らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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空いた。
ピコ森にて五章六話を投稿しました!
こちらでの五章の投下は未定です。


〜4〜

すごく驚いたカリンの顔に、あたしは思わず笑ってしまった。

 

「……そこにはオレは本当は死んでない。高校の入学式に会いに行く。って書いてあったの」

「えぇ?入学式にぃ?」

 

うん、とあたしは頷いた。

 

「だけど、入学式にチトセくんはいなかったわよねぇ〜」

「手紙には、生きていたら会いに行く。って書いてあったんだもん。だから……今度こそ、本当に死んだんだよ」

 

あははっと乾いた笑いをこぼすと、途端にカリンの顔が変わった。すこし目を細めて、不機嫌そうに。

 

「生きてるわよぉ、わたし、チトセ君が約束を破ったところなんて知らないものぉ」

 

あたしはちょっとびっくりしたけれど。

カリンの顔をみると、なにもいえなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

唐突だが、あたしには小学生のころより成長した点がわりとある。

……いや、たくさんある。

ある、というか、あのころの自分がどれだけダメダメだったのか……

 

ともかく、一番は遅刻しなくなったこと。

あの頃は遅刻常習犯で、チトセに呆れられてたっけ……なんて思うことも少なくはない。学校にカリンと一緒に早く着きすぎたときとか。

それから頭も良くなったと思う。

授業は聞くだけで覚えられるなんてあのころのあたしじゃ想像つかないし、ノートを取るのも嫌じゃない。宿題だって、家に帰ったらすぐにやっちゃうから忘れたことなんてほとんどなくなった。

最初は家庭教師をつけようかと言っていたママも、こんなあたしをみたらなにも言わなくなってしまった。

 

……こんなあたしを見たら、チトセはなんて言うかな。

 

チトセがいなくなって、心に空いた穴を埋めたくて、早く寝てしまうようになったら早く起きるようになって、そのまま学校に早く着いたり、その空き時間を勉強についやしたりしていたことに、気づくのだろうか。

本人に気づかれるほど嫌なことはないけれど、あの、憎たらしい顔で、「へえ、フウカも少しは真面目になったか」って言ってあの笑顔で笑われたらきっとあたしはなにもいえなくなってしまうことだろう。

……あたし、なに考えてるんだろ。

二度と、チトセには会えないのに。

カリンはああいってくれたけど、チトセが約束を破ったことなんてざらにある。青の城の王子だって、守れない約束はあるんだから。

 

それなのに、どうしてチトセは生きてるって信じてる自分がいるんだろうか。

 

「はぁ〜あ……」

 

そうため息をついて、一気に脱力。

 

「では、ここをフウカさん。」

「は、はいっ」

 

ため息をついた瞬間に指名されてハッとする。

(そういや、今日、この列当たるんだったぁ……)

そう思って、問題にサッと目を通した。今は数学だ。

(……慌てたけど、なんだ。因数分解のそれも中学の復習レベルじゃん……)

オロオロとしてこちらをみるカリンに、大丈夫だとにっこり笑いかけた。

 

「(3χ+2)(2χ-4)です」

 

さすがに簡単すぎる。

 

「性格です。流石フウカさん」

 

拍手が沸き起こった。

……こんなんで拍手されるのも、わりとざらだ。

まぁ、いいんだけどね。勝手にしてればいいんだし。

 

リリー先生が説明を長々としている中、あたしは窓の外のいわし雲を眺めていた。

たくさん集まるちいさな雲。

みんな一緒に群れをなして、空を泳ぐ雲。

 

「また、あの頃に戻りたいなぁ……」

 

あたしの小さすぎるつぶやきは誰の耳にも届くことなく、虚しく消えていった。

 

 

 

「フウカ姫、カリン姫、お昼をご一緒してもよろしいでしょうか」

 

4時間目の授業の終わった昼休み。声をかけて来たのは、貴族のスズだった。

青の国の貴族で、髪色は青に寄った紫だ。

彼女の家、デイリー家は青の城と交流が深く、同じく青の城と仲の良い銀の城の姫であるあたしとも昔からの知り合いだった。同い年だし。

 

「いいですよ」

 

と、あたしが微笑むと、カリンももちろんですと頷いた。

 

「ありがとうございます」

 

そしてスズは、あたしたちが囲んでいた机にイスを持ってきて座るとお弁当を開けて食べ始める。あたしもカリンもアリサちゃんも、スズから発せられる独特の雰囲気でちょっと食べにくい。

そんな空気を読み取ったのかわからないが、スズが喋り始めた。

 

「フウカ姫、カリン姫に質問があるのですが」

「なんでしょう」

「アリサさんとはどのような繋がりでいらっしゃるのですか?」

 

ああ、とあたしたちは顔を見合わせた。

自分には関係ないと思っていたらしいアリサちゃんも顔をあげる。

やっぱり不思議だよなぁ……王族と一般人だし。

でも、あたしは笑って、

 

「アリサちゃんは小学生の頃のクラスメイトですわ。久しぶりにお会いしましたの。」

「では、3人がたは幼なじみでらっしゃいますのね?」

「まあ、そうなりますわね」

 

幼馴染、と聞いたら自然とチトセが思い浮かんだ。

スズの容姿と合わさって、昔のチトセの記憶がより鮮明に思い出される。

笑顔を繕いながらも、やはりチトセのことを考えてしまう。

 

(はぁ……)

 

と、内心ため息を吐いた。

チトセが消えてから、嘘の笑顔がたくさん出来たなぁとふと思う。本当の笑顔がひとつもないわけではない。

ただ単に、嘘の笑顔をたくさんつくるようになったというだけ。

それでも、カリンには見抜かれて。あたしの性格を熟知しているアリサちゃんも、こちらをちらちら見ている。

カリンは今だって不安そうな顔していた。顔に、『フウカちゃん、大丈夫?』って書いてあって、ちょっと本気で笑っちゃった。

そんなカリンにあたしはいつもどうり、『大丈夫だよ』という意味を込めて微笑む。

カリンは一度目を伏せて、今度はカリンからスズに話しかけていた。

いつものことなんだけども、カリンには助けてもらってる。

アリサちゃんもいるし、この高校生活は楽しめるかなと考えた。

 

その後、ちょっとした雑談をしながら昼食休みが穏やかに過ぎていった。


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