らくだい魔女と最初のラブレター 作:空実
*3*は文字数の関係で新たにシーンを増やさなくてはならないため、時間がかかる見込みです。
昼休み。
チトセはと言うと、女子に囲まれていた。
ガヤガヤしていて内容はよく聞き取れないけど、顔を赤く染めている様子から今日、ファンになった子たちなのだろう。
「フウカ姫〜」
カリンが学校での呼び名で呼びかけてきて、あたしは隣にできた人だかりから目を背けた。
「あら、カリン姫。行きましょうか」
敬語を使う、あたしとカリンの会話に目を丸くするチトセの目線を感じる。
『フウカちゃん、すごい人だかりねぇ〜……』
カリンの耳打ちにこくりと頷く。
やきもちを焼きそうなぐらい、モテモテのチトセに懐かしい光景がまぶたに浮かんだ。
「では、参りましょう」
あたしはカリンの手を取って裏庭に入ると夏休み後から設置された王族室に入った。
普通の教室は、涼しくなるように工夫されているものの、工夫でしかないから暑い。
そのため、この学校では王族のために空き部屋を模様替えし、暑い夏場と寒い冬場に自由に使えるようになっているのである。
今、この学校に王族はあたしとカリンと、そして転校してきたチトセだけだからかなり広く、だからなのか王族以外でもあたしたちの連れなら入れるようになっていた。
……っていっても、この部屋にはあたしとカリンと、そしてアリサちゃんとスズしか入ったことがないんだけどね。
普通の教室に比べて、随分としっかりした扉の中はアンティークな机と椅子が9つ置いてあって、下は赤の城から取り寄せたらしい立派な絨毯である。
「カリンーっ。このクッキー、本当に美味しいよっ」
「本当〜?よかったわぁ〜」
あたしは手作りのチョコチップクッキーを口の中に放り込むともぐもぐと口を動かした。
「でも、いいのぉ〜?チトセくんを置いてきちゃってぇ〜……今、どうなってるか知らないわよぉ〜?」
「へっ……ごほっごほっ」
いきなりチトセの話題を振られ、クッキーを喉に詰まらせてしまった。
「あ、あら、ごめんなさぁ〜いっ!大丈夫ぅ?フウカちゃん〜」
カリンが慌てて背中をさすってくれた。
「あ、ありがと……。……いーよ、別に。あたしには関係ないもん」
「もぉ〜っ。またそんなこと言ってぇ〜……本当は気にしてるんでしょぉ〜?チトセくんも探してるかもしれないわよぉ?」
「いーのいーの!あいつがきたら、カリンのクッキー独り占めできなくなっちゃうし!」
カリンのクッキーほど美味しいものはないんだから、とあたしは懲りずにまたクッキーを口に放り込んだ。
カリンは苦笑して、紅茶を淹れて持ってきてくれた。
「フウカちゃんったらぁ……」
クッキーを食べ終え中庭にでると、カリンが何かに気づいたらしく慌てて「先に教室に帰ってるわぁっ!」」と言って、駆け出していった。
「ちょっ、カリン?」
誰もいない中庭でポツリ取り残されて呆然としていると、誰かに声をかけられた。
「よぉ、フウカ」
「カッ、カカカ……カイ〜〜〜〜っ!?」
深緑の髪と瞳と、小学生の頃と変わらない金色のピアスをつけたカイがそこにはいた。少しだけ変わった気もするけど、その格好やしゃべり方はなに一つ変わっていなかった。
……ただ一つ変わっていたのは、いつも肩に乗っていたマリアンヌが居ないことだけ。
「なんでそんなに驚くのさ」
「だって、中学は違ったし…なんでここに居るの?それに、マリアンヌは?一緒じゃないの?」
カイはふわぁ、とあくびをすると、手を頭の後ろに組んだ。
「おいらが何処に居ようと勝手だろ」
「ま、それいっちゃあおしまいなんだけど。けどここって、あんたみたいなやつが入れる学校でもなくない?」
小学校のときのカイは、なかなか学校にも来ないのらりくらりとしたやつで、かと思えば赤の国にいたりと色々と謎の多いやつだったのである。
「その辺はおいら詳しいから」
そこまで話して、あたしははっとした。
(そっか、カイってカリンのことが好きだったっけ)
そう考えるとだんだんカイがこの学園にいる理由がわかってきて追求するのをやめた。
「フウカ、お前ここに居ていいの?もーすぐ午後の授業が始まるけど」
あたしがパッと時計を見ると、1時半を指していた。
午後の授業は1時35分から始まってしまう。
「うわっ。やばっ」
あたしはカイの腕を掴んで靴箱に連行した。カイが驚いて抵抗したが、このままじゃこいつも遅刻になる。
「じゃ、おいらはB組だから。じゃーねー」
特別クラス、A組の隣までくると、カイはそう言ってスタスタとB組に入って行った。
あたしが教室に入ると、カリンが慌ててやってくる。
「フウカ姫、ごめんなさぁいっ。先に行ってしまって……」
「大丈夫ですよ」
あたしがゆっくり微笑むと、カリンもにっこり笑ってそれぞれ席に着いたのだった。
カイ君を出したのは、私がサヤさまを大好きだからです以上。