目の前にはもういない筈の人達が談笑している。

私はそもそも話す事が苦手な方だったので、こういう時は一歩下がってそんな光景を眺めているしかありませんでした。

 

 

左側。小さくて可愛い、黒い髪をツインテールにした彼女は私の後輩に当たる少女です。

後輩ちゃんの身長はとても低く、私が大きいせいもあって横に並ぶと違和感が凄いのですが。

一番の違和感はその小柄な身長に不釣り合いな胸の大きさでした。

 

あの学校でも一番の大きさだったと思います。

 

 

まぁ、そんな学校も———彼女も。もうこの世には存在しない。

 

 

私は目を背けたい気持ちでいっぱいでした。これは夢だ。あの時と同じ光景を、また見る事になる。

 

 

後輩ちゃんと談笑する友人と先輩。先輩があーだこーだと言うと、後輩ちゃんはあーだこーだと返し、友人はそれにあーだこーだと返して。

皆楽しそうに話していました。そんな中に入る程勇気は無かったのですが、それでも私も楽しかったんだと思います。———その時が来るまでは。

 

 

 

本当に、一瞬の出来事でした。

 

空から突然やって来た飛竜。大昔、人々と何度も激戦を繰り広げてきたと言われていますが今の我々にそんな力は無かったのです。

一瞬でした。その飛竜が放った火炎は先輩に直撃し、その身体を一撃で灰にします。

 

 

逃げました。脇目も振らず。

後輩ちゃんや友人の事も考えずに。自分の事だけを考えて必死に逃げたんです。

 

罰だったのでしょう。私は迷子になりました。

必死過ぎてここが何処だか分からないところまで来てしまったのです。

 

 

時間が過ぎ、お腹が減って、死んでしまうと、本気で思ったその時でした。

 

先程、先輩を灰にした飛竜が私の前に現れたのです。

 

 

あぁ……死んだ。抗う術も逃げる体力も無く、私はそう思う事しか出来なかった。

 

 

 

嫌だ。

 

嫌だ嫌だ。

 

嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 

思うだけで、私は何も行動しなかった。

 

 

「目を瞑れ!!」

耳を劈く、そんな声。

銀色の長髪が視界に入り、大柄な私より大きな身体が私を押し倒す。

 

「え?!」

私は彼の事を見捨てた。彼の事を考える事すら無かった。

 

 

それなのに彼は、高々にこう宣言したのです。

 

 

「もう大丈夫だ!」

一瞬の閃光。飛竜の目を潰し、私達はその場から逃げました。

 

 

もう大丈夫だ。やった、よかった、助かった。

 

 

 

彼にちゃんとお礼を言わなきゃ。

 

後輩ちゃんに謝らなきゃ。

 

 

学校に着いたら———

 

 

「———嘘」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「———っぁ?! え、ぁ……あぁ……」

夢。そうだと分かっていても、あの光景は結構心に来るんです。アレから一ヶ月と少しが経ちました。でも、まだ心からは離れない。

 

 

だから、こんな夢を時々見る。

 

 

 

「うなされとったな」

「っ、お、お爺さん?!」

突然掛けられた声にビックリして起き上がります。

枕元に座っていたお爺さんの手は私の頭に乗せられていたようで、私から退かされた手はゆっくりとその足元に置いてあった湯飲みを掴みました。

 

「飲め。少しは楽になる」

「あ、ぇと、はい……」

湯飲みを受け取って、その中身を喉に流し込む。ほのかな苦味と甘み、喉に来る後味は形容しがたく———ってこれ!

 

「———コッ、ケホッ……お、お酒?!」

夢枕にリアルで立ったと思ったら、孫にお酒を飲ますお爺さんなんて世界中探してもそう居ないと思いますよ。

そもそも人間自体そう居ないんですけどね。

 

 

「昔、ワシの爺さんは言っとったな。飲んで全部吐き出せば楽になる物だと」

「それ、胃の中の物吐き出してるだけでは……?」

ちなみにお爺さんのお爺さんは急性アルコール中毒でお墓に入ったそうです。

 

「胃の中の物もそうだが、他にも吐き出す物があるだろう? もうそろそろ一人で抱えるのは辞めて誰かに話したらどうだ」

そう言いながらお爺さんは立ち上がって、台所の机に酒瓶を持って座ると、私を呼ぶ様にその机をコツコツと指で叩きました。

 

「…………余生短いお爺さんが孫と飲みたい気持ちを無下には出来ませんよねぇ」

なんて、軽口を叩きながら立ち上がります。

 

 

勿論、本心じゃありせんよ。本当は嬉しいんです。こうやって人に優しくされる事がとても嬉しい。

でも、私にそんな資格は無いから。こんな事を口走ってしまうのです。

 

 

辺りを見渡せばまだ窓の外は真っ暗でした。お爺さん、こんな時間まで起きて私の事を心配していたのでしょうか……?

 

 

「これ……なんのお酒です?」

「黄金芋酒という奴だ。お前には合わんか?」

「いえいえ、大丈夫です」

私がそう強がりを言うと、お爺さんは湯飲みにお酒を注いでくれます。

 

湯飲みを受け取って、私はそれを一気にグイッと行きます。———勿論、噎せました。

 

 

「———ゲッホ、ケホッ、ッホ……な、なんでぇ?!」

「……お前はアホか」

冷やかな眼で私を見ながら、お爺さんは自分の湯飲みを口に運ぶと少しだけ傾けて直ぐに戻します。

 

「飲み始めに一気飲みなんぞ酒豪のする事だ」

「始めに行ってくださいよ……」

私のイメージするお酒ってこう一気にゴクゴクやる奴なんですけど……違うんですかね?

 

「それに、あんまり美味しく無いですね……」

「やはり合わんか?」

「い、いえ! 少しずつ飲めばきっと美味しいんですよ」

私がそう言うとお爺さんはまた湯飲みにお酒を注いでくれて、それを受け取ります。

 

今度はゆっくりと、味わう様に湯飲みを少しだけ傾けました。

 

 

「ほら! 飲めました!」

やはり、そんなに好みの味はしないんですが。それでも私はそう口にします。

せっかくお爺さんがお酒の席に呼んでくれたのですから、ね?

 

「お前は……優しいな」

その大きな手が、私の頭に乗せられます。

 

「……ぇ?」

「このご時世、人間がこの歳まで生きてあまつさえ孫と酒を交わす等と。そう叶う夢でもあるまい」

そう言うとお爺さんは無くした左手の代わりの義手で、湯飲みを傾けて自身の右手は私の頭を撫でました。

 

「これでまた、お前も大人になったな」

そう言うお爺さんの表情はお酒のせいかとても明るくて、笑顔で、幸せそうなんです。

 

 

「……でも、私は。私は、お爺さんの思う様な人間じゃないです。優しくなんて……無いんです」

私はあの時逃げました。助けられた恩も友人との友情も後輩からの敬いも、全部無下にして一人だけ逃げたんです。

 

あの時私は———死ぬべきだった。

 

 

「私は……私なんて……こん、な……だって…………怖かっ、たから」

あれ? なんで? なんで、こんなに勝手に口が開く。なんでこんなに感情が溢れてくる。なん、で?

 

「ふぅ……」

そんな溜息を吐いたお爺さんの手が私の頬に触れます。

どうやら私は知らず知らずの内に涙を流していた様で。その涙を指で優しく拭きながら、お爺さんはこう口を開きました。

 

「アルコールに任せて全部吐き出せるのも、大人の特権だ。良いから全部吐き出せ。自分の中に抱え込むには、お前の経験は深過ぎる」

そんな言葉に、涙が止まりませんでした。

 

どうしてか、分からない。これがお酒の力という奴なのでしょうか。

 

 

多分、違う気がした。

 

 

 

 

「———学校は雌の方の飛竜に襲われていました。何もかも火の海の中で、怖くなってまた一人で逃げてしまったんです。それで、私だけは上手く逃げれたみたいで……道端に倒れている私を見つけてくれたアイルーさんに助けられて、村まで戻ったんです」

結局、私は村に帰って来るまでの事を洗いざらい話してしまいました。人類最後の学校の最期を。

 

 

四人での実習の帰り道。私達は雄の飛竜に襲われて、なんとか戻って来ると学校は雌の飛竜に襲われて無くなっていたんです。

自分でだって何が起こったか分からなかった。ただ必死で逃げて生き延びてしまった。

 

きっと殆どの学生が亡くなったハズです。後輩ちゃんも……彼も。

 

 

「……なるほどな」

お爺さんは私の話をただ聞いてくれました。途中で泣きじゃくった私を心配してくれたり、焼け酒に手を掛ける私を止めてくれたり。

 

 

「まだ全員死んだと決まった訳じゃなかろう」

して、お話が終わるとお爺さんはそんな事を言うのでした。

 

「いや、それは……」

ありえません。あんな化け物に人間は勝てない。

 

「現に、お前は生きてここにいる」

「それは私が逃げたから……」

「普通、逃げるだろ」

「えぇ……? ん、あぁ……」

それは正論でした。人間はモンスターに勝てません。昔とは違うのです。

 

 

「逃げるのは当たり前の行動だ。生存本能に従った人間が古来より生き残ってきた理由だ。お前は何も間違っちゃ居ない」

「そんな……事……」

そう、言われても。

 

「だから、お前の友人も逃げられているかもしれん。その友人だってお前を見つける時、飛竜と戦う事などせずに逃げる選択肢を取れる賢い奴だろう? どこかで生きてるかも、しれんな。勿論、他の学生達もだ」

そう言うと、お爺さんは私の頭を軽く叩きながら立ち上がります。

 

 

そんな事、考えもしなかった。

 

 

私は、薄情者だと思ってた。

 

 

「ワシは、お前がバカじゃなくて……逃げてくれて。生きて会えて嬉しいよ」

「お爺さん……」

勿論、正解では無いハズです。

 

何かしら、誰かを救える方法があったかもしれない。

でも、お爺さんの笑顔を見て少しだけ思うんです。

 

 

生きて、帰って来て良かった……って。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……ん、んぅ……ぇえ?」

次の日の朝の目覚めは清々しいものでした。何というかお酒を飲むと凄く深く眠れるようで。

夢すら見ることなく起きれば、窓に太陽は映っていませんでした。

 

 

いや、え?

 

 

「……お、おはようございます…………ご主人」

「おはようにぁ、オトモさん」

「……あ、あの…………今何時です?」

「……お昼過ぎにぁ」

大爆睡大寝坊でした。オウノウ。

 

 

「うわぁぁぁっ! す、すみませんんん!!」

勢い良く飛び上がってご主人に土下座しました。クビだけは勘弁を! クビだけは勘弁を!!

 

「……あ、謝らなくていいにぁ! ボクも、オトモさんに無理……させ過ぎたのにぁ……」

「ご、ご主人は全く悪く無いです……っ! …………お、お爺さん!! なんで起こしてくれなかったんですかぁ?!」

ここまで来ると逆ギレにしか見えないのですが、もう私は他の何かに当たるしか思い付かないのでした。

 

「起こそうとしたが、な?」

「はひ?」

「……オトモさん、気持ち良さそうに寝てたから。ボクが、止めた、にぁ」

「ご主人……」

なんて優しいご主人でしょうか。

 

 

これが旧世代のお仕事なら、一発でクビ。君は明日から来なくて良いよ、ですよ?

 

 

「有給を頂きます……」

「……にぁ?」

そんな物はありませんでした。……お給料、引かれるのかなぁ?

 

 

「……今日はゆっくりお家で過ごす、にぁ?」

「そうですねぇ。こうなってしまうとクエストに出るのは厳しいかもしれません。内容にもよりますが」

よしんば行けたとしても沼地限定で狩猟クエスト以外、でしょうか?

 

「……たまにはお休みにする、にぁ」

なんて慈悲深い上司でしょう。

 

 

これが旧世代のお仕事なら。例え山火事の中大雨の中台風の中森と丘までクエストに連れてかれてもおかしく無いです。

あの子のスカートの中、きゃぁ。

 

 

「ならば今日は、私が全力全開でご主人の休日をサポートします!」

「……もう、半分終わったけどな」

お爺さんうるさいですよ黙って。

 

 

「今日は集会所で色々な人を招いてパーティーでもやりましょう! 幸い、お爺さんのへそくりを前日見つけた所でして」

「なん……だと」

タンスの裏にマタタビ隠す人、居るんですねぇ。

 

 

「休日こそ、沢山の人と関わって一緒にいた方が楽しいのですよ!」

「……に゛ぁ?!」

私のその言葉に、ご主人は表情を引き攣らせました。

 

このご主人、あまり友人関係が広く無いのですよね。

私が仲良くなったアイルーさんでも、ご主人はお話ししなかったりするんですよね。

 

 

一方で私は、ご主人のオトモハンターを始めてからというもの知り合いのニャンターさんもかなり増えて来たと思います。

黄色君やピンクちゃん、お師匠さんや気球の運転手さんと、私もアイルーさん相手なら中々のコミュニティ能力を発揮出来る物だと自負出来るのでは無いでしょうか。

 

 

「ご主人、友好関係というのは社会に出る上でとても必要な物なのですよ?」

「……にぁ」

納得はしてるけど、納得したくない。そんな表情です。

 

「お前が言うのか」

私の事は良いんです!

 

 

「これからは黄色君の時みたいにパーティーでの狩りもあるかもしれません。その時に仲間になってくれるお友達が必要だと思いませんか?」

「に、にぁ」

コクリと小さく頷くご主人。どうやら分かってくれたようです。

 

「なので、少しずつでもお友達を作って行きましょうね」

「……にぁ」

大丈夫、ご主人はとても素敵な人ですから。

 

 

 

 

「それでは行って参ります」

「にぁ」

「ふむ」

いつもの片手剣を背負い、ご主人も狩りの格好だけして玄関でお爺さんに挨拶をします。

 

時刻は太陽が沈み始めるくらいの時間。こんな時間から狩りの支度をするとなると遠くの狩場に遠征かとも思われますが、違います。

 

 

私達が向かうのは確かに集会所。ただし、目的はクエストではなくその場に集まる人々です。

集会所には食事を嗜む設備も設けられていて、夕方になるとそこは多くのニャンターさん達で賑やかになるのです。

 

そこはニャンターさん同士の情報の交換だとか、お酒で賑わったりだとか、舞猫さんが踊りを踊ったりだとか、色々と楽しい場所なのです。

そんな所へ今日はただ食事をしに行くだけの為に出かける事にしました。狩りの格好をしているのは……今日寝坊して何もしてないのにここに来たと思われないようにするためです。

 

 

「おぉ、なんという賑わい。ご主人、あそこの席で大丈夫ですか?」

丁度手頃な席が空いていて、私はご主人にそう提案しました。ご主人は無言で頷くと早足でその席に座りに行きます。

そ、そんなに他のアイルーさんと関わるのが嫌なのでしょうか……?

 

「あ、ちょ、ご主人待ってくださいよ! もー」

これは先が思いやられます。

 

 

さて、ご主人を今日ここに連れて来た目的はご主人の友好関係を作る事です。

なので、私は手頃なアイルーさんが居ないか一旦くるりと周りを見渡しました。

 

丁度良く、居ない物ですね。

 

 

「オートーモーさーん、ミャっ!」

「うわぁ?!」

諦めてご主人の元に向かおうとしたその時でした。突然足元から気の抜けた声が聞こえたかと思えば、その声は突然張りのある物になって私を驚かしてくれやがります。

 

足元に居たから、気が付かなかったんです。私、無駄に縦に長いので。

 

 

「ピンクちゃん?! ちょっとぉ、驚かさないで下さいよ……」

私の足元に居たのは、探していたアイルーさんの一人でした。ピンクの可愛い毛並みが愛らしい、通称ピンクちゃん。

彼女もこの世界の理に触れるニャンターさんの一人です。使う武器は自動小銃、ご主人より近くでモンスターに弾丸を与える武器ですね。

 

確か、きちんとしたオトモハンターさんを雇ったとか少し前に聞いた覚えがあります。それから今日までそのオトモさんに会った事無いんですよねぇ。

 

 

「その後はどうかミャー?」

「おかげさまで順調、ですかね?」

順調とは言い難いのかもしれませんが。ゆっくりとでも、ご主人はギルドに評価されつつあるハズです。

 

「そちらはどうですか?」

「今日もクエストに行ってきたミャ! なんと今日はボロボロスとかいうちょっと手強い奴ミャー!」

「何ですかその既にボロボロに弱ってそうな名前!」

ボルボロス……でわ?

 

「なんかミスターなドーナッツのポンデな輪っかみたいな海竜種ミャ!」

「ロアルドロス?!」

ロスしか合ってない。

 

 

「そーミャそーミャー、確かそんな名前ミャ!」

「あっはは……。ところで、ピンクちゃんのオトモさんってどんな人なんです? まだ会った事無いんですよね」

「あー、あの子ならお手洗いに行って———ぉ、来たミャ来たミャ」

ピンクちゃんが話している途中で、私の背後からピンクちゃんのオトモさんが近づいて来たようで。

 

「あ、初めまして。私、ピンクちゃんのお友達であなたと同じオトモハン———」

振り向きました。振り向きながら挨拶をして、それからこの二人を食事に誘いましょう。

ピンクちゃんにはお世話になってるし、これからはご主人とも仲良くして貰いたい。

と、なるとピンクちゃんのオトモさんとも仲良くする必要がありますからね。

 

さて、どう挨拶したものか。そもそも男性が女性か。仲良く出来るのでしょうか? またモヒカンさんみたいな人じゃなければ嬉しいですけど。

まずは名乗って? 趣味とかっていきなり話すものなんですかね? いや、まずは食事のお誘いを?

 

 

色んな考えが頭を過ぎりました。そもそも、私も人付き合いが苦手です。

だから学生時代も人付き合いは少なく、同じボッチのあの友人や誰にでも懐いて私にも話し掛けてくれた後輩ちゃんくらいしか———

 

 

「もしかして……先輩?! 先輩さんですか?!」

小柄な身体、その割には豊満な胸を揺らしながら、ツインテールにした黒髪は彼女の驚きの表情と一緒に縦に振れる。

あの頃と変わらない無邪気な顔は驚きの表情で眼をまん丸にして———とても、嬉しそう?

 

 

「う、嘘……後輩ちゃん……っ?!」

それは間違い無く彼女でした。見間違える訳も無い。この世には同じ顔の人間が三人も居る時代は終わったんです。

生きていた。あの惨事から私と同じく生き延びてくれていた……っ!

 

「生きて……居たんですね……っ! 先輩……先輩っ……ぅっ」

私が言うよりも早く、彼女は私に抱き着きながらそう言いました。涙で一杯のその顔を私の胸に押し付けます。

ごめんね、あなたみたいに大きく無くて……っ!

 

「それはこちらの台詞ですよ……後輩ちゃん」

少しばかりの劣等感を感じながら、私は彼女の頭を撫でました。頭一つ分は小さな彼女の身体を抱き返して———再開の喜びを分かち合いながら。

 

 

 

 

「それで、私は気が付いたらドンドルマに居たんですよ」

後輩ちゃんのお話によれば。あの学校での飛竜の襲撃からなんとか生き延びた後輩ちゃんは森の中で倒れ、たまたま近くを通り掛かったニャンターさんに助けられたそうで。

 

彼女は身寄りも無く、自分にはオトモの知識しか無いのでそのままオトモハンターとして生きて行こうと思ったとか。

そこでピンクちゃんと契約したのが、つい数週間前。保護された時彼女は大怪我を負っていて、完治するのに時間が掛かったそうです。

 

 

「でも良かったぁ、先輩が無事で。Kさんも喜びますね、きっと!」

「え、彼……生きてるんですか?!」

「あ、いや、分かんないんですけど……。あの騒ぎの中飛竜の相手をして皆が逃げる時間を作ってたような化け物がそう簡単に死ぬとは思いません」

彼は……そんな事を。

 

「私は…………皆を見捨てて逃げました」

そんな話を聞けば、私の罪悪感は膨れ上がるぼかりでした。

助けられたかもしれない。誰かを、生かす事が出来たかもしれない。

 

 

私は———殺してばかりだ。

 

 

「私もですよ」

彼女は、そう言いました。

 

「———ぇ?」

「私もKさんが頑張ってる横で、先輩達が襲われて食べられて殺されてる間に逃げましたよ。他の誰かを助けようなんて……微塵も思わなかった」

「後輩ちゃん……」

あの人懐っこい後輩ちゃんが……。

 

 

「だって怖かったんですもん。先輩が薄情者なら私も……いや、私はゴミ屑野郎です。なんたって頑張ってるKさんを見ていたのに何もせずに逃げたんですからね」

苦笑い気味に彼女はそう言いました。

 

そんな彼女を見て、お爺さんの言っていた意味が深く伝わりす。

 

 

人間は弱い。だから、それは当たり前の感情。

怖い。生きたい。死にたく無い。

 

だから、

「私は、あなたと生きて会えて嬉しいです。生きててくれて……ありがとう」

「先輩……」

生き残ったのは彼女だけかもしれない。

 

 

もし私と彼女がKの手伝いをしていれば、状況は変わったかもしれない。

 

 

それでも、私は思う。思ってしまう。

 

生きて、彼女に会えたのがとても嬉しい……と。

 

 

 

 

「それにしてもアレですねぇ、Kさんって本当ただの変態だと思ってたのにめちゃ強いんですねー。あれならあそこから生き残ってもおかしく無い気がしますよー」

「まぁ、あの人は基本ただの変態でしたからねぇ……」

少し落ち着いて、そんな思い入れ話に花を咲かせていました。久しぶりのガールズトークで野郎のお話とは……。

 

「まさかウチのオトモさんが君のオトモさんの後輩だったとはミャー」

「……に、にぁ」

そんな風にご主人はご主人でピンクちゃんに話し掛けられるのですが、反応はあまり宜しくない様子です。

 

 

私は後輩ちゃんはともかくピンクちゃんとも仲良く話せます。なので、ここで私がご主人を放置するとご主人はボッチになってしまうのです……っ!

 

 

「ご主人はピンクちゃんの事知ってましたっけ?」

「……え、えと…………同じ時期にニャンター登録した、にぁ?」

それ以降関わりが無いのかーい。

 

「ウチは君の一年前だミャ?」

しかも記憶違いかーい。

 

 

「あ、あはは……」

マズイマズイ。これはマズイ。

 

 

なんとかご主人には二人と仲良くなって貰わねばなりません。

なにせ、ピンクちゃんも後輩ちゃんも良い子です! この二人なら私の気苦労が減ります!

 

あ、いえ。モヒカンさんの悪口じゃありませんよ、オホホ。

 

 

 

「そうですご主人! 明日二人とクエストに行きませんか?」

「……に゛ぁ?!」

どうしてそんなに嫌そうな反応をするんです?!

 

「賛成だミャー!」

「私も賛成ー!」

元気良く賛成してくれる二人。

一方でご主人は凍土でホットドリンクを忘れたハンターのように震えていました。ナーゼー。

 

 

「ご主人……?」

そんなに嫌なのでしょうか……。しかし、立派になればなる程、人付き合いは大切なはずです。

孤高の狼は、群れのリーダーにはなれません。

 

 

「……に、にぁ」

「大丈夫です。私も居ますし、ご主人なら上手くやれます!」

「……自信が無い、にぁ」

あの狙撃技術を持ちながら何を言っているのだろうかこの人は。

 

「んもぅ……ご主人……」

 

「あの五代目ギルドニャイト候補、金狼の二つ名を持つニャンターの弟子なんミャから。もっと胸張るミャ」

ご主人のお師匠さん二つ名まで持ってたんですか……。

 

「……に、にぁ」

その過度な期待が重みになっているのか、プレッシャーを感じているのでしょうか。

だから震えて、自信が無いように振舞っている?

 

 

でも、私個人の考えですがご主人は凄いです。

確かにちょっと臆病な所もありますが、狙撃技術は遠近距離でも安定しているし武器の性能も上々。

その武器だって毎日手入れを欠かさないし、臆病でもいざとなったら私を助けてくれる勇気のあるアイルーさん。

 

私はそんなご主人を誇りに思います。

 

「そうですよ、ご主人」

だから、私もピンクちゃんに同調しました。

ご主人には素敵な所がいっぱいあります。それはお師匠さんの事を抜いても、です。

 

 

「でも、いくら立派でも最後に頼れるのが自分だけというのは正直危険です。最後に頼れるのは自分ではなく仲間……でないと孤独で、本当に最後の時に諦めてしまうんです」

自分に言い聞かせるように、そう言いました。

 

 

私って、結構諦めるのが早いです。ここ数週間でも何回か諦めてます。

そんな時の自分なんて頼りにならない。人は一人では生きていけないから。

 

アイルーさんがどうかは、知りませんけどね。

 

 

「だから少しずつで良いんです。仲間とかグループとか、そんな堅苦しい物じゃ無くても良いんです」

昔の自分を見ているみたいだった。

 

ご主人はいつも一人です。最近になって私とは話してくれるようになりましたが、どうも他人に対して酷く壁を作っている気がしました。

それは、昔の私と同じ。理由は違えど、きっと私と同じハズです。

 

 

「友達、作りましょ」

「……にぁ」

コクリと、小さく頷くご主人を目一杯撫でます。

 

「に゛ぁ?!」

「ふふふ、偉いですご主人!」

「こ、子供扱いしないで、にぁ!」

可愛い……。何この生き物。

 

 

「決まりだミャー」

「ですね!」

さて、明日は人狩り行きますか!

 

 

その前に、今日の腹ごしらえを。

 

 

 

「ふふふ、ならば今日は私が皆さんの人生の先輩としてご飯を奢っちゃいます!」

この、先日見付けたお爺さんのヘソクリから先日の浮気騒動の件をもう突っ込まない事との交換条件で頂いたマタタビ二十個で!!

 

お給料、まだ出てないんです。はい。

 

 

 

「本当ですか!」

「太っ腹だミャ!」

「……だ、大丈夫かにぁ……?」

「平気です。どんどん食べちゃって下さい。腹が張っては狩りも出来ぬ、ですよ!」

 

 

「はい、ご注意伺いますニャ!」

「フォアグラ下さいミャ」

「え」

「フカヒレ!!」

「ぇ」

「……ちくわパフェ、にぁ」

「皆さん遠慮無さ過ぎでは?! 定食は?! 晩御飯ですよぉ?!」

しかし、口から出てしまった言葉を取り消す気にもならず。私の所持マタタビは今晩だけで底をつくのでした……。

 

 

ひ、人付き合いって大変ですよねぇ……アハハ。

 

 

「ご、ご主人……お給料日って…………何時です?」

「……来週、にぁ」

認めたくない物ですね……自分自身の、若さ故の過ちと言う奴を。

 




少しずつお話を進めれたら良いなと思って書いたら遂に狩り描写どころかモンスターの描写が無くなってしまった……
じ、次回はモンハンやりますよ……っと

新キャラとして後輩ちゃんが登場です(生き残れ社畜ちゃんみたいな感じになっちゃってるな……)
挿絵が間に合ったので、久し振りに前書きに付けてみました。後輩ちゃんです。大きいですね!←


次から更新が遅くなりそうです。もし……もし……更新を楽しみにして下さってる方がいらっしゃいましたら……すみません。


でわ、また来月お会い出来ると嬉しいです。

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