大地を削る、鉄。
掘って掘って、掘り続ける。
その内に鉄は劣化し『ピッケルが壊れてしまった』。
目当ての物は、手に入りません。
「取れましたー? 大地の結晶」
「全然取れません。物欲センサー働き過ぎです」
「ぶつよくせんさー?」
よく分かっていない後輩ちゃんを尻目に、私は最後の一本となってしまったピッケルを振り上げます。
ここじゃぁ! せいやぁ!!
『ピッケルが壊れてしまった』
「ハッ……ハハハ……」
「せ、先輩?! 顔がヤバいですよ! 待って下さい! ピッケルさんは何も悪く無いです!」
「このドチクショウが! 何のために生まれて来たんですか、ぁぁああ?!」
棒だけになったピッケルを踏み潰します。今の私はまるで女番長でした。
「お、落ち着いて下さい先輩! 私のピッケル貸しますよ! ほら、マカライト鉱石で作った壊れ難いピッケルグレートです!」
「ありがとうございます。そうですね、焦っても仕方がありません。この一つを大切に使わせて頂きます」
えいっ。
『ピッケルグレートが壊れてしまった』
「…………」
「…………あの、先輩?」
「……糞が」
「先輩ぃぃ?!?!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突然ですが、ハンターは衰退しました。
それはそれは大昔、人類は荒々しくも輝かしい生活を送っていたらしいです。
しかし、それはもう過去のお話。今や人類は衰退し、人は荒々しくなんて生きられません。
モンスターと戦うなんて無理無理。私達は本当に弱くなりました。
そんな私達に変わって、この世界の人類となったのはアイルー。獣人族の彼等こそが、この世界を統べる現人類です。
そんな世界で、私は今狩りをしていました。
私は人間だというのに。
微動だにしない、岩。
どれだけ剣で叩いても、その岩は削れるどころか剣が削れます。錆び過ぎて切れ味無いんです。真っ赤なんです!
「ヴォォゥ」
岩は私を無視して、目の前の標的にタックルを仕掛けました。
「おっとぉ?!」
距離を取ってタックルを交わす後輩ちゃん。黒いツインテールを揺らし、何処にあるか分からない馬鹿力で己の獲物を抱え———
「お返し———せーぃっ!」
———タックルを終えて隙が出来た岩の頭に、溜めた力で振り上げたハンマーを思いっきり振り下ろす。
「ヴォォゥ?!」
動く岩は悲痛の叫びを上げて地面に横に倒れました。岩といえど、ただの岩では無いそれにも脳はあるのです。
脳震盪を起こして横倒しに倒れたまま動かなくなる大きな岩。でかしました、流石後輩ちゃん。
私の五倍くらいある巨大な倒れている岩に、大樽爆弾を二つ設置。後輩ちゃんにも持って来てもらってもう二つ設置。
「これで倒せますか———って先輩?! それダイナマイト?!」
「大樽爆弾なんて旧時代の兵器では、ね?」
「いや、やり過ぎでは?!」
「いえいえ、バサルモスさんには木っ端微塵になって貰わないと。マカライト鉱石が取れないじゃ無いですか」
「サイコパスかよアンタ! マカライト鉱石も木っ端微塵だよ!」
着火。
「先輩ぃぃ!」
「……果てろ」
「先輩ぃぃいいい!!」
☆マカライト鉱石を大量に手に入れました☆
さて、場所を移して火山のベースキャンプ。
私と後輩ちゃんは手に入れた素材からマカライト鉱石を取り出して数を数えていました。
「……マカライト鉱石が一つ。……マカライト鉱石が二つ。……マカライト鉱石が四つ。…………マカライト鉱石が九つ…………一個足りま———」
「足ります。これだけあれば流石に充分です」
「そうだと良いんですけどねぇ……」
「先輩ネガティブになり過ぎぃ」
だってぇ、しょうがなく無いですか?
「ミャー! オトモさん達も上手くやったのミャー?」
そんな風に後輩ちゃんと話していると、唐突に山の方から聞こえる声。
二足歩行の獣人族。つぶらな瞳に可愛いお耳、お尻から伸びる尻尾がまたキュート。
それが、現人類アイルーを端的に現した姿でした。
人それぞれ毛並みの色などが違うのですが、山の方から降りてきた二人はピンク色と銀色をしています。
ピンク色の子は後輩ちゃんのご主人。
もう一人は私のご主人です。
人は、アイルーに仕えて生活しています。
人口の限りなく減少した私達は現人類の手助け無くしては生きていけないのです。
そして、ニャンターさんのお手伝いをする私達の仕事はオトモハンターと呼ばれております。
本来はニャンターさんに着いて、狩りの手伝いをするのが私達の仕事なのですが。
今回は私の希望で別行動を取らせて頂きました。
クエストの内容はバサルモス二頭の狩猟。
なんでも最近鉱山にまでやってきて悪さをするそうで、退治という形に。
なぜアイルーさんと人間で別れたかって?
あんな外道な倒し方をご主人に見られたく無いからに決まってるじゃ無いですか。アハッ。
「オトモさん……本当に、バサルモスを二人で倒したの……かにぁ?」
驚きの表情で私を見ながらそう言うご主人。まぁ、報酬金より高い資材を使った訳ですから、ね?
「私もやれば出来るのですよ」
私というか、爆弾が。
「おかげでマカライト鉱石も結構手に入りました!」
「良かった、にぁ。……そういや、これ……穴掘ったら、出て来たにぁ」
私がマカライト鉱石を自慢していると、ご主人はポーチから綺麗な結晶を取り出して私に渡してくれました。
「こ、これは……っ!」
マカライト鉱石で喜んでいた私ですが、本当に欲しかったのはマカライト鉱石ではありません。
微生物の遺骸などが長い年月を掛けて結晶化した、鉱石。大地の結晶。
ご主人が手に持っているのは、私が欲しくて欲しくて堪らないそれでした。
「ご主人、結婚して下さい」
「ぼ、ボクはネコにぁ……っ!」
顔を真っ赤にしながら大地の結晶を押し付けてくるご主人。
そんな反応もとても可愛いです、はい。
「良かったですね先輩! マカライト鉱石無駄になっちゃいました?」
「何言ってるんですか後輩ちゃん……」
「ハイ?」
「この大地の結晶が私は後四十倍の量を手に入らないと行けないんですよ……?」
「はぁ?! 何に使うんですかそれ?!」
私が聞きたいです。
そぅ、私が何の罪も無いピッケルやバサルモスにブチ切れていた理由はこれにあります。
大地の結晶四十個程。今私が穴という穴から手が出そうな程欲しいアイテム。
「……オトモさん、そんなに大地の結晶集めてどうするにぁ?」
「結晶で家でも作るミャ?」
「四十個じゃ家は……」
「ご主人には内緒です」
「……に゛ぁ?!」
ご主人を驚かしてあげたいので……。
しかし、その為にご主人を突き合わせているという……矛盾。
はぁ……この集めたマカライト鉱石で作れるピッケルだけで大地の結晶は集まるのでしょうか。
また、何の罪も無い(事は無い)バサルモスを爆殺しなければならないのでしょうか。
私が大地の結晶を集める理由?
それは、つい先日まで遡ります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「大地の結晶?」
自宅にて、趣味(ご先祖様の武器の錆び取り)に没頭するお祖父さんはそんなアイテムの名を口にしました。
「ふむ、大地の結晶は錆の研磨にとてもよく効くという話を聞いてな」
左手の義手で珈琲を飲み、右手で少量の大地の結晶を握りながらそう言うのは私のお祖父さん。
平均寿命が五十歳まで落ちた我々人間としては破格の六十歳越え。年季の入った身体は渋さを感じさせます。
「そんなに効くんですか?」
「工房仲間のアイルーさんが、ばふぁりん位効くと言っていた」
ばふぁりんって何ですか。
「まぁ、物は試しだ」
そう言うとお祖父さんは一生懸命磨いていたご先祖様の大剣に大地の結晶を当て、引く。
するとどうでしょう。大地の結晶が削れると一緒に大剣の錆も落ちていくではありませんか?!
こ、これは凄い。これなら私のあの錆まくった片手剣も立派に切れ味を取り戻すのでは?!
そう思った瞬間、お祖父さんの手は大剣から離れました。
え? どうしたのでしょう。もっと削ってる所を見てみたいのに。
「お祖父さん?」
「……足りんな」
何が?
「量が」
そう言うお祖父さんの手には、元の半分以下になった大地の結晶が握られていました。
削ったのはほんの少し。それなのに、大地の結晶の削れ具合ときたらもう熱湯に入れた氷のよう。
「ウソン」
「こりゃ、片手剣でも錆を落とすのに大地の結晶四十個は使うかもな」
「そ、そんなぁ……っ?!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
と、いう訳で。
私は血眼になって大地の結晶を探しているのです。
いつまでもこんな武器使っていられません。
「にぁ……オトモさん……」
心配そうに私を見つめるご主人ですが、パワーアップした私(の武器)をドッキリで見せたいので今ネタばらしする訳には行かないのです。
さてさて、場所も日付も変わって二日後の集会所。
そのクエスト受付カウンターで私は困り果てて居ました。
「沼地のクエスト、無いんですか?」
「申し訳ございませんニャ。今沼地は何故かモンスターが全く現れなくて、クエスト発注自体少ない状態ですニャ。最後のクエストもさっきあの黄色いアイルーさんとモヒカンの人間さんが———」
モヒカン?!
そんなファンシーで世紀末な髪型をした人、そう居ません。
そもそも人間がこの世界にそう居ません。
クエストに出掛けようとしているモヒカンの男の人の肩を後ろから掴みます。
「あ゛?! 誰だいきなり後ろか———姉御?! ごめんなさい!! 失礼しましたぁ!!」
苛立ち顔で振り向くモヒカン。キザミ装備を装着した誇り高き狩人はそのモヒカンを私にぶつけるように頭を下げるのでした。
「せ、先輩に舎弟が出来ています……」
「見ちゃいけないミャ。アレは人間社会の闇ミャ」
辞めてください。
「頭を上げてくださいモヒカンさん。少し頼み事があるんですよ」
「なんなりとお申し付け下さい姉御!」
「姉御の言うとこなら何でも聞くニィ!」
黄色君まで。
「闇ですね」
「闇ミャ」
「……闇」
ご主人?!
「あ、あの……姉御は辞めてください」
「わかりやした! 姉御!」
辞めろ言うとるやろが分かってやってんのかおんどれ。
「あ、あはは……。えーと、ですね? 態々呼び止めてすみません。あの、宜しければで良いんですけど…………そのクエスト、私達も着いて行って宜しいですかね?」
「全然いいっすよ!」
即答。
彼の素直な所は長所であり短所でもあると思います、はい。
最近はとっても丸くなったみたいで、ご主人の黄色君との仲も良好なよう。
「えー、先輩。その人と行くなら私はどうなるんですかー!」
「用済みです」
「酷い」
「嘘嘘。後輩ちゃんにも色々手伝って貰いましたね、ありがとうございます。このクエストが終わったら今度は私が後輩ちゃんを手伝いますよ!」
「先輩……。……はい! 楽しみにしておきます!!」
私は啖呵を切りました。
だって、これだけピッケルがあれば大地の結晶だって大量に集まるハズなんです。
そう……思っていました。
四日後の事です。
「先輩、私イャンクックのハンマー作りたいんですよ! この前手伝うって言って———」
「あ、後輩ちゃん。ちょうど良いところに。今から火山に行くんですけど一緒にどうです?」
後輩ちゃんにピッケルを渡しながら、私はそう言いました。有無を言わせぬ表情で。
「ぇ、あの、手伝よ」
「どうです?」
「なんでお酒を誘うような誘い方で炭鉱に誘うんですか?! 炭鉱夫にでもなったんですか?!」
「なったんです」
「なったんですか?!?!」
四日前、私はモヒカンさんと沼地に出向きました。
クエスト内容はゲリョス一匹の討伐。
モヒカンさん黄色君が前衛、私のご主人が遠距離からゲリョスを狙撃している間———私は鉱石を掘っていました。
オトモハンターというか、オトモフンターでした。金魚のフン、腰巾着、ゆうた、なんて呼ばれても仕方が無いパラサイト。寄生虫。
しかし、そこまでしても大地の結晶は得られなかったのです。気を使ってくれたモヒカンさんには掘り当てたゴ———鉱石を全部渡しました。
「私、オトモ辞めて炭鉱夫になります」
「銀色のご主人が聞いたら泣いちゃいますよ……」
「私みたいな役立たず、居ても居なくても同じですよ。ハハッ」
「こいつ面倒くせぇ」
酷い。
「なーんかお困りのようだニャン」
そうやって二人で項垂れている所に現れたのは、金色の毛並みが綺麗なアイルーさんでした。
彼女は金狼(ネコなのに)と二つ名呼びされている、凄腕ニャンターさん。
と、同時に私のご主人のお師匠さんでもあります。次代のギルドニャイトマスター候補でもあるみたいです。
「お師匠さん……?」
しかし、そのお師匠さんもなぜかとっても困り顔です。
それはもう、自分のオトモに抱き抱えられた状態なのですから。そんな表情も頷けます。
「マスター、飲み物とか要ります?」
彼女を抱き抱えるのは、銀髪ロン毛の変態。
ネコに欲情する程のアイルー大好き人間、私と同じハンター学校の同級生のKでした。
「要らんから下ろせニャン」
「遠慮なさらずに」
「……はぁ」
お師匠さんもとんでもないのに捕まった物ですねぇ。
「お師匠さんの方がお困りそうですね」
「ほーんとその通り、ニャン!」
「ドゥベシァッ?!」
オトモを蹴り飛ばして、私達の横に着地するお師匠さん。痛そう。
「なんか最近炭鉱夫に転勤したって聞いたけど本当ニャン?」
「ぶっちゃけ本当ですけど……。いや、嘘ですよ?」
本来の目的を見失っている感じはありますが……。
「何をそんなに欲しがってるニャン? フルフルベビーなら雪山に行くのがいーニャン」
「いや、フルフルベビーなんて要りませんよ」
誰が好き好んで欲しがるんですか。
「先輩は大地の結晶を集めてるんですよ?」
「あー、大地の結晶かニャン。なるほどなるほど」
私の後ろを覗き込みながら、察したようにお師匠さんは頷きます。その洞察力には感服です。
「大地の結晶? あー、そのボロボロの武器を研磨す———」
「どっせぇぇい!」
殴りました。
「えぇぇ?! 先輩?! えぇぇ?!」
「ご主人に聞かれたらどうするんですか?!」
「お前久しぶりにあった友人にそれは酷くねぇ?!」
あなたには恩もありますが憎しみの方が大きいんですよ。
「オトモさんも頑張ってるニャン」
「炭鉱を、ですけど……」
「いやいや、ちゃんと主人の為に力になろうと頑張るその姿勢は素敵ニャン。そんな訳で、力になるニャン」
力……ですと?
「実は良い穴場を知ってるニャン」
そんな、良い店を知ってるんだみたいな。
しかし今の私は藁をも掴む勢いなのですよ。
「お言葉に甘える事にします」
今度こそ、この武器を……っ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふ、ふははは、ふはははは、完璧な作戦だった!」
掘っても掘っても———落ちて来る大地の結晶。
炭鉱というか、もう大地の結晶を掘っているような物ですよこれは。
「……お前、楽しそうだな」
「そりゃもう、ここ数ヶ月で一番楽しいかもしれません」
なぜかドン引きしているKに私はキメ顔でそう答えました。
彼も彼でピッケルを振り下ろす度に落ちてくる大地の結晶を拾っては、可哀想な物を見る目で私を見るのです。
場所は森と丘、シルトン丘陵。
その中でもかなり高い位置にある洞窟で、私達はアホみたいな顔してピッケルを振り回していました。え、私だけ?
「オトモハンター辞めて炭鉱夫になったってのは本当だったんだな」
「や、辞めてません……」
それを言われると辛いです。ここ最近、炭鉱しかしていなくご主人にはとても迷惑を掛けていますし。
「お前の目的は分かるけどなぁ。マスターの役に立つ為にマスターの邪魔をしたら意味が無い」
取れた大地の結晶をこちらに投げながら、彼はそう言い放ちました。
反論もありません……。
「そう……ですね」
「焦ってるのか……?」
そう……かもしれませんね。
「ここは、元々彼奴らの巣だったらしい」
「彼奴ら……? もしかして……?」
ここに連れて来てくれたのは彼のご主人、お師匠さんでした。
彼女が言うには、元々飛竜の巣で誰も近付かなかった場所だから大地の結晶が大量に眠っている場所があると。
ただ、それがあの二匹の飛竜の巣だったとは……。
「なんでここから俺達の学校の近くまで巣を移したのかは、分からん。それこそ、ただ運が悪かっただけかもしれねぇ」
「何が言いたいんですか……? 私はただ、ご主人の力になりたいだけです」
他意は無い。そう念を押すために、彼にはそう言いました。
ただ、昔からそうです。この人は人の話を聞かない。
「お前はあの二匹を殺そうとしてる。その為に、武器も強くしたい。……違うか?」
半分、正解。
「さぁ……どうでしょうか」
私の最終目標はあの二匹じゃありません。
たった一匹の、龍。
ただ、あの二匹も私が殺すべき存在なのは確かです。
だから、はぐらかしました。
「昔からお前は、何も言わないな」
「あなたは言っても無いのに勝手に言ってくる」
変わりませんね。
あなたが生きてると知った時は、心底嬉しかったんですけど。
今や昔の腐れ縁に戻ってしまいました。
「一つだけ言うぞ。…………もう、ハンターはこの世界に居ない」
言いたい事は、分かりました。
「飛竜を人が倒すなんてのは、無理なんだよ」
「そんな事———」
「ある」
キッパリとそう言った彼は、袋詰めにされた大地の結晶を私に渡して来ます。
「お前の復讐に自分のマスターを巻き込むのは辞めろ。お前のマスターはまだ未熟だ」
「……っ」
予想外のそんな言葉に、私は返す言葉もありませんでした。
私は……ご主人を巻き込んでいる。
そうですね、確かに、そうかもしれません。
「ゆっくりで良いじゃねぇか、焦るな。あの二匹なら俺とマスターが近々殺す。お前はお前が夢見ていたゆったりとしたオトモハンター生活を送ってればそれで良いだろ」
「…………」
言い返す言葉も、無い。
私には彼の様な勇気も努力も才能も無い。
後輩ちゃんの様な力も無ければ、モヒカンさんのような誇りも無い。
私には、何も無いんです。
焦りもする。焦りますよ、そりゃ。
「私は———」
「にぁ……オトモ、さん?」
「ご主人?!」
ピッケルを振る手を止めていると、唐突に後ろからご主人の声が聞こえて驚いて振り返りました。
そんなご主人は沢山の大地の結晶を持っていて、上目遣いはなぜか私を心配しているようにも見えます。
「っと、マスターとの二人っきりを邪魔する訳には行かねーな」
その後ろで、そんな事を言いながらKは自分のご主人の所に走って行きます。
「マスター! 俺頑張りました! 褒めて撫でて撫で回してぇ!」
「キモいニャン!」
「アブェシッ!」
蹴り飛ばされました。
「わ、わぁご主人……こんなに沢山。ありがとうございます」
哀れなアホを見届けてから、私はご主人にお礼を言います。
これだけあれば、この鈍らも少しはマシになるのでは無いでしょうか。
「ふふっ、これで私も少しはご主人の力になれそうです」
「……にぁ?」
あ、そういえば大地の結晶の使い道はご主人には教えて無いのでした。
不思議そうに首をかしげるご主人。しかし、何か言いたい事があったのか口をモゴモゴと動かし出します。
「ご主人?」
「お、オトモさんには……とっても助けて貰ってる、にぁ」
私の足にその肉球を立てながら、彼はそう言ってくれました。
「臆病で、何も出来ないボクの代わりに……モンスターと対峙してくれるのはいつも、オトモさんにぁ。初めてイャンクックを倒した時も、テツカブラの時も、オトモさんが居なかったら…………ボク」
「ご主人……」
こんな私を、認めてくれるんですね。
とっても良い、ご主人です。
そんなご主人を……私は巻き込んでいるのでしょうか。
…………利用しているのかも、しれません。
「それで……その、最近……オトモさん、頑張り過ぎてる気がする、にぁ」
ご主人にはそう見えたのでしょうか……?
私、炭鉱してただけなのに。
「ボクの為に……何かしてくれてるのは、分かってるにぁ。でも……」
「でも……?」
これは、ついに職務怠慢でクビにされる奴でわ?!
「オトモさんは、そんなに頑張らなくても……ボクの為に一生懸命してくれてるって。分かってるにぁ。…………だから、その、にぁ」
「ご主人……?」
私、ご主人の為に何かしてあげられているでしょうか。
彼の今後の為に、私は役に立てて居るのでしょうか。
ずっと、そんな事を考えていました。
口数の少ないご主人だから、そんな事を思ってしまっていました。
そんな杞憂も、私の焦りに繋がっていたのかもしれません。
私が彼のオトモハンターになった理由を、今一度思い出してみました。
あの龍を倒す為でも無い。あの二匹を殺す為でも無い。
私はただ、一人の人間として。彼のサポートをしていきたい。
だって、彼は私に似ているから。
忘れていました。
「ボクの……オトモで居てくれて、ありがと、にぁ」
そんな言葉が、欲しかっただけだったという事に。
「ご主人……」
「ぇ゛?! に゛ぁ?! なんで泣いてるにぁ?!」
嬉しかったの、ですよ。言いませんけど。
「でも、これだけ大地の結晶が集まれば……私パワーアップ出来ます。これからもっとご主人のお役に立ちますよ!」
「パワーアップ……? んにぁ? オトモさん、進化するにぁ?」
いや、私が強くなる訳では……無いんですけどね。アハハ。
さて、戻ってお祖父さんにこの鈍らを研磨して貰いましょうかね!
「ご主人」
「んにぁ?」
「これからも、宜しくお願いします」
「にぁ、ぼ、ボクも……宜しく、にぁ」
照れるご主人も可愛いです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「グェェェッ! クァックァックァックァッ!」
怒り心頭。口から炎を漏らし、怒りを露わにする鳥竜種。
大きな嘴を上下に振り、私めがけて襲って来ます。
「っとぉ!」
そんな攻撃を回避。隙が出来たピンクの身体に———私の新しい獲物を叩き付けます。
叩き付けられる刃はその桃色の甲殻を切り———裂く事は出来ずに傷付けるだけに終わりました。
むしろ剣の方が削れている気がします。錆がね。錆が。
「なんでこうなるんですかもぉぉぉ!」
「グェェェッ!」
あぁごめんなさい!! こんな鈍らで叩いてごめんなさいぃぃ!!!
結局このクック先生はご主人の狙撃により倒れました。
さてさて、あんなに大地の結晶を集めたのになぜまだ鈍らを握っているのかって?
いや、ちゃんと研磨したんです。したんですよ。
あの片手剣()はね。
これは別の鈍らです。はい。
何があったか?
それは森と丘から帰って来た次の日の事。
「嘘……でしょ」
昨日、お祖父さん笑顔で渡した片手剣と大地の結晶。
お祖父さんは寝る暇も惜しんでせっせと研磨して下さいました。
その結果は、目の前にあります。
「これ、鍋ですよね?」
「……鍋、だな」
私の目の前に置かれていたのは、黒い鍋でした。
調理に使う鍋です。新品同様に研磨されたそれは、紛れもなく……鍋でした。
これ、私が使ってた盾なんだぜ……? 嘘みたいだろ?
「後これ、包丁ですよね」
そしてトドメに、もう一つは包丁。
新品同様に研磨されたそれは、またも紛れもなく……包丁です。
「包丁だな」
「包丁だな、じゃ無いでしょう?! 私がこれまで使ってた盾と剣は鍋と包丁だったって事ですか?! 鍋と包丁持ってモンスターと戦ってた訳ですか?!」
そんなバカな!!!
「そうなるな」
「これなら錆びてた方がマシでしたよぉぉ?!?!」
「そう言うと思って、倉庫からもう一つ出しておいたぞ。錆びた片手剣」
「錆びてない奴は無いんですかぁ?! もう良いです買います。お店でちゃんとした武器を買います」
「いや、お前。爆弾とかピッケル買って金無いだろ」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
なんて事が……あったり、あったり。
「はぁ……」
倒れたイャンクックを解体しながら、私はため息を吐きました。
私の努力は?
お金は?
アフン。
「オトモさん、今回もありがとう……にぁ」
でも、ご主人のそんな言葉を聞いて思うんです。
こんな私でも、頼りにしてくれてるんだと。
焦らなくても良いのかもしれません。だって、彼が焦っている訳では無いのですから。
突然ですが、ハンターは衰退しました。
昔、人類は荒々しくも輝かしい生活を送っていたらしいです。
しかし、それはもう過去のお話。
モンスターと戦うなんて、私達には荷が重過ぎます。
私達は本当に弱くなりました。
そんな私達に変わって、この世界の人類となったのはアイルー。獣人族の彼等こそが、この世界を統べる現人類です。
そんな彼等———ニャンターさん達のサポートが今の私達のお仕事です。
一生懸命、勤めてまいります。
「ご主人」
「にぁ?」
私達人間は———
「これからも宜しくお願いしますね!」
———オトモハンター、始めました。
お久しぶりです、こんばんわ。
最近はもっぱらRe:ストーリーズばかり書いてる作者です。
ちゃんとこの作品も更新します(`・ω・´)
さてさて、タイトルで察してくれた方も居るかもしれませんが実はこのお話で第一章はおしまいです。
特に何もしてないというか、キャラを出していっただけな気がしますが……ここで区切りとさせて頂きます。
次回からは新章———と、言いたいところですが次話だけ番外編をやらせて下さい(´・ω・`)
新章は二月の更新からになります。月一ってなんか長いなぁ……。
実は私の作品で一番お気に入りが多いのがこの作品です。月一でしか更新していないのに、皆様本当にありがとうございます。
これからも、続けて行きたいと思いますので。見切りを付けられるまでは、お付き合いして下さると嬉しいです。
でわ、また来月お会い致しましょう(`・ω・´)
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。