衰退した世界で(前編)『第一話』
前略、ハンターは衰退しました。
それはもうポックリと。簡単に文明は息を引き取りました。
理由は分かりません、諸説あります。
超大型古龍に滅ぼされただとか、疫病だとか諸説あります。
とりあえず。
荒々しくも眩しい時代は幕を閉じました。
後は人間は絶滅に向けてゆっくりと衰退していくのみです。
これは、そんな世界を生きる私のお話。
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「これでお前も立派なオトモハンターだな」
首都、ドンドルマに加工屋を開いた私のお爺さんは煙草を吹かしながらそう言いました。
立派に白髪になった髪と先祖代々長い睫毛。程よいシワを年相応に刻み、無くした左腕を機械の義手で代用する彼は、私のたった一人の肉親です。
「似合いますかね?」
鏡に映る自分を見ながらその場で一回転。私はお爺さんにそう聞きます。
腰まであるストレートの金髪。先祖代々長い睫毛以外、顔立ちは並なのでは無いでしょうか。
無駄に縦に長く育ってしまったため、胸が小さいように見えますがあります。きちんとあります。ボインじゃ無いだけです。
「似合っとるぞ。半世紀前の嫁に良く似とる」
「孫に発情しないで下さいよ……?」
「せんわ」
あら、そうですか。
まぁ、もう人間は増えなくて良いと私は思っているので。ここら辺はブラックジョークです。
「では、孫。行ってきます」
「記念すべきオトモハンターの一日目だ。しっかりとやって来い」
「はい、お爺さん」
私はお爺さんに敬礼をして、家を出る。
お爺さんに貸して貰ったオトモポーチとさびた片手剣を背に。
いざ、オトモハンターの世界へ。
ここはドンドルマ。
現人類の首都です。
我々人間はもう何世紀も前に人類の座を彼等に明け渡しました。それは余りにも減り、力も無くした人間にすれば当たり前の決断だったのでしょう。
そして、我々人間から人類———文明を受け取った種族こそ他でも無い目の前にわんさか居る彼等の事です。
全長は一メートル無いくらい。真ん丸お目々とモフモフの毛。その毛は個人によって様々な模様をしています。
左右にある可愛い耳と、チョコッと可愛く伸びるお尻尾。二足歩行で、少し曲がった背中。
彼等こそ、現人類。獣人族食雑目アイルー科『アイルー』なのです。
彼等は人間が絶滅寸前の今も、荒々しくも眩しい活躍を見せています。
人口は『旧人類』の十倍以上でしょう。昔は人間がこのドンドルマを首都に世界を回していましたが、今は彼等アイルーが世界を回しています。
「お、人間さんだニャ!」
しかし、彼等は奢る事はありせん。
「人間さん人間さん! その格好はまさかオトモ志願だニャー?」
調子に乗って滅んだ(どうして滅んだかは分かりません)人間に対しても、彼等は優しく接してくれます。
ハンターとして狩りに出る事が出来なくなった我々は失業し、他の仕事だってままならぬ数まで減りました。四桁居たら良いなぁ。
そして、そんな人間に新たなる道を授けてくれたのは他でも無いこの現人類———アイルー達なのです。
彼等にはニャンターというお仕事に携わる人が居ます。
ニャンターとは。
この世界に生きる人類以外の生物———モンスターと人類のバランスを保つお仕事です。
簡単に言うと人々に危険を犯す恐れのあるモンスターを狩ります。以前は人間がハンターとしてその役を担って居ましたが、今の人間にそんな力はありません。
そこで彼等は我々人間に打って変わってその役を担って下さっています。こんな小さな身体でもこの人達凄いんです。
そして目の前の子供アイルーが言うオトモ———オトモハンター。
我々人間は確かにハンターとしてモンスターと戦う力は失いました。ていうかはっきし言って、本当に人間風情が中心となってモンスターをハントしていたと言われても私は冗談にしか思えませんけど。
そしてその仕事を受け継いだニャンターさん達の支援こそが、我々人間に授けられたオトモハンターという職種のお仕事です。
内容は至って簡単。
一つは荷物運び。人間は無駄にデカイので少し重くても、アイルーさん達より動けますからね。
もう一つは狩りの手伝いです。時には肩を並べ、時には罠を用意し、時には囮になったり。これが主な仕事ですね。
そう、そして。そんなオトモハンターこそ、私がなってしまったお仕事でした。
オトモハンターになるには。十歳から飛び級が無ければ、十二年後の二十二歳になる頃まで学校に通い続けなければなりません。
まぁその学校はもう消えたんですけど。一ヶ月ほど前に。
「ここが集会所ですか」
ドンドルマの中央広場にある階段を登ったその先、この街で一番高い所。
まず目に映ったのは中央奥にある巨大な椅子に座っている、大きな人の『像』。確か大昔この街を指揮していた大長老という竜人族の方の像らしいのですが、明らかに座高だけでも六メートルくらいあるんですけど。本当にこんな人が居たんですか?
それも大昔の話ですし、竜人族はもう人間より数が少なくなっているので会った事もありませんし———謎です。
さて、その大長老の像に目を取られ他の風景が目に映りませんが。とりあえず一回り辺りを見回してみます。
右奥にはニャンターさんやオトモがクエストに向かう為に乗る気球乗り場。
大長老の像の目の前には受付猫さんが何人か居てクエストの管理に勤しんでおります。
左側にはニャンターさん達が食事をする場所が設けられていて、今も十数匹のニャンターさん達が食事を囲んでいました。か、可愛い。
さて、我々オトモハンターはニャンターさんのサポートが仕事です。
その為にはまずご主人となるニャンターさんを探さなくてはなりません。
が、どうやって探すか。
「あのー……すみません」
恐る恐る食事をしていたアイルーさん達の所へ。そういえばオトモって面接とかあるんですかね?
ヤバイ、何も考えて無い。
「おろろ? 人間さんもしやオトモハンター志望かニャー?」
私の余りにも小さな声でも、アイルーさんは気が付いてそう声をかけて下さいました。なんてお優しい。
いやまぁ、こんなにデカイのがいきなり近付いて来たら気になりますよねそれは。今は集会所に他の人間は居ないみたいですし。
「あ、はい! そうです!」
出来るだけ粗相の無いように返事をする。
アイルーさん達は気にしても居ないでしょうが我々の立場は下です。徹底的に敬語で、頭も低く———それは無理ですが。身長的に。
「そりゃ嬉しいニァ! ここ最近オトモをやってくれる人間さんも少なくなってて困ってるんニァ……」
そもそも人間さんが少なくなってきてますからね。しかし、これだけ歓迎されると嬉しいものです。
「不束者ですが、宜しくお願いします」
「ニァニァ。誰かオトモ募集のニャンターおるかなニァ?」
「早い猫勝ちニャー」
どうやらここを仕切っていたらしき二人がそう声を上げる。一斉にこちらを振り向くアイルー達。
すると「ニャーニャー」声を上げながらアイルーが何匹も私に寄って来てくれました。囲まれまれてます、揉みくちゃにされてます。
「武器はどんなのを使ってるニャ?」
「調合は得意かミー?」
「睫毛長いでゴワスな」
「穴掘りは得意かミャー?」
一匹変な声が聞こえた気がします。
「爆弾扱えるかニィ?」
「足は速いかミァー?」
「縦に長いでゴワスな」
「釣りは得意かナャー?」
やっぱり一匹変な声がします。しかし、そんな事も気にして入られません。何匹ものアイルーに揉みくちゃにされ、幸せ———身動きが取れません。
「こらこら! 人間さん困ってるニァ!」
そんな彼の一言で一旦は落ち着いて貰えました。あぁ……残———ありがたや。
「ウチ、オトモ契約したいミャー」
そして、アイルーさん同士の話し合いの結果。ピンクの毛並みの彼女に雇われる事となりました。か、可愛い。
「よろしくお願いします、ご主人」
「宜しくミャーオトモさん」
さて、これで契約も終了いたしました。
後は、たまにご主人のソロクエストに着いて行くだけ。もし丸々一月働かなくても月給でマタタビ貰えます。
あ、この世界では通貨はマタタビ(個)です。マタタビ一個でリンゴ一個分くらいの価値。ご主人の活躍にもよりますが、オトモの月給は平均で五十個くらい。
マタタビ作れば大儲けと思うかもしれませんが、人間が築いた土地は地表が環境被害にあっているのでマタタビが育ちません。
ならばと学校の同級生は自然界に畑を作ろうとしていました。彼が学校を出て一週間しても帰って来ず、友人Kが連れ戻しに行ったところ———帰って来たのはなぞの骨でした。
「なら早速クエスト行くミャー!」
「———ぇ」
唐突なご主人のそんな声。え、もう……ですか?
実際、オトモハンターの需要はそんなに高くありません。
オトモハンターは元々ソロのニャンターさんが流石に一人で戦うのは心許ないという理由で出来た物です。
初めはソロのニャンターさんでも成長していけばパーティに入ってしまってオトモの出番は無くなります。まぁ、お爺さんのご主人のようにずっとソロの人も居るようですけど。基本的には稀です。
そしてパーティに入ってしまうとオトモの出番は激減します。その時点で解雇される可能性もありますが、たまに———存在を忘れられてそのまま生涯をご主人に命令された特訓だけして過ごす人間も居るのです。
ちなみに私の将来の目的はそれ。
オトモハンターなんて危険な仕事好きでやろうとする訳無いじゃ無いですかアハハ!
ご主人に忘れられ、一生トレーニングだけして過ごす。幸せな余生だとは思いません?
そうです、私———結構ダメ人間です。
他の目的が無いといえば嘘になりますが、人間忘れた方が幸せな事もありますよね。
「今日……ですか?」
そんな私ですので、お仕事はあまりしたくありません。
「今からさっそくミャー」
あー……マジですか。そうですかマジですか。
意気揚々と受付猫さんの所にクエストを発注して貰いに行くご主人。
あぁ……お願いだからいきなり飛竜とか勘弁して下さいよ? 出来れば素材ツアーとか。
「クエストは?」
「イーオス三匹ミャー」
鳥竜種ですか……。強くは無いけどやはり怖いです。私は無駄に縦に長いだけなんです。
「出発ミャー!」
ご主人は元気に奥にある気球乗り場に向かいます。
「オトモさんも来るミャー!」
「あ、は、はい!」
うぅ、今日は面接だけだと思って結構お洒落なお気に入りのお洋服着てきたんですよね。
一応動き易い格好はしてきましたが———汚したく無いなぁ。
そんな我が儘は人間には許されません。きっとこのピンクのご主人は言えば着替えとかしてきてもきっと許してくれますけど、小心者なんです。
「オトモさん睫毛が綺麗だミャー」
「よく長いとか言われます……先祖代々」
ご先祖様の似顔絵というのを見せて貰った事がありますが尋常じゃない睫毛でした。流石に長過ぎです。
「ご主人はピンクで可愛いですね。きっとモテるのでは?」
「ミャミャ、そんな事も無いミャー。でも、そう言って貰えて嬉しいミャー」
恥じらうご主人も可愛い。きっと短い間ですが仲良く出来そうです。その後は私の事なんて忘れてパーティ活動に力を入れてください。こんなに可愛いあなたならきっと良いパーティに入れて貰えますよ。
そんなこんな世間話をしていると狩場に着きました。と、言ってもドンドルマから出ればそれはもう狩場です。
いくら科学技術が進歩しても、やはりこの世界を支配するのはモンスター。それは人間が衰退しアイルーが人類を担う今も変わりません。
海に大地に空に。この世の至る所に彼達は居るのです。それが、モンスター。この世界の理としてこの世界の支配者。
海を泳ぐ者も居れば空を飛ぶ者もいたり、火を吐いたり電気を放出したり。この世にはそんな様々なモンスターが居るのです。
ジォ・チラード湿地帯。
着いた狩場はそう呼ばれる場所。旧沼地なんて呼ばれ方もしています。
沼地という通称の通り降水量の多い地域でして、地面はぬかるんでおり良く霧も発生します。
何故か極寒の寒さになる洞窟まであるのですが、今回はそこには行かないでしょう。
「着いたミャー!」
自分の武器が入っているだろうトランクを背負いながら、着陸した気球から降りるご主人。
私もそれに続いてご主人の荷物を持って気球を降ります。
「ありがとうございます。帰りも宜しくお願いしますね」
「任せるニー!」
気球の運転猫さんに挨拶をしていざ狩場へ。
出来るなら、これが最初で最期の狩りにしたい物ですがね。
「ご主人の武器は片手剣ミャー?」
「あ、はい!」
私が背負うのは、ご先祖様が使っていたとされる倉庫にあった片手剣。もの凄くさびていますが。
この武器に名前を付けるなら、もの凄くさびた片手剣といった所。
「凄い使い込まれて素敵な剣だミャー」
使い込まれて過ぎてもうボロボロですけどね。
そもそもこんな武器になったのは、ドンドルマへの引越しで貯金を使い果たしたお爺さんが悪いのです。
もっとマタタビがあれば私の装備も整えられたハズ……。こんなご先祖様の血と涙の結晶を掘起こさなくても良かったのでは無いでしょうか?
そんな事を話している間にイーオスが屯しているエリアに着いてしまいました。嫌だ、戦いたく無い———面倒臭い。
「グォ……ッ」
鳴き声が響きます。
洞窟の入り口がある比較的広いこのエリアにはイーオスが三匹丁度が居て、その一匹が私達に気が付いたようです。
それに続いて、残りの二匹も私達を睨み付けます。
イーオス。
毒々しい赤色の体色と瘤のように膨らんだ鼻先が見た目の特徴の鳥竜種。全長は私と同じくらいの大きさではないでしょうか。
その見た目通り体内には出血性の毒を生成する内臓器官を持っていて、それを武器とするのも特徴ですね。
「では私、行ってきます」
しかし嫌だ嫌だとも言っていられません。
仕方無く私は先陣を切ります。ご主人に負担をかける訳にもいきませんしね。
「……はぁっ!」
走って、先頭に居るイーオスの頭に片手剣を叩き付ける。凄く錆びてしまっているせいでまったく切れない。これでは鈍器と同じです。
しかし目一杯叩き付けたのでイーオスは怯んでバックジャンプで距離を取ります。
逃がさまいと追いかけようとしますが、その前には二匹のイーオスが立ち塞がりました。深追いは現金です。
「……ふぅ」
とりあえず息を整えましょう。背後から何やらガチャガチャと音が聞こえるのでご主人も武器を構えているハズです。冷静に、冷静に。
あれ? そういえばご主人の武器って何でしたっけ?
「グォッ」
そんな事を考えていると右側のイーオスが飛び込んで来ました。すかさず右にステップで避けながら通りすがり際に一太刀―――切れ味なさ過ぎて傷も着きません。
んもぅっ! せめて研磨くらいしてくれても良かったんじゃないですか!?
こんな事ならあの家の裏の剣そのままパクって来たら良かったです。
そんな思いも彼等は知らぬといった所でしょうか。左側と奥に居たイーオスも私に飛び掛ってきます。
前に転がってなんとか回避。あぁ……お洋服がドロドロに。最悪です。
「———ぇ」
これで、イーオス達は私とご主人に挟まれる形となったのですが。つまり、私からご主人の姿も確認出来るという事です。
そしてそのご主人が持ってる武器を見て戦慄しました。え、何それ?
「射つミャー!」
そう言いながら彼女がトリガーを引いたのは———自動小銃AKー47、アサルトライフルでした。
「ちょ……ぇ、待っ———」
そんな私の悲痛の叫びは火薬が弾ける音に掻き消されます。
光る視界。ばら撒かれる弾丸。弾けるイーオスの鱗。聞こえるのは火薬の弾ける音とイーオスの悲鳴。
威力は人間の武器であるボウガンに多少劣るとしても、その連射性能は人間の技術から言えばバグです。
彼等の科学技術は人間のそれを遥かに上回る程発展しています。それこそ、お爺さんの義手もアイルー技術による物ですし。
でも私知りません。アイルーってブーメランとか剣とか爆弾で戦うって学校で習いましたよ?!
人間の知識浅はか過ぎ!!!
「―――ひっ」
そして勿論射線軸に居る私にも弾が飛んで来ます。今真横を通り過ぎた銃弾に髪の毛をちょっと持ってかれた所です。
「お、オトモさん?! 退避しなきゃダメミャー! 危ないミャー!」
そんな事言われましても。
だってそんな物ぶっ放すなんて思ってなかったんです。予想だにして無かったんです。
てかそんな物後ろから撃たれたら私狩りどころじゃありません。冷静に考えて死にます。
「……嫌だぁ」
———死にたくありません。
「だ、大丈夫かミャ?!」
気が付けば銃声は止んでいました。そんな声に顔を上げれば、倒れている三匹のイーオスと心配そうな声を上げて寄って来てくれるご主人。
でも、もうそんなご主人の顔を見る事なんて出来ません。大失敗です……うぅ。
最近の狩り事情を舐めていました。
その後の事はあまり覚えていません。
泣きながらブツブツ言う私にご主人は慰めの言葉を掛けながら気球でドンドルマに戻ったそうです。
そして、こう言われました。
「オトモさんとウチの相性……悪いみたいだミャ。惜しいけど、ウチとは組まない方がオトモさんの為だミャー」
気を使ってそう言ってくれたのでしょう。銃声にビビって動けなくなる奴なんて役立たずのそれでしか無いハズです。
「で、でも! オトモさんとウチはこれで友達だミャ! 何か困った事があったら直ぐに聞いて欲しいミャ! 新しいご主人もきっと直ぐ見付かるし、ウチも探すミャー!」
なんて優しい人なんですか……。
「……うぅ」
自分の無能さに苛立ちすら覚えました。
しかし、立ち止まっても居られない。続きは明日ですが、なんとかご主人を見付けなくては。
そんな所で、私のオトモ生活一日目は幕を閉じたのでした。
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「お爺さん!」
「汚いし臭い。まず風呂に入れ」
それが一日働いて来た孫への言い草ですか?!
しかし、逆らう意味も無いので私は汚れた服を脱ぎ捨ててお風呂に向かいました。
「はぁ……」
ドンドルマに引越しして今日で約二週間が経ちました。元々はココット村に住んでいたお爺さんに着いてきたのですが、まさか気球船でのお出迎えとは思わなかったです。
そして二週間。私も村に帰ってくるまでに色々あったのでこれからの事を考えました。
別に、無理にオトモハンターになる事も無かったと思います。一応、人間にだって他にもやれる事があるのです。
お爺さんがそう。
お爺さんは今この街で加工屋を開いています。顧客はニャンターさんからオトモハンターまで様々。
元々お爺さんは物を弄るのが得意でしたからね、オトモの時の経験も手伝って直ぐにこの街に馴染みました。
しかし一方の私はというと、何も特技なんてありません。
一応花も恥じらう乙女なので、料理とか……お菓子作りとかなら得意ですよ? でも料理屋とかお菓子屋を開けると聞かれれば答えはNOです。
座ってやる作業だとか、商売業だとか、絶対無理。それなら動いていた方がマシです。
でもやっぱり働くのが根本的に嫌なので、私の完璧な作戦の為にはオトモハンターになるしか無かったのでした。
しかし、それも叶わないのでしょうか……?
「お風呂出ました……」
「オトモはどうだった?」
お風呂から出るとお爺さんにそう聞かれます。正直に答えました。ピンクの彼女にアサルトライフル向けられて何も出来なかったと。
「ニャンターの狩り事情……少しくらい忠告くれても良かったんじゃないですか?」
「そんなもんはニャンターさんにもよるんだ。何もニャンターさんが全員アサルトライフル構えてる訳では無い」
お爺さんは身の丈程の大きなさびた剣を磨きながらそう言います。あ、そうなんだ。
「バズーカ持ってる人も居ればビームサーベル持ってる人も居る。ニャンターとは多種多様なんだ」
ビームサーベルって何ですか。
「色んな武器がある。それぞれに特徴もあるからな、それを見極めて相方を決める必要があるんだ。それはワシら人間がハンターだった頃も同じ」
何世紀前の話ですかそれ。
「ふーん……あ、あとこれ! 凄くさびた片手剣じゃ私戦力にもなりませんよ! これじゃ鈍器です!」
「ん、あー……ダメだったか。お前の体型なら鈍器でも行けると思ったが」
「縦に長いだけで腕力なんてありゃしません……」
失礼なお爺さんです。
「お前は息子より睫毛が長いからな。もしかしたら逸材かもしれんと思ったりもするのだ」
「お父さん……」
そんな言葉に、嫌な記憶が蘇りました。
ここには居ない。私のお父さん。
「す、すまん……」
「いえいえ。悪いのは私ですから……。て、いうか! 睫毛と腕力に関係なんてありませんよ!」
「ふむ、それもそうだな」
そうですよ。
結局、その日は疲れて寝てしまいました。あ、勿論晩御飯は食べましたよ? 食は人間アイルー共に変わらず生活の栄養源です。
「似合いますかね?」
「似合っとるぞ。半世紀前の嫁に良く似とる」
「孫に発情しないで下さいよ……?」
「せんわ」
次の日。昨日もしたような会話をしてから私は家を出ました。
腰に掛ける片手剣はお爺さんが一日中磨いてくれていたのでしょう。凄くさびてはいませんでした。
さびていました。普通にさびていました。
いや、お爺さんは頑張ってくれたハズです。心なしか綺麗になってるんです。錆びてるけど切れ味はなんか上がってる気がするんです。
そんな気持ちで街の一番高い所にある集会所へ。
辿り着くと、昨日のピンクの元ご主人が声を掛けてくれました。
「オトモさんを雇いたいってニャンター見付けておいたミャ! 彼、剣士だしきっとオトモさんとも相性良い筈ミャ!」
ピンクちゃん最高です。
「どなたですか?」
「俺だニィ!」
そう言って前に出て来てくれたニャンターさんは、黄色の体毛でなぜか頭にトサカを付けたニャンターさんでした。
モヒカン、でしたっけ? 格好がなんというか。ロック? ヘビーなイメージで格好良いニャンターさんです。
昔、絵本で読んだ世紀末ヒーロー北斗君の敵キャラに似てます。
「よ、宜しくお願い致します!」
「こちらこそよろしくだニィ! さっそくクエスト行ってみるニィ!」
あ、やっぱり。そうなるんですね。
大丈夫。今回は大丈夫。そう思っていました。
結果だけ述べます。ダメでした。
クエスト内容は昨日と一緒でイーオス三頭。何がダメだったか。
新しいご主人の武器は電動ノコギリでした。接近武器らしいです。一緒に戦っていた所、私の位置取りが酷すぎるせいで何度も危ない目に遭わされました。
「ちょ、ちょっと相性が悪いかもニィ……」
こんなヘビーな人にも気を使わせる始末です。
それからという物、何日も集会所へ赴き次々にご主人様を取っ替え引っ替えクエストに赴きました。浮気者です。
毎日少しずつさびが綺麗になっている———気がしましたが、私自身は何も進めませんでした。何故か噛み合わないんです、どんなニャンターさんとも。
「今日も来てしまいました……」
もう一週間経ちました。未だにご主人さまが見付かりません。もう初日から自宅で永遠にトレーニングしてろ、でも良いので雇って下さいお願いします。
そんな、甘い考えが通る世界じゃ無いんですけどね?
「オトモさんやオトモさん」
暗い顔で集会所へ登ると、初めに私と同じ金色の毛並みのニャンターさんに声を掛けられました。
しかしそのニャンターさんを見てみると、装備は整ってるし表情も自信に溢れてちいます。オトモを雇うような初心者ニャンターさんに見えません。
「私の弟子の、オトモハンターになっては貰えないかニャン?」
意味ありげな表情で、彼女はそう言いました。なるほど弟子ですか。
「いや、良いんですか?」
「なにがニャン?」
私はこの一週間ずっと失敗続きでした。悪い方で、この集会所では目立っているハズです。
そんな輩に大切な弟子を任せようと思う物なのでしょうか? 私だったら自分の後輩をこんな奴に任せません。
いや、その後輩ももう居ないんですけど。
「私……自信なくて」
「同じニャンだぁ」
私の言葉に彼女はそう答えました。……同じ?
「私の弟子も……もうそこそこ腕はあるのに自信が無い自信が無いって私の元から離れようとしないニャン。だから、あいつには自信を付けて欲しいニャン」
「それで、なぜ私を? 自分で言っといて何ですけど自信過剰くらいで無いと狩りは厳しいですよ? そんな二人が組んで本当に良いパートナーになれると思います?」
本音でした。弱気の私はニャンターさんの邪魔ばかりしてきましたから、本音と言うより感想に近かったかもしれません。
「そんな二人だからこそ、逆に冷静沈着に安全にやれると思うニャン。ようは試し、騙されたと思って一回で良いから付き合ってやって欲しいニャン」
真ん丸お目々が上目遣いでそう言いました。これはズルい、断るに断れない。
「ま、まぁ……こちらとしては断る理由もありません」
実際、切羽詰まってるのですし。
「よしニャン! これで決まりだニャン! 早速紹介するニャーン」
そう言いながら金色の彼女は走って行って、テーブルに座っている一匹のアイルーを———そりゃもう嫌がる彼を無理矢理にでも引っ張って連れてきました。
「こいつニャン!」
「……に、にぁ」
彼女が連れて来たのは、銀色の毛並みをした落ち着かない表情をしたニャンターさんでした。
垂れ下がった耳に、半目で気弱そうな眼、瞳の色は綺麗なブルーカラー。まだ幼さが残った男の子のようです。
「宜しくお願い致します、ご主人」
そんな、何人目かも分からないご主人に挨拶をする。出来れば最後にしたいですが、そうもいかないでしょうねぇ。
「に、にぁ……」
「こら! しっかり挨拶しなきゃダメニャン!」
かなりシャイな子みたいです。
「……よ、宜しくにぁ」
「はい、宜しくお願い致します」
これが、私と彼との初めての出会いでした。
私と彼の物語の始まり。
前略、ハンターは衰退しました。
これは、そんな世界で生きる私の———私達の物語。
【挿絵表示】
第一話でした。
元々モンスターハンターの別の作品を書いていたのですが(気になればこっちの作品も宜しくお願い致します←)。
あっちは割としっかり物語を決めている事もあって結構自由度が少ないんですね。なのでこんな作品も書きたいなと思って月一で良いから書こうと思った作品です。
後アイルーが書きたかったんです。これが本音です。
それと、あっちは別地方の未来のお話という事でモンハンの世界観から少しズレてドンドルマとかココット村を出せないのが少し引っかかっていたんです。
———いや、世界観も何も人類滅亡した話なんですけどね。そこはご愛嬌。
人類が衰退して猫まみれになったゆるふわな短編を書いていく予定です。始めなので、二話構成になってしまいましたがそれが終わったら一話完結で書いていく予定です。一話一万文字以内くらいには収めたいです。
つまらないかもしれませんが、ここまで読んで気にして下さった方はこの後も読んで下さると嬉しいです……。
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。