らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
Part・1
〜 アリサ 〜
ガラッ。
「おはよー」
昨日、1日休んだ。
風邪引いて、休んだ。
大したことはなかったのだけど、微熱があったから。
そうしたら、世界がちょっとだけ変わっていた。
「あ、アリサちゃん。おはよー」
っいうフウカの隣で、
「あれ?アリサ?お前もここなのか?」
と首を傾げるチトセくんがいた。
いや、まぁだいたいは予想してたのだけど。
「お、おはよ。チトセくん、フウカ」
相変わらず突き刺さるクラスメイトの冷たい視線。
辛いけど、いいの。
フウカたちと一緒にいれるなら、それで。
「アリサさん、フウカ様やカリン様だけでなくチトセ様ともお知り合いなのですか?」
スズだ。
スズは私に話しかけてくる、唯一の貴族。
だから別に私も嫌いじゃないし、カリンも嫌いじゃないと思う。
フウカはついこの前までスズのことを悲しそうな表情で見ていたけど。
髪の色が、チトセくんと同じだからだと思う。
「ええ。昔のクラスメイトですもの。3人共」
そう、落ち着いて返せば「そうだったのですね」と言って、席に帰っていった。
「んで?喧嘩尽くしだったらアンタたちが何故一緒に?まさか付き合ってるとか?」
……ほんの、冗談のつもりだった。
『ち、違うって!』と、慌てる姿がちょっと見たくって。
そしたらやっぱりフウカは赤面。
だけど、隣のチトセくんは……
「あぁ」
と、平然と答えたのだった。
「なぬっ」
……このふたりのこれからを、私には予想することが出来なかったようです。
Part・2 前編
〜 カリン 〜
「はっ!そ、そういえば、今日は銀の城に遊びに行こうと思ってたんだわ!」
わたしはカイくんの部屋でお茶を飲んでいたのだけど、そんな大切なことを思い出した。
「え?そうなのか?なら、カリンはフウカのとこに行けばいいよ。おいらは眠いしもう寝るさ」
そう、カイくんが言うので雨上がりの空へと飛び立った。
カイくんがツタの模様付きの窓からにっこり笑いながら手を振るので、わたしも振り返して前を向いた。
もう、ホウキが苦手なわたしじゃあない。フウカちゃんと冒険していれば、自然に上手になるものなのです。
銀の城の前につけば、門番さんが真っ先に話しかけてくる。
「カリン様!フウカ様をご存知ないですか!?」
「えっ、えぇ?」
「未だにお帰りになられていないのです。女王もただいま探しておられて……」
わたしが知らないと答えると、門番は残念そうに門を開けてくれた。
普段ならたくさんいる、来客用の侍女たちも今は少し少ない。
「あぁっ。姫様、何処へ行かれたのでしょう!?」
セシルさんは忙しなく城を駆け回っていたけど、わたしに気がつくと真っ先に飛んできた。
「カリン様!フウカ様がお帰りになられていないのです!何処に居るのでしょう!?姫様がいなくなったら、私、私……」
わぁっ。と泣きそうな表情をするセシルさんが、なんだか可哀想に感じて……
学校でのことを、話すことにした。
**
「そうですか、チトセ様と……。チトセ様も一緒ならば、少しは心配が和らぎます!女王に知らせて来ますね!」
慌てて走っていくセシルさんをみて、わたしはあることを思い出した。
『フウカちゃん?ここは?』
『ここはね、オドロオドロの木って言うの。小さい頃のチトセとあたしがよく来てたんだ。チトセと久しぶりに、来たいなぁ……無理だとは思うけどね』
「わ、わたしは……ちょっとまた出かけて来ます」
すぐ近くにあった窓を開けると、ホウキに乗って、オドロオドロの木へと向かったのだった。
Part・2 中編
〜 カリン 〜
わたしはふわりとオドロオドロの木の近くに舞い降りた。
あいにく、まだフウカちゃんたちは見えないけれどこのあたりにいるということはすぐにわかる。
「さぁて……ふたりは何処にいるのかしらぁ〜?」
オドロオドロの木に近づくにつれて、だんだんと緊張してきて、不安になる。
……何年経ってもわたしは変わらないのだと、今は更に感じた。
ずっと、フウカちゃんに守ってもらっているのだ、わたしは。
(フウカちゃんみたいにわたしは変われないのよ、きっと)
ちょっとフウカちゃんに嫉妬してるのかもしれない。
だけどフウカちゃんの恋を応援してるし、人として大好きだから妬んではいないのだけれど。
「えっとぉ〜……何処を探せばいいのかしらぁ〜?」
一瞬迷ったけれど、答えはすぐに出た。
「そうだわぁ〜。この木さんに聞けばいいのよぉ〜」
わたしは木の方を向いて、目を瞑る。
こうすれば、より鮮明に聞こえる気がするのだ。
『はじめまして。オドロオドロの木さん。わたしはフウカちゃんとチトセくんの友達です。ふたりはここに居ますか?』
木は優しく答えてくれる。
少し怖いような。でも、落ち着くような優しい声で。
『あぁ、いるよ。でも、静かにな。眠ってしまっているからのぉ〜』
……きっと、ふたりはヘトヘトなのだろう。
わたしも今、色々とあって疲れているのだ。
学校で疲れている上に、こんなところまで好きな人ど出かけたら……
想像するだけでつかれてくるもの。
『ありがとうございました』
わたしは目を再び開くと、オドロオドロの木に向かって早歩きをした。
足音が起きないように、慎重に慎重に。
ざわざわと揺れるオドロオドロの木の葉。はらりと、わたしのほおを掠めた。
「んん〜と……」
木に手を触れると、辿りながらまあるく回り始める。
木肌はゴツゴツとしていて、勇ましい。
「あっ……」
たどり着いたところには大きめな穴がぽっかりと空いていて。
そこを除いてみれば……
「スー……スー……」
規則正しい寝息が聞こえてくる。
「まあっ。木さんの言っていたとおりだわぁ〜」
フウカちゃんは木に寄りかかり、チトセくんはなんと、フウカちゃんの膝の上に頭を乗ってけている。
側から見れば、単なるラブラブカップルだ。
「さてと……起こさないと……よねぇ〜?どうやって起こそうかしらぁ〜?」
Part・2 後編
〜 カリン 〜
どうやって、起こそうか。
ちょっと大きな音を出してもいいかもしれない。
わたしの魔法で、びっくりさせるのもいいかもしれない。
それか……耳元で……
「フウカちゃん、お膝見てごら〜ん。お〜い、フウカちゃ〜ん」
何度かよべば、フウカちゃんは目を開いた。
「なっ……な、な、な、な、何ーー!?」
やっぱり赤面フウカちゃん。
可愛いとしか言えなくなっている。
「なっ、なんでチトセぇ〜!?」
「なんでも何も、わたしが来た時には既にこんなだったわよぉ〜。ふふっ、ラブラブねぇ〜」
「ちっ、違うってばー!」
と、騒がしいのかチトセくんも目を開けた。
「ん?どうしたんだ?フウカ。あれ?カリン?」
……膝枕には、別に動じていない。
さて、わたしが知らない間にこのふたりには何があったのか……
「んもぅ、チトセくんたら……本当にデレちゃって。付き合ってるみたいよぉ〜?」
フウカちゃんは再び赤面して俯く。
否定しないその姿に、違和感を覚えた。
「いや、だって付き合ってるし」
平然とチトセくんは答える。
普段のわたしなら絶対赤面だけど、赤面より先に、出てきてしまった。
「えぇーーーー!?」
と、いう、悲鳴なのか奇声なのかよくわからない大きな声が。
「ねぇ?ふ、ふたりともぉ〜。銀の城と青の城で、ふたりのことを探してるみたいよぉ〜?」
「え"」
まずそうな顔のふたり。
……ううん……予想通り。
「早く、帰ったほうがいいんじゃないかしらぁ〜?」
そう笑みを向ければ、フウカちゃんはちょっと引きつった笑顔で即答した。
「う、うん!もうあたし帰るねっ。じゃ、じゃあね、チトセ、カリンっ」
焦るように帰ってゆく。
「お、おー」
「また明日ねぇ〜」
状況がイマイチ飲み込めていないチトセくんと、フウカちゃんに向けて手をふったのだった。
-END-
カリンが超アクティブになりましたが、全てはあのフウカのせいです。
無理しまくってチトセにフウカが怒られてカリンがなだめて……っていうのやってたのに、チトセがいなくなってカリンがフウカを元気づけようとカリンがフウカを引っ張るようになったから。
っていうか「らくだい魔女」って今のフウカに似合わなくないですか。フウカはらくだい寸前のギリギリ。先生に「進級できないかも」といわれたプリンセスのはず……あっ、私のせいか。