らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
フウカちゃんsideです!
(……まさかカイもこの学園の生徒だったとはねぇ)
歴史の授業の中、あたしは上の空でぼーっとそんなことを考えていた。
カイは昔からよくわからないやつだった。学校に来たり来なかったりするのはもちろん、どこに住んでるのかも、どこからきているのかも謎な存在なのだった。……まあ、あたしとカリンとチトセだけはカイが赤の国の生まれだという話を知っていたけども。
その時だった。
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴り響いて、さっき始まったばかりだったはずの歴史の授業は終わりを迎えた。
カイのことで巡らせていた思考回路を止めて、教科書を閉じる。そして、次の準備をしようと机の中に手を入れた。
ふと、自分にだれかから視線が向けられているようか気がして、そちらを振り返った。
「……?」
チトセは横目で睨むように見ているのだけど、何かを訴えてるようにも感じる。
『ちょっと放課後……いいか?』
そうテレパシーが送られてきた。
チトセはあたしの返事なんて聞かず、前に向き直ってしまう。
(……こっちの都合も聞かないで、勝手なんだから)
そうぶつくさいいながらも少し嬉しいのは、なんでなんだろうか。
浮つく心を抑えながら、あたしは数学のしたくを始めるのだった。
(……授業、おわったぁ〜!!!)
勉強ができるようになっても、やっぱり授業は嫌いだった。やっぱりあたしは動くのが好き。それだけは、小学生の頃から何ひとつ変わってはいない。
ふと、さりげなくチトセの方をみると、チトセは帰り支度を始めるところだった。あたしもカバンに教科書や筆箱を詰め込んで、明日の持ち物をノートに書き込んだ。
「フウカさま、どうされました?」
「えっ」
いきなり前の席の子に声をかけられ、驚いて肩を震わせた。
どうやら、気が飛んでいたらしい。
「なんでもありませんわ」
「そうですか」
それでは、ごきげんようと彼女は一礼して去っていく。
その姿を見送っていると、入れ替わるように今度はカリンが帰ってきた。そういえば、さっき先生に呼ばれていたっけ。
「フウカ姫、帰りましょう?」
優しいはっきりとした声で、カリンが微笑む。あ、えっと、と咄嗟に言葉に詰まったあたしを見て、カリンが不思議そうに首をかしげた。
「?」
「ごめんなさい……ちょっとこれから用事がありまして」
あたしがそう言うと、カリンは何を思ったのか顔を明るくして、隣で女の子たちに囲まれるチトセをちらりとみやった。
《もしかしてぇ、チトセくんかしらぁ?》
カリンはあたしにこっそり耳打ちする。
驚きと恥ずかしさで噴火した。
……いや、カリンにはバレるだろうな、と思ったけど。それでも、こんなに早くバレるとは思わず、せいぜい明日の朝の登校中にでもバレるんだろうと思っていたのに。
噴火。別にキレたわけじゃない。噴火したかのように、顔が真っ赤になっていたらしい。
カリンが教室から出ていくと、クラスにはあたしとチトセと、その周りにいる数名の女の子たちになった。
あたしもカリンもこんな風におおっぴらに人に囲まれたことはないから、実は内心驚いていたりもした。やっぱりこの辺が男女の差なのか、はたまた『生きていた王子』としての知名度がそうさせるのか。あたしだったら、死んだことにされていた王子にベタベタくっつこうなんて思わないし、どうせ前者なんだろう。特にチトセのことも知らないくせに、よくここまでベタベタできるなぁと逆に尊敬する。
一人、また一人とチトセの周りから女の子が減っていって、残りはあと一人。
銀の国でも有名な地主の孫娘だけになった。
「チトセさま、一緒に帰りましょうよ〜」
冷静を装って本を読んでいるが、さっきから一向に進んでいない。
あたしはどういうわけだかこの女の子がすこし苦手なのだ。なんていうか、この金色の髪のことを悪く思っているみたいで、カリンには普通なのにあたしにはちょっと冷たい。まあ……銀の国の地主なわけだし、その国のプリンセスの髪色は気になるよねぇ、とは思うけど。それ以上に、あの、声がダメだ。もう少し、女子にも優しくしてほしい。
「ちょっと今日は、これから用事があってね」
「まあ、そうなんですの?お供いたしますっ」
「いや……えっと……」
どうやらチトセは彼女にロックオンされてしまったらしい。それなりに容姿端麗だし彼氏には困っていないはずだけど、きっとその問題ではないはずだ。
「ほら、まだ夏とはいえもう夕方。お家の方が心配しますよ?」
チトセにそう言われ、彼女はしぶしぶといった表情でクラスを後にしていった。
_________ちらり、とあたしをみやったあとで。
次の投稿もなるべく早くできたらいいなぁ