らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
〜1〜
過去を振り返れば、当たり前のように後悔ばかりが舞い戻ってくる。
なんで?どうして?
そう考えたところで、あたしには過去に戻る能力なんてないから戻ることなど到底叶わない。そう思うだけで、なにも変わらない。
もう、あの頃には戻れないとわかっているはずなのに。
どうしても信じきれないのは、どうしてなんだろう。なんでなんだろう。
しかし、悩んだところでなんの答えもでない。
今の私が出来ることは、全てを忘れて日々を楽しく過ごすだけ。
「フウカちゃぁ〜ん、学校へ行きましょぉ〜」
小学生の頃から変わらないカリンの間延びした声に、今行くと声をかけた。
カリンの目の前まで行ってから片手を真上に掲げて念じれば、『ぽんっ』という軽快な音を立ててホウキが現れる。
いろんなものが変わっていた。
「お待たせっ、カリンっ」
魔法が上手くなったのもそうだし、おしとやかにできるようになったのもそうだし、今日からあたしたちが高校へ行くのもそうだ。
王族や貴族、お嬢様やおぼっちゃまが通うような学校、ハリーシエル学園はきっとまだ小学生だったあたしには無縁の学校だったのだろう。
制服は紺色のブレザーに、白いシャツ。そして白地に黒のチェックのスカートであたしには似合わないと思うけど。
カリンに連れられて飛び出した空には、海をそのまま写したような青い、青い、雲ひとつない大空が広がっていた。
風に乗って、ホウキを走らせていると、やがて学校が見えてくる。白を基調としていて、窓枠は金で塗られている宮殿のような建物は、あまり良い印象を受けることはできない。
校庭にカリンとともに降り立つと周りがザワザワするのも中学校生活で慣れたことだ。
「ねぇ、蝶のワッペンをつけた子がふたりも来たわ」
「王族よ、王族っ」
……やっぱりあたしたちのこと。
中学に入った頃くらいから王族の扱いがすごいことになり始めた。女王で国を治めているママの人気はとてもいいけど、それでもやっぱりママの政治に納得いかない人もいるみたいで、いきなり怒鳴られたこともある。ママはすごく謝ってくれて、すごく申し訳なくなったのは今でも記憶に新しい。
小学校の頃はみんなと同じようにいれたのに、なんてふと考えた。
あの頃はチトセもいた。みんなが幸せだった。楽しかった。あたしの大好きなものは、みんなあたしの近くにあっていつでも手が届いたんだから。
少し寂しそうなあたしをみたカリンが何を思ったのか微笑んだ。
「フウカちゃん、何組か見に行きましょうよ〜」
「うん……そうだねっ」
こそっとあたしに言ってきたのは、タメ口で話すとなんか色々ヤバくなることが最近わかったから。
小学生の頃はとくに気にされなかったことなのに、親しそうにカリンと歩いてるだけで国民から意見書が届くという……
プリンセスも、楽じゃない。
クラス分けの紙にはカリンとあたしの名前が当たり前のように一番最初に書いてあった。
「やっぱりAクラスだね」
あたしは苦笑いを浮かべてカリンに耳打ちしたが、カリンは嬉しそうにニコニコしている。
「いいじゃなぁい〜、おかげでおんなじクラスになれるんだからぁ〜……ね?」
まあそれを言ったらそうなんだけど、とカリンの昔から変わらないマイペースさにちょっと笑ってしまった。
クラス名簿をもう一度みると、あたしたち以外の名前ももちろんその下にあって。
まだ見ぬクラスメイトに、少しだけ心臓が高鳴った。