前略、ハンターは衰退しました。
それは一匹の子猫のお話。
昔々ある所に、とっても強いニャンターとそのオトモが居たそうです。
ニャンターさんの武器は拳銃と短剣。オトモさんの武器は片手剣。
二人のコンビはそれはそれは強くて、有名で、優しくて。
お嫁さんもすぐに出来て。
二人とも幸せになって。
それでも、彼等は狩りを辞めませんでした。
二人は狩人だから。守りたい物を守る為に。
二人にも子供が出来ました。
銀色の毛並みの可愛い男の子と、金色の髪の眉毛の太い女の子。
二人を大切にして、それでもやっぱり狩りを辞めなかったのは———あの時の為だったのかもしれません。
二人の家族が住む村に、一匹の龍が自らの空腹を満たす為に降り立ちました。
二人は、子供を家族に任せて龍と戦います。
二人はとてと強かった。
だから、龍とも互角に渡り合えていた。
それを見て安心したのか、子供の二人は村を離れようとしませんでした。
「「頑張れ、お父さん」」
二人の声が重なります。
しかし、その声を聞いたのは二人の狩人だけではありませんでした。
劣勢だった龍は、自らより弱い者をまず排除しようと二人の狩人を無視して子供二人に襲いかかります。
少年の父と、少年の母と。
少女の父と、少女の祖父が。
それぞれ二人を助けようとしました。
少年の両親と、少女の父は龍に———潰され、切り裂かれ、食い千切られて。
少女の祖父も、左腕を龍に持って行かれます。
おかげで、少年と少女は助かりました。
でも、心に強い傷を負う二人。
龍は、遅れてやって来た狩人が撃退して村を去って行ったのですが。亡くなった三人が帰って来る事はありません。
少年は身寄りが無く、ドンドルマの優しい家族に迎えられたようです。
少女は祖父と少し暮らした後、狩人になる為に家を出ました。
それは、一匹の子猫のお話。
少年は思いました。
あの時、ボクがあそこに居なければ———と。
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「……そ、卒業…………にぁ?」
今朝、叩き起こされた『ボク』に叩き付けられたのはそんな二文字の言葉だったにぁ。
「うニャン。卒業ニャン」
そう語るのは、身寄りの無いボクを『あの出来事』の後引き取ってくれた家族の娘。
ボクは彼女を姉のように慕っていて、ニャンターになる為に弟子として学んでもいたにぁ。
そして、唐突にそんな事を言われてビックリ。
確かに、最近彼女———師匠は忙しそうにしていた。
けど、それでもボクの事を放って行ってしまう事は無かった師匠なのに、にぁ。
「……ボク、邪魔になった…………にぁ?」
「んな訳にゃいニャン、この馬鹿弟子」
「ぎゅにぁっ」
ちょっと強めのチョップはいつもの事。けれど、なんだか今日の師匠の表情はいつも以上に難しそうな表情。
「……どうかしたにぁ?」
「んニャーン……最近ジジイがうるさくてニャン。このままじゃ古龍討伐とかに駆り出されかねないニャン……」
古龍って……。
「クシャ———」
「古龍は奴だけじゃ無いニャン。それに今のまま行ってもまた誰かが死ぬだけニャン」
厳しい言葉。分かってるのは、それはボクを憎んで言っている言葉では無い事。
「まぁ、要するにニャン。あんましジジイの言うこと聞かなかったから怒られ出しちゃった訳ニャン。……それで、色々と押し付けられそうだからちょっとお前を連れては行けないニャン」
師匠のいうジジイっていうのは、三代目ギルドニャイトマスターの事。
とっても偉い人なんだけど、師匠は好きじゃにぁいみたい。
「な、ならボクはどうすれば良いにぁ……」
正直、師匠に頼って生きて来たボクは師匠無しでどう生活していけば良いか分からなかった。
だって、ボクはいつも師匠の後ろでライフルを構えていただけ。
だから、一人でなんて戦えやしないにぁ……。
「それニャーン……。いっその事、オトモでも雇うニャン?」
「……オトモハンター?」
オトモハンターっていうのは確か……旧人類、つまり人間さんのお仕事の一つだったと思う。
大昔はこの世界に反映していた人間さん達だけど、いつからか衰退して今はボク達アイルーが人類って呼ばれてるにぁ。
そんな人間さん達だけど、やっぱり体力と腕力は凄くって。
ハンターは辞めてしまったけどボク達ニャンターの手伝いをオトモハンターとしてやってくれているのにぁ。
「それニャンそれニャン。オトモハンター」
「で、でもボクのオトモって事は……」
ボクは、モンスターに近付くのが怖い。だってあいつら大きくて力が強くて、あいつらの攻撃で人は簡単に死んでしまう。
だから、離れて戦えるライフルを使っているけれど。
それは、ボクが離れて戦う為に誰かが前線で戦うと言う事。
師匠は本当に強い。ボクの知ってる誰よりも、お父さんよりも強いと思う。
だから、安心して後ろで攻撃出来ていた。
ボクは、それだけでニャンターをやっている気になっていた。
けど、どうだろう。今師匠から話を聞いてボクは自分の情けなさにやっと気付いたの、にぁ。
「このままじゃ、奴と戦うなんて夢のまた夢ニャン。丁度良い機会だったのかもしれないニャン」
「……嫌にぁ」
無理。本当に無理。
もうボクは、目の前で誰かが死ぬ所なんて見たく無い。
だから、とっても強い師匠とずっと居れば良いって思ってた。
それなのに、卒業……。
……無理にぁ。
「決定事項ニャン」
「……にぁ」
「返事ははいニャン」
「……にぁい」
「はい」
「はい……」
師匠は厳しいにぁ。
「……それに、私以外と戦えば見える事もあると思うニャン」
そう、かにぁ……?
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辿り着いたのは、集会所。
クエストを受けたり、ご飯を食べたり出来る場所。
オトモハンターってニャンターの割合から見て少ないから、結構見付けるのは大変みたいで。
ただ、準備の良い師匠だから目星はついていたみたいにぁ。
「オトモさんやオトモさん」
ボクにカウンターで待っていろと言うと、師匠は一人の女の人に話を掛ける。
大きい、人間さんって僕達の倍くらい大きいんだ。
初めて見た訳じゃ無いけど、人間さんってこのドンドルマじゃ珍しいから見入ってしまう。
ボクは人間さん好きにぁ。なんでか分からないけど、見ていて安心するんだ。
長くて綺麗な師匠と同じ色の毛。背中に背負っているのは片手剣……? 凄く錆びてる気がするけど……。
「私の弟子の、オトモハンターになっては貰えないかニャン?」
まさかの、直球。
もう少し前置きとからいらないのにぁ……?
「いや、良いんですか?」
「なにがニャン?」
けれど、人間さんは逆に遠慮気味。
「私……自信なくて」
「同じニャンだぁ」
人間さんの答えに、師匠はそう答える。
自信が無い。確かにボクもそうだ。
でも、いや、だからこそ。と、師匠はその後で言っていた。
「私の弟子も……もうそこそこ腕はあるのに自信が無い自信が無いって私の元から離れようとしないニャン。だから、あいつには自信を付けて欲しいニャン」
「それで、なぜ私を? 自分で言っといて何ですけど自信過剰くらいで無いと狩りは厳しいですよ? そんな二人が組んで本当に良いパートナーになれると思います?」
そう言う人間さん。
うん、ボクもそう思うにぁ。
「そんな二人だからこそ、逆に冷静沈着に安全にやれると思うニャン。ようは試し、騙されたと思って一回で良いから付き合ってやって欲しいニャン」
師匠がそう言うと、本当にそうなんじゃ無いかって思えてもしまうから不思議にぁ。
「ま、まぁ……こちらとしては断る理由もありません」
「よしニャン! これで決まりだニャン! 早速紹介するニャーン」
そう言うと師匠は凄い笑顔でこっちまで歩いて来て。
「ほれ、行くニャン」
「……い、嫌にぁ」
ボクが人見知りなの知ってるのに……にぁ。
「行くニャン」
「にぁ……」
ほぼ無理やり、師匠に連れて行かれる。
目の前までやって来て思ったのは……人間さん大きいって事だったにぁ。
整った顔をしていて、人間さんでいうと美人に入るんじゃにぁいかにぁ?
「こいつニャン!」
「……に、にぁ」
「宜しくお願い致します、ご主人」
笑顔を見せて挨拶してくれる人間さん。今日からこの人がオトモハンターになってくれる人。
———ボクの代わりに前線で戦う事になる人。
「に、にぁ……」
「こら! しっかり挨拶しなきゃダメニャン!」
そんな事を考えて虚ろでいると、師匠に叱られる。
立ち止まっていても、進めない。
なら、少しでも前に行くしか無いのかもしれない。
「……よ、宜しくにぁ」
「はい、宜しくお願い致します」
これが、ボクと彼女との初めての出会いだったにぁ。
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初めての狩りとしては、順調な気がしていた。
オトモさんは、人間。
人間さんと、いや……師匠以外との狩りは産まれて初めてだった。
でも、オトモさんが、ボクが思ってたより動ける人で。
ボクは師匠と戦っている時みたいに———安心してしまっていた。
ちょっとした油断。それこそ、師匠だってしてしまうかもしれない油断でオトモさんは狩り対象であるイャンクックの攻撃を受けてしまう。
地面を転がって、その身体を足で踏まれるまで殆ど一瞬で。焦って震える手がライフルのリロードの邪魔をする。
このままじゃ間に合わないと思った。
———嫌だ。
ボクがあの時居なければ、お父さんは死ななくて良かったって。
———嫌だ。
そう思っていたのに。
———嫌だ。
違うんだ。
「……嫌だ……っ!」
ボクが何も出来ないから、ボクが助けられないから———ダメなんだ。
「にぁああ!!」
気が付いたら走っていて。
「———ご主人?!」
「……オトモさんを放すにぁああ!」
手には剥ぎ取りナイフを持っていた。
「にぁああ!」
「グェェェッ?!」
剥ぎ取りナイフを、目一杯イャンクックの頭に叩き付ける。
文字通り歯が立たなくて、その剣は弾かれた。
ただ、オトモさんを押さえるイャンクックの足の力が一瞬緩んでオトモはんはその隙に脱出する事が出来たみたいにぁ。
「———ケホッケホッ」
体勢を整えて、落としてしまっていた片手剣を拾い上げるオトモさん。
ボクは、それを見届けると剥ぎ取りナイフを構えたままイャンクックの正面に立った。
大きい。
怖い。
けれど、ボクは逃げてるだけじゃダメなんだ。
「グェェェッ!!」
「……にぁ、にぁっ」
せっかく捉えた得物を逃して怒ったイャンクック。こんなに怖いけど、この世界にはもっと怖いモンスターが居る。
怯んでいられない。
そんな事を思っていたけど、イャンクックが突進を繰り出して。
近付く巨体にボクの身体は動かなかった。
鈍い音がして、身体が宙に舞って行くのが分かる。
情けなかった。
「……にぁぁぁっ」
「ご主人!!」
そんな情けないボクを庇うように空中で掴んでくれたオトモさんと一緒に地面を転がる。
オトモさんはそれから直ぐに閃光玉を使ってイャンクックの動きを止めてくれた。
結局ボクは……何も出来ない。
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「……ごめんにぁ」
ベースキャンプに戻って、失った体力やスタミナを魚とかを食べながら回復。
そんな中ボクはとにかく、謝った。
師匠が言っていた事が少し分かった気がする。
師匠以外と戦えば、分かる事がある。本当に、分かってしまった。
ボクは、これまで何も出来て無かったって事。
ただ師匠に背負われていただけだったって事。
「いえ……私は命を助けて貰ったのです。ありがとうございます、ご主人」
「……にぁ」
そうは言ってくれるけど、本当にただ偶然で。
もしかしたらボクが何かしなくてもオトモさんは逃げれたかもしれない。
ボクは本当に、何も出来て無いと思う。
「……ボク、スナイパーだからにぁ」
言い訳みたいな言葉が漏れた。
オトモハンターはニャンターの道具じゃ無い。危険になったら助けるのが当たり前だ。
それなのに……ボクは。
「そうですね。とても狙撃お上手でした」
そう言ってくれるオトモさんは、とても優しい笑顔をしていた。
まるで、師匠の側にいるような感覚。
「……でも、ずっと後ろに隠れてるからボクのオトモさんはとても危険な眼に会っちゃうにぁ」
でも、それは間違ってる。彼女は師匠みたくギルドで最強とか言われてない。
極々普通の、人間の女性。
「……ボクは人間さん好きだから、怪我して欲しくないにぁ。でも、ボクの武器はスナイパーライフルなんだにぁ……オトモさん、ボクはニャンターに向いて無いのかにぁ……?」
だから、ボクはオトモさんにそう言った。
ボクはきっと、師匠が居ないと何も出来ないんだ。
ニャンターになんて初めから向いてなかったんだ。
「ご主人はなんでスナイパーライフルを担いでいるのですか?」
しかし、オトモさんのそんな質問。
「……モンスターとか怖くて近付きたく無いにぁ」
ボクは正直な気持ちを半分伝えた。
確かにモンスターは怖い。でも、それ以上にボクが居たせいで誰かが死ぬのが怖い。
「……それはとても向いて無いですね」
「……にぁ」
正直に言われてしまった……。
当たり前。モンスターを怖がってたら戦う事なんて出来ないんだから。
「私もね。モンスターなんて怖いですよ」
そして、帰ってきたのはそんな言葉。
「……にぁ。オトモさんも?」
「そうです。とても怖い」
「でも私はオトモハンターをやってます。死ぬのなんて嫌だし怖いけど、やってるんです」
「……にぁ、なんでにぁ?」
なら、なんで? そこに何か大切な答えがある気がして、ボクはオトモさんに質問したにぁ。
「用済みになってニート生活を送る為に」
「……にぁ?」
でも、返ってきたのはそんな言葉。え? えーと、ニート?
「ふふ……まぁ、色々ありますけど。本心は一つなんですよ」
「その一つって……なんにぁ?」
冗談かにぁ……。
「昔、私はモンスターに襲われて死にそうになりました。それを助けてくれたのは……ニャンターさん達と、おじいさん…………それに、お父さん」
「……にぁ」
オトモさんは、ボクと似たような経験をしてるのか……にぁ?
思い出したくも無い記憶が蘇る。
出来れば一生忘れていたい。そんな記憶。
でも忘れる事なんて無い。
一生根に持って、ボクは生きていく。だからニャンターになったんだ。
「そのモンスターにお父さんを食べられてしまいました。……私が弱かったから。だから、そのモンスターを倒せるくらい……強くなりたいんです」
「……ボクも…………ボクもオトモさんと同じだにぁ」
それを聞くと、オトモさんは意外そうな表情を全くしないで笑顔を見せてくれた。
多分、分かっていたのかにぁ……?
「……ボク、オトモさんに負担いっぱい掛けちゃうにぁ。だから……オトモさんが嫌ならボクなんかのオトモにならず…………このクエストもリタイ———」
「狩りましょう」
ボクの話を遮るように、オトモさんはウルトラ上手に焼けた魚をボクに渡しながらそう言いった。
「……にぁ?」
「私はご主人が宜しければご主人のオトモで居たいです。ご主人が良ければですけどね」
「で、でも……ボク……オトモさんに負担いっぱい掛けちゃうにぁ。ボクは臆病で……ひ弱で…………にぁ」
「そんな事はありません!」
「オトモさん……?」
なんで?
「そもそもご主人は私のピンチに助けてくれたでは無いですか。ご主人は全然私に負担を掛けてなどいません。むしろご主人に助けられて負担を掛けていたのは私です」
なんでこの人は……こんなに優しい?
「それじゃ……ボクのオトモになってくれるのかにぁ?」
ボクといると危険だって分かったハズなのに。
行けないハズなのに。
期待をしてしまって、そんな言葉が漏れてしまう。
「まだです」
「……にぁ?」
けど、オトモさんはそう言った。
「私とご主人で、あのイャンクックを倒します。そこで私の腕を信用して下されば……私をオトモに雇ってください」
そう言って、ボクを安心させてくれようとした。
「か、勝てるのかにぁ……? あのおっきなモンスターに」
ボクは戦えない。モンスターに近寄るのが怖いから。
そんなのは、ニャンターじゃなくてただの足手まといのハズだ。
「人の武器は知恵ですよ。さっきは油断していただけです。私を信じて……もう一度戦って貰えませんか?」
それなのに、オトモさんは真っ直ぐ僕を見てそう言ってくれたにぁ。
「…………。……にぁ」
もしかしたら。ボクはそう思って、強く頷いた。
その後の事はとても鮮明に覚えてるにぁ。
オトモさんとの初めての狩り。師匠と違ってとんでもなく強い訳じゃ無いけど、オトモさんはボクの攻撃を信じて自分の出来る事を全てやってくれた。
この人は凄いと思った。
まるで、大昔のハンターみたいに。
ボクのサポートで、オトモさんが狩る。
そんな、考えられない事が目の前で起こったんだ。
「これで私の事、オトモにしてくれますか?」
「……にぁ、オトモさんがこんなボクと組んでくれるなら。是非頼みたいにぁ」
「じゃあ、これからよろしくお願いします。ご主人」
「……にぁ。宜しくにぁ、オトモさん」
こうして始まったのがボクと、彼女の物語。
きっと平凡で、ボクは何も出来ないのだけど。
彼女となら、もしかしたら何かが出来る気がした。
その後寝てたら、知らない間に師匠に家を追い出されてオトモさんと暮らす事になったんだけど。
これからが……ちょっとだけ楽しみだったりした。
人見知りだから、あんまり上手く接する事が出来ないけど。
これから宜しくにぁ、オトモさん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちょっとした、おまけのお話。
「じゃ、先輩お願いします」
無情にも放たれる、威圧めいた言の葉。
逆らえば地獄に叩き落とされるとは、文字通りなのでしょう。
「……慈悲は」
「ありません」
デスヨネー。
全国の私のファンの人、こんにちわ。私です。
全国の私のファンの人、すみません。私は汚れてしまいそうです。
「何ポケーッとしてるんですか。先輩が悪いんですからね!」
「いや、そりゃそうなんですけどねぇ? 失敗を気に病む事なんて無いんですよ。ただ認めて、次に活かせば良い……それが大人の特権です」
「じゃあ次を取ってきますか?」
「勘弁してくださいませ」
さて、そろそろ状況説明をしなければいけませんね。
私と後輩ちゃん、ご主人にピンクちゃんは最近色々なクエストを一緒に行うようになりました。
あの砂漠でのクエストから生き延びた仲ですから。固い友情で結ばれている筈ですね。
そんな毎日のとある日常。
私達は卵の運搬クエストに着手。
場所は森と丘と呼ばれる場所。ココット村の近くですね。
卵を手に入れるのはとても簡単でした。なんたってご主人とピンクちゃんが遠距離で安全にモンスターを引きつけている間に私達が一つずつ卵を持つだけのクエスト。
チョーヨユー、とか思ってました。甘えでした。
「もう少しで着くのに、座って休憩なんてするからですよぉ」
「そうは言っても……」
本当、もう少しでゴールだったんです。アプトノスしか居ないようなエリアで気が抜けていたんです。
私はちょーっと休憩の為に座ろうとしただけでした。
モンスターの卵って、重いんですよ。
それはもう、ずっと持ってると指の感覚がおかしくなるくらいに。
だから、座ろうとした時に手が滑って。
「この卵が元気だったので」
コロコロと一人でに転がって行きました。あたかもおにぎりころりんのように、ころりんと。
「いや坂だったから当たり前ですよね?!」
「あなたには坂に見えても私には———」
「良いから取ってください」
「あ、はい。ごめんなさい」
さて、別に卵が転がっていっただけなら問題はありませんでした。
池に落ちた訳でもなく、アリさんの巣に落ちた訳でもなく、割れた訳でもありません。
なら、何が問題かって?
卵は柔らかーい物に埋まって止まりました。
とても暖かく卵を包み込む自然物の集まり。
茶色くて、ちょっと匂いが濃い、自然物の中に。
「モンスターのフンだって実は立派な素材ミャ」
「……ボクはオススメしないにぁ」
味方はご主人だけでした。
さて、そろそろネタバレとまとめと行きましょうか。
卵運搬クエストでゴール間近に座り込んだ私が運んで来た卵。
その卵は坂をころりんと転がり、そこに群れをなすアプトノスの———排泄物置場に突っ込んで行きました。
えぇ……そんなに暖かい場所が良かったんですか?!
私の胸ではダメだったんですか?!
小さいから?! 私より排泄物の方が母性に溢れると?!
いっその事叩き割ってやりたいのですが、クエスト失敗となってしまう事だけは避けたいですよね……。
「ほら、早く逝って下さい」
「行ってが昇天的な意味になってませんか?!」
あれ、これ最近逆のパターンがあったような。
後輩ちゃんと私に上下関係はあまりありません。
良く言えば仲良し、悪く言えば後輩ちゃん生意気。
「卵ちゃんが可哀想ですよ!」
その大きな母性の塊の下に卵を抱えながらそう言う後輩ちゃん。
そんなにそこが良いのか。そこなら落ち着くのか卵よ。
「その卵は納品されればどこかの美食家に食べられるだけなのです。ならばここで、ひっそりと産まれた方が幸せだとは思いませんか? 可哀想じゃないですか、食べるなんて」
「うんこの中で産まれるのも相当可哀想だと思いますよ」
こら、年頃の少女がうんことか口にしたらダメでしょ。
「ほらぁ……早く取ってくださいよぉ。私お腹減りましたぁ……」
「うぅ……分かりました分かりました。取りま———」
ついに観念し、排泄物の中から卵を取り出そうとした時でした。
卵は、まだ排泄物に少し埋まっている程度で視界には写っています。
しかし、次の瞬間視界から卵は遮られました。
何が遮ったかって?
「ウモォォ」
アプトノスのお尻から放たれる、茶色いビーム。
今の私にはグラビモスのブレスより強力な攻撃にも見えました。
はい、結論。
新たに生み出された排泄物によって卵ちゃん完全に埋まりました。どこにあったのかも分かりません。
「無理です」
「先輩が悪いんですよ……」
いやいやいやいや、無理です無理無理。
「卵ちゃんを救出しようというなら私全身排泄物塗れになるって事ですよ!?」
「卵ちゃんは今全身うんこ塗れなんですよ?!」
私の子供じゃ無いもん!!!
「ミャー、クエストリタイアはキツいミャー」
「……にぁ」
うっ。
まぁ……私の責任ですもんね。
トホホ……。
「や、やりますよ……やれば良いんでしょう」
これ以上排泄物が増えればもう卵ちゃんの救出は不可能になってしまいます。
クエスト失敗だけはどうしても避けなければ……。
「私、一世一代の大勝負。行きます」
「それでこそ先輩です!」
「神様仏様……私を私に幸運を!」
願わくば、手を突っ込んだ瞬間に卵ちゃんを見つけられますように……。
「勝利の栄光を……私に!」
そう言いながら、排泄物に触れようとしたその時でした。
「せ、先輩逃げて下さい!!」
「もう良いミャ! クエスト失敗で良いミャー!!」
何か焦っているようですが、そうは行きません。
私にだって意地があるのです。なに、すぐ帰るさ。
「オトモさ———ん!!」
そんなご主人の焦った声は久し振りに聞いたので、少し気が緩みました。
気が緩んで、振り向くとそこには———
「ウモォォ……」
———レディにお尻を向ける生肉の姿が。
「あっ、これ」
察し。
「いや゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
その日。森と丘を観測していた気球は未確認のモンスターの鳴き声を聞いたと言います。
あ、それ私です。
「今日は通常の三倍臭いな」
「…………」
その日だけはお爺さんと口を聞きませんでしたとさ。
そんな私の、普段の日常的なおまけでした。
まさかの総集編的なお話でした。おまけもあるよ。
実は十話ずつで一章にしようと思っているので、丁度いいかなと
これからもこの作品は気が向かない限り月一更新になりますが、飽きるまではお付き合いして頂くと嬉しく思います。
でわ、また来月お会い出来ると嬉しいです。
Re:ストーリーズや他の作品も宜しくお願い致しますm(_ _)m
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。