らくだい魔女と最初のラブレター   作:空実

23 / 27
お久しぶりです。ちょっと少な目かもしれませんが、チトセ目線となってます。


*3*

「チトセさま、こちらが制服でございます」

「あ、ああ」

 

オレは渡された新品の制服に袖を通した。制服なんて着るのは、小学生ぶりである。

夏休み明けということもあり、制服はまだ涼しげな夏服。

そのまま食堂へ向かうと、昔と変わらずに騒がしい兄たちがワイワイガヤガヤと食事をしていた。

姿の見当たらない二番目と三番目の兄さんはオレがいない間に結婚し、青の城の城下町に家を建てたそうだ。いつの間にか甥っ子がいた。つまりオレは叔父になっていたのである。

一番上のレイ兄さんにももちろんたくさんの間合いの話があるそうだが、一切受けようとしないのだと久しぶりに会ったメイドが言っていたっけ。

それはともかく。

 

「……朝ごはん食えねぇ」

 

この数が十に減ったとはいえ動物の群れのような集団に、久しぶりのオレが割り込んでいけるはずがないのである。

 

「時の楔っ」

 

……ほら、今も呪文が飛び交っている。

 

「チトセさま?お食事はよろしいのですか?」

「あー、うん。そうだな……ハリーシエルって食堂とか購買とか、そういったものはあるのか?」

「ございますが……王族の方々が使用なさっているというお話は聞いたことがありませんわ。チトセさまにもお弁当をご用意しております」

 

だよなぁ、とオレはぽりぽりと頰をかいた。

 

「ま、いっか」

 

どうせどうにかなるのである。

まあ、この青の城の風景も今となっては懐かしい。いつまでも変わらない兄たちと、いつまでも変わらない十三番目のオレ。

これからも先、ずっとオレはこの兄たちの雑用として生きていくのだと思うと少し悲しくはなるが……なんだか、それもいいように少しだけ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリーシエルは圧巻の大きさだった。

本気のお嬢さまおぼっちゃま校である。これは王族御用達のはずだ。

綺麗に手入れされた校舎に踏み入れれば、涼しい風に包まれた。見上げると、最新型らしい魔法の空調機が上についていた。『ちーくんっ、おばあさまが買ってくださったのよっ』とビアンカが嬉しそうに話していたものと同じもののようである。さすがエリザさまだ。空調ひとつもぬかりない。

 

「えーっと。はじめまして。青の城のチトセです」

 

軽く自己紹介をして、クラスを見渡すと当たり前のようにフウカとカリンがそこにいた。

それだけで小学生のころのあの楽しかった記憶が思い出されて、またオレは学生に戻れたのか、なんて少しだけ感傷にひたる。

 

「チトセさんは、フウカさんの隣です。フウカさん、いいですか?」

「は、はい。もちろんです」

 

フウカの大人しさに少し驚いた。

昔のフウカならもっとオレに対して邪険に扱うはずである。

まあいいか、とフウカとカリン以外の生徒にも目を向けた。まずはこのクラスに慣れなきゃ始まらない。

とりあえず、

 

『フウカ、これからよろしくな』

 

とテレパシーを送り、フウカの隣の空席についた。

 

 

一応フウカの評判は夏休み中だというのに城の中でいやというほど聞かされた。だが、聞くの見るのではわけが違う。小学校からのフウカの変わりようにオレは驚きを隠せなかった。

 

……まず、フウカの髪型が変わった。あのゆるくてだぼっとした二つ結びが、編み込みいりのサイドテールに変わった。頭も良くなったらしく、授業で当てられても難なく答えるし運動神経は相変わらずでリレーでは男子と互角の争いを繰り広げていた。

そして、なにより衝撃的だったのはフウカの普段の様子である。

クラスメイトの男子にはもちろん、女子にも敬語だし、昔から親友のはずのカリンにまで敬語だった。

『本当にフウカか?』と考えてしまってもバチは当たらないだろう。

とどのつまりはキャラ崩壊である。オレの知っているフウカは、もうどこにもいなかったのだ。

 

理由はもしかしたら自分にあるのかもしれない。

 

そう考えたとき、はじめてオレを旅に出した親父が憎く思えた。

 

 

その日のお昼休み。

気がついたら、フウカはいなかった。

一応授業の内容は城で叩き込まれたために理解しているが、学校の授業に慣れるのにはまだ時間がかかりそうだった。

まあ、見失ったオレが悪いと近くにいた女子に

 

「フウカ……えーっと、フウカ姫が何処にいるか、知ってるか?」

 

と話しかけて見る。

女子は一瞬きょとんとして、それからすぐにぶあっと顔が猿のように赤くなった。

あっ。敬語で話しかけるべきだったのかもしれない。フウカとカリンがあの対応だったんだから、オレもそうしなきゃいけなかったんだろうに。

 

「えっ……えっと、フウカ姫でしたら……」

 

その女子はそう言ったまま口ごもってしまった。

 

なんだか聞きづらくてそのまま沈黙。とりあえずありがとうと返して(なにも聞いてないけど)、そのまま教室で弁当を食べた。

 

……うん。青の城の味だ。

 

昼休みが終わった頃にフウカは何処からか帰ってきた。

……オレにはもうフウカがわからないままなのかもしれないなんて、ちょっと思った。

幼馴染なんて、所詮はそんなものなのである。

 




若干前のと設定を変えてる部分があります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。