らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

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三章

*1*

☆ フウカ ☆

 

 

 

長いようで短い夏休みが終わった。

今日から2学期なんだ。

 

「フウカちゃんっ。行きましょぉ〜」

 

カリンが窓から顔を出す。

ハリーシエルの夏服は、真っ白の半袖シャツにリボンのタイ。スカートはオレンジ地に茶色と黄土色のチェック模様。

…ちなみにリボンは、王族なら城の色。その他の人はオレンジ色で、冬服のワッペンに比べるととっても王族が目立つ。

その王族のリボンは特注で…他の人の人より、3倍くらいの値段になるんだとか。

カリンはライトグリーンの髪を揺らしてあたしにそっと耳打ちする。

 

『楽しみね。今日からチトセくん、来るでしょう?』

 

ドキーーッ

 

真っ赤になるあたしを見て、カリンがふふっと微笑んだ。

 

「行くわよぉ〜」

 

カリンに手を引かれ、慌ててホウキを出すと学園に向かう。

 

 

赤の城での会議から、毎日がめまぐるしかった。

城に帰ったあと、セシルに言われて新聞を読むとチトセのことが一面を華々しく飾っていた。

華々しい写真とは裏腹に、内容はよろしくないものだった。

『青の城の第13王子の死亡報道。青の城の嘘であった。』

他の新聞でも、

『時の壁の使い手。実は…』

『青の城は嘘をついた。』

などと書かれていたのだ。

…チトセだって好きでこんなことになったわけではない。

こうなったのもマスコミが騒ぎ、チトセを付け回し、学校などの公共の場に迷惑をかけてしまったから。

 

学園についた時、いつもより少し遅れていた。

なので。

 

「あれって…銀の城のフウカ様じゃない?」

「本当だわ…でも、フウカ様がなんでこの時間に?」

 

なんて声がそこら中から聞こえてくる。

…登校時間なんて、自由なのにね。

 

「でも…夏季休暇後の初登校でフウカ様とカリン様のお顔を見られるなんて…目の保養だわ…」

「お二人方、美しいものね。」

「それに可愛らしいし。」

 

(へっ?…なんでみんなそう言うの…?)

 

あたしは小さくため息をつく。

 

「フウカ姫、行きましょう。」

「ええ。」

 

クラスに入ると、夏休み前と同じような日常が始まるのだと痛感した。

 

「フウカ様。カリン様。御機嫌よう。」

「ええ。御機嫌よう。御着席してもよろしいわよ。」

 

…そう。同じ、挨拶。

席に着くと、隣の席とミユが声をかけてきた。

 

「フウカ様、今日はアリサさんは?」

 

アリサ…ちゃん?そう言えばいないな…

 

「わかりませんわ。すみません、お役に立てなくて。」

「いいえ。ありがとうございます。少々気になったもので。」

 

…アリサちゃん、何処だろ。

 

その時、リリー先生がガラッとドアを開けて教室に入ってきた。

 

「みなさん、御機嫌よう。今日は転校生を紹介いたします。…入って下さる?」

 

先生のあとについて入って来たのは、予想通りの青い髪と吸い込まれるような瞳の、アイツだった

 

 

 

 

 

*2*

☆フウカ☆

 

 

 

 

「では、自己紹介をお願い出来ますか?」

 

…アイツは、あたしたちの方を向くと、閉じていた深いブルーの瞳をゆっくりと開いた。

 

「青の城の…チトセと言います。よろしく。」

 

周りの女子の目がハートになるのがわかる。

それと同時に男子の目は厳しくなり、好きなように言いたい放題。

 

「なぁ、青の城のチトセ様って…」

「夏季休暇中、ずっとニュースになってたやつだよな。」

「あと、フウカ様の幼なじみだとか。」

「あぁ、それな。…女子たち、なんであんなやつがカッコいいんだ?」

「同感。」

 

…あぁ…ま、予想はしてたけどね。

 

「チトセさんは、フウカさんの隣です。…フウカさん、いいですか?」

「えっ、ええ…」

 

あたしの隣?

チトセはあたしをジッと見つめ、テレパシーを送ってきた。

 

『フウカ、これからよろしくな。』

 

と。

…隣、か…

チトセはあたしの右隣にバックを置くと、そのまま着席して前を向いた。

 

「ではこれから一時限目を始めます。」

 

理科担当のカナンダ先生は理科の授業を始める。

 

「問1。溶質とはなんですか?では、フウカさん。」

 

あたしは眺めていた教科書から目を離し、前を向くと問題に答えた。

 

「液体に溶けている物質のことです。」

 

あたしがそう言うと、カナンダ先生は微笑んだ。

 

「正解です。」

 

ここがカナンダ先生の良いところ。

王族だから、解けるのが当たり前だと思ってない。

間違えてもそのまま続けるし、合っていても他の人と同じように褒めてくれる。

 

「次。牛乳は水溶液とは言えませんが、その理由を述べてください。ではここをチトセさん。」

 

…チトセって出来るの?

 

「透明でないからです。」

 

…そりゃそーか。夏休み中、城に監禁状態で全部教え込まれたみたいだし…

 

「当たりです。」

 

カナンダ先生は目を丸くしていた。

…多分、ずっと学校に来ていなかったチトセがさらりと答えたので驚いているのだろう。

相変わらず、チトセって勉強出来るんだな…

やっと築いた学年主席の地位がちょっと危ないかも。

 

『おい、フウカ。お前って勉強出来るんだな。』

 

いきなりのテレパシーにチトセの方を向くと、無表情のままこっちを向いていた。

あたしは教科書で口元を隠し、チトセの方を見る。

 

《…まぁね。これでも学年主席だから。》

 

そうゆっくり口を動かした。

 

『フウカが学年主席?…すげーじゃねーか。』

 

と、またテレパシーがくると、また前を向いた。

 

(へ…へぇ…ちゃんと信じるんだ…チトセのことだから信じないとばかり…)

 

 

 

 

 

*3*

☆フウカ☆

 

 

 

昼休み。

チトセはと言うと、女子に囲まれていた。

ガヤガヤしていて内容はよく聞き取れないけど、顔を赤く染めている様子から今日、ファンになった子たちなのだろう。

 

「フウカ姫〜」

 

カリンが学校での呼び名で呼びかけてくる。

 

「あら、カリン姫。行きましょうか。」

 

敬語を使う、あたしとカリンの会話に目を丸くするチトセの目線を感じた。

 

(ったく、これでも王族なんだからねっ)

 

『フウカちゃん、チトセ君…凄いわねぇ〜…人気。』

 

カリンの耳打ちにこくりと頷く。

やきもちを焼きそうなぐらい、モテモテのチトセに懐かしい光景がまぶたに浮かぶ。

 

「では、参りましょう。」

 

あたしはカリンの手を取って裏庭に入ると夏休み後から設置された王族室に入った。

普通の教室は、暑い。

だからクーラーが設置されているのだけど、《28°》と高めに設定されている。

なので王族のために空き部屋を模様替えし、暑い夏場と寒い冬場に自由に使えるようになっているんだ。

…もちろん、王族以外が入れないようにしてる。

そのおかげでICカードとやらを使ってタッチしないと入れないんだけどね。

 

ガチャ…

 

中には黄金の机と、9つの椅子。

全て城の色でピカピカに輝いている。

…銀の椅子の左には、緑の椅子。そして右には、青の椅子が置いてあった。

 

「カリンーっ。このクッキー、本当に美味しいよっ」

「本当〜?よかったわぁ〜」

 

あたしは手作りのチョコチップクッキーを口の中に放り込むともごもごと口を動かした。

 

「でも、いいのぉ〜?チトセ君、置いてきちゃってぇ〜…今、どうなってるか知らないわよぉ〜?」

 

ゲフッ…

 

いきなりチトセの話題を振られ、クッキーを吹き出してしまった。

 

「あっ、あら…ごめんなさぁい〜っ」

 

カリンが慌ててお手拭きで拭き取ってくれる。

 

「あ、ありがと…。…いーよ、別に。あたしには関係ないもん。」

「もぉ〜っ。またそんなこと言ってぇ〜…本当は気にしてるんでしょぉ〜?チトセ君も探してるかもしれないわよぉ?」

「そんな訳ないじゃん!」

 

カリンの言葉にいち早く反論する。

 

クッキーを食べ終え、中庭に再びでた時、カリンが慌てて「先に教室に帰ってるわよぉ?」と言って、駆け出していった。

あたしは訳がわからないまま見送ったんだけど…ね。

 

 

 

 

 

*4*

☆フウカ☆

 

 

 

「よぉ、フウカ。」

 

「カ…カカカ…カイ〜!?」

 

深緑の髪と瞳。

中学の小学生の頃と変わらない金色のピアス。

…ただ一つ変わっていたのは、いつも肩に乗っていた《マリアンヌ》が居ないことだけ。

 

「なんでそんなに驚くのさ。」

「だって、中学は違ったし…なんでここに居るの?」

 

カイはフワァ…とあくびをすると、手を頭の後ろに組んだ。

 

「おいらが何処に居ようと勝手だろ。」

「ま、そうだけどさぁ…お金は?あんた、貴族だったっけ?」

「ん〜?違うけど?お金だったらあるし。」

 

(そっか…カイってカリンのことが好きだったっけ…)

 

そう考えるとだんだんカイがこの学園にいる理由がわかってきて追求するのをやめた。

 

「フウカ、お前ここに居ていいの?もーすぐ午後の授業が始まるけど。」

 

あたしがパッと時計を見ると、1時半を指していた。

午後の授業は1時35分から始まってしまう…

 

「うわっ。やばっ。」

 

あたしはカイの腕を掴んで靴箱に連れて行く。

「じゃ、おいらはB組だから。じゃーねー。」

 

特別クラス、A組の隣までくると、カイはそう言ってスタスタとB組に入って行った。

あたしが教室に入ると、カリンが慌ててやってくる。

 

「フウカ姫、ごめんなさぁいっ。先に行ってしまって…」

「大丈夫ですよ。」

 

あたしがゆっくり微笑むと、カリンもにっこり笑ってそれぞれ席に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

*5*

☆チトセ☆

 

 

 

「青の城の…チトセと言います。よろしく。」

 

そう自己紹介をし、前を見たとき…

すぐに気がついた。

フウカの存在に。

 

「チトセさんは、フウカさんの隣です。…フウカさん、いいですか?」

「えっ、ええ…」

 

フウカの大人しさに少し驚いた。

昔のフウカなら、「えっ、ええ…」なんて対応取らないハズだから。

でも、そこはサクッとスルー。

まずはこのクラスに慣れなきゃ始まらない。

とりあえず、

 

『フウカ、これからよろしくな。』

 

とテレパシーを送り、フウカの隣の空席についた。

 

小学校からのフウカの変わりようにオレは驚きを隠せなかった。

…まず、フウカの髪型はサイドテールに。頭も良くなったらしい。

そして、カリンとも敬語で話していた……

…オレがいない間に、フウカは随分と変わっていて、何故か悲しい。

理由は自分に聞いてもわからない。

 

その日のお昼休み。

気がついたら、フウカはいなかった。

近くにいた女の子に、

 

「フウカ…姫が何処にいるか、知ってるかい?」

 

と聞いたら、

 

「えっ…えっと、フウカ姫は…」

 

そう言ったまま口ごもってしまった。

 

「どうしたのか?」

 

と、また聞いたら…

顔を赤くして友達の影に隠れてしまったので結局確認が取れなかった。

 

昼休みが終わった頃。

フウカは何処からか帰ってきた。

オレにはもう、フウカの全てを知ることが出来ないのか…?

 

 

 

 

 

*6*

☆フウカ☆

 

 

 

「あふ…眠…」

 

あたしは伸びをしてとりあえず着替える。

 

「あら!?姫さま、まだ5時にもなってませんよ?」

 

…どうりでまだ眠いはずだよね。

あれ…目覚まし時計…

 

(ん?)

 

時間が違う〜!!!

目覚まし時計の時はなんと7時を指していた。

 

「ま、早起きする分にはいっか…」

 

あたしはいつもは出来ないことをすることにした。

 

「セシル、何か良いことある?」

「そうですねぇ…散歩でもして見ては?」

 

(散歩…かぁっ)

あたしはそのまま学校に行けるようにバックをとる。

 

「ちょっ…姫さま!?時間のあるときぐらい、正面から出て行ってくださいませ〜〜〜っ」

 

あたしは気がつくとホウキを取り出して窓を開け放っていた。

 

「それに…ホウキで行くのなら通学と変わらないのでは?」

 

(…そっ…そう言えば…)

 

あたしは窓を閉め、ホウキをしまって正面の門に向かう。

 

「おはようございます」

「姫さま、今日はお早いのですねぇ」

 

すれ違う侍女たちから次々に朝の挨拶をされる。

…こういうのって逆にうざったいのよね。

ま、そんなこと口が裂けても言えないけど。

最近は見なくなった、ママの怒りの様子を思い浮かべて何故かクスッと笑ってしまう。

 

(はーあ…最近はママのお怒りモードも見なくなったよなー…)

 

あたしは大きな門の前につくと手を上にあげた。

 

「門よ、開けっ」

 

ギギギィッ…という、いつもと変わらない耳をつんざくような音。

あたしはカツン…カツン…と靴の音を大理石の床に響かせながら街へでたのだった。

 

朝早くに街に出たからには行きたい場所があった。

…それは、市場。

たくさんの魚や野菜があってどれも美味しそうでなんだか嬉しくなるから。

 

「あれ?お嬢ちゃん、その制服はハリーシエル学園かい?」

「あ、はい…」

 

ハリーシエルの顔に泥を塗る行為は禁止。

だから、一応敬語を使ってるんだけど…

まぁでも、そんな学園の生徒が市場に居る時点でおかしいよね?

気がつけば、とあるお店の前に居た。

そのお店に、なんだか懐かしさを感じて…

 

(ん?ここって…)

 

「薬草…店…っ…まさかっ」

「いらっしゃいま……あれ?フ、フウカ?」

 

出てきたのは、小学校の時のクラスメイトの…ユイちゃんだった。

 

「や、やっぱり、ユイちゃんの家のお店!?」

「そうだよ。どうしたの?一国のお姫様が」

 

ユイちゃんはちょっと嫌味っぽく。

また、ちょっと優しくあたしに笑いながら問いかけた。

 

「ちょっと散歩にね、市場歩いてたんだけど気がついたらここにいて」

「…フウカって本当にハリーシエルに通ってるんだね…」

「えっ…あ、うん」

 

ユイちゃんに制服をジッと見つめられて、なんだか恥ずかしい。

 

「それにその銀のネクタイ…」

 

ユイちゃんにつられてあたしも目線を落とすと、髪の色とは全然違う銀のネクタイがあった。

…あたしの少し悲しげな表情に気がついたのか、ユイちゃんは申し訳無さそうにする。

 

「あ、ごめん…綺麗だねっ、似合ってるわよ」

 

あたしはこの髪をかばってくれるチトセがいなくなった時、度々学校に行かないことがあった。

きっとそれを覚えていてくれたのだろう。

 

「いいよ、謝らなくて!…褒めてくれてありがとっ」

「それより…そろそろ行かなくていいの?7時半だけど…」

 

あたしは店の中にかかった小さな振り子時計を見た。

 

「わっ、本当だ!今日はあたしが先に出たから緑の城に行かなきゃ」

「緑の城って…カリンのトコ?」

「うん、じゃあね」

 

あたしはホウキを取り出して緑の城へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

*7*

☆フウカ☆

 

 

 

 

(…まさかカイもこの学園の生徒だったとはねぇ)

 

あたしは1人、廊下でカイの姿を思い浮かべながら立ち止まっていた。

 

その時だった。

 

キーンコーンカーンコーン…

 

「うわっ、やばっ!」

 

カイのことで巡らせていた思考回路を止めて、誰もいない廊下をタタタッと足音をあまり立てずに駆け抜ける。

あたし以外誰もいないから、変に気を使う必要もない。

学園に入学してから、一番ありのままでいれた時間…かもしれなかった。

ガラッと扉を開けると、もうみんな席に着いている。

 

(うっ…)

 

「フウカさん、もう授業が始まりますよ」

 

社会・地理担当のリーラ先生は、礼儀を何より優先し、他の人が遅刻すると怒るのだけれど…

位を大切にしているらしく、王族にはあまり怒らない。注意するだけ。

他の先生より、王族、貴族、一般人を分けるからあたしはちょっと苦手。

【王族はなんでも出来るもの。】

と、信じ込まれているみたい。

 

(王族だって、普通の人と同じなのに…)

 

「申し訳ございません、リーラ先生。今すぐ準備をします」

 

あたしはそれだけ言って、席につく。

地図帳やらノートやらを取り出すと、誰かの視線がこっちに向いていた。

 

(…チトセ…)

 

チトセは横目で睨むように見ているのだけど、何かを訴えてるようにも感じる。

 

『ちょっと放課後…いいか?』

 

そうテレパシーが送られてきた。

チトセはあたしの返事なんて聞かず、前に向き直ってしまう。

 

(…こっちの都合も聞かないで…勝手なんだから)

 

あたしはなんのことだろうと考えながら、授業を受けた。

 

 

 

 

 

*8*

☆フウカ☆

 

 

 

 

(…授業…終わった…)

 

あたしはホームルームが始まるまで外をぽけ〜っと眺めていた。

ホームルームも上の空で、周りの子に心配されるくらい。

 

「フウカ様、どうされました?」

 

ってね。

…王族だって、上の空のことなんてよくあるのに。

王族だからって、何もかも完璧でいつでも一生懸命ってワケでもないのよ。

勘違いが過ぎる。

 

「フウカ姫、帰りましょう?」

 

カリンがのんびりした口調を封印してあたしを帰りに誘う。

 

「ごめんなさい、カリン姫…今日はちょっと用事がありまして…」

 

あたしがそう言うと、カリンは「残念ですわ…では、御機嫌よう」と言って帰ろうとした。

けど、何かを思い出したかのようにハッと私の方をみた。

 

《もしかしてぇ、チトセくんかしらぁ?》

 

カリンはあたしにこっそり耳打ちする。

カァッッと顔があっつくなって、自分のスカートの裾を掴んでしまう。

 

《あらぁ?図星かしらぁ?それならわたしはお邪魔虫ねぇ〜…今日、宿題をしたあと銀の城に遊びに行かせてもらうわねぇ〜》

 

あたしは赤面したまま、カリンをボーッと見送った。

カリンが教室から出た後、銀の城に遊びに来るのだと気がついてわぁぁっとプチパニックを起こしてしまうのだった。

 

まだ、教室には女子数人が残っていた。

 

 

 

 

 

 

*9*

☆カリン☆

 

 

 

(フウカちゃんってぇ、赤面するととっても可愛いのよねぇ〜)

 

わたしは下駄箱の前でフウカちゃんの赤面姿を思い出し、思わずクククッと笑ってしまった。

 

「あれ?…カリンじゃないか」

 

いきなり声をかけられてビクッと体を震わせてしまい、「へっ?」なんて変な声を出してしまう。

 

「驚かせちゃった?」

 

わたしはその声に聞き覚えがあった。

ゆっくりと振り返ると、カイくんが腕を組んでわたしの方を見ている。

 

「カイ…くん?」

 

耳には昔と同じ、金色のピアス。深い、緑の天然がかった髪。

 

「久しぶりだね、カリン」

 

(な、なんで…此処に?)

 

「フウカから聞いてなかったの?オイラのこと」

「聞いてなかったって…」

 

カイくんはフウカちゃんに向けたらしいため息を吐く。

 

「オイラも此処の生徒さ」

「こっ…此処のぉ…?」

 

何故か、周りの男の子たちの視線が痛い。

 

「歩きながら話そうか…送るよ」

「えっ…えぇ…」

 

 

**

 

 

「あのぉ、カイくん…マリアンヌはぁ〜?」

「マリは家でお留守番」

「そっ…そうなのねぇ…」

 

特に話題もなく、わたしたち2人の間に微妙な空気が流れる。

 

「そうだ、カリン」

「な、なぁに?」

「フウカ、どうしたの?普段は一緒に帰ってるって聞いたけど」

 

わたしはフウカちゃんのことを言おうかちょっと迷った。

あのフウカちゃんの態度から言って、チトセくんのことに違いないけど言っていいものか悩んだから。

でも、言ってもいいかなって。カイくんはそこまで言いふらさないかなって。

それに、フウカちゃんだってきっとカイくんにだったら言ってもなにも言わないハズ。

 

「チ…チトセくんと…なんか約束があるんですって」

「ふぅん…やるねぇ、ちーくん」

 

カイくんは手を頭の後ろに回して組んだ。

そして、わたしを横目でじーっと見つめる。

それで平然と保っていることが出来るわけなどなく、うつむいてしまった。

 

「…カリン、変わったね」

「え?」

「フウカも随分と変わってた…まさかと思ったけど、カリンもそこまで変わるなんてね」

 

カイくんは赤い夕日を眺めて「また、置いてかれちゃったな」と小さく呟く。

わたしは意味がわからないと言うようにカイくんを見つめた。

 

「あ…ううん。なんでもない」

 

カイくんはそう言葉を濁したけど…

わたしはしっかりとこの耳で聞いてしまった。

 

【置いてかれちゃったな】

 

って…どう言う意味だろう。

いつか、聞いてみたいな。

そう思いながら、歩いていると城についた。

 

「カリン姫…ボーイフレンドですか?おつきあいしてる方ですか…?」

 

ちっ…違いますって…

 

 

 

 

 

*10*

☆チトセ☆

 

 

 

 

「チトセさま、一緒に帰りましょ♡」

 

目が何故かハートのクラスの女子。

まず、この女子の名前なんて知らない。

クラスで知ってるのは、フウカとカリンだけなのだから。

誰かわからないけどクラスの奴っぽい女子がオレを帰りに誘うので、ナチュラルに流すことにした。

 

「ごめんな。今日はちょっと用事があるんだ…」

「そぉなんですかぁ?♡では、お待ち致しますわ♡」

 

…この前、兄さんたちから聞いた。

貴族や金持ちの女たちは、王族に嫁いで自分の一族を有名にしたいと思っている…らしい。

もちろん、それだけではなく自分も王族になりたいんだとか。

それはフウカやカリンも例外ではないと聞いた。

 

(オレ…王子っつっても13番目なんだけど…?)

 

作ったスマイルを保ちながら、ちらっとフウカの方を見る。

フウカは席について、読書をしていた。

 

(お前…本なんて読むのか)

 

「でもさ、君らには関係ないから帰ってくれない?」

 

オレは変わらない笑顔プラス微笑みで問いかける。

…ようやくこれ以上誘っても無意味だとわかったらしい。

 

「では、チトセさま。御機嫌よう。フウカさまも、お気をつけて」

 

フウカにも挨拶し、(フウカは顔を上げて微笑むだけだったが。)教室を去ったその女子。

 

(やっとフウカとふたりきりになった…)

 

そう考えながら、フウカの机の方にゆっくりを歩んでいった。

 

 

 

 

 

*11*

☆カリン☆

 

 

 

 

「し、失礼いたしました、カリン様。カイ様。」

 

とりみだす門番にクスっと笑ってしまうわたし。

城にクラスメイトを呼ぶとき。アリサちゃんやフウカちゃんを呼ぶとき。

門番に対する態度は全然違うと思う。

カイ君は、アリサちゃんやフウカちゃんを呼ぶときと同じ態度。

 

「カイ君、せっかくだから上がっていってぇ〜」

 

わたしはカイ君の手首を軽く掴んで門の中に入れた。

 

「おかえりなさいませ。カリン様。お客様。」

 

…銀の城の50人や青の城の80人には及ばない30人の侍女たちが出迎えてくれる。

緑の城の召使いは黄緑のフリルワンピースに緑のエプロン。エプロンにはそれぞれが好きな模様を刺繍してあって結構可愛い。

少ない男性の執事たちは黒の背広に濃い緑色のネクタイなの。

 

わたしは一昨日まで持ってる部屋はふたつだった。

自分の部屋と、植物さんたちとお話しできる部屋。

でも昨日、ママからもう一つ部屋をもらった。

そこは来客用に綺麗に整頓して恥ずかしく無いようにしてあるの。

もちろん、フウカちゃんも…フウカちゃんは今…4つあったと思う。

 

「カイ君、ここ入っててるかしらぁ〜?今、クッキー持ってくるからぁ…」

「あ、ああ。」

 

カイ君は蔓の描かれた綺麗な金色のドアノブをあけて、3つ目の部屋に入っていく。

わたしもキッチンに入るとクッキーをお皿に盛り付けて同じくドアノブをひねるのだった。

 

 

 

 

 

*12*

☆フウカ☆

 

 

 

教室に響く、カツン。カツン。というチトセの足音。

ペラッ。という、あたしの本をめくる音。

ピタッとチトセの足跡が止まった時、あたしは本をパタンと閉じる。

真っ赤な夕日に教室中が染まって、なんだか切なかった。

 

「おい、フウカ」

 

チトセの声になんだか照れくさくて顔があげられない。

 

「…手紙、読んだか」

 

(手紙…?)

 

「よっ…読んだよ。いっ…一応…」

 

言葉が上手くでない。

端々がつっかえて、自分でも可笑しくて笑ってしまいそう。

だけど今日は、笑えない。

 

「…で、今日は…なんであたしを…残したの?」

 

…前までなら普通に話せていたはずなのに。

…もっと、話したいのに。

全然、話せない。

…ただの幼なじみなのに。

…ただの腐れ縁なのに。

 

「…特に理由は無ぇよ。…しいて言えば、お前と話したかったから」

「はひっ!?」

 

あたしが驚いて顔を上げると、チトセが「ぷっ」と吹き出して前にあるアキちゃんの席に座った。

 

(んな…何言ってんの、コイツ!)

 

あー…もう!

と、クラスメイトたちがいないのを良いことに、あたしは髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。

せっかくセシルが久しぶりにセットしてくれた巻き髪も、意味のわからないぐしゃぐしゃ頭と化しているのがチトセの表情で分かる。

 

「………お前、何してんだ…」

「うっ…思わず…」

 

しょうがないので腕に付けてたヘアゴムと引き出しの中にある、ポーチの中のくしをだす。

そしてなんとなく昔と同じ、あの、ふたつ結びにしてみた。

あの頃とはあまり変わらない髪の長さだったから、背などを抜かせばほとんどあの頃と同じだろう。

 

「懐かしいな、その髪型」

「うん…」

 

あたしが左の結わいた髪を見て、両手で弄り回した。

毎日毎日、ちゃんと手入れはしてるからサラサラの髪。

でも、どんなにサラサラだって髪の色は変わらない。

するといきなり、右の結わいた髪にチトセの左手が伸びてくる。

 

「うへ!?」

 

 

 

 

 

*13*

☆カリン☆

 

 

 

 

 

「お待たせ、カイくん」

「うわ。カリンのクッキー、美味しそ〜」

 

カイくんが笑ってクッキーを覗き込む。

 

「そっ、そんなことないわよぉ〜っ」

 

わたしはテーブルの上にトンッとクッキーの乗ったお皿を置くと、カイくんの向かい側のソファに腰掛けた。

今さらになって何を話せばいいのかわからなくなってくる。

 

(こっ…こういうときって、どうするのが一番なのかしらぁっ?)

 

あーでもない、こーでもない。と自問自答を繰り返していると、カイくんが口を開いた。

 

「ねぇ、カリン。おいら、いつまでここに居ていいの?」

 

カイくんはそう言って窓の外を眺める。

わたしもつられて外を見ると、目を疑った。

さっきまで雲ひとつない空を塗っていたはずの夕暮れが消え、灰色の雲で一面覆われていたの_________……!!

 

ビシャーーーンッ……

 

空がピカッと光ったかと思うと、大きな音が響き渡った。

城の管理する森にカミナリが落ちたらしい。

 

「うひゃぁっ」

「カリン、大丈夫?」

 

カイくんともう一度外を見たとき、大粒の雨がバケツをひっくり返したように降りはじめていた。

不意に心配になってくるのが、フウカちゃんとチトセくんのこと。

おそらくまだ学園にいるであろう、ふたり。

でも…まぁ…ふたりなら、どうにかする…わよね…?

 

 

しばらく経っても、まだ雨は止む気配がない。

変わらずザーザーと降っている。

 

「カイくん…お家に連絡しなくていいのぉ〜?」

「ん?連絡?大丈夫だよ。おいら、家無いし」

 

わたしは「そっかぁ〜」と言ってから、ん?と思う。

 

「い…いいいい…家がないのぉ〜〜!?」

 

カイくんは「くっ、口が滑った…」と言って頭を抱えてしまう。

そしてわたしは驚きで頭の中がいっぱいになって、口をパクパクさせていた。

 

 

 

 

 

*14*

☆フウカ☆

 

 

 

 

「この髪、ホントにフウカらしいよな」

「あたし…らしい?」

 

チトセはハハッと笑いながら右肘をあたしの机に乗っけて右手にあごを乗っける。

 

「…この魔法界…と言うかこの辺の国には、いないだろ?金色の髪の少女なんて」

「そ、そうだね…」

 

どうやらチトセはあたしの気持ちを読み取ったらしい。

って言うか、《少女》って!

何言い出すの!?こいつっ。

あーーーー!!!もう、調子狂う〜〜〜〜〜〜!!!

でも、あたしは何も言えない。

何言えばいいか、わからない。

あの頃ならちょっとした口喧嘩ばっかしてたけど、口喧嘩ひとつで何かの糸がプツンと切れてしまいそうで。

なんだか、怖い。

だから何も言えない。

 

「な、な、フウカ。オドロオドロの木、行こうぜ」

 

オドロオドロの木_______……

小さい頃、よく遊んだチトセとふたりきりの秘密基地。

ちょっと不気味で誰も近づかないから、誰にもバレなかった。

 

「うん、いいね。行こっ、行こっ」

「よし。そうと決まれば出発だな!」

 

…小学生の頃よりは更に誇れるようになった、ホウキ乗り。

いつも無くして、折って、終いにはチトセやカリンにまで迷惑をかけていたけど今は違う。

滅多に無くさないし、壊さないし、迷惑もかけなくなった。

そんなあたしを見て、チトセは嬉しそうに微笑む。

夕焼けの空の反対側には、不気味な雲が渦巻いていたが、あたしもチトセもそんなことは気がつかなかった。

 

 

 

 

 

*15*

☆フウカ☆

 

 

 

 

アネモネ。

別名、風の花。

 

儚く散るその花はウインドフラワーと呼ばれ、この世界のイギリスでは昔からこの花に纏わる伝説が受け継がれているという。

 

そして、魔法界でもとある小さなお話がひとつ。

 

ある国の女王様にとある男がプロポーズした。

その時に渡した花が、アネモネ。

アネモネによって結ばれた両親から生まれた姫は、大きくなってまたアネモネに誘われた_______……と。

 

 

**

 

 

「おい、フウカ、待てよ」

 

チトセのホウキは遅いとつくづく感じた。これだったら、カリンの方がよっぽど速い。

 

「何?あたしのホウキが速いの?」

「いっ、いや…違うけど…」

 

チトセは急いであたしの脇までホウキを寄せてくる。

深い海のような青い髪も瞳も変わらないのに、どうしてこんなに違うのだろう。

 

「どうした」

「な、なんでもない」

 

…どうして、そっけないふりをしてしまうのだろう。

こんなにも、貴方が大好きなのに。

 

 

**

 

 

久しぶりのオドロオドロの木は、更に異様な空気に包まれていた。

元から薄気味悪い場所だったけど、いつの間にかあたりは真っ黒な雲に覆われ、ゴロゴロの雷音までする。

ザワザワと木の葉は音をたてて揺れていた。

 

「なんか、よくない天気だな」

「うん…さっきまでは良かったのにね」

 

……あーあ、いつぶりだろう。

こんなに暗くなるまで家に帰らなかったのは。

城に帰ったら、久しぶりに怒られるだろうか。

ママの雷が、あたしの上に落ちてしまうのだろうか。

でも、怒られても良いと思った。

だって、久しぶりにチトセとこんなところに来れたから。

こんないい思い出に勝るものなんて、無いと思うから。

 

ゴロゴロ…ピシャッ!!!

 

「うひゃっ!?」

 

…当たり前だ。

さっきからゴロゴロと言っているのだから。

その途端に降ってきた雨は、バケツをひっくり返したようにバシャバシャとあたしたちの上に降る。

あたしたちは慌てて、オドロオドロの木の陰に逃げ込むようにしてかけて行った。

 

「…濡れちまったな」

「…本当だね…」

 

ふたりで顔を見合わせて、ぷっと吹き出して。「あはははっ」と静かに笑う。

たわいもないことが、幸せなんだ。

 

 

 

 

 

*16*

☆カリン☆

 

 

 

 

「…おいら、赤の国に帰ってる時以外はずっと外で過ごしてるんだ。それを不便だと思ったことはないけどね」

 

 

***

 

 

「ど、どういうことぉ〜?」

 

カイはぽりぽりと頭を掻くと、ばつが悪そうに笑った。

 

「何処に住んでるわけでも無いんだ。ある日は学校の屋上だったり、公園のベンチだったり。つまりはホームレスだね」

 

『不思議なヤツだよね』

そう話していたみんなのことを思い出す。

みんなもわたしもカイくんがどんな生活してるかなんて、つい最近まで知らなかった。

 

「ええええ……でも、ハリーシエル学園に通えるんだから、家ぐらい借りれるでしょう?」

 

カイくんは首を横にふると、窓の外を眺めた。

 

「前までは借りてたんだよ、アパートをね。でも、一昨日アパートごと火事で燃えたんだ」

 

そういえば、ニュースでやっていた。

緑の国のはじのアパートで、大火事があり、周りの木々も燃えたと。

ここの辺りの建築物はほとんどが木造。緑の国は、人工林もたくさんあってそこから切り出している。

すぐに火は燃え上がってしまい、早く対処しないと取り替えしがつかなくなってしまうのだ。

 

「……じゃあ、ここに住めばいいじゃなぁい」

「へ!?」

 

わたしは必死で言った。

 

「ここに居ればいいのよぉ〜。ここはわたしの部屋だものぉ〜」

「いや、でも…悪いよ…」

「大丈夫よぉ〜。ふふっ」

 

なんで、こんなことを言っているのか。

今考えると、さっぱりわからない。

けれどもこの時のわたしの胸はキラキラとしていたのだ。

それだけは、はっきりと覚えている。

懐かしい面影に思わずほおが歪んでしまっているのか。

はたまた、新たな感情が芽生えてきたのか。

この時のわたしには、何もわからなかった。いや、考えるほど、わたしは賢くなかったんだ。

 

なんとか、カイくんを説得して。

ママに言ったらにっこり微笑んで、「人が多い方が楽しいもの。カイくん、是非この緑の城に住んでくださいな」と、すんなり許可を出してくれた。

そしてわたしには、「カリンちゃんには3つ目のお部屋をあげるので、そこをカイくんの部屋にしてあげてね」そういってキーを渡してくれたんだ。

だからわたしは後ろに控えていたメイドさんにキーを渡して「部屋にベッドなどを完備しておいてくれるかしらぁ?」

「はい、かしこまりました」

メイドはあと3人程を連れて、広間を出て行ったのだ。

 

 

 

 

 

*17*

☆フウカ☆

 

 

 

「……ねぇ、チトセ。」

「ん?」

 

雨音だけが聞こえてくる、オドロオドロの木の下。

騒がしいけどなんだか寂しくなってくるここで、あたしは沈黙も破るようにチトセに話しかけた。

 

「あ……のさ。ずっと、何処に行ってたの?」

「そうだなー」

 

チトセはなんの躊躇い(ためらい)もなく、話始めてくれる。

 

「だいたいは水の国に居たなー。水の国のさ、悪魔の谷とか居たぞ。そのあとは、ビアンカんとこ」

「へ、へぇ……」

 

(そっか……チトセはビアンカちゃんと一緒に居たんだ……)

なんだか悲しくなってきて、俯きたい。

けど、そうすれば直ぐ近くにいるチトセに若干落ち込んでるのがバレてしまうから、どうにか我慢した。

でもやっぱりチトセにはバレてしまうようで。

 

「……でも、オレ、ビアンカに怒られてさー。」

「え?」

「『何やってんの!』ってさ」

 

(なんで?ビアンカちゃんってチトセのこと好きなんじゃなかったっけ?諦めたとか言ってたけど)

 

「『なんで、フウカちゃんに何にも言わないで来たのよ!』ってすげー剣幕で怒るんだよ」

 

チトセが懐かしむように雨を眺めている。

ザァザァと勢いよく降っていた雨はいつの間にかシトシトという静かな雨に変わっていた。

 

「『そんなのオレの勝手だろ』って言ったら『ほんっとにちーくんつて女心わかってないよね』って。エルザ様も苦笑してたよ」

 

「へぇ……」そう、少し流してから、「ん?」と異変に気付く。

ビアンカちゃんって……あれ。

 

(なんでそんな、あたしのこと、知ってるの?)

 

カリンにしか、本当のあたしは見せていないツモリだった。

アリサちゃんや、ユイちゃんの前でもいつも見たいに屈託のない笑みを浮かべて、笑っていたツモリだった。

もちろん、一度だけビアンカちゃんが遊びに来た時も、「大丈夫?」って心配するビアンカちゃんとシロに、「大丈夫って、何が?」ってわからないフリなんかもした。

 

(もしかして、バレてたの?)

 

「『ちーくんって本当に好きな子には意気地なしだよね』って言われた時には、もう、反撃なんて出来なかったよ」

 

……ん?

 

(なんか、今、すごい言葉が聞こえた気がするんだけど。)

 

気のせいだよね。気のせい。そう、唱えてみるけどやはり気になって。

やっぱり、聞いてしまった。

 

「い、今なんて言った?」

 

 

 

 

*18*

☆フウカ☆

 

 

 

「ん?……もう、反撃なんて出来なかったよ。か?」

「いや、その前!」

 

あたしだって、チトセのこと嫌いじゃない。

好きかどうかは、わからない。

だけど、だけど。

そういうのは、聞きたい。

チトセが、あたしのことどう思ってくれているのか、知りたいから。

 

「……『ちーくんって本当に好きな子には意気地なしだよね』か?」

「そ、そこ!」

 

「あー……」とぽりぽりほおをかくチトセは、なんだか顔が赤い。

 

「まぁ、そのまんまだよ」

「そのまんまって?」

 

赤い顔のまま、チトセはあたしを睨みつける。

『わかってるだろ。』って言ってるみたいだった。

……わかってるけど、わかってるからこそ、教えてよ。

これで、違ったらあたし、一生立ち直れないもん。

どうして、チトセのことがあんなに不安だったのかはあたしにはよくわからない。

あたしのことでも、あたしはわからない。

あたしの中で、きっと新たな感情が生まれたんだ。

それも、きっと……

 

 

「お前のことが、好きってこと」

 

 

 

あたしが、チトセのことが好き。

っていう、感情が、芽生えたんだ。

 

 

 

 

 

 




これで高校生編が終わり。あとは番外編でしか高校生やってなかった気がします。

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