前略、ハンターは衰退しました。
いつの時代だったか。文明はまるで枯れ木のように散って行きました。
理由は分かりません、諸説あります。
宇宙人の従来だとか、環境汚染による生活環境の悪化だとかなんとか。
とりあえず。
荒々しくも眩しい時代は幕を閉じました。
後は人間は絶滅に向けてゆっくりと衰退していくのみです。
これは、そんな世界を生きる私達お話。
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「パーティ……ですか」
「そーだニャン。オトモさんと弟子もそこそこまとまって来た見たいだし、ここいらで一つ刺激を与えてみるニャン!」
そう語るこの人は、私と同じ金色の毛をした人物。
私と違う所と言えば、彼女は尻尾が生えていて全身をモフモフそうな毛で覆われているといった所。
そう、獣人種アイルーさんです。
最早語る必要も無いでしょうが、人類は衰退しました。
長い年月を掛けて数を減らし、今や文明はこのアイルーさん達の物です。
彼女はそんなアイルーさんの中でも、この世界の理であるモンスターと文明の中立を図る存在。ニャンターさん。
そして私はそんなニャンターさんに仕えるオトモハンターという存在です。
隣にいる、銀髪の自信のなさそうなニャンターさんが私が使えるご主人様。そして、目の前にいる金髪の人はご主人のお師匠さんだったりします。
「……い、嫌だにぁ」
「拒否権は無いニャン」
「にぁ……」
お師匠の権力は絶大でした。
「まぁまぁご主人。良いじゃないですかパーティプレイ!」
私達は今日も今日とて二人でクエストに出掛けようとしていたのですが、集会所でパタリと出会ったお師匠さん。
彼女は「二人も良いけどたまには他のニャンターともクエストに行ってみるニャン」と、私達をパーティに誘って来たのでした。
ふふ、パーティとなれば私の出番はありません。つまり今日はお休みになる訳です!
しかもオトモは休んでも月給制なのでお給料は貰えますからね。
お師匠さんが一緒ならご主人も安心でしょうし。パーティでの狩りも立派になる前に経験しておくべきとも思います。
「……ボク、知らない人とはちょっと……にぁ」
「お師匠さんが居るじゃないですか」
「……この人は来ないにぁ」
え?
「誰も私とパーティを組めなんて言ってないニャン。あと、オトモさんも同行だニャン」
「あ、そうなんですか……」
休暇の夢、あっさりと切り捨てられました。
「と、なると他のニャンターさん……?」
「そうニャン! こっちはニャンターとオトモで二人、ならばとパーティにはもう一組オトモを連れたニャンターに声をかけておいたニャン」
お師匠さんの手際の良さに感服です。
「……にぁ」
どうも、気分が乗らない様子のご主人。私も人の事は言えませんがね。
「しかし、私以外にもまだオトモハンターやってる人居たんですね」
人類はまだ滅びないようです。
「オトモさんが思ってるより、オトモハンターは需要があるニャン。この街にもオトモを雇ってるニャンターは結構居るニャン」
「そうなんですか?」
「斯く言う私も実は先日オトモを雇ってみたんだニャン。それはそれは凄腕のオトモでとても助かってるニャン。……まぁ、性格にちょっと難ありだけど。悪い奴じゃ無いニャン」
そう言うお師匠さんはどこか遠い所を見つめていました。
まるで「なんであんなの雇ったんだろう」と、口にしそうな表情です。
「いつかお師匠さんとそのオトモの人とも狩りに行ってみたいです」
「近いうちに行こうニャン。私は今は、二人の成長を見守るニャン」
ご主人はお優しい師匠をお持ちでした。
「それじゃぁ、今回一緒にクエストに出て貰う二人を呼ぼうと思うんだど。オトモさん、一つ聞いて良いかニャン?」
まるで人を試すような表情で、お師匠さんはそう聞いてきました。そして、こう続けます。
「オトモさんは人間相手の喧嘩って強い方?」
なんて物騒な質問!
「お師匠さん、私はこれでも花も恥じらう乙女ですよ?」
無駄に大きいけど腕力があるという訳ではありません。
まぁ、対人関係の話はまた別なんですけど。
「聞いてみただけニャーン」
不敵な笑みでそう言うと、お師匠さんは集会所の奥へと姿を消しました。件のニャンターさんとオトモさんを呼んでくるのでしょう。
しかし、嫌な予感がします。
そして、お師匠さんは男性のオトモとニャンターさんを連れて来ました。
しかもその二人共、物凄い姿をしています。
男性のオトモの方の頭はモヒカンになっていて、防具もダイミョウザザミというモンスターの素材を使ったゴツい物でした。
もう見た目世紀末。確かに人類世紀末ですが、我々はそんな過激な世紀末を送りたくはありません!
そしてニャンターさんも黄色い毛で頭はモヒカン。まるで二人共、世紀末ヒーロー北斗君———って良く見たら彼ではありませんか!
「黄色君!? わぁお久しぶりです! ちゃんとオトモを見つけたんですね!」
お師匠さんが連れて来た彼は私が仕えるべくご主人を探している時に、私を狩りに誘ってくれたニャンターさんの一人でした。
私とは相性が悪かったみたいで、その時はオトモ契約は無しだったのですが。良いオトモさんに巡り会えたようですね!
「お、オトモさん……。そ、そうだニィ」
あれ? 心なしか元気が無いような、
もっとこう、彼はヘビーでロックな感じだったと思うのですが。
「おろ? 知り合いだったかニャン?」
「あ、はい。私は」
その都度はお世話になりました。
「に゛ぁ……に゛ぁ……っ」
ふと、ご主人の様子を見てみると。何やら顔を真っ青にしてお師匠さんの背後に隠れてしまっていました。
わ、分からないでは無いですけどね。流石に世紀末過ぎて怖いかもしれませんが、それでは失礼ですよご主人。
「今日一日パーティらしいので、ご主人に変わって。宜しくお願いします」
世紀末を怖がって震えているご主人の代わりに、黄色君のオトモさんに手を出して挨拶をします。
見た目は世紀末でも、お師匠さんが連れて来た方です。きっと中身は紳士なハズ。
「ケッ、お前の所のネコも大した事無さそうだな」
しかし、帰って来た返事はそんな物でした。
「……はい?」
き、聞き間違いでしょうか?
「ま、どーでも良いから早く行こうぜ。モンスターが俺達を待ってる」
出した手に答える事も無く、モヒカンの彼はそう言うとクエストを受注しに行ってしまいました。
黄色君は、黙って彼に着いて行きます。
「な、何なんですかあの人……っ!」
「……」
ご主人はそれを見てお師匠の背後で震え続けていました。
「行ってくるニャン」
この人は鬼ですか。
「あ、あの人……だって…………ねぇ?」
「この世には色んなモンスターが居るニャン。それと同時に、色んなニャンターやオトモが居る。……それと正面からどう付き合うか、学んで来るニャン」
「…………に、に゛ぁ……」
これは、ご主人の成長の為なのでしょうか。
確かに。ずっとソロでオトモを連れて狩りを続けていては一人前にはなれません。
人もアイルーも色んな仲間を集めてパーティを作り、自らより格段に強力な生き物と戦うのですから。
あのモヒカン男だって、今回はその仲間の一人なのですから。正面から付き合わなければなりません。
私は凄く嫌なのですが、ご主人の為です。仕方がありませんよね……?
「わ、分かったにぁ」
「ふふ、なら行ってくるニャン馬鹿弟子! オトモさん、こいつの事頼むニャン」
お任せあれ。
さて、どんな狩りになるのでしょうか。
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背後には集会所に居る大きな石像の人すら小さく見える巨大な門。
一体何を招き入れる為にそれほどまでに巨大な扉が作られたのか。
それに、完全に招き入れる気が無いと言われても仕方が無い程に、大砲や撃龍槍等の設備が整っています。
ここは砦。ドンドルマを覆う巨大な壁の外。
人食い巨人が攻めてくる訳でも無いのに、ドンドルマにこのような設備があるのには訳があります。
それはそれは昔。我々人間がハンターをしていた頃から、この地は立地的に大型モンスターや強力な古龍等の襲撃に度々見舞われやすかったそうです。———なぜそんな所に作ったのか。
そんな状況で、我々旧人類が作り上げた防御壁。それはこの現代まで山の如し巨大な龍や強力な古龍達からこの街を守ってきた———とか実は一度突破されてドンドルマ滅びかけたとかなんとか。
そして私達二人と二匹は今、その砦の外側に立っています。
い、いえ。今から巨大モンスターとか古龍とかなんかと戦う訳ではありませんよ。
そんな恐ろしいクエスト新人に任せるほどお師匠さんもギルドも鬼ではありません。
「……それで、今回のクエストって何なのにぁ?」
いつものスナイパーライフルを取り出し、お師匠さんは困り顔でそう聞いてきます。
「イーオス、並びにガブラスの退治ですね。———数は問わない、全滅させろ。との事です」
キメ顔でご主人に説明します。
砦は確かに街の一部ですが、所詮は外側なので小型モンスター達も普通に入り込んで来る訳で。
定期的に退治しないと砦に縄張りを形成されてしまうらしいです。住みやすいんですかね? ここ。
特に普段は影響無いのですが、いざ砦での撃退戦になった時にイーオスの縄張りなんて出来ているとどうなるかは語らずとも測り知れる所でしょう。
そう言う訳で、こうやって定期的に砦のモンスターを退治するクエストが出てくるのだとか。今回は、そんなクエスト。
「小型モンスターだけですし、パパッと終わらしてしまいましょう」
「……油断は禁物にぁ」
それはまぁ、そうですね。
「おいお前何してやがる、とっとと準備しな」
二人で話していると、イラついたような声でそう命令してくるモヒカンさん。人間風情が偉そうに。
「勝手に仕切らないで下さいます? パーティといえど、礼儀は必要だと思いません?」
「あぁ? 何言ってんだ。俺がこのパーティのリーダーだぞ。リーダーが命令するのは当たり前だろ」
初耳です。
え? リーダー? この人が?
「アハハ、ウケルー。……あなたはオトモでしょう?」
ハンターは衰退したんです。今の我々はオトモハンター。この世界の主役は彼等ニャンターさんで、我々ではありません。
それを、このモヒカンさんは勘違いしてるのでしょう。格好は世紀末なのに心は原始人だったようです。
「俺はオトモじゃねぇ!! オトモはこいつ、オトモアイルーがハンターに仕えるのは当たり前だろ?」
何時代の人なんですかこの人。
「……に、にぁ」
私の背後で怯えているご主人。ふむ、ここはバシッと一言決めてご主人からの信頼を得るチャンスですね。
「あのです———ひぃ?!」
私の言葉を止めたのは突き出された太刀でした。
防具とは違いショウグンギザミというモンスターの素材で作られたその太刀。
素材の元となったモンスターの別名、鎌蟹の名に相応しい鋏をそのままの形で太刀に鍛え上げられたそれは、見た目だけでも切れ味抜群そうです。
私は口を開くのを辞めました。無理、怖い。
「分かったら着いて来い。俺がリーダーだ」
「あ、はい。分かりましたリーダー」
世の中穏便に、これが一番です。
「……にぁ」
「……ニィ」
そんな訳で、私達はリーダーに着いて砦から少し離れた場所に向かうのでした。
「やぁ!」
毒々しい赤色。その肉体に、錆びて切れ味など皆無の片手剣を叩き付けます。
いや、本当いつまでこの武器で戦わなければならないのか。
私のおじいさん、さび取りが趣味なんですからもう少し頑張って下さい。
「グォッ!」
しかし、錆びていても鈍器くらいにはなるので目の前の鳥竜種———イーオスも目に見えてダメージが出て来たように思えます。
さて、次でトドメを刺そうと思ったその時でした。
「よーし、そいつも弱ったな! よこせ!」
「———な、えぇ?!」
なんといきなりモヒカンの彼が私とイーオスの間に入って来て、その太刀を振るうのです。
「グォェ……ッ」
断末魔の悲鳴を上げて、イーオスは力無く倒れます。
「ちょ、ちょっと! 危ないじゃな———」
「あん?」
「———んでもありません」
お家に帰りたい。
「ご主人ご主人! あのイーオスも手頃に弱ったニィ!」
心の中で嘆いていると、背後から黄色君のそんな声が聞こえます。え、ご主人?!
「あなた……」
「よーしどいつだ! 俺が狩ってやる!」
そう言うと、彼は構えた太刀をそのまま黄色君がチェーンソーで適度に弱らせたイーオスに叩き付ける。
黄色君の武器ならそんな事させなくても、イーオスくらいなら一撃で倒せてしまうハズなのに———なぜそうまでして彼が仕留める事に拘るのか。
「オトモさん!」
そんな事を考えていると背後からそんなご主人の声が聞こえ、同時に甲高い銃声が鳴り響きます。
「———うぉぅ」
振り向くとご主人の銃弾に倒れたイーオスが私の真後ろに倒れていました。
どうやら間一髪の所をご主人に助けられたようです。アブネー。
「あ、ありがとうございますご主人!」
「……だ、大丈夫にぁ? 怪我は?」
「大丈夫ですよ」
あぁ……ご主人の優しさに癒されます。
「おいそこの銀色! 俺の獲物を殺りやがったな?!」
え、ちょ、今ので怒るんですか?!
「ちょっと待って下さい! それはいくらなんで———」
「あぁ?!」
ひぃ! な、なんなんですかこの人はもぅ!!
「ご、ご主人! 大物だニィ! 大物!」
憤怒の表情で近付いてくるモヒカンさんの背後から、焦った口調で黄色君がそう叫びました。
私もご主人も例外無く、黄色君が指差す方向に目を向けます。
そこにはなんとも巨大なイーオス。いや、イーオス?
そのイーオスは見た目はイーオスなのですが、普通のイーオスには無い大きなトサカが頭の瘤から生えています。
この鳥竜種の仲間には群れの中で強力に成長し、巨大化する個体が現れる事があります。
その個体は群れをまとめるようになり、リーダーの証としてトサカが生えてくるのだとか。
そう、彼はイーオスの群れのリーダー。ドスイーオスでした。
「ドスイーオスじゃねーか! 狩り甲斐があるぜ!」
モヒカンさんはそう意気込むとドスイーオスに走って向かって行ってしまいます。
た、助かりました。
「グォォッ!」
「オラオラ喰らえぇ!」
気合を込めながらドスイーオスに太刀を叩き付けるモヒカンさん。その太刀にドスイーオスは反応して身体を翻し、お返しにと体内で作られた毒液を吐き出す。
「っと! やるな、これでこそ狩りだ。お前らはイーオスを弱らせてな! でも狩るなよ、狩るのは俺だ!」
その毒液を避け、モヒカンさんは攻撃に移りました。彼は中々に動ける人みたいです。———性格はともかく。
「彼はなぜ……そこまでモンスターを狩る事に執着するのでしょうか」
「ご主人はハンターである事に誇りを持ってるらしいニィ」
黄色君が、私の独り言にそう答えてくれました。
ご主人ねぇ……ハンター…………ねぇ。
「黄色君はあんな人の側に居て良いんですか? お世辞でも良いオトモだとは思えませんよ」
私が言うのもなんですけどね。
「良いんだニィ」
「これまたどうして……」
彼と一緒にいても良い事なんてあるようには思えません。
「彼の信念は格好良いニィ! 俺も将来彼のようになりたいから、今は彼に付いて行くニィ! まぁ……ちょっと横暴な所もあるけど、それでも彼は格好良いんだニィ!」
同じヘビーな格好に何かを見出してしまったのでしょうか。黄色君に彼のようにはなって欲しく無いのですが……。
「グォッ!」
と、そんな話をしている間にボスのドスイーオスの掛け声で集まってきたイーオス達に囲まれていました。
数は……六。少し多いですね。
しかし、何故ドスイーオスが居るのか。
私は手頃な位置のイーオスにさびた片手剣を叩き付けながらそう考えます。
クエスト内容にはドスイーオスの狩猟は含まれて居らず、そもそもドスイーオスが現れるまでイーオスの群れをギルドが放置していたとは考えにくいです。
と、なると近くの狩場———例えば沼地に居たドスイーオスが砦までやって来た? だとしたら何故?
「よーしよくやった! そいつは貰うぜ!」
そして性懲りもなく彼は私の弱らせたイーオスを横から叩き斬ります。
そして黄色君もご主人も、使う武器はイーオス相手なら一撃必殺の武器なのにイーオスの弱点では無い所を狙い、弱らせるだけ。
そこをやはりモヒカンさんは討伐するのです。ドスイーオスと戦っているのにも関わらず、器用な物で。
「イーオスも減らしましたし、援護した方が良いんですかね?」
残りのイーオスは二匹。それとボスが一匹だけでこのエリアのイーオス達は全部です。
これを倒してクエストクリアと言いたいところですが、モヒカンさんと戦っていたドスイーオスは足を引きずりこのエリアから離脱しようとしていました。
「その必要も無し……ですか」
足を引きずって去っていくドスイーオスの身体は全身切り傷だらけで、弱っているのが目に見えて分かりました。
モヒカンの彼、実力はあるみたいですね。
「ご主人、ここから逃げるドスイーオスをスナイプして倒せます?」
「……ん、やってみるにぁ」
流石ご主人です。
そう言うと早速ご主人はスナイパーライフルを構えて、足を引きずって逃げていくドスイーオスに向けます。
ご主人のスナイプ制度は凄いですからね。信用性バッチリですので、後は残ったイーオスを倒すだけ!
———の、ハズだったのですが。
「おい待て」
モヒカンさんの低い声が重く響きました。そんなバカな。
「……に゛?」
「あ、あのー……そういうのは狩りが終わってから———って後ろ後ろ!」
私がご主人の前に立ってなんとかお引き取り願おうと口を開くと同時に、モヒカンさんの背後では残っていたイーオスがモヒカンさんに飛び掛ろうとしていました。
ボスが逃げて行くというのになんという忠誠心か。
「危ない!」
「ご主人危ないニィ!」
「……にぁ」
私と二匹の声が重なります。
不本意ですがモヒカンさんを押し倒し、危機から救う私。
飛びかかってきた二匹のイーオスは黄色君とご主人のそれぞれの得物で一撃で葬られます。流石ご主人、この至近距離で急な動きでも外しません。
「「グォォ……ッ」」
二匹のイーオスの力無い声が鳴り、何とか事無きを得たみたいです。
これで周りのイーオスは全滅。
「あの……大丈夫で———」
「おいどけ邪魔だ!」
「———うぇっ?!」
か、仮にも助けられた人の台詞ですか?!
「よくも俺の得物に手を出しやがったな!」
こいつ……。
「そこに並べネコ共」
彼は背負った太刀を二匹に突き立てるとそう口を開きました。
「……に、にぁ……ぁ」
「……ニィ」
言われるがままに、二人は震えながら並びます。そして、モヒカンはその太刀を振り上げる。
———流石に我慢の限界でした。
「よくも俺の獲———」
「何してるんですか」
太刀を振り上げた両手の内の左手首を、強く握り締めてやります。
私、身長が無駄に高いので届くんですよ。ホホホ。
「痛……っ! な、なにしやが———」
少し加減を間違えてしまったみたいで、モヒカンは握っていた太刀を落としてしまいました。
私はその太刀を蹴り飛ばすと、上がったままの腕を捻ってモヒカンを振り向かせます。
「何してるんですかと聞いているのですが……?」
「は、はぁ?! うるせーよ黙———うぎぃっ!」
握る手を強くします。するとモヒカンさんは眼から涙が自然と出てきて、その涙目で私を睨み付けて来ました。うわ、怖い。
「てんめぇ!」
そして、空いている方の右手を振って殴り掛かろうとしてくるモヒカン。
その手をキャッチ。一度捻ってからリリース。
「———痛っぁぁ?!」
ムダデスヨー。
「な、な、なんなんだお前?!」
「見ての通り、オトモです」
「そういう事じゃねーよ!」
どういう事ですか……。
「お、俺より強いのに……なんでアイルーなんかに媚び売ってオトモなんてやってんだよ!」
彼は勘違いをしているのです。
もうとっくにハンターなんて存在は衰退している。なのに、彼はそれであろうとしている。
「強くなんてありませんよ」
彼の手を離してから、私はそう答えました。はい、事実です。
ただ、私のご先祖はそれはもう最強のハンターでした。毎日のようにラージャンと戦っていただとか相手が古龍であれ小さいか大きいかを気にしながら戦っていたとか。
いや、本当にもうそれはそれはどっちがモンスターか分からない程までに最強の生物だったらしいです。
そんな人の血が、私には流れています。
だから、多少腕力が無くてもそれを補う方法だとか、反射神経だとかは遺伝子的に身体が覚えているんです。
故に、この非力な私でも『人間程度』には絶対的有利な立場にあります。
偉大なご先祖様からすれば、貧弱なのでしょうがね?
「そんなに強いのに……あんたにはハンターとしての誇りが無いのか!」
モヒカンは叫びます。叶わないと知った相手にも、勇気を待って争っていました。
根は、誇りある一人の戦士なのでしょう。
でもその誇りが高過ぎて、空回りしたいるみたい。
「ありませんよ」
なので私は笑顔でそう答えました。
「ふ、ふざけるな! 悔しく無いのか! 俺達は……人間は! この世界を支配していたハンターだったんだぞ! その誇りを……こいつらアイルーに取られて! 人間の誇りを!!」
「ハンターが世界を支配していたなんて、そんな事ありませんよ」
私は片手剣を構えながらそう言い放ちます。
「え、ちょ……」
「それに、誇り誇りと言いますけどね。あなたがハンターだというならその誇りは自ら捨ててるんです。知ってます? ハンターは人に武器を向けてはいけない。あなたはハンターである誇りを持ちながらその御法度を破っているのですよ」
大昔、人がハンターだった頃はそんな事をすればハンター失格どころか裏で怖い人達に消されたとか何とか。
ハンターでありたいなら、ハンターだった頃の私達のルールくらいは守って貰わないと。
「お、俺は……」
「あ、でも。私はハンターの誇りなんて微塵も無いので人に武器向けますよ」
私は笑顔でモヒカンに片手剣を向けました。喉に突き立てたそれは、さびていても人間程度なら致命傷を与える事くらい造作も無いです。
「ひ、ひぃぃっ! や、辞めてくれ! た、助けてぇ!!」
哀れに泣き叫びます。
「ま、待つニィ!」
そして数秒後、待っていたそんな声が狩場に響き渡りました。はい、お待ちします。
私はオトモハンター。ニャンターさんに仕える者ですから。
「おやおや、庇うんですか? こんな人を」
態とらしく下郎っぽい声を出して、黄色君に詰め寄ります。
うーん、黄色君からのイメージが酷くなりそう……。
「ご主人は……ご主人は…………根は良い人だニィ! 狩りの時になるとちょっと怒りっぽくなるだけで! だから……その……ニィ」
必死でした。それ程までにモヒカンの誇りが彼には格好良く見えたのでしょう。
それは、彼の自由ですし。彼の目指すニャンター像にモヒカンが近いというなら彼等は一緒に居るべき。
それでも、一つだけ正さねばならない事がある。
それは主従関係。
私達はもう、ハンターではないのですから。
「モヒカンさん」
「え、俺……?」
あなた以外に誰がモヒカンの人が居るんですか———あ、黄色君モヒカンだった。
「あなたですよ。とりあえず尻餅着いてないで立って下さい」
「ゆ、許してくれるのか?! 殺さない?!」
殺される気だったんですか……。そんなに怖かったんですか、ショックですよ?
「あのですね、その誇りは立派だと思います。その気持ちは大切だと思います」
「な、ならなぜ!」
なぜか。
「でもその誇りを、私達の少し前のご先祖様は彼等アイルーに託したんです。私達はもうダメだから……」
「お、俺はまだ……っ!」
「そんなのは錯覚です」
人は弱くなりました。
大昔なら人は一人でもモンスターと戦えていたでしょう。
しかし、今は戦い慣れているモヒカンですら。一人だったらもう何度も死んでいる状況なのです。私だってそう。
人はもう、ハンターじゃない。
「そして託した誇りを、先代のハンターだった方々が残した私達の道を、あなたは誇りには思わないですか? オトモハンターだって、立派な狩人だと思いますよ」
「オトモが……狩人」
あえて、そう言い換えました。
意味は同じでも、今は多分違う言葉だから。
「俺は……狩人」
そして、彼もそれを分かってくれたようです。
「はい、誇り高き狩人さん」
「お、おぅ! 俺は……俺は狩人か!」
「ご、ご主人……?」
「ご主人じゃねぇ!」
黄色君に呼ばれたモヒカンさんは、さっきまでと同じ気の強い言葉を投げ掛けます。
しかし、それは間違った誇りに曲げられた声ではなく。今の自分の立場を誇りに思った青少年の声でした。
「俺はオトモハンター。お前のオトモだ、ご主人!」
「に、ニィ! オトモさん!」
これはこれは、めでたしめでたしです。
「……な、なんかオトモさんって……凄いにぁ?」
「そんな事ありませんよー」
良く良く思い返せばあのお師匠さんの意味深な発言はこの為の物だったのでしょうか。———黒いです、お師匠さん。
「ところでご主人、ここからドスイーオス狙い撃ってこのクエスト終わらせれます?」
「……流石に見失ったにぁ」
デスヨネー。
無駄な時間を過ごしてしまいました。
「では関係改善もすんだ事ですし、ドスイーオス倒してクエスト終了と行きましょう!」
その後、私達は四人は仲良くドスイーオスを追い掛けて見事討伐に成功いたしました。
ご主人の援護の中、私とモヒカンさんで道を開け、黄色君が必殺の武器をドスイーオスに叩き付ける。
そんな単純な狩りでしたが、なんだか気分は良かったです。大勢での狩りは賑やかでよし。
「おはようございます! 姉御!」
「……姉御?!」
数日後、たまたま集会所でモヒカンさんに会った時そう呼ばれました。姉御……姉御……。
「姉御、また今度一緒に狩りに行こうニィ!」
「お、良い提案だなご主人! どうかお願いします、姉御!」
なんと黄色君にまでそう呼ばれる始末。オゥ……ナントイウコトカ。
「……あ、あはは、姉御はよして———」
「「姉御!!」」
いやぁぁぁ!!
「……にぁ」
ニャンター生活数週間。私、舎弟が出来ました(大嘘)。
でも、まぁ。知り合いが出来て賑やかになるって、素敵ですよね。
そんな私の狩人ライフはまだまだ続きそうです。
月一月一と言いながらなんやかんやで二話書いてます。そろそろペースが落ちるかな。
第四話でした。
いや、決して……決してモヒカンが好きと言う訳ではなく。ほらモヒカンってキャラが立つじゃ無いですか。そういう事です。
次回予告をちょっとすると、ワガママなあの人の子孫が出る予定
モンハンの未来の話なのでゲームのキャラを出せないのは辛いところ。普通の作品も書いてみようかな……?
それでは、また次回があればノノ
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。