らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
銀の城に帰ると、セシルが手紙を持ってきた。
差出人は、どこにもかいていない。
随分前に届いていたのをあたしに出すのを忘れていたんだと教えてくれた。
「どなたからなのでしょうね?」
手紙をひっくり返したりしながらセシルと確認するが、どこにも名前は書いていない。
「あけてもいい?」
「もちろん、姫さま宛てですから!」
封を切って中身を取り出すと、あたしのよく知った文字がチラリと見えた。
「……まさかこれって、チトセから?」
「ええっ!?チトセさまからですか!?」
セシルはびっくりして、あたしが先ほど渡した封筒と便箋を見比べるが、チトセからだとはどこにも書いていない。
「でも、姫さまが言うからにはそうなのでしょうね!ご夕飯のときにまたお呼びします」
セシルはにっこり笑うとパタパタと部屋を出ていった。
あたしは昔から変わらないベッドに腰掛けると、手紙を開いた。
フウカへ
この手紙を読んでるってことはお前もカリンも高校生になったんだと思う。
手紙の中のオレはまだ小学生で、今は青の城の時空管理局にいる。
オレはこれから、遠いところに行かなくちゃならない。
親父はオレを死んだことにするつもりみたいだけど、オレは死なない。約束する。
きっとこの手紙がフウカの元に届くころには、もうオレは死んだ王子ってことになってるんだと思う。親父には墓を建てて置くとも言われたから、きっと墓まで立ってるんだろう。
それでも、絶対、帰るから。
チトセ
以外にも冷静に読み進めたあたしに困惑する。
ふと部屋を見渡して、アルバムが目に入った。
チトセは青の城の十三番目の王子に過ぎなくて、あの日までチトセの存在は青の国の人でも知らない人が多いくらいだった。
それなのに、あの日。チトセが完全無欠の封魔の魔法『時の壁』を使えると発覚したその日から________
変に冷静になった頭で、手紙を元のように折りたたんだ。
そして、再び封筒の中にしまって、机の上に放り投げた。
やっぱり、チトセは生きていたんだ、なんて考えが蘇る。この手紙をなんて例えよう。あたしとチトセの間に、恋愛感情なんてないとしても。ママが私を愛してくれるように、ラブレターなんて呼んでもいいだろうか。
「考え過ぎか」
あたしはベッドに横になると、そのまま目を瞑った。
その後セシルか夕飯だといいに来たけれど、どうせ今日はママもいない。
いらないと、そう答えた。
なんともいえない気持ちが胸を中を覆った。
……いつもと変わらないように見えた朝は、あの手紙が目に入った瞬間に違うものへと変化を遂げた。
ママが昔買ってきてくれた怪獣の目覚まし時計は、三年前に壊れてしまった。ママにそれを告げたときは悲しそうな顔をしていたけど、同時に今まであたしが使っていてくれたことにも喜んでくれて。次の日には、時を司る青の城で作ってもらった寸分の狂いもない精密な目覚まし時計を買ってきてくれた。
まあそんな話はさておいて、とあたしは手紙を手に取った。
ふと、鏡を見るとあたしの目は真っ赤に充血している。
昨日は怖い夢でもみていたのかもしれない。
手紙を引き出しにしまって、支度を始める。
真っ黒な髪ゴムを持ってきて金色の髪をポニーテールにした。毎日セシルにとかしてもらっていた髪も、今では自分で結わくようになった。
ママのいない食堂でご飯を食べ、部屋でポケーっとする。
しばらくして、カリンがやってきて学校に行く。
……変わらないなぁ、としみじみ思った。
あの手紙を読んだって、なにも変わらない。
「フウカちゃん、なんかあったのぉ?」
「……え?」
「なんか複雑そうな顔をしてるんだものぉ。チトセ君ほどじゃないけどぉ、わたしもフウカちゃんとは昔から一緒にいるのよぉ?」
クスクスと笑って言われてしまったら、なんとなく手紙を隠している自分がすこしバカバカしくなった。
「それとも、わたしにはいえないことなのぉ?」
「えぇ!?そ、そんなわけないじゃん!カリン何言ってるの!?」
「じゃあ、わたしに教えてくれる?」
カリンの優しさは昔から変わらないけど、最近は怖さもプラスされた気がする。
心を見抜かれてるような、そんな感じ。
「実はね、チトセから手紙が来たんだ」
「ええっ!?」
書きながら設定があやふやで私が忘れそうです。
フウカの一人称を私にしちゃったり、カリンの一人称「わたし」を「私」に変換しちゃったり。チトセも、「俺」って打ってしまってやり直すばかりです。